距離の疲労

 私の田舎は、和歌山県の南部、太地町にある。

 帰省する際に京都から列車を利用すると、距離は300㎞弱だが、特急と普通列車を併せて約4時間以上はかかる。これに比べて、出張で東京に行く際に京都から「のぞみ」を使えば、距離は510㎞くらいで2時間15分だ。

 時間だけの比較をすると、帰省する方が東京に行くよりも2倍くらい疲労しそうだが、実はそうでもない。むしろ、乗っている時間が短いはずの新幹線を利用した場合でも、表面的疲労は少なくても身体の奥底に、じっとりとまとわりつく変な疲労が蓄積するような気がする。

 人間の身体がどこまで敏感なのか分からないが、新幹線を降りてホームのエスカレーターあたりで、乗っていた時間以上の疲労を身体に感じると、ため息をつきながら、「身体は距離を感じているのだ」と実感するときがある。

 ただ妙なモノで、この距離の疲労の問題は、列車移動の場合に特に顕著に感じられるようにも思う。航空機を利用する場合は身体が距離を感じる前に目的地に到着してしまうか、出発・到着の空港の非日常的な雰囲気に飲まれてしまう感じで、距離の疲労を感じることが少ないようにも思うのだ。

 人間の身体が、距離に対して敏感なのか、鈍感なのか、私にも分からない。

日弁連法曹人口政策会議

8月から、日弁連の法曹人口問題政策会議に参加している。今は、日弁連の会場が一杯で使えないということで、この会議は東京、四谷の主婦会館を会場にしている。

 四谷は新幹線を降りて中央線快速に乗り換えてすぐなので、地下鉄乗り換えが必要な東京地裁のある霞ヶ関より少し便利は便利だが、日弁連の会場もそんなに混んでいるのかと不思議に思う。

 実は、JRの四谷駅は、大学受験で何度か来たことがある。まあ、当時高校生だった私は、少々恥ずかしい理由で上智大学を受験したということだ。しかも、親に無理をお願いして法学部法律学科と国際関係法学科と二つも受験させてもらった。

結果的に、私は京都大学法学部に進学したのだが、四谷駅の前にくると、当時の不安に満ちた心境を、未だに懐かしく思い出す。

法曹人口政策会議は、主婦会館の地下二階のホールで行われる。事前に理事会が開かれており、これには委員は参加できない。参加できるのは、14時からの運営会議になる。

 出席簿に名前を記入し、ネームプレートを探して、会議場に入る。席は基本的に自由席だ。

残念ながら、会議の内容について、「ブログなどで公開するな」と釘を刺されているが、日弁連会員用HPなどで、会議の概要は把握可能である。

ただ、会議の本当の雰囲気・内容は、傍聴してみないと分からない。私も、今年1月の法曹人口に関する日弁連の法曹人口検討会議を初めて傍聴したのだが、そのときは、法曹人口5万人をめざすとして、その後、どうするかという点について、日弁連内において何らの合意・方向性が形成できていないことに驚愕したものだ。有り体に言えば、仮に法曹人口5万人を目指すとしても、法曹人口が5万人になった後のことは、日弁連は何~にも考えていなかったのだ。

現在、日弁連には司法試験合格者を増減する権限は全くない。だが、法曹当事者であるからこそ分かる制度の歪みなどの真実もある。そのような真実は、やはり、提言していくべきだろうと、私は思う。もちろん、未だにこれまでの路線にこだわる人もいる。しかし、「過ちは改むるに憚る事なかれ。」であって、過ちを過ちと認めない方がもっと罪が重いように思うのだ。

先に述べたように、本当の会議の雰囲気や内容は、直接傍聴してみないと分からない。法曹人口問題政策会議では、是非多くの弁護士の方に、傍聴して頂いて、どのような議論がなされているか現実に理解していただきたいと強く思う。

 今は、帰りの新幹線の中である。19:50発、のぞみ123号広島行き。東京発広島行き直通の「のぞみ」はこれが最終のようだ。私はこの列車に揺られ、時速270キロで東京から遠ざかる。

東京と広島で遠距離恋愛しているカップルにとっては、多分、この列車がシンデレラ・エキスプレスということになるんだろうな、などとぼんやり考えながら。

※記載内容については、全て執筆者の個人的な見解に基づくものであって、当事務所の統一した見解・意見ではありません。

新司法試験合格者数1000名の主張は、減員論なのか?

