日弁連会長選挙に関する事前の雑感~1

 来る2月9日に、令和6年度・7年度の日弁連会長選挙が行われる。

 立候補者は、2名。
 東京弁護士会の渕上玲子氏、千葉県弁護士会所属の及川智志氏だ。

 一言で言えば、渕上氏は旧来の日弁連主流派であり、渕上氏が日弁連会長になっても、これまでの日弁連と何~にも変わらない2年間となるだろう。
 及川氏は、日弁連主流派ではないので、及川氏が日弁連会長になれば、これまでと違う日弁連が誕生する可能性はある。

 選挙結果の予想としては、おそらく、主流派の渕上氏が勝利する可能性が高いだろうが、どこまで及川氏が得票できるかは一つの見所である。

 私の見たところ、これまで日弁連の会長選挙で反主流派として勝利を収め日弁連会長に就いたのは、宇都宮健児元会長だけではないかと思う(もちろん主流派内部での争いはあっただろう)。

 宇都宮元会長は、弁護士の貧困につながる弁護士人口激増問題にも誠実に向き合い、各地から意見を求めるための会合を開き、できるだけ公平に意見を容れて検討していた。
 私も委員として何度も東京に出かけたが、極めて活発な議論が交わされていた。

 日弁連主流派弁護士たちの、
 「弁護士が食うに困るはずがないだろう。現にオレは困っていないし、弁護士を激増させても問題ない。法科大学院制度を否定したら、日弁連執行部が間違った判断をしたことを認めることになるじゃないか・・・」
 という現実無視の極めて自己中心的な超楽観論に対し、及川氏も委員として、裁判件数の減少、弁護士の所得減少の実態など、客観的な証拠を根拠に積極的に反論していた。

 結局、宇都宮元会長は、日弁連改革のために再選を目指したが大激戦の末、敗れ、再度主流派が日弁連執行部を把握した。

 私にいわせれば、その後、主流派は、旧来の日弁連主流派(執行部)の施策を当然のように無批判かつ盲目的に実行し続けてきたようにしか見えない。

 例えていうなら、近年は気温が低く、近くまで氷山が流れてきている可能性があるし、現にいくつか氷山が見えているくらいだから、南側航路を選ぶべきだし、せめて速度を落として航行すべきじゃないのか、と豪華客船(日弁連)の多くの船員が感じている状況であるにもかかわらず、船長(日弁連主流派)は、北側航路を運航することは以前に決めたことだし、氷山なんてどうせたいしたことない、とその意見に取り合わず、猛スピードで氷山の漂う海をばく進している状況に見えるのである。
 タイタニックがその後どうなったかは、皆さんご存知のとおりである。

 その間、民事裁判件数は減少し、刑事少年事件も激減している。それにも関わらず、弁護士数の激増は止まらず、弁護士の所得の下落傾向も止まらず、弁護士の資格の価値下落を生じさせ、法曹志願者の激減を招いていることは、現に生じているところである。

 弁護士といえども、職業である。
 職業は、自らの価値を実現する場であると同時に、生活の糧を得る場でもある。弁護士業によって、自らと家族の生活を支えなければならないのである。

 日弁連会長は、理想を語りその実現を目指すのも良いが、それにはまず、理想の実現をになう働き手たる日弁連会員(弁護士)の生活が安定してからのことだろう。

 ちなみに、裁判所データブック2023(法曹会)によれば、
 令和4年の地方裁判所の民事通常訴訟事件の新受件数は126,664件にすぎない。この数字は、平成4年の同じ事件の新受件数(129,437件)以降の30年間で最低の数である。
 端的に言えば、地方裁判所に1年間で持ち込まれる民事裁判の数は、30年前よりも少なくなっているのである。

 ちなみに平成4年の弁護士数は14,706人、令和4年の弁護士数は42,937名である。

 弁護士一人あたりの事件数にすると、平成4年では8.8件、令和4年では2.95件であり、約76%の減少になっているのだ。

 さらにいえば、刑事事件(人)は、平成4年1,701,470(人)→令和4年で812,872(人)と人数にして53%減少。弁護士一人あたりにすれば、84%の減少だ。

 家事事件は増加しているものの、少年事件(人)については、平成4年402,231人→令和4年45,740人と、人数にして88.6%の減少。弁護士一人あたりにすれば96%の減少だ。

 さて、この現状を踏まえたうえで、渕上候補者、及川候補者が選挙公報で、どう言っているのかをみてみたい。

(続く)

サモトラケのニケ(ルーブル美術館)

※写真は記事とは関係ありません。