愛知県弁護士会が、総務省の法曹養成制度等に関するヒアリングに対して提出した資料を見せて頂いた。愛知県では、総務省のヒアリングに対して、一般会員(弁護士)も自由に参加して意見が言えたそうだ。
大阪弁護士会でも、同じく総務省からヒアリングがあったが、常議員会でオブザーバー参加でもいいから参加させて欲しいという、私の申入れは、あっさり却下された。いい加減、「エライ俺たちがあんじょうしたるさかい、しもじもは黙っとけ。」というやり方は、やめて欲しいものだ。
それはさておき、愛知県弁護士会のヒアリングのための資料には、重大なことが書かれている。
いわゆる「無理筋」の事件が増加しているという傾向が見られるというのだ。
弁護士が言うところの、いわゆる「無理筋」とは、簡単に言えば、およそ法律的に見てもこれまでの裁判例から見ても、まず主張が通らない事件を意味する。相手に資力がなく、勝訴しても実際には回収不可能な場合も含まれることもあるだろう。そのような事件が増加している傾向にあるというのだ。
これは国民の皆様にとって、憂慮すべき事態かもしれない。
例えば、私は、明らかに無理筋の事件であれば、法律的問題点、これまでの裁判例などを示して、まず勝訴の見込みが立たず、弁護士費用だけかかって費用倒れになる可能性が高いから、やめておいた方が得策ではないかと、相談者にサジェスチョンする。
その上でもなお、感情的にどうしても許せないので、負けても良い、弁護士費用倒れになっても良いからやって頂きたいという要望があれば、お引き受けする方針をとっている。
もちろんお引き受けした以上は、全力を尽くす。それが弁護士だと思っている。
しかし、そのような事件は、希である。
私は10年以上弁護士をしてきているが、そのような事件は10件もない。
そのような無理筋の事件が増加傾向にあるという愛知県弁護士会の指摘が正しいとするなら、原因はおそらく、①弁護士が無理筋の事件かどうか判断できない、②無理筋と分かっていてもその無理筋かどうかの説明をせずに事件化して受任する、のいずれかしかないように思う。
どちらも、国民の皆様にとっては不幸なことだ。①だと藪医者にかかったの同じで能力不足の弁護士に依頼してしまったことになるし、②だとほぼ確実に弁護士費用倒れだ。
しかし、客観的には妥当ではないかもしれないが、受任する弁護士からすれば、いずれも違法な行為とまではなかなかいえないと考えられる。
①だと、相談を受けた弁護士が一応専門家・資格を有する者として無理筋ではないと判断したわけだし、②の場合でも勝訴可能性が絶対に0%という事件はまずないからだ。その場合、「勝つ可能性があるから、やってみましょう」と弁護士が依頼者に話しても、それは嘘でもなんでもなく、むしろ事件(需要)を掘り起こしている行為にすぎないのだ。
私は②のような事態が好ましいものとは考えていない。しかし、マスコミや法科大学院は、弁護士はもっと競争しろ、需要を開拓しろと主張し続けている。
つまり、そのマスコミや法科大学院の主張は、一見、もっともらしいが、弁護士に対して、無理筋の事件でも、どんどん事件化していけという意味をもその中に含んでいるのだ。
愛知県弁護士会の資料によるとその傾向が既に現れ始めているようなのだ。
これが目指すべき司法改革だったのだろうか。