 よく、新司法試験の合格者数を1000人にするべきだ、という主張に対して、マスコミや司法改革推進論者から、法曹人口減員論とのレッテルが貼られ、司法改革に逆行すると批判されることが良くあります。

 では次の問題はどうでしょうか。

 ある大型船に、昨日は2000人乗り込んで300人降りました。今日は、1000人乗り込んで、300人降りました。昨日と比べて船に残った人の数は増えたでしょうか、減ったでしょうか。

 あまりにも簡単すぎて、ばからしいとお思いでしょう。

 答えは、昨日船に残った人の数は2000-300=1700人、今日船に残った人の数は、1700+1000-300=2400人、したがって、2400-1700=700人増加しています。

 このように、新司法試験合格者を直ちに1000人にしたとしても、法曹をやめる人の数が年間300名程度の現状(弁護士を基準・概算)では、毎年700名程度の法曹が増加するのです。毎年1000名程度の人が法曹界から去っていく状況になるまでは、新司法試験合格者を1000人にしても、法曹人口はどんどん増えていきます。

 司法試験の合格者が1000人程度になったのは平成11年ころであり、それまでは年間500名程度(平成3年から平成10年までは600~800名程度)です。仮に、法曹になってから35年働いて引退すると仮定した場合、司法試験合格者数を1000人にしても、今後20年ほどは、法曹人口は増え続けるのです。

 よく、司法試験の合格者数を1000名(1500名)まで減員すべきとの主張=法曹人口減員論と、みなされるのですが、現実は全く違います。司法試験合格者数を1000人にしても法曹人口は増え続けるのですから、「司法試験合格者数1000名論は法曹人口増員論か法曹人口減員論か?」と問われれば、間違いなく法曹人口増員論の範疇に入ります。

 前述したとおり、たった今、司法試験合格者を1000人にしても法曹人口は20年以上も増え続けますし、合格者を1500名にしても30年近く法曹人口は増え続けます。

 あれだけ弁護士が必要と言っていた経済界がほとんど弁護士を採用しないことから明らかなように、司法改革が唱えられた当初の目論見と違い、社会での弁護士の需要は増えませんでした。

 司法試験合格者数を減員すべきという主張は、その誤った見込みで立てた増員計画を修正し、法曹人口増加のペースを適切なペースにしようという主張にすぎません。決して法曹人口を減らせと主張しているのではないのです。

 マスコミや司法改革万歳論者の誤導に引っかからず、冷静に事実を見て頂きたいと思っています。

※記載内容については、全て執筆者の個人的な見解に基づくものであって、当事務所の統一した見解・意見ではありません。

インシテミル 米澤穂信著

 年齢性別不問、 一週間の短期バイト、 ある人文科学的実験の被験者、 一日あたりの拘束時間24時間、 人権に配慮した上で、24時間の観察を行う、 期間は7日間、 食事は3食提供、 個室の用意有り、 ただし実験の純粋性を保つため外部からは隔離する、 拘束時間にはすべて時給を払う、 時給1120百円、 作業内容に応じてボーナス有り。 募集元SHMクラブ

 この怪しげな、しかし、破格の仕事に応募した12名の男女。ある施設に隔離された彼らに伝えられた実験の内容は、より多くの報酬を巡って参加者同士が殺し合う犯人当てゲーム、という驚愕の内容だった・・・・。

 この小説は、2010年度版宝島社の「このミステリーがすごい!」の1位を獲得しているそうだ。ホリプロの全面協力の下、あの「リング」、「女優霊」の鬼才、中田秀夫監督により「インシテミル 7日間のデスゲーム」の題名で映画化され、10月16日から公開されている。

