死刑廃止論に関する資料がでています。

 先日のブログで、死刑廃止決議に関する大阪弁護士会執行部の各委員会に対する意見照会回答書の公開について触れた。

 今川会長は、大阪弁護士会のHP会員専用ページで、各委員会(委員会の意向により一部非開示)の意見照会に対する回答を掲載することにされた。

 大阪弁護士会執行部は、最終的に、死刑廃止を求める総会決議を実施しようとしており、そのために会内での議論を活発化させるための方策だそうだ。

 大阪弁護士会の皆様には是非ご覧いただいて、死刑廃止を求める総会決議を行うべきかについて検討していただきたい。

 一般の方々は、弁護士会=死刑廃止論で凝り固まっているかのような印象をお持ちだと聞いたことがあるが、個々の弁護士は必ずしもそうではないことが分かる資料だ。また、死刑の代替刑として仮釈放のない終身刑導入を考えていることもわかる。

 ちなみに、私が聞いたところによると、学者で終身刑の導入に積極的に賛成している人は一部のようで、むしろ終身刑の導入については弁護士会等が積極的である、との見方もあるそうだ。

 私個人としては、とにかく死刑を廃止したいがために、その危険性を軽視したまま終身刑の導入に突っ走るのはいかがなものかと思っている。ドイツでは死刑廃止の際に、終身刑を導入したが、収容者の精神障害や自殺などの問題が発生したことから結局絶対的終身刑は廃止されるに至っているそうだ。

 このように実際にも導入後に大きな問題が生じた例があるにもかかわらず、死刑廃止を実現したいがために、死刑廃止に代わる刑としては終身刑をセットで提案してよいものか、慎重な検討が必要であろう。

 いずれにせよ、大阪弁護士会の皆様には、ぜひ多くの委員会の、死刑廃止に関する意見をお読みいただきたいと考えている。

駐車場にいた犬

 先日、映画のレイトショーを見た後の深夜、月極で借りているお寺の境内の駐車場に車を入れようとしたところ、いつもと違う影が車の前を通り過ぎた。

 大体、野良猫数匹が、決まった車の下を寝床にしている(幸い私の車は寝床ではないようだ)ので、猫ならすぐに分かるのだが、どうやら違う動物のようだ。

 一瞬タヌキかなと思い、自分の駐車スペースに車を駐め、降りようとしたところ、その影が近づいてきた。

 犬だ。

 その犬は、5mほど近くまで寄ってきたかと思うと、すぐに方向を変え、木の陰に戻っていく。

 私は、駐車場から出ようとしたが気になって戻ってみると、やはりこちらに近づいてきては、5m程のところで身を翻し木の陰の方に逃げていく。

 私は以前にもコンビニの駐車場で似たようなシチュエーションに出会ったことがあるのでぴんと来た。

 その犬は、ご主人とはぐれたのだ。

 そして駐車場でご主人を待ち続けているのだ。

 車や人が近くに来るとご主人が迎えに来てくれたのかと思って近づいて確認しては、がっかりすることを繰り返していたのだろう。

 首輪はしているようだったので、首輪に連絡先があるかもと思い、身をかがめて近づいてみたがどうにも警戒しているようで、どんどん逃げていく。疲れ果てているだろうに、ご主人がきっと来てくれると信じて、他人に容易に心を許さないのだろう。

 このままお寺の境内から出てしまえば、外は道路だ。道路では眠ることも出来ないだろう。

 私は、犬のことを心配しつつも、下手に手出しをして犬により大きな負担をかけるわけにはいかず、後ろ髪を引かれる思いで駐車場を出たのである。それ以来、車を使っておらず駐車場に足を運ぶ機会がないので、あの子がどうなったかは分からない。

