とある少年事件の裁判官~その2

「チューインガム一つ」という詩は、次のようなものだ。
内容は重いが、素晴らしい詩なので、引用しておく。

チューインガム一つ 3年 村井 安子
せんせい おこらんとって せんせい おこらんとってね わたし ものすごくわるいことした
わたし おみせやさんの チューインガムとってん
一年生の子とふたりで チューインガムとってしもてん
すぐ みつかってしもた きっと かみさん(神様)が
おばさんにしらせたんや わたし ものもいわれへん
からだが おもちゃみたいに カタカタふるえるねん
わたしが一年生の子に 「とり」いうてん
一年生の子が 「あんたもとり」いうたけど
わたしはみつかったらいややから いややいうた 一年生の子がとった
でも わたしがわるい その子の百ばいも千ばいもわるい
わるい わるい わるい わたしがわるい
おかあちゃんに そつからへんとおもったのに やっぱり すぐ みつかった
あんなこわいおかあちゃんのかお 見たことない
あんなかなしそうなおかあちゃんのかお見たことない しぬくらいたたかれて
「こんな子 うちの子とちがう 出ていき」 おかあちゃんはなきながら そないいうねん
わたしひとりで出ていってん いつでもいくこうえんにいったら
よその国へいったみたいな気がしたよ せんせい どこかへ いってしまお とおもた
でも なんぼあるいても どこへもいくとこあらへん なんぼ かんがえても
あしばっかりふるえて なんにも かんがえられへん おそうに うちへかえって
さかなみたいにおかあちゃんにあやまってん けどおかあちゃんは
わたしのかおを見て ないてばかりいる わたしは どうして あんなわるいことしてんやろ
もう二日もたっているのに おかあちゃんは まだ さみしそうにないている せんせい どないしょう
(「灰谷健次郎 子どもに教わったこと」角川文庫より)

私は、窃盗をした少年に、この詩を読んでもらって、感想を聞き反省への糸口をつかもうとすることがある。
この詩から何かを少年がつかんだ場合は、裁判所に提出する意見書に、この詩と少年の語ったことを記して提出したりもするのだ。

(続く)

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