ちょっと嬉しいこと

 2年ほど前に、自治体で無料法律相談をし、その後何度か事務所に法律相談に来たことのある方が、尋ねてこられた。

 法律相談の際には、その人は、ある財産犯を犯しており、発覚する寸前だった。私が調べたところ、私の持っている量刑データベースによると、同じ犯罪で同じくらいの被害額では、執行猶予になった事例はなかった。

 その人は本当に悩んでいた。自首することは非常に勇気が要ることでもある。自首せずに逃げてしまおうかと本気で考えていた。家族も、そう勧めたそうだ。

 私は、迷うことなく自首を勧めた。第一には、その人の家族や今後の生活を考えれば、間違いなくその人は社会内で更生すべきだと思われたため、執行猶予の可能性を少しでも高める方法として、自首すべきだと考えたからだった。

 もちろん、自首したからといって執行猶予が付く保証は全くなかった。しかし、そのリスクがあっても、事件関係者とその人との関係、その人のこれからの人生も考えるなら、罪は罪と認めてきちんと責任を取ることが、その人にとって最善だと判断したという面もあった。

 結局その人は、自首した。起訴された後の裁判では、私選では弁護士費用が捻出できないということだったので、国選弁護人の先生に弁護してもらったそうだ(国選弁護では弁護人を選ぶことはできないので、私が弁護することはできなかった)。

 そして、被害弁償もほぼできないというギリギリの状況下ではあったが、国選弁護人の先生の努力と、自首したことが情状面で考慮され、執行猶予をもらえたのだそうだ。

 判決を聞いた際に、体中から力が抜けたそうだ。

 「あのとき、先生(私)に相談して、自首を勧められなかったら、間違いなく実刑でした。先生の言葉がずっと心に残っていて、自首する勇気につながりました。本当に有り難うございました。」

 その人は、そう言って深々と頭を下げてくれた。

 どのように、その人を説得したのか、2年も前のことなので、私はもう覚えていなかった。 しかし、執行猶予判決を伝えるその人の顔は、心からの安堵と決意に満ちていた。

 執行猶予が付されたとはいえ、刑事責任が0であったというわけではない。また、その事件についても、他の面についても、その人には、これからやらなければならないことは多い。

 しかし、刑務所に行かなくてすんだということで、これから、皆さんにご迷惑をおかけした分、頑張って恩返ししていきたいという思いが、その人には、みなぎっていたのだ。決して平坦な道ではない、むしろ極めて厳しい道だろうが、この人なら頑張れるかもしれないと、私は思った。

 その人の人生に、ほんの僅かではあるが、お役に立てたかもしれない。そう思うと、ちょっと嬉しかった。

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