日弁連会長選挙に関する事前の雑感~2

(まず、私は公聴会に出席しておらず、選挙公報だけしか見ていないので、極めて雑駁な感想に過ぎないことを事前にご了解下さい。)

渕上候補者の選挙公報は、
はじめに
第1 立憲主義と恒久平和主義を守る
第2 市民の人権を守る
第3 司法の未来-裁判手続を中心に
第4 法の支配を社会のすみずみに
第5 弁護士自治を守り新たな弁護士会の未来を築く
終わりに

 と区分けされ、種々雑多な主張がなされているようであるが、ほぼこれまでの日弁連の政策の継承といってもよいと思われ、特段目新しい主張は見当たらないように読める。

 弁護士の仕事の安定等については、第4の中で、若手支援・活動領域の拡充のさらなる推進の項目で少し触れられているくらいである。
 一方、渕上候補は、司法過疎・偏在の解消を目指すこと、司法試験合格者1500名を当面維持することを明言しており、弁護士の生活の安定に向けた施策はあまり考えていないように思われる。

 若手の支援も明記されているが、そもそも弁護士業が安定して収入を上げられる職業であり、右肩上がりなら、若手の支援など敢えて主張する必要はないのである。現に私が弁護士に成り立ての頃は、若手支援を声高に主張する役員は1人もいなかったと記憶している。
 つまり、若手支援の必要性を主張することは、実際には弁護士業がそう安定しておらず、見通しが明るくはないという現状の裏返しなのである

 この点に関して、渕上候補の主張として弁護士業を安定させる方向性の施策には、中小企業支援や自治体連携など、たいして目新しいモノはない。
 私が弁護士になった、四半世紀近くも前の頃から中小企業支援や自治体連携による業務拡大はずっといわれ続けてきている。しかし、実際には、大して実現されていない(実現されていれば渕上候補が敢えて業務拡大策として主張するはずがない)のである。

 だから私に言わせれば、渕上候補の主張する業務拡大施策は、絵に描いた餅でしかないのである。

 そもそも、日弁連執行部などは、無料法律相談の希望者が、たくさんいるから潜在的弁護士需要はたくさんある、等というわけの分からん理屈を振り回すこともあったと記憶している。
 そもそもタクシー会社で、取締役が、「たくさんの人がバス停に並んでいるし、駅にも電車に乗る人がたくさん並んでいるからから、タクシー需要はある。」と主張したら、アホかと言われ、クビになるだろう。
 タクシー料金を支払ってでもタクシーを利用する人が、タクシー需要なのであり、無料や、タクシーがペイしないバス料金・電車の料金と同じくらいの安さならタクシーに乗りたいという人については、タクシー需要ではないのである。

 弁護士の需要だって同じである。

 もっとひどい言い方をすれば、先行する弁護士たちが肥沃な大地や金鉱を先に押さえてしまってから、若手に対して、(自分はやらんけど)荒れ地でもやり方次第で商売になると思うから少し支援する、(ペイしないから自分はやらんけど)海には大量の金が溶け込んでいるから取り出せば儲かるかもしれんので少し支援する、等といっているように聞こえて仕方がない。

 以上から、渕上候補は、弁護士の需要、弁護士の生活の安定について、キチンと把握・対応せずに、今後2年間の、日弁連のかじ取りをしようとしていることは明らかではないかと考えられる。

 それでいて、渕上候補は法曹志願者を増やす必要があるとして、仕事のやり甲斐をアピールするなどの方策を掲げるが、その施策は弁護士会費の無駄使いだと私は思う。

 旧司法試験は、合格率が2%を切ることもあったが、ほぼ一貫して志願者は増え続けていた。旧司法試験合格は人生のプラチナチケットと呼ばれたこともあったが、その頃に、日弁連や裁判所が法律家の仕事のやり甲斐をアピールして、志願者を増やそうとしていたことなどないのである(少なくとも私は知らない)。

 ところが、新司法試験は合格者を増やし合格率が桁違いに跳ね上がったにもかかわらず、志願者の減少傾向がなかなか止まらない。

 その原因は簡単だ。資格の濫発により、法曹資格の価値が下がったことから、人気が失われたのである。それだけの合格者を出さないと法科大学院が維持できないという裏の理由もあったのであろう。

 
 現在の国家資格で食っていける確率が最も高いのは医師資格であり、医師資格は資格の価値が高いのである。そのように価値が高い資格は、どれだけ取得難易度が上がろうと志願者は増大する傾向にあることが多い。旧司法試験の志願者増加傾向や、現在の医学部人気を見れば分かるであろう。

 人は、自らの一生をどの仕事に費やすかについては、慎重に検討することが多い。

 ある仕事に、どれだけのやり甲斐があっても、やり甲斐だけでは生活できないから、その仕事の将来性も検討することになる。
 その検討中に、裁判件数の減少、今後の人口減少、弁護士数の激増等という状況が揃えば、弁護士業界が右肩上がりであるとは、とてもいえまい。

 このように、法曹志願者減少問題は、仕事のやり甲斐などをアピールするだけで解消される問題ではない。むしろそのようなアピールに騙されて法律家を目指すようでは、現状把握能力に問題ありと言われても仕方がない。
 既に、大学も、法科大学院も、文科省も、日弁連も、法曹志願者が減少してから、何年もそのようなアピール活動を実施しては、失敗し続けているのである。

 弁護士会員の貴重な会費を、そのような無駄な自己満足的な施策に用いて欲しくはないのである。

(続く)

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