 あの子は、ご主人に会えたのだろうか。

同感、同感・・・

 同業の弁護士の方にしか分からないかもしれないが、月刊弁護士ドットコムという雑誌がある。

 巻頭には「フロントランナーの肖像」というコーナーがあり、毎号、ちがう弁護士に対するインタビュー記事が掲載される。

 私は結構、他の弁護士さんの思いや経験談を読むのが嫌いではないので、このコーナーを楽しみにしているが、今回取り上げられた榊原富士子先生のお話しには、つい、「そうだよね~」と大きく頷いてしまう部分があった。

「・・・受任の最初に電話一本入れて話し合いをすれば済むケースなのに、いきなり弁護士がついて提訴したり、当事者に上から目線の内容証明を送りつけたりし、当事者がびっくりして相談に来られるケースが珍しくなくなりました。当事者の裁判なのに、相手方弁護士の批判を展開し始める代理人もいます。代理人がわざわざ紛争を拡大するのは、家事事件にはおよそ似合わないやり方ですよね」(月刊弁護士ドットコムvol49 P11)

 そんなことを書いてきたら紛争がより先鋭化しちゃうじゃないか、とにかく相手に感情をぶつけることが優先事項で、根本的な紛争解決などどうでもいいと思っているのか?と疑うような書面を書く弁護士を、最近立て続けに(2人は若手、1人はベテラン)相手方にしたからである。

 そのような弁護士からの書面は、事実に立脚せず主観を根拠に自己中心的な主張を言いつのる傾向が強く、また過度の感情的表現が満載であるばかりでなく、相当上から相手を見下したような書きぶりをしているものだから、読まされる方は非常にストレスを感じる。

 もちろん、そのような書面を送りつけられた側の当事者は、怒り心頭、徹底的に戦って欲しいという気分がわき起こり、双方で妥協できそうな落とし所があっても、感情面を傷つけられたことから迅速円満な解決が遠のいていくことが多いのだ。

 無茶な書面を書いてもらった依頼者からすれば、弁護士が言いたいことをさらに過激に言ってくれるので、胸のすく思いがするのかもしれないが、そのような書面が現実の紛争解決に役立つことは通常考えにくい。また私の経験からしても、そのような書面を送りつけられて紛争解決に役だったことは、一度もない。

 弁護士が少し気をつけて書面を作成すれば足りるはずだが、そのような配慮をしていない(配慮の必要すら気付けない?)と思われる弁護士が増えてきているのかもしれない。

 その点で、私は榊原富士子先生の実感に、同感することしきりなのである。

 当事者が喧嘩している段階であれば感情的な言い合いがあっても良いのかもしれない。

 しかし、弁護士は、例外的な場合(例えば交渉を決裂させて欲しいという依頼がある場合等)を除いて紛争を解決するために依頼を受けたはずである。だとすれば、無思慮な批判的・感情的表現を相手方に浴びせることは、本来の目的に反する可能性があるはずだ。また、上から目線の言い方は間違いなく相手方の感情を刺激し、事件の解決を困難にする方向に向かわせる。

 上記のようなことに配慮し、その上で表現行為を行うだけの慎重さ・冷静さが、弁護士には求められているように思うのだがなぁ~。

 だって、我々の目的は基本的には、紛争拡大じゃなくて、紛争解決のお手伝いでしょ?

死刑廃止論につき、またまた、常議員会で討議中

 昨年2月頃に、常議員会で死刑廃止論について大阪弁護士会で総会決議をあげるかについて検討されていたことは、ブログに書いた。そのときは、散々議論した結果、総会決議を得るために議案を総会に提出することは見送られた。

 しかし、再度、死刑廃止を求める総会決議を挙げようとする提案が常議員会に持ち込まれている。

 死刑廃止に関して、会内議論を喚起する目的でシンポジウムなども何度も開催されている。

 こんなに何度もされると、理由は分からないけれど大阪弁護士会執行部は、死刑廃止を求める決議をどうしてもやりたいのだろうな~と、私は思ってしまう。

 今回、大阪弁護士会執行部は死刑を廃止すべきかについて、全委員会、PTに意見照会をかけた。これ自体はよいことだと思う。私は、死刑存廃論は、その人の思想・生き方にも関わる重大な問題であると考えているし、そのような問題について、大阪弁護士会が、会として統一的な意見を出そうとするのであれば、様々な意見を聞き、議論を尽くした上で行うべきだと思うからである。

