弁護士のニーズ~

 弁護士増員を目指す方々が、良く仰るのは、弁護士の数は国民のニーズを満たしていない(だから不足だ)ということです。その主張をされる方が、果たして、国民のニーズをどうやって把握されたのか根拠を示して下さることはまずなく、多分そんな気がするという程度の発言なのでしょうが、この発言は弁護士のニーズに関して非常にミスリーディングな話なので、少し説明したいと思います。

 弁護士も職業であることは、どなたも否定されないと思います。ですから、弁護士はこの仕事を通じて生活費を稼ぐ必要がありますし、生活費を稼いでも文句を言われる筋合いがないことも当然です。ですから、弁護士費用をかけてでも解決したいと依頼者が考えておられる事件が、弁護士のニーズなのです。弁護士に無料で相談したいと考えている方は、弁護士にとって見ればニーズではないのです。

 そんなの弁護士の身勝手だ、といわれるかもしれませんので、少し説明してみます。

 暑い夏ですから、バス停でバスを待つ人は一刻も早く目的地に着きたいと考えているでしょう。私にも経験がありますが、バスがなかなか来ないときはなおさらですね。
 確かに、タクシーを使えばすぐに冷房の効いた自動車に乗れますし、バス停ごとに停車することもないので早いし、自宅のすぐ前まで送ってもらえて便利です。しかし、バス停でバスを待つ人は全てタクシーに乗るでしょうか。タクシーの料金は、バス料金より高いので乗らない人の方が多いでしょう。より高度なサービスを受けようとすれば当然サービスに見合った費用がかかるのは当たり前ですし、タクシーも仕事ですから、最低でも生活を維持できる料金を設定しているはずです。

 このことは全然おかしくありませんね。

 逆に言えば、タクシーにとって、ニーズがあるかどうかは、バスより高いタクシー料金を出してでもタクシーを利用しようとする人が、どれだけいるかということになります。そのような人が多ければタクシーのニーズがあることになるし、そのような人がわずかであれば、タクシーのニーズは社会的にはほとんどないことになります。
 この事実を指摘することを、タクシーの身勝手と言うべきでしょうか?

 みんなが早く目的地に行きたいと考えているのだから、バス停で待っている人みんなをバスと同じ料金でタクシーに乗せてやれと、言うべきでしょうか?

 さらに、無料でタクシーに乗りたいと思う人は物凄く多くいると思いますが、自分の生活を無視して、その人達を乗せてあげる義務がタクシーにあるでしょうか?

 タクシー運転手の生活を国家が保証して、そのような仕事をさせているのであればともかく、タクシードライバーも生活費を稼ぐ手段の一つである職業なのですから、そんな馬鹿な話はないでしょう。

 ここで話を弁護士のニーズに戻します。

 弁護士も仕事です。一生懸命身につけた知識や経験を使って生計を立てる必要があります。確かに弁護士に無料・若しくは極めて安い値段で相談したいと思っている人は、多くいるかもしれません。しかしその方達は、先ほどの例で言うと、無料でタクシーに乗りたいという人、バス料金でタクシーに乗りたいという人が沢山いる状態と同じなのです。

 ですから、無料であれば、極めて安い値段であれば、弁護士に相談したいという人が多くいてもそれは、弁護士のニーズが社会的にあるというわけではありません。

 法科大学院を擁護する人たち、弁護士人口を増加させようとする人たちは、弁護士に相談したくてもできない人がいるはずだと主張して、弁護士のニーズがあるといっていますが、それは、タクシーにただで乗りたい(バス料金と同じ値段で乗りたい)という人がいるはずだ、ということの指摘に過ぎず、弁護士のニーズがあるということではないのです。

 冷静に考えれば、弁護士のニーズは大してあるものではないし、だから新人弁護士の就職難が深刻なのだと思いますが・・・・。

付記(8月14日)

 誤解なきよう付記しておきますが、私は弁護士のニーズの話を記載しただけであり、弁護士に相談したい人を放置せよ、切り捨てて良い、と言っているわけではありません。

 そのような方も、弁護士に相談できるようにすべきというのであれば、国が納税者の方を説得し、予算をつけて援助すべきなのです。

 先ほどのタクシーの例で考えれば、すぐに分かりますが、タクシーに無料(又はバス料金と同じ)で乗せてやれというだけでは、タクシードライバーは生活できません。ただ、国が、国民の利益のために、タクシー無料化(又はバス料金化)考えるのであれば、納税者を説得し、(国民のお金で)タクシードライバーが生活できるだけの保証をした上で、行うべきということなのです。

 ちなみに、民事法律扶助予算について、国民一人あたりの支出額は、イギリス3257円、ドイツ746円、フランス516円、アメリカ309円と比較して、日本はわずか40円です(日弁連新聞による)。

 弁護士人口増加を目指す人達やマスコミが、弁護士のニーズを語る際に、いつも、何故か上記の視点が欠落したまま語られているように思えてなりません。

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