 公開されている映画館はそう多くはないが、キャストは、藤原竜也・綾瀬はるか・石原さとみ・北大路欣也・平山あや・片平なぎさなどかなりの豪華キャストである。

 私も、中田秀夫監督、キャストの綾瀬はるか・石原さとみにひかれて、映画を見た。

 かつて、角川映画だったと思うが、「見てから読むか、読んでから見るか?」というキャッチフレーズで映画も本も売り上げをのばしたことがあったように思う。

 しかし、この作品に関して言うなら、間違いなく「見てから読む」べき作品であるし、読んでしまったのなら、映画は見ない方がいいかもしれない。

 私は見てから読んだので、幸運だった。

 話が小説と映画で相当異なってしまっている。登場人物も、小説12名に対して、映画10名だ。おそらく、小説の内容を忠実に映画にするには、物理的にあまりにも時間が足りなかったのだろう。

 中田秀夫監督の得意とするじわじわと恐怖が押し寄せてくるような映像は、この作品には合っているとは思うし、キャストも芸達者なのだが、あまりにも脚本が上手くまとまっていない気がするのが残念だ。

  映画の最後のシーンでの藤原竜也の行動も、本当にそうか?と思う行動でちょっと理解しにくいし、小説では得られるカタルシスが、映画では全く得られない。

 というわけで、映画はお勧めしないが、小説の方はお勧めだ。

 映画の半額以下の値段で相当楽しませてくれる。

 是非ご一読を。

文春文庫 686円(税別)

尖閣諸島問題~映像流出

尖閣諸島問題で、問題の漁船の行動を撮影したと見られる映像が広く流布されているようだ。

 私も見た。

 これに対し、現時点(11/5 20時)での報道によると、中国側からは「関心の表明」と「憂慮の意」が政府に伝えられているそうだ。

 いつものことながら分かりにくい表現だが、関心とは注意を向ける、気に留めるようにしているという意味だから、「関心の表明」とは、中国政府も注目している(但し、何に対して注目しているかは不明確)ということなのだろう。

 また、憂慮とは、心配する、思い悩むという意味だから、中国政府も事態を憂えている(但し、何の事態に対して憂えているのかは不明確)ということなのだろう。

私が見る限り、明らかに漁船は巡視船に故意にぶつけているように見える。しかも船舶では通常、強度の高いと思われる船首を、強度の劣る側面にぶつけているようなので、悪質性は高そうだ。

 映像流出の問題はさておき、(流出映像が本物だとして)この映像の一部を見た国会議員達の評価が、「とても故意にぶつけているようには見えない」とか「明らかに故意にぶつけてきている」などと分かれたことについては、どうも納得がいかない。

 どうせ国民に公開しないから、適当に言っておこうというのであれば、ちょっと、そっちの方が問題が大きそうな気もするね。

※記載内容については、全て執筆者の個人的な見解に基づくものであって、当事務所の統一した見解・意見ではありません。

FORD

 レンタカーで、ニュージーランド旅行をしたことがあるが、ワナカからラズベリークリークまでのダート道で、日本で全く見たことがない道路標識を見かけたことがある。

 黄色の標識に黒の文字で「FORD」と書いてある道路標識だ。

 FORD?、フォード?、アメリカ車?くらいのイメージしかなかったため、なんのことか分からなかったが、その標識のたっているところを見ると、道路を直角に横切って小川が流れている。つまり、真っ直ぐ進行しようとしている道路を左から右に小川が横切っているのだ。道路はダート道なので、ここまで走ってきたダートが寸断され浅瀬となり、浅瀬の向こうに道の続きがある。

 借りた車は、SUVじゃなくて、トヨタカムリ(セダン)だ。幅はそう広くはない浅瀬とはいえ、あまり深い浅瀬?は渡れない。

 一旦自動車から降りて、さわやかな水の音を立てて流れる小川の深さを確認したところ、どうやら3~40㎝ほどのようだ。

 これならなんとか行けそうだ。

 急に深くなっていないことを祈りつつ、途中で止まらないよう勢いをつけて渡ることになった。

 そのような標識があるFORDをいくつか乗り越え、ラズベリークリークまで到着したが、夕暮れ時などで標識を見落としたら、結構大変な目に遭いかねない道だった。

 国立公園内で自然に配慮してそのままFORDを残しているのだろうが、自然の領域に、こちらが触れさせて頂く分、気をつけていかなければならないということだとも思った。

弁護士の年収は高いのか?

