光事件差戻し控訴審 弁護団報告集会

 光市母子殺害事件の差し戻し控訴審弁護団が、大阪弁護士会において緊急報告集会を行うことになりましたので、昨日、報告を聞きに行ってきました。私は弁護団とは何の関係もなく、もちろん支持しているわけでもありませんが、弁護団の視点から事件をどう見ているのか知っておく必要があると思ったからです。

 この事件では、1審無期懲役、2審無期懲役の後、最高裁判所で破棄差し戻しとなり、広島高裁で差戻し審が行われています。

 また、21人もの弁護士が弁護団を結成したこと、これまで主張していなかった事実の主張が差戻し審で行われたことなどから、非常に大きな社会的反響を呼び、弁護団弁護士への懲戒請求が相次いだことでも有名です。

 弁護団の主張の主な根拠は次の通りです(弁護団作成資料Q&Aから引用)。

 ※弁護団作成のQ&Aのごく一部を抜粋しております。

Q 弁護団の主張はどのような証拠に基づいているのですか?

A 弁護団の主張は主なものだけ挙げると、

① 被害者の死体の痕跡についての法医鑑定です。原審が認定したような態様で両手で絞殺されたのではなく、現在被告人が述べるような態様で、右逆手で首を押さえつけられた状態で死に至ったという内容です。

② 被害児の死体の痕跡についての法医鑑定です。被告人が被害児を後頭部から床に叩きつけたという行為はなく、紐で首を力一杯絞めたという事実もなかったという内容です。

③ 被告人について実施した犯罪心理鑑定と精神鑑定です。これらは、私たち弁護人が就任する前、すでに実施されていた少年鑑別所の鑑別結果や家裁調査官の調査報告とも合致するものです。犯罪心理鑑定によれば、本件は、被告人の生育過程による未成熟な人格が引き起こした母胎回帰ストーリーとして理解するのが自然であり、原審が認定した性暴力ストーリーでは理解できません。また、精神鑑定によれば、被告人の本件当時の精神状態は、母親が自殺した12歳の時のまま発達していないということです。

④ 差戻し前の被告人の公判供述です。被告人は差戻し前には公訴事実を争っていないとされていますが、実際にはこれら公判供述においては、強姦相手の物色や殺意を否認するような供述もあります。

Q 被告人の新供述は弁護団のストーリーを言わされているという見方がありますが。

A そうではありません。

  被告人が記憶に基づいて供述しています。公判段階の供述や、家裁の社会記録の中にも、今回の供述の片鱗が見受けられます。

 また、意見や質問の時間には、大阪弁護士会所属の橋下弁護士も質問されていました。橋下弁護士の質問は、弁護団の実験結果報告書についての質問でした。しかし、彼がテレビ番組で本件弁護団弁護士に対し、懲戒請求をあおるかのような発言をしたことについて、ほかの弁護士から、弁護人としての役割から見て、否定的意見も出されておりました。

 橋下弁護士は、もっと一般の方々に分かるように事実を伝えなければならない、世間のことが分かっていない、と強調されており、どうして1審・2審の弁護人について弁護団が言及しないのかと指摘されていました。しかし、弁護団の弁護士からは、記者会見で何度も主張の根拠や証拠との矛盾について説明しているが、編集などでカットされたり、無視されてしまい、一般の方々までマスコミが伝えてくれない事実が多くあるとの意見がありました。

 私個人的には、橋下弁護士の「もっと一般の方々に分かるように事実を伝えなければならない」というご意見には賛成です。ただ、1審・2審の弁護人について言及すべきだ(おそらく非難すべきだという意味だと私には受け取れました)というご意見には賛成できません。結果論で批判するのは簡単ですが、1審・2審の弁護人もその時点で最も良いと思われる弁護をされたと思いますし、その時点の最良の弁護方針はその時点で弁護人であった方にしか判断できないと思うからです。

 ただ、メディアへの訴求力で言うと、橋下弁護士のご指摘通り、1審・2審の弁護人を非難する方がわかりやすいし、メディア受けする内容になるとは思います。メディアでの経験が豊富な橋下弁護士は、メディアが取り上げやすい方法を指摘されたのでしょうが、逆に言えば、そのような言い方をしなければ報道してもらえないメディアの体質こそが問題だとも思われます。

  私も今回報告を聞くまで、検察が描いた犯行態様と遺体の実況見分調書や鑑定書に多くの食い違いがあることを知りませんでした。また、メディアの報道を鵜呑みにして、少年が友人らに不謹慎きわまりない内容の手紙を送っていることを知ってはいましたが、2審判決でその手紙が「相手から来た手紙のふざけた内容に触発されて、殊更に不謹慎な表現がとられている面も見られるとともに、本件各犯行に対する被告人なりの悔悟の気持ちをつづる文面もあり(以上、2審判決より引用)」と評価されていることも知りませんでした。

 いくら伝えようとしても、メディアが伝えてくれなければ世間一般の方にはなかなか伝わりません。そして、メディアは世論を操作できるだけの力を実際に有しています。確かに、本件少年は自ら招いた悲惨な結果の責任をとらなければなりません。しかし取るべき責任は、真に自らが招いた事実に基づくべきものであって、メディアによって扇動された社会の応報感情に基づくものであってはならないと思います。

 以上が、昨日の報告を聞いた私の感想です。

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