 今回、その意見照会の結果が、常議員会に提出されていた。

 私から見れば様々な意見(もちろん死刑廃止論ばかりではなく、存置論からの意見、思想に関わるような問題について弁護士会が意見を出すべきでないとの意見もある)が出されており、非常に死刑存廃議論の参考になると思った。そこで、その意見照会の結果を全会員に配布するか、そうでなければ公開させて欲しいと、昨日の常議員会で今川会長に申し入れた。

 もちろん常議員の中には配布に賛成ではないという意見の方もいたし、意見照会を全委員会・PTにかけた以上、その結果を全委員会・PTに伝えることは当然ではないのかという意見の方もおられた。

  今川会長は、慎重に検討して回答すると返答していたが、私としては検討するまでもなく、全会員に公表すべきだと考えている。

 弁護士会として、(会員内で必ずしも意見の一致を見ているとはいえない)死刑廃止を求める総会決議を行うのであれば、大阪弁護士会の中での多様な意見は、可能な限り会員に伝えて判断の参考資料とすべきだと思うからである。

 少数の常議員会で総会決議案に入れることを決定すれば、総会に現実に出席する人は少ないから、死刑廃止を求める決議が大阪弁護士会執行部の議案として総会に提出され、しゃんしゃんと総会を通過し、「大阪弁護士会の死刑廃止を求める決議」として世に出てしまう可能性が極めて高い。

 そうなった場合、世間は、大阪弁護士会所属弁護士は全て死刑廃止論なんだと誤解するだろう。

 もちろん今回の意見照会の回答を配布したから決議して良いというものでもないが、死刑存廃に関して弁護士会での統一的意見を出そうと考えるのであれば、最低でも可能な限りの情報を会員に提供すべきだろう。

 もし今川会長が、全会員に配布はしないものの、公開は止めないと仰ってくれるのであれば、PDF化して当ブログでも公開しようと思っているが、今川会長が配布もしないし公開も禁止するというのであれば、私としては全会員に有用と思われる資料を皆様にお伝えすることができなくなってしまう。

 なにも、おかしな情報を配布・公開せよと言っているのではない。ある重大な問題に関する弁護士会の各委員会等の意見を、大阪弁護士会の構成員である各会員に配布または公開して欲しいというだけの話である。

 私から見れば、配布しない方がおかしいのだが。

 現在は、今川会長の返事待ちというところである。

大学の非常勤講師

 私は京都大学出身だが、縁あって、関西学院大学の法学部と法学研究科(大学院)の非常勤講師をさせて頂いている。

 私は紀州犬が好きなので、法学部ではペットに関連する法律問題を演習形式で教えている。大学院の方は、ビジネス法務特論ということで、主に会社法のコーポレートガバナンス関係の演習を担当している。

 本業はもちろん弁護士なので、我が儘を言って、隔週開講・2コマ連続での講義をお願いしていたが、数年前から法学部の方はそのカリキュラムだと学生が授業をとりにくいとの指摘があり、法学部の方は毎週開講とせざるを得なくなった。

 最近の大学は、学生をお客様とみなして顧客満足度を高めようとしているらしく、学生による授業評価を毎年のように行っている。

 某えらい先生にお聞きしたところ、「学生に講義の質なんかわかりゃしないから、学生の評価なんて気にしたらダメですよ」、とのことらしいが、一応平均以上の評価を頂けているので、学生の方には少しはお役に立てているのではないかと思っている。

