弁護士会のヘイトスピーチに関する意見書

 先日の大阪弁護士会常議員会で、「ヘイトスピーチ解消に向けた積極的な施策を早期に実現することを求める意見書提出の件」が審議された。大阪弁護士会の人権擁護委員会が意見書案を作成し、意見書を大阪府知事・大阪市長・大阪府内各市町村長宛に執行するという案だった。

 意見書案の意見の趣旨はかなり積極的なもので、市民の申し出がなくても行政が職権でヘイトスピーチ拡散防止措置・認識の公表、の積極的対応をするよう求めている。

 私としても表現の自由の域を超えたヘイトスピーチは、許容されるべきではないとは思うが、先日の意見書案は相当過激な内容だったと記憶している。

 
例えば、
① 職権発動の前提としての録音、撮影、聴き取りなどの証拠保全措置を積極的に行うよう行政に求めたり、(さすがにこの部分は、人権擁護の観点から行政に積極的権力発動を求めるのはいかがなものかとの意見も出て、討議により削除されることになった。)
② 在日コリアンに対する街宣・デモが行われている現状に鑑み、行政に積極的な具体的措置を講ずることを求め、
③ 教育・啓発活動を実施する際には旧植民地出身者に対するヘイトスピーチが(中略)日本が朝鮮半島や台湾を植民地支配した時代から続く歴史的な事象であり、国家・社会レベルでの制度的差別を背景とした問題であることを認識しこの点を反映させるべきだとし、
④ 教育活動も、児童生徒又は学生向けの授業の実施のみならず、学校教員なども対象に研修・フィールドワークを実施すべきである

等の提案理由・提言がなされていた。

 私は提案理由から見て、ヘイトスピーチ全般に対する対策というより、在日コリアンに対するヘイトスピーチを念頭に置いた意見書であろうと感じた。

 もちろん、大阪では在日コリアンに対するヘイトスピーチの問題が起きていることも知っているし、前述したように表現の自由の域を超えたヘイトスピーチは許されるべきではないことはいうまでもない。

 しかし、私はこの意見書には賛成できなかった。

 一見ヘイトスピーチ全般を許さない意見書でありながら、意見書の理由はほとんど在日コリアンに対するヘイトスピーチを念頭に置いたものであり、意見書の趣旨と理由が齟齬している感があった。また、ヘイトスピーチ防止のために行政の積極的関与を求めること自体かなり過激な提言であって抵抗を感じたし、教育活動についてここまで弁護士会が提言するべきものなのか、という疑問もあった。そして、現在の日本が(個人のレベルではなく)国家社会レベルで制度的差別を行っているとも思えなかったからだ。

 報道でしか知らないので歪んだ認識になっているかもしれないが、むしろ韓国では日本に対するヘイトスピーチが相当強力になされているように窺える(ヘイトスピーチに対する法的規制がなされていないとの情報もあるが)。日本の国旗を踏みにじる画像もたくさんあるし、反日教育という言葉もあるようだ。相手国と仲良くやっていく方向性が、残念ながらあまり見えない。竹島問題も、韓国側が一方的に実効支配を開始してから、全く解決していない。

 お互いの国が仲良くしていこうとするなら、法的規制の有無に関わらず双方の国で相手に対するヘイトスピーチをやめ、憎しみあう契機を減らしていくことが、必要なのではないかと私は思う。

 人間は感情を持った生き物だから、片方がヘイトスピーチを規制してやめさせても他方からのヘイトスピーチがおさまらない限り、結局はヘイトスピーチ合戦になるだけではないか。

 日本の教育に口出しするなら、同様に相手の国の教育にも言及して、憎しみをあおるような教育をやめるよう主張して然るべきではないのだろうか。

 弁護士会が出そうとするこの意見書が、行政の過度の関与を求めたり教育への言及を行うものではなく、かつ、在日コリアン・韓国等に対する日本側のヘイトスピーチを許さないのと同時に、韓国側の日本に対するヘイトスピーチも許さない趣旨を含んでいたのなら、私も賛成できたように思う。

 しかし、残念ながらそれらの点についての配慮は私には見つけ出すことができなかった。

何度もいうが、表現の自由の域を超えたヘイトスピーチは許されるべきではないことはいうまでもない。しかし、少なくとも上記の2点において、安易に賛成できない面が私にはあったのだ。

 なお、この意見書は、常議員会では賛成多数(反対3名)で可決された。

 私は賛成された弁護士の先生方にお聞きしたい。

それで本当の解決が可能なのですか、と。

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