司法修習生の給費制維持を求めて活動中の日弁連に対し、最高裁が、質問書を出しているという報道が先日ありました。
ちょっとネットで探してもその本文が見つからないので、どのような意図で最高裁が日弁連に対して質問しているのか分かりかねるのですが、この問題は、司法修習生の給費制維持の問題だけに限ってみるのでは、問題の本質は分からないのではないかと考えています。
新司法試験を合格して司法修習生になった人に対して、これまで国費で給料が支払われていました。これを司法改革の際に、法科大学院新設(実現)、法曹人口の増大(弁護士に限っては実現)、法律扶助制度の飛躍的拡充(全然実現されていない)などとセットで、貸与制に切り替えることにしたのです。
これまでなぜ、給費制という制度があったのか、詳しく調べたわけではありませんが、私が推測するに、日本は三権分立を取っており、そのうち最も脆弱とみなされていた司法に優秀な人材を集める必要もあったのではないかと思います。
旧司法試験は確かに難関でしたが、合格すれば、(決して贅沢は出来ませんが)一応生活の不安なく司法修習生活を送り、そこで実務の基礎を身につけることが出来る、そういう制度でした。だから、お金がなくても優秀な人材は頑張って司法試験を目指すことができましたし、税金で育ててもらったという気持ちがあるからこそ、プロボノ活動を行う素地があったように思います。私自身も、未だに国選弁護を引き受けることがあるのは、そういう気持ちがどこかに残っているからです。
ところが、法科大学院制度が出来たため、これまでは司法試験に合格した者に対して税金を投入して人材育成をすれば良かったところが、法科大学院自体にも補助金名目で多額の税金の投入が必要になりました。法曹を目指す側からしても、法科大学院の授業料が必要になりました。国民・受験者双方とも費用の負担が増えたのです。
ここで、法科大学院が、理想通りに人材育成に役立ってくれるのであればその税金の投入も、意味があるのかもしれません。しかし、合格率25%程度しか法曹の人材育成をできない法科大学院に、何百億円も投入するということは、誤解を恐れず単純に考えれば75%は投入した税金が法曹養成のためには無駄になっているということです。この点では、司法試験に合格しほぼ全員が法曹になった旧制度の方が、法曹の育成に関して税金の無駄遣いにはならずにすんでいたと言えましょう。
受験生側の学費負担も馬鹿になりません。中には1000万円を超える借金をしてしまっている人もいると聞いています。
これまで法科大学院制度万歳だった、法科大学院側や、マスコミも、ようやく少しは、この問題に気付き始めているようで、論調が変わって来つつあります。しかし現実は、大変な状況にあります。
近時の新63期の司法修習を担当されている実務家(裁判官・検察官・弁護士)の、協議会で議論された内容を拝見する機会があったのですが、新61・新62期と比べて、全体として同等レベルと評価する人、レベルが下がっているという評価をする人はいましたが、優れているという評価をしている人は、私が見る限り一人も見当たりませんでした。もちろん、個々の司法修習生に関していえば当然上位の方は素晴らしい能力をお持ちだろうと思います。しかし、全体として同等と評価される方においても、マニュアル志向が目立つ、刑事事件よりビジネス法務をやりたがる、日本語の文章作成能力が落ちているという指摘がなされています。
そうだとすると、法科大学院は、全体として質の維持も出来ていないし、マニュアル志向かつビジネス法務志向の学生を大量に輩出させている可能性があります。国民と受験生に多大な費用負担をさせながら、全然当初の理想と違った人材育成しかできていないといわれても仕方がないでしょう。
そのような法科大学院に多大な税金の投入を続けるより、現在の法科大学院生に対する配慮をしつつ、失敗した法科大学院を廃止して、その分の税金を司法修習生の給費に振り向ける方が、よほど司法に有為の人材を招き入れることになるように思います。
マスコミのは、社会的・経済的に恵まれた法曹になるんだから、給費制なんていらんじゃないかと論じがちです。確かに弁護士になれば高額な収入が保証されているのであれば、マスコミの主張も一理あるでしょう。しかし、需要を無視して弁護士を急増させ、その結果、就職できない新人弁護士が、3~4割くらい出るのではないかといわれている現状で、社会的経済的に恵まれている弁護士(法曹)という見方自体が間違っていますし、なにより、マスコミの見方には、長期的に見て優秀な人材を集め育てるという観点が全く欠落しているように思います。
例えば、大手新聞社が(労働法上の問題は無視して)、内定者を決定する際に、
「大学卒業してから少なくても2年は専門職大学院で自腹で学んでこい。そのうちの25%を採用してやるよ。また、うちに勤められるのは名誉なことだから、採用してもきちんと仕事の出来ない見習い期間の1年間は給料は出さない。ただし、そのあと、他よりも少し高額の給料を出す見込みだからいいだろう。但し少し高額の給料はあくまで見込みで保証してる訳じゃないよ。」
として記者を募集した場合、優秀な人材は集まるでしょうか。特に経済的に困窮している優秀な人が集まるでしょうか。
最高裁の質問書は、原文を見ていないので分かりませんが、場合によれば、現在の法曹養成制度、人材育成に対する問題点に目を向けて欲しいといっているのかもしれません。