 なお、非常勤講師の給与はとても、と~っても低い(と思う)。

 授業のためのレジュメ作り等の準備や、課題・レポートの評価等にかかる時間を含めて計算すればマクドナルドの時給にも届かない。

 噂では、関関同立の非常勤は特に安いとも聞いたことはあるが、真偽の程は明確ではない。

 ただ、それであっても興味深い(だろうと思う)知識を提供して、学生さんがそれを吸収していく姿を見るのはとても嬉しいものだ。

 ということで、先日、大学側から来年度の授業をお願いされたので、私は、学生さんの成長見たさに、またもや引き受けてしまった。

 全然割に合わないよね~という心の声も(そこそこ大きく)聞こえるが、それよりも、来年度も新しい学生さんと、勉強できることを私は楽しみにしているようなのだ。

谷間世代への給付が日弁連財政を圧迫?

 先日の常議員会には緊急案件で出席が適わなかったが、常議員会資料を見てみると、日弁連から「一般会計から会館特別会計への繰入額見直しについて」の意見照会があったとのことだ。

 題名だけ見ると何のことか分からないのだが、提案理由にはこう書いてある。

 「日弁連は、本年3月1日の臨時総会において、いわゆる谷間世代会員のための給付制度、及び育児期間中の会費免除期間の延長を承認した。前者の財源として日弁連一般会計から日弁連重要課題特別会計に20億円の繰り入れを行う予定であり、後者により、毎年9000万円の減収が見込まれている。(中略)日弁連一般会計について大規模な支出と減収が予想されることから、日弁連財政の健全性を維持し、会計間のバランスを保つため、日弁連一般会計から日弁連会館特別会計に対する繰入額を変更することにつき、2019年6月28日付けで各単位会に賛否を問う照会があった。」

 要するに、谷間世代への給付を行うために一般会計がひっ迫するので、会員が納めている日弁連会費のうち、日弁連会館積立金に回されている毎月800円部分を700円にして、実質毎月100円を一般会計に残したい、ということだろう。もちろん将来の会館の修理等に関する積立金は当初の予定よりも減っていくことになる。

 では、今年3月1日の臨時総会で日弁連執行部はどう言っていたかみてみると、

「今回の給付制度の金額を検討するに当たっては、今後も当連合会が積極的な活動を続けられ、かつ想定され得る有事にも対応できるだけの経済的基盤を確保することを前提とした。谷間世代の会員数は約9,700人であり、給付金額20万円とした場合、その事業規模は20億円程度となる。当連合会は、平成29年の決算の一般会計の繰越金は、約44億円であるところ、南海トラフ地震や首都直下型地震といった有事を想定した際の非常時の支出を想定しても、給付金20万円であれば、当連合会の活動の経済的基盤を辛うじて維持できるものと判断した。」

 つまり、南海トラフ地震、首都直下型地震が来ても大丈夫と大見得を切っているわけだ。

 ところが、今回の提案理由をみれば、会館特別会計に積み立てるお金を減らして、一般会計に回さないと日弁連財政の健全性が維持できないということであり、本年3月1日の説明から僅か3ヶ月あまりで、当初の目論見と異なり毎月の会館積立金を減らして一般会計に回さなければ財政は不健全になってしまう事態が明らかになったということだろう。

 一体どんな杜撰なシミュレーションをすれば、3ヶ月で健全性が破綻するような判断が可能なのか、執行部に聞いてみたいものだ。

 今回の提案にも、会館特別会計繰入額を変更しても大丈夫という、ぺらぺらのシミュレーションが一応ついているが、そもそも3ヶ月で破綻するようなシミュレーションしかできない執行部に、まともなシミュレーション能力があるとも思えない。また、シミュレーションの前提たる大規模修繕費をどう算出したかも一切明確にされていない。こんな穴だらけかつ根拠不明のシミュレーションで会員を説得できると思っているのなら、弁護士全員は日弁連執行部に完全になめられ切っていることになるだろう。

