週間東洋経済「弁護士超活用法」~その2

 週間東洋経済5月22日号に、法科大学院協会の青山善充理事長のインタビューが載っている。

 題名は「名誉ある撤退を真剣に考えるべきだ」ということで、法科大学院の問題点を下記の通り、3つほど取り上げている。

 ①ロースクールの数が多すぎる。

 ②ロースクール修了生の職域開拓が不十分である 。

 ③ロースクール志願者の急減。

 これまで、法科大学院協会や中教審は、法科大学院は素晴らしいと繰り返すばかりで、ちっとも現実を見ていなかったが、ようやく薄目を開けて見たくないものを見始めたという感じがする。また、マスコミも法科大学院導入時には、「法科大学院さえ導入すれば全てうまく行く」と言わんばかりの論調ばかりだったが、ようやく少しずつ変わりつつあるようだ。

 ①については設立当初から問題点は指摘されていたが、法科大学院側や文科省は問題ないとして押し切ったように記憶している。制度に問題ないならどうして、いまになって問題が出てきたんだ。そして、問題が出てきた今、誰が責任をとってくれるんだろうか。結局責任のなすりあいになるのだろうか。それとも、若干の定数削減と統廃合でお茶を濁すのか、見ものである。

 ②について、「法的需要はいくらでもある」と、法科大学院側はいつも言っていたことに矛盾しないのだろうか。法的需要があるなら、そして法科大学院で素晴らしい教育を受けて実力を身につけた修了生なら、いくらリーマンショックがあったとしても、企業でも地方公共団体でも引っ張りだこでなければおかしいだろう。

 法科大学院によれば、法科大学院修了認定を厳格に行って本当に実力を身につけた学生しか卒業させていないはずだから、本来、法科大学院修了は実力のお墨付きになっていなければおかしい。しかし現実には、そうなっていないということは、法科大学院教育(その結果)に社会が価値を見出せていないということになりはしないか。

 そもそも、法科大学院修了者の職域を「開拓」しなければならない、ということ自体、法科大学院協会の法的需要に関する見通しが根本的に誤っていた、少なくとも法的需要の見通しに関しては、文科省の役人と学者さんは、ずぶの素人だった(そしてずぶの素人に国民は舵取りを任せてしまった)ことの裏返しだろう。

 ③については、当たり前である。

 ロースクール進学と法曹が将来の進路として魅力を失いつつあるからだ。

 「ロースクールを出ても新司法試験に合格できない可能性も高い、教育にかかる費用が高い、弁護士になっても就職できないかもしれないというようにリスクが大きすぎるためだろう(青山氏のインタビュー記事から引用)」。

 ただし、青山理事長は、新司法試験の合格者を増やせば、この問題は解消すると、お考えのようだ。

 さて青山理事長の見通しは正しいだろうか?

 おそらく子供でも分かると思うが、青山氏の見通しは明らかに誤っていると思われる。まず第一に、新司法試験の合格者を増やしても、教育にかかる費用が高いことは解消されない。第二に、法的需要が爆発的に喚起されない限り、弁護士になっても就職できないかもしれないという状況は解消されない。更に言えば、新司法試験の合格者を増やして弁護士の数を今のペース(ここ10年間で弁護士数は約1.7倍になっている。)で増やせばなおさら、弁護士の就職難は加速すると思われるからだ。3つの原因のうちより重要な2つの問題を放置したまま、この問題が解決するはずがないだろう。

 更に付言すれば、合格者を増やすことで志願者が増えるというのが青山氏の考えであるが、その主張は裏を返せば、合格者が増えないこと(合格率が低いこと)が志願者が減る理由だ、という主張になるだろう。元東大法学部教授が言うのだから何となく正しいような気もしないではない。しかし権威に目を曇らせずに事実を見据えれば、おかしな点に気付くだろう。

 つまり、もし青山氏の主張が正しければ、合格率が低いと志願者が減るということになる。そうだとすれば、合格率2%前後だった、旧司法試験は、98%落ちる試験だから、志願者がどんどん減っていかなければおかしい。ところが、旧司法試験は受験生は年々増加の一途であり、逆に我こそはと実力を自負する強者が挑戦する試験だったのである(丙案導入時の受け控えを除く)。

 この事実だけから見ても、青山氏の主張が誤っていることは明白だ。志願者の増減は、合格者の数の問題ではない。合格した後に就く職業に、魅力があるかどうかが志願者の数の増減に結びつくのだ。

 おそらく、元東大教授の青山理事長が、そこまで理屈の分からない方とは思いたくないので、おそらく立場上そう言わざるを得ないのだろうが、立場上建前論を振りかざして法科大学院擁護に終始し、この国の司法を支える人材登用する道を崩壊させたとすればそれは、本末転倒だろう。

 司法を優秀な人材が目指さなくなってしまう前に、早く本当の問題に目を向けて頂きたいと私は切に願っている。

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