司法修習の際に給費や給付金を受けられなかった、いわゆる谷間世代に対する日弁連の会費減額案は撤回されたが、先日お伝えしたとおり、新たな施策として谷間世代会員に20万円を支給する案が浮上している。
今般、日弁連から、各弁護士会に10月15日付けで意見照会がなされ、その大枠が判明した。
支給対象
・新65期~70期(修習中に給費ないし給付の支給がなかった会員)のうち、給付を希望する会員
・給付時点(各年の7月1日時点)で、弁護士としての登録期間が通算して5年を経過していること
・弁護士会、日弁連の会費を滞納しているものを除く
給付額 20万円
※日弁連は、支給制度にすることにより、会費を事務所や会社が負担している会員にもメリットが出ること(そのような会員は、おそらく大都市に多いので東弁の会費減額反対に配慮した可能性が大)、既に育児免除により会費を免除されている会員にもメリットが出ることを示している。
私が、何人かの谷間世代の方にお話を聞いたことがあるが、「確かに不公平感はあるがそれは国の制度が引き起こしたものであって、責任があるわけではない弁護士会や日弁連に対して積極的に救済を求めることは考えていない。しかし、弁護士会や日弁連が救済策としてなんとかしてくれるというのであれば、拒否はしない。」という御意見が多かったように思う。
つまり、筋違いの救済を積極的に弁護士会に求めるわけではないが、頂けるのであれば有り難く頂戴します、というスタンスの方が多いのではないか。
また、私と修習期が近い裁判官とお話ししたときに、弁護士会内で谷間世代救済の話が出ていて・・・と述べると、「谷間世代って何?」と真顔で返された経験がある。少なくとも裁判所において、谷間世代の不公平感については問題にすらされていない可能性がある(おそらく検察庁もその可能性は高い)。
私は、本来責任を負うべき立場ではない弁護士会や日弁連が対策を取るのは、結局谷間世代以外の犠牲で谷間世代を優遇することになるし、国に対する施策を求める上でも障害になる(もう、弁護士会や日弁連が対策したじゃないか、もともと弁護士会費、日弁連会費が高いのが悪いのであって、裁判官・検察官においても同様の施策は採っていない等の反論の論拠を与える可能性がある)から、反対だ。
それはさておき、仮にこの施策が実施された場合、財源は日弁連の一般会計収支差額約44億円をやりくりして出すことになるようだが、その規模は約20億円となるそうだ。
有事に備えての留保なら分かるが、そんなに余っているなら全会員の会費減額するのが筋だと思う。しかし、日弁連は執行部の人気取りに偏っているのか、全会員にお返しするという発想がないようだ。
支給額20万円を提案する日弁連執行部の理由がまたなかなかのものだ。
私も知らなかったが、死亡弔慰金・災厄見舞金・傷病見舞金制度が日弁連にあるようで、死亡弔慰金は45万円、厄災見舞金、傷病見舞金はそれぞれ10万円の支給がなされるそうだ。
そこで、将来予想される、南海トラフ地震、首都直下型地震で、弁護士の死傷者数や災厄で被害を受けた会員への見舞金を試算すると、南海トラフ地震で約15億9000万円、首都直下型地震で約5億2000万円必要なので、約20億円は残しておきたいという発想のようだ。
会員への見舞金以外に、現実に必要になると思われる地震保険でカバーされない会館の修復費用、罹災地域弁護士会への支援金などは、まるで計算外なのだ。
結局、支給ありきで、シミュレーションしているんだろうなという感を払拭できない。
この日弁連の意見照会については、11月14日までの期限が付され、かなりタイトな日程で意見を求められている。
筋違いの救済を振りかざして迷走するより、国に対して不公平是正を求めて活動している委員会を、全力で支援するのが日弁連の本来のあり方のような気がするのだが。