 一般企業で、このような滅茶苦茶な事業計画を役員達が立案して実行し企業の財政にダメージを与えたら、よくて左遷、場合によってはクビをとばされても文句は言えまい。

 毎月の会館積立金額が減るだけではないかと思われるかもしれないが、天災が発生した際に日弁連会館の修理費用は、誰も援助してくれないだろうから、当然日弁連会員が負担しなくてはならない。

 会館積立金の額を減らし、当然見込まれる将来の会館修理等の資金積み立てを先送りにしていくことは、将来発生した場合に必ず必要となる天災による大規模修理等にかかる費用を、前倒しで食いつぶしていることとさほど変わらない。

 そもそも谷間世代を産み出したのは、国の政策ミスであり、本来であれば国が責任を負うべきであって、日弁連が谷間世代に対して給付金を支給することは全くの筋違いも良いところなのだが、日弁連執行部はええカッコしたがりなのか、いわば他人の金をアテにして給付金支給を提案し総会決議を得てしまったのだ。

 私は日弁連執行部に言いたい。

 ええカッコしたいなら、みんなのお金をアテにせず自腹でやれ。
 先を見通せないのなら、せめて将来に禍根を残すことはするな。

(追補)

 この意見照会に対して大阪弁護士会の意見は次のとおり(このまま常議員会で議決されたかは不明だが、おそらく議決されたものではないかと思われる)。

 「賛成する。ただし、各単位会及び会員間の財政の健全性に関する更なる議論のために、より充実した資料を提示すべきである。」

 いや、意見照会に対して、大阪弁護士会で検討して意見をまとめるためには、まず資料を先に出させるのが本筋ではないのか。資料を検討して初めて賛成すべきかどうか分かるはずではないのか。

 とにかく一旦賛成しておいて、あとで資料を出すようにって、結局日弁連執行部への盲目的追従ではないのか。

 この点に関して、大阪弁護士会執行部も、私から見れば、なんだかな~という感じは否めなかったりするのである。

大パブ閉鎖に関する雑感~その3

(続き)

以前も書いたかもしれないが、知人の医師とお話しした際に、どれだけ弁護士会が会費を使って人権擁護活動を行っているかについて説明したところ、その医師の答えはこうだった。

「そんなに、採算の取れない事業をやれるなんて、弁護士とか、弁護士会って、すげー余裕あるんやね・・・・。」

 おそらく一般の方々の見方も同じではないかと思う。

 そして、弁護士会が自らの負担でその任を買って出るのであれば、少なくとも害にはならない範囲で、やらせておけばいいと思われるだけではないのだろうか。

 また、本当に弁護士会の自腹を切っての施策が、執行部の先生方のお考えのように一般国民の皆様の利益に本当に適っているのであれば、感謝されることはあっても、さして注目を浴びないということはないように思うし、やめないで欲しいという要望が多数寄せられたり、マスコミだって報道するだけではなく、バックアップしてくれてもおかしくはないはずだ。

 広報の拙さも勿論あるだろうが、国民の皆様からさほどの感謝が頂けていないということに仮になるのであれば、一般の国民の方々からは、そこまでする必要はないと思われているからではなかろうか。

 「弁護士から見れば人権擁護のために必要なのだから国民の皆様の考えに関わらず必要だ」という上から目線になりすぎていないか、弁護士会執行部の自己満足に陥っていないか、今の弁護士の状況から見て本当に身の丈にあった活動なのか、等について再検討すべき点があるように思う。

 執行部の唱える理想は悪くないが、多くの弁護士がいま置かれている状況を見ずにその理想を追及すれば、理想と現実のギャップに会員は耐えられない。

 もっと弁護士会を支えている個々の会員のことを、第一に考える行動をとる執行部が、なぜ誕生しないのか、私には不思議で仕方がなかったりもするのである。

(この項終わり)

大パブ閉鎖に関する雑感~その2

(つづき)

 大パブの話から少しずれていってしまうが、弁護士会は人権擁護のために必要があると考えた場合、採算度外視、会員の負担無視、で突進してしまう傾向にあるように思われる。結果的にはそのための費用は会員である弁護士の負担に帰してしまうのだが、執行部の方は、とにかく人権擁護が先にあるようで、会員の負担をどこまで真剣に考えているのか、私には見えない場合も多いのだ。

