損保会社の調査はこわい~5(私の経験から その3-1) 2020/03/27当事務所HP掲載記事を転載

 損保会社の調査報告書が怖いのは、調査会社の調査だけではありません。専門家でも調査会社に平気でおもねった内容の報告を行ったりもするのです。

 そもそも、損保会社が報告書を書かせている「専門家」が、実際にはそうではなかったという例もあります。


 調査会社を経営していて、科捜研などに勤務経験のある方に指導してもらい、様々な裁判で意見を述べたり証人として証言しているという人を、損保が裁判の証人として出してきたことがありました。

 証人の経歴書には、様々な経歴や多くの裁判での輝かしい証言歴が書かれていましたが、私はその証人の経歴のうちある部分に注目しました。
 

それはその証人の経歴には、「学歴に関する記載がない」ということでした。

 火災に関する専門的知見を認定する国家資格もありませんし、普通の大学にも火災学部などという分野はありません。

 したがって、自分が火災に関する専門的知見を有することを示すには、どのような大学で何を学んだのか、その後どのような会社等に勤務して何を学んだのかが大事なのです。


 何度も、放火事件に関する証人尋問をやっていれば、専門家を自認する人は経歴において学歴はほぼ必須といっていいほど記載されてくる事項であることはわかるのです。

 話は少しずれますが、経歴は注意して読まなくてはなりません。

 例えば、お医者さんのHPの経歴欄を見ても、医学部卒業後、京大病院●●医局にて●●担当などと書かれている場合、うっかり読み流すと、この先生は京大医学部卒業なのか~と勘違いしてしまいます。しかし、よく読んでみると、このお医者さんが京大医学部を卒業したとはどこにも書いていないのです。

 どこの大学か分からないけれど、とにかく医学部を卒業して医師になり、そのあとで勉強のため等で京大病院に勤務した経験があるという記載だけなのですね。

 話を戻しますが、損保の出してきた証人について、学歴に関する記載が経歴書に記載されていなかったことから、私はおそらく専門知識を勉強したといえるだけの学歴を証人は持ち合わせていないのだろうと推測しました。

 尋問の際に直接その点に切り込んでみると、案の定、証人は大学の工学部などの卒業ではなく、高校の商業科の卒業であることが分かりました。また、ガソリンをペットボトルなどに入れて保管したのではないかなどと、常識的におかしいと思われることなども証言しており、証人の信用性を大きくぐらつかせることができました。

 ただ、実際にこの証人に反対尋問して感じたのは、この証人は尋問に慣れているなということでした。

 例えば、自分のわからないところを分かっているかのように主張したり、不確かなことを確かであると誇張して証言したりはせず、分からないことはわからないと述べるなど、自分の防衛ラインをきちんと守ったうえでの証言に徹する点は、さすがに豊富な経験を物語るものでした。

 通常、証人という立場からは、反対尋問を受ける際には、つい防衛ラインを引き上げてしまいたいところなのです。例えて言えば、①大阪在住の人が「USJで暴行現場を見たことがない」というために、「USJには行ったこともない」と大げさに言ってしまうような場合、②妻に浮気を疑われ、「その女性の同僚とは確かに食事を一緒にしたことはあるが、不倫はしていない」と弁解すればいいところを、つい「その女性の同僚とは会社の外で食事したこともない」と言ってしまうような場合が、この防衛ラインの引き上げに当たります。
 それをやってしまえば、引き揚げた防衛ラインは嘘で固めたラインなので追及する側からはもっとも突破しやすいラインとなったりもします。
 先の①USJの例でいうと、小学校・中学校の遠足先、両親とのお出かけ先などを聞いていくと、大阪の他の名所は全て行ったことがあるが、USJだけは、なぜか行ったことがないという奇妙な主張が浮かび上がったりします(大阪弁護士会でいわれている「田原坂ルール」)。②についても、防衛ラインを引き上げた結果、妻からお二人様の食事のレシートを突き付けられた場合には、もうアウトです。

 今回の証人は、自分の守備範囲をきちんとわきまえて、防衛ライン内で戦ってきたので、その意味では場慣れした手ごわい相手であったと思います。

 しかし、証人の証言は、調査会社の調査報告書に沿った内容としなければならないため、本件座布団の存在などについては、具体的な説明ができず私と永井君の反対尋問を躱しきれなかったのです。

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