ピットロードから加速して本コースに向かう。
入会講習で習ったとおり、いきなり本コースの走行ラインに入るのではなく、1コーナー立ち上がりまでは、右端を走行し安全を確認してから合流することになる。
1コーナー侵入直前に、バックミラーで確認すると、ライトをつけた馬鹿っ早い車が、かっ飛んでくるのが見えた。
あいつは、先に行かせるしかない。
これも入会講習で習ったのだが、スロー走行で後続車を先に行かせるには、コース右端を走ることと、合図(ハザードランプの点灯)を行うこととされている。そうすれば、後続車は自己責任で追い抜いていってくれるはずなのだ。講習での知識が早速役に立つ状況だ。S弁護士は、ハザードランプを点灯させ加速を抑えて、コースの右端に車を寄せながら車を走行させる。
一瞬の後、間違いなくスポーツ走行用に改造されたインテグラが、甲高いエキゾーストノートを響かせてS弁護士を追い抜いていく。走行ラインを少し外しつつも、ちゃんと車間距離を取って追い抜いてくれる。
なるほど。
きちんと合図すれば、向こうも安全に配慮して追い抜いてくれるのか。
レースならともかく、スポーツ走行では、公道でのあおり運転のようなことはないのだいうことを理解する。冷静に考えれば、スポーツ走行している際に遅い車にかかわっている暇もないのだろう。
後続車が来ないことを確認の上、アクセルを踏み込み加速する。
基本中の基本である、コーナーへの侵入はスローイン・ファーストアウト、コーナーでのラインはアウト・イン・アウトを心掛け、走行ラインを探す。
大まかな走行ラインは、コース上のタイヤ跡で推測がつくが、走行車両の性能が違うはずなので、その走行ラインが自分の車の走行ラインと同じとは限らない。
そして、自分の車のタイヤグリップが何所まで効くのか感触を確かめつつ、どのコーナーは、どこまでのスピードなら侵入可能なのか、コーナーとコーナーをどうつなげて走れば(どの走行ラインを取れば)最短で走れるのかも探さなくてはならない。
公道では絶対にできない車の能力の限界に近い領域まで踏み込める。ストレートでは、アクセルを一杯まで踏み込むことになり、普段回さない回転数までエンジンを回す。その加速感が相当心地よい。自分の車がどれだけの加速性能を持っているか、初めて確認できた気がする。
また、コースのμが高いので、公道では間違いなくタイヤが泣くくらいにアクセルを踏み込んでも、かなりの部分までタイヤも泣かずに踏ん張ってくれるのである。
その中で一番速く走れる方法を探していくのだ。
とにかくアクセルを踏んでハンドルを切りゃあいいというものではなく、相当頭を使う。
だからこそ、面白いのか。
(続く)