  A 年俸500万円の弁護士(手当一切なし)

  B 月給25万円(支給額)+ボーナス2ヶ月×2+残業代総額給与の1.5ヶ月分+通勤手当10万円の会社員

 どちらの年収の方が高いのでしょうか?

 Bの計算をすると、25×12(給与)+25×4(賞与)+25×1.5(残業代)+10(通勤手当)=447.5万円だから、これは、当然Aの方が年収が高いと計算される方もいらっしゃるでしょう。

 Bはこの数字から、さらに税金(所得税・地方税)が天引きされ、さらに健康保険料、厚生年金保険料が控除されるので、非常に大雑把に計算(以下同じ)すれば手取りで約360万円前後になります。

 手取りから見ると、140万円の差に見えます。やっぱり会社員Bが薄給だと思われる方も多いのではないでしょうか。

 しかし、健康保険料、厚生年金保険料は、労使折半なので、会社員が給与から天引きされているのと同じ額を雇用主は負担しなければなりません。雇用保険料は会社員よりも多い負担を雇用主は負わなければなりませんし、労災保険料、児童手当拠出金も雇用主は単独で負担しなければなりません。

 その結果、Bの会社員に対する支給額は手取りで、約360万円前後(月給に直して手取り約23万円弱)なのですが、雇用主が会社員Bさんのために一年間で負担しなければならない金額は約530万円前後になります。つまり、雇用主は月給の手取り約23万円の会社員Bさんを雇用するために年間530万円をかけているのです。給与所得者の年収を示す際に、総支給額を基準にされることが多いのですが、実際には給与所得者を雇用するためにかかる費用は、給与明細の総支給額より大幅に多いのです。

 そんなこと言っても手取りでは少ないではないかと仰るかもしれませんが、その分、会社員の方は、高齢になったときに手厚い厚生年金で保護されます。退職金制度がある会社ではなおさら老後は保障されます。 将来のために先にお金を支払っているのと同じです。したがって、給与所得者の年収は、本来事業主負担も合わせて計算するべきです。雇うのにそれだけの費用がかかるのですし、事業主負担は結局会社員の利益になっているのですから。

 一方弁護士の場合、通勤手当を除き、手当を出すところは殆ど無いでしょうし、弁護士会費を年間60万円前後支払わなければ仕事が出来ません。また弁護士会費を支払ったからといって、自分の将来の備えになるわけでもありません。純然たる必要経費です。それだけで、まず、500-60=440万円の支給と同じということになります。

 ここから、税金(所得税・住民税など)が引かれ、国民健康保険・国民年金などの支払いもあります。家賃も支払わなくてはなりませんし、勉強用の専門書だって買わなくてはなりません。老後の備えは、わずかな国民年金しかありませんし、退職金もありません。もちろん雇用されているわけではありませんから、各種手当て(扶養者(家族)手当・住宅手当など)も一切ありません。雇用保険・労災保険もかかっていません。

 実質的にみれば、Aは(その他公租公課含む)税引き前440万円、Bは(その他公租公課を含む)税引き前530万円といってもおかしくはないでしょう。

 マスコミは、初任給年俸500万円の弁護士がそこそこいるので、弁護士の年収は高いと主張することが多いのですが、実質的に見てみると月給手取り約23万円弱の会社員の方が年俸500万円の弁護士よりも90万円も多く事業主から支払ってもらっていることになります。

 マスコミがいうように、弁護士の年収は高いと言って良いのでしょうか。

※記載内容については、全て執筆者の個人的な見解に基づくものであって、当事務所の統一した見解・意見ではありません。