中学生にも分かる新自由主義3

中学生にも分かる新自由主義3
菊池英博著「新自由主義の自滅」(文春新書)を教科書として

O:トリクルダウンとは、もともと「滴り落ちる」、という意味なんだ。富裕層に富を集中させれば富裕層がどんどんお金を使ってくれるから、世の中にお金がまわり、中間層以下の人々はその「おこぼれ」に預かれる。その結果、経済が活性化して万事うまく行く、そういう理屈なんだ。富裕層に富を集中させるには、所得税と法人税を減税して、これまで大きい政府のために集められていた税金を政府ではなく富裕層に集中すればいい、という考えさ。トリクルダウン「理論」と言われているが、歴史上そのようなことが起きたことはないようだし、現実には誰もそのようなことが起きるか分からないから、実際には理論というより学者が言い出した単なる仮説に過ぎないのだとの指摘もあるけれどね・・・・。

N:ちょっと待って下さいよ。それ、何かおかしくないですか。お金持ちを更にお金持ちにしたらみんながハッピーになれるんですか?お金持ちのところにお金が集まったら、他の人はそれだけ貧乏になっちゃうんじゃないですか?会社だって従業員にたくさん給料を払ったら、儲けが減りますよね。納得いかないなぁ。
それに、政府に税金としてお金が入っていれば、そのお金は、いずれみんなのために使ってくれそうだけど、お金持ちにお金が集まっても、そのお金を、お金持ちは確実にみんなのために使ってくれるんですか?
僕なら、自分のためにしか使わないかもしれないなぁ。
それに、おこぼれってのが一番嫌だなぁ。プライドが傷ついちゃう。

O:N君はお金の話になると元気が出るな。それに正直だ(笑)。まあ、おこぼれはともかく、トリクルダウンとはそういう理屈(仮説)さ。

N:う~ん、トリクルダウン理論って怪しい気がしますよ。僕の印象からすれば、その昔、王様や貴族が富を圧倒的に握っていた時代に、一般人が経済的に豊かでハッピーだったとは到底思えないんですけどね。現代なら、そして、企業活動が自由になれば、それが可能になるんでしょうか。本当に学者が、そんな理屈を言い出したんですか?

O:まあ、これは経済に関する仮説のようだし、素直に考えればN君の疑問はもっともだ。でも、新自由主義者は確かにトリクルダウン理論を主張していたようだよ。それだけじゃない。所得税の減税を正当化する理論として「ラッファー理論」も用いられているとの話もある。

N:また理論ですかぁ。変な理屈じゃないといいんだけど。今度は、一体どんな理論なんですか?

O:簡単にいえば、最適な税率を設定することにより政府は最大の税収を得ることができるという理屈だね。

N:よく分かりませんが。

O:そうだね。例えば、税率0%だったら政府に税金の収入はないよね。そんな国で生活したいかい?

N:そんなの当たり前ですよ~。税金がかからないってことですから。

O:でも、政府にお金が無いとしたら、警察も消防も動かないかもしれないよ。道路も管理されないだろうし、犯罪者がいても誰も咎められないかもしれない。ゴミの収集だってできない。揉め事が起こっても裁判することもできない・・・・。

N:あ、そうか。それは嫌だなぁ。やっぱりやめておきます。多少税金がかかっても、ちゃんとした国に住みたいです。

O:では、税率100%の国があったとしたら、そこに住んでみたいかい?

N:税率100%ってことは、一所懸命働いても、全部税金で持って行かれるということですね。働くだけ損じゃないですか。滅相もない。お断りです。もしそんな国に生まれたら、「働いたら負け」って感じがしちゃいますね。

O:ちょっと極端な例だったけど、そのようなことから、0%-100%のうちのどこかに、最大の税収を得られる最適な税率があるはずだと考えるんだね。そして、もし現在の税率がその「最適な税率」を超える水準にあるのであれば、減税によって税率を「最適な税率」にすることで、税収を増やすことができるとする。とても簡単にして言えば、「減税したら人はやる気を出してもっと働くので、税収が増える」との考えで、所得税減税の理屈として使えるのさ。

N:本当かなぁ。自分で商売している人ならともかく、サラリーマンがやる気を出して働いても働いた分だけ給料が上がるとは限らないような気がしますが。仮にラッファー理論が正しいとすれば、逆も言えますか?「やる気を失わない程度の増税は税収が増える」とか。

O:当たり前だけど(笑)、そうも言えるだろうね。ただし、ラッファー理論はアメリカのレーガン政権下で減税の理屈として用いられたといわれている。レーガンの前のカーター政権のときは、個人の所得税は14~70%、法人税の最高税率は46%だったそうだ。レーガンはその税率を下げていき、個人の所得税の最高税率を28%まで下げ、法人税最高税率も34%に下げるなど、大胆な減税を行ったそうだ。

N:うわ~、70%から28%ですか!10億円儲けた人の税金が7億円から2億8000万円に減るんだ。4億2000万円もお得ですよ。出血大サービスじゃないですか。それで、それで?
  税収は増えたんですか?

O:累進課税だから、そう単純な計算にはならないけどね。さて肝心の税収の方なんだが、この減税によってアメリカの税収は激減したといわれている。

N:なにそれ・・・。大失敗じゃないですか。とすれば、ラッファー理論によれば、減税前の税率だって、最適な税率を超えていなかったことになりますよね。失敗したのなら、どうして税率を戻さないんでしょうか。都合のいいところだけラッファー理論を使っているように感じちゃいますね。

O:アメリカの事情には詳しくないけど、一般に増税は選挙の際にはなかなかプラスに働かないからね。一旦下げた税率を上げていくのは相当難しいのかもしれないね。君だって一度下がった税金がまた上がるのは嫌だろう?消費税を上げると言っていても、選挙の前に増税は延期しますといってくれる政党があったら、支持したくなるだろ(笑)。

N:確かにそうですね、最近どこかの国の選挙で聞いたような気もしますが(笑)・・・・・。でもそれだと、まずいんですよね。税収が激減したんだから・・・・。国はどんどん借金が増えることになるんですよね。結局、国の借金が増えて、その中で一番得したのはお金持ちってことになるのかな・・・。
 あ、そうだ。さっき言ってたトリクルダウン理論はどうなったんですか。富裕層の最高税率を下げたんだから、トリクルダウンからすれば経済がうまく回ってみんなが豊かになるんでしょ。

O:ところが、トリクルダウン理論は機能しなかったといわれている。アメリカの財政収支は大幅な赤字に陥った。

N:げー、最悪じゃん。

(不定期ですが、連載する予定)

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