私は、裁判官に食い下がって、少年にとってどれだけ学校が大事な存在であるのかを再度説明した。また、本件非行の経緯(守秘義務により割愛)についても、再度伝えて、非行事実の認定すら難しい問題があることを再度指摘するなどした。
もちろん意見書は、第1次的には非行事実なしの不処分を求め、2次的に万一非行事実が認定されるとしても要保護性なしで不処分、という内容で押した。
審判当日、少年もご両親も一生懸命に考えてきたことを話してくれた。だが、裁判官は非行事実は認定せざるを得ないとの判断を下した。
やはり駄目か・・・。そう思ったとき、裁判官が「休廷します。調査官ちょっとよろしいですか。」といって、別室に入っていった。10分くらい経過した後、調査官と裁判官が戻ってきて、次に「書記官よろしいですか。」といって、書記官と別室に入っていった。これは裁判官もかなり迷っているのだと思った。
とはいえ、調査官の意見は強力である。調査官だって、今日の彼の反省ぶりを見れば、保護観察は不要だと思ってくれるかもしれないが、それは調査官自身が自分の一度決めた意見を変えることになる。それを調査官に求めるのは酷なのではないか。調査官が自分の意見を強く推せば、裁判官も流されるかもしれない。しかし、決めるのは裁判官だから、そうでないかもしれない。
果たしてどうなるのか、私自身かなり緊張した。
少年審判でこれだけ緊張したのは久しぶりだった。
そして、裁判官が席に戻り、話し始めた。
審判の結果が下るかと思っていたのだが、裁判官はこう言った。
「審判を続行します。」
「被害関係者との調整や学校関係の調整が残っていますが、付添人の先生は調整して下さいますか。」
次回期日を追って指定ということにして、時間の関係等で未だ進行中であった被害関係の調整と学校関係の調整を私に任せてくれたのだ。
これは裁判官にとっては、かなりの英断だったと思う。
無難にこなそうと思えば、また、面倒くさいと思えば、非行事実が認定できる以上、調査官の意見を丸呑みして保護観察処分にしても、裁判所としてはきちんとした事件処理であって、大きな問題にはならない。そこを敢えて、審判続行を選択してくれたのだ。
少年の立ち直ろうという気持ちに賭けてみようという、温かい、裁判官の気持ちが痛いほど伝わってきた。
このチャンスを生かさないわけにはいかない。私は、なんとか期待された活動をしたうえで、裁判所に報告した。
再度の審判では、少年は不処分の言渡しを頂いた。
少年は泣いて喜んでくれた。少年の母親も、相当嬉しそうだった。
その後、少年は、系列の学校に転校したものの、学校を退学させられずに通学を継続できている。
私は、その結果を書記官に御礼とともにお伝えし、書記官も裁判官にお伝えしてくれると言ってくれた。
ときに裁判所は血も涙もないと言われる場合もある。しかし、少年は未熟であり失敗することも多いが、立ち直れる可能性も高いという、少年法の理念に沿った、処分を下す場合もある。大げさかもしれないが、まだまだ日本の少年審判も捨てたモンじゃないと感じた日だった。