ある日のこと(今日だけど)、S弁護士(仮名)は、西宮北口で、平成20年春期司法特別演習の講師(非常勤)として関西学院大学へ行くため、タクシーを待っていた。
事務所を出る前に不意の電話対応があり、事務所を出るのが少し予定より遅れていた。
急いで行かないと間に合わないかも知れない。
S弁護士は急いでいた。
その日は、雨のせいかタクシー乗り場は3人が並んでおり、タクシーはいなかった。
雨のぱらつく中、ひたすら待ち続け、ようやく先の3人が、順次、やって来たタクシーに乗り込み去っていった。
しかし次が来ない。ひたすら来ない。
そうこうするうちにバスから降りた60歳くらいの老夫婦が急ぎ足でやってきた。
いきなり女性の方がこっちを見据えて話しかけてくる。
「すみません。次のタクシーの順番を変わって下さい!飛行機のチケットを自宅に忘れてきたんです!タクシーもいないし困っているんです!!」
(変わって下さいって・・・・普通『変わっていただけませんか』だよなぁ。それにこっちだってタクシーがいなくて困っているから、タクシー乗り場で突っ立っているんだけど。みりゃわかるでしょ。と思いつつ)
「えっ、でも私も大学での講義が・・・・」
「でも飛行機なんです!」
私の言葉を遮って、言い放つおばちゃん。
数秒にらみ合いが続いた(ように思えた)。
依頼者から事件を受けている時の私は、決して簡単に引くことはない。
しかし、今回はそうではない。
やはり私は弱かった。
「じゃあしょうがないですね。」
「すんません。有り難うございます」
けったいなことに、これまでさんざん待っても来なかったタクシーが、こんなときはすぐにやってくる。
老夫婦はわたしに「すんません」といって乗り込んでいった。
二人が乗り込んで、ドアが閉まる寸前、老夫婦の男が妻にこう言ったのが聞こえた。
「飛行機、2時やから十分間に合うやンか」
おい、こら、またんかい、こら・・・・(声にならない私の叫び)
しかし走り去るタクシー。
その後、次のタクシーまで、さらに相当待たされたのは言うまでもない。