今日、尖閣諸島問題の船長が釈放されるとのことだ。
官房長官のコメントでは、検察庁の判断としているが、私から見ると官房長官のコメントは、かなり不自然に写る。
検察庁は、もちろん司法に携わるし、検察官も司法試験に合格した法曹だ。しかし、検察庁は行政に所属する組織だ。だからこそ、検察官は法務大臣の持つ一般的指揮権に服するし、個々の事件に関しても法務大臣には検事総長を指揮する権限が検察庁法14条で定められてもいるのだ(この指揮権は、造船疑獄事件で唯一発動されたとされている~指揮権発動後、当時の犬養法相は辞任)。
つまり、検察庁には、基本的には独立性はあるものの裁判所・裁判官のような高度の(同程度の)独立性は保障されていない。
つぎに、今回の船長釈放について、那覇地検の次席検事は、外交問題等の配慮もあったように述べているが、外交問題の配慮は検察庁の職域というより、政府・外務省の職域のはずだ。しかも、ここまで大きくなった問題を、検察庁が政府にはかることなく勝手に決定することはかなり不自然だ。政府の意向に反していたら、政府・官房長官から当然批判されるだろうし、政府は、自らの意向に沿った措置を執らせるよう、必ずや何らかの手段を執ったはずだ。官房長官は刑訴法248条(起訴便宜主義)の意を体して、那覇地検が処分保留で釈放したと述べていたが、那覇地検としても単独での判断は困難だったようで、最高検と協議したようだ。
検察庁としても、現在証拠ねつ造問題で大きな火種を抱えている時期でもあり、政府の意向に反しさらに独断専行と言われかねない行動をとれる状況にはないと思われる。
そうすると、今回の釈放は、検察庁の判断のみで行われた可能性は極めて低いだろう。すなわち、船長保釈は、明確な指示があったかどうかは別として、政府の意向であった可能性が極めて高い。
確かに、中国は、対応をエスカレートしてきていた。中国に駐留する大使を何度も呼びつけたり、閣僚交流を停止したり、今日などはレアアースの禁輸措置を執ったとの報道まで出た。きちんと話し合う姿勢よりも対決姿勢を見せつける対応をとっていた。
しかし中国の主張は、「不当に身柄拘束を受けた船長を即時釈放しろ」というものであり、「不当」という以上、そもそも日本の領土であるはずの尖閣諸島が、中国の領土であることが前提とされている。
おそらく中国側は、不当に船長を勾留していた日本が非を認めたという対応をするだろう。尖閣諸島を自らの領土と主張する中国からすれば当然の主張になる。逆に言えば、日本は尖閣諸島の領有問題で大きくダメージを受けたことになるだろう。
今後尖閣諸島の問題が再燃した際に、2010年に中国人船長を逮捕・勾留しながら、日本政府は日本法による処罰をできなかったのだから、その事実は尖閣諸島の領有権が中国にあることを認めたからだろう、と言われた際にどう反論するのだろうか。
また、日本と領土問題で対立しても、強硬な姿勢で貫き通せば、いずれ日本が折れる、との印象を国際社会に与えかねないだろう。領土問題ですら折れてくるのなら、通商問題なら、なお折れてくると見られても仕方あるまい。
国際問題で、利益が対立した場合に、勝手に一方が譲歩して、その譲歩に相手方が感激するなどして、お互い譲歩しあうという美談調でうまくまとまったためしはあまりないように思う。一方が譲歩すれば、譲歩させた一方が、かさにかかってさらに相手方に譲歩を求めていくことが多いようにも思われる。
外交上、何らかの取引等があって、今回の釈放が日本の国益に沿うだけのなんらかの見返りがあるのであれば、やむを得ないかもしれない。
しかし、あくまで自国の領土内で起きた公務執行妨害事件での、この日本の対応は、私から見れば残念というほかない。