プロセスによる教育ってなんなんだ?~その3

(続きです)

「試験において,判例が扱っている問題について判例とは別の角度から検討を求めたり,判例に反する立場からの立論を試みることを求めたりすると,全く歯が立たない受験生が多く認められる。察するに,判例についての表面的な理解を前提に,その結論を覚えて事例に当てはめるということはできても,その判例がそのような結論に至る論拠はどこにあるか,反対説の根拠は何か,その違いはどこからくるのかといったより根本的なことが理解されていないように思われる。基本的な制度や判例の根拠をきちんと考えることを習慣づける教育が求められる。(民訴法)」

「刑法総論・各論等の基本的知識の習得や理解が不十分であること,あるいは,一応の知識・理解はあるものの,いまだ断片的なものにとどまり,それを応用して具体的事例に適用する能力が十分に身に付いていないことを示しているものと思われる。(刑法)」

「刑法の基本的事項の知識・理解が不十分な答案や,その応用としての事例の分析,当てはめを行う能力が十分でない答案も見られたところである。(刑法)」

「関連条文から解釈論を論述・展開することなく,問題文中の事実をただ書き写しているかのような解答もあり,法律試験答案の体をなしていないものも見受けられた。(刑訴法)」

「本件での具体的な事実関係を前提に,要証事実を的確にとらえ,伝聞法則の正確な理解を踏まえた論述ができている答案は少数にとどまった。(刑訴法)」

「司法警察員により作成された捜査報告書の証拠能力を問うているにもかかわらず,これを無視し,録音テープであるから知覚,記憶,叙述の過程に誤りが入り込む余地はなく,当然に非伝聞証拠であるなどと断じた答案まで見受けられた。このような答案については,厳しい評価をすれば