 弁護士会の執行部の方は、人権擁護に必要なら、人に知られなくても歯を食いしばって弁護士が頑張っていれば、いずれ制度が変わり国費が支出されるなどして、救われる必要のある方が救われるようになると、未だに考えていると思われる。

 現にそのような説明を常議員会で執行部から聞き、被疑者国選もその一例だとの説明を受けたことがある。

 私はひねくれ者だから、「制度が変わって人権が救済されるようになった例があるとして、その制度変更の理由に弁護士が歯を食いしばって頑張ったからと指摘された例はあるのか」、と突っ込んでみたところ、執行部からは、まともな回答は得られなかった。

 マスコミのいうように弁護士も自由競争社会で、どんどん競争すべきというのなら、利益を上げられない者は退場せざるを得ないから、経済的利得を重視しろということだろう。だとすれば、経済的にペイしない事件は扱わないことが時代の流れに沿う、ということになってしまうのではなかろうか。それが望ましいかは別として、国民の皆様が、弁護士の自由競争を望むのなら、弁護士としても経済的利得を重視せざるを得ず、仮に儲け最優先主義を取る弁護士がいてもそれを国民の皆様から非難されるいわれは、全くないということになろう。

 被疑者国選だって、正直言えば、かけた時間や手間暇に比べて僅かな費用しか出ないので、きっちりやるなら自分で事務所を構えている弁護士には、かなりの赤字案件だと思う。人権擁護の点において、被疑者国選は間違いなく意味のある制度だとは思うが、経済的面を重視して見れば、弁護士会が自腹を切って始めたあげく、結局ペイしない仕事を抱え込んでしまっただけではないのかという疑念も、ないではない。

 確かに弁護士が全般的に余裕があるのであれば、執行部のいうような「弁護士が歯を食いしばって・・・・」といような牧歌的な発想があっても良いかもしれないが、既に現実はそんなに甘いものではなくなっていると私は思う。

 かつて法曹資格がプラチナ資格と呼ばれ、取得すればある程度安泰な生涯が見通せた時代は、司法改革による弁護士大増員で、もう終わっている。

 いまさら、誰も責任を取ろうとはしないのだが、法曹需要が劇的に増加することを前提として制度改革を設計した、司法制度改革審議会の意見書は、制度設計の前提段階で既に完全に法曹需要の予測を誤り、その誤った予測を前提に司法制度改革の設計をしたことが、以下のとおり明らかになっている(ちなみに法科大学院維持派の学者は、何かと言えば、この誤った前提に基づいて作成された司法制度改革審議会意見書を引っ張り出し、法科大学院制度等を正当化しようとする。そもそも法曹需要の飛躍的増大という予想が間違っていたことはもう明らかなのだから、いい加減に現実を見て欲しいと思っているのは私だけではないはずだ。)。

 日本全体の人口が減少に転じているし、2018年版裁判所データブックによれば全裁判所の新受全事件数は昭和60年の6,680,565件から、平成29年には3,613,952件までほぼ半減しているのである。この間に、弁護士数は昭和61年次の13,159人から、平成30年次には40,098人へと3倍以上増加したのである。

 上記のデータから極論すれば、現在の弁護士界は、半減したパイを、3倍以上の人数で奪い合う時代なのだ。しかも日本の人口減少傾向からすれば、さらにパイは縮む傾向にあると思われる。弁護士は見栄っ張りだからなかなか本音を言わないが、上記のデータに加え、弁護士向け営業セミナーの案内やポータルサイトからの営業電話が、そこそこの頻度であることなどから考えても、仕事が殺到していて順風満帆、将来的にも安泰が見込める左うちわの法律事務所なんて、そんなに多くはないはずだ。

 日弁連執行部や弁護士会執行部の方々は、会務に多くの時間を割くことのできる余裕がおありなので、おそらく順調な事務所経営をされていて実感できないのだろうが、おそらく執行部が無意識のうちに前提としているような、弁護士全般に余裕があった時代はとうに過ぎ去っているのである。

(続く)

大パブ閉鎖に関する雑感~その1

 昨日の常議員会で、今年5月末をもって閉鎖になった弁護士法人大阪パブリック法律事務所(以下「大パブ」)の清算に向けての進行状況が報告された。
 そもそもは日弁連の肝いりで、「法の支配をあまねく浸透させる」という意図のもと、全国に先駆けて大阪で、大阪弁護士会が開設した公設事務所であり、閉鎖が決まった際には朝日新聞等でも報道されたのでご記憶のある方も多いだろう。

 これまでマスコミは、弁護士に対して、弁護士制度は社会的インフラと言いながら、弁護士に対して競争しろなどと矛盾した適当なことを言い続けてきた。マスコミの念頭にあるのは、おそらくマスコミが付き合う範囲の、若しくはマスコミが勝手に想像している、高収入の弁護士なのだろう。
 確かに高収入で暇な弁護士(そんな弁護士がいるとすればだが)に対してなら、マスコミの主張も一理あるかもしれない。

 しかし、弁護士も個人事業者である。自らの稼ぎで自分・従業員の生活を維持し、家族を養う必要がある。となれば、採算が取れないボランティア的な仕事よりも、採算が取れる仕事が優先されがちになることを誰も責めることはできないはずなのだ。特に競争原理を弁護士にも求めるのであれば、同時にボランティア的な仕事の処理を弁護士に求めるのは一貫しない主張のように思われる。

 それでも、弁護士費用を負担できない人でありながら、人権擁護のために弁護士が介入する必要があると思われる事件はどうしても発生する。
 このような場合、本来、国がきちんと費用を出すべきなのだが、医療と異なりその点は放置されている状況に近いと私は思う。法テラス制度もあるにはあるが、サービス提供者である弁護士の報酬基準は極めて低く、おそらく仕事の手を抜かない限り、法テラス案件だけでは利益は上げられず、事務所は維持できない。要するに弁護士の善意(ボランティア精神)に頼った制度設計になっている。

 話を戻すが、確かにマスコミ報道では大パブの果たしてきた意義については、概ね紹介されているし、私もその意義を否定するものではない。

 しかし、マスコミ報道は公設事務所は通常赤字であり、その赤字部分を大阪弁護士会で負担してきたことについては、何一つ触れられていないようだ。
 
 私が昨日執行部に聴いたところ、大パブのために大阪弁護士会が自腹を切った額は、15年間での概算だが、5億8800万円にのぼるという。

 このお金はどこかから降ってきたお金ではない。大阪弁護士会の会員が例え自分の事務所が赤字でも歯を食いしばって支払ってきた会費から捻出されているお金なのだ(弁護士会費の滞納は懲戒事由になり、最悪の場合は退会命令を受けるため、弁護士資格を維持するためには、弁護士会費は何よりも優先して負担しなければならない費用なのである)。

 残念ながら、この点に関して、マスコミ報道を見た限り自腹を切って人権擁護のための公設事務所を維持してきた弁護士会・弁護士会員を評価する内容は見られなかったようである。

(続く)

暑中お見舞い申し上げます。

暑い日が続きますね。

特に今年は、梅雨時に肌寒い日があったので、余計に暑さが応えるような気がします。

酷暑の折、皆様におかれましては、お身体、十分御自愛下さい。

少しでも涼を伝えられないかと、涼しげなNZのサザンアルプスの写真(2008年撮影)を掲載しておきます。

 なお、当事務所は、お盆もカレンダー通り、営業致します。

ただ、順次交代でお休みを頂きますので、ご指名の弁護士、担当事務員がお休みを頂いている場合がございます。その場合はご容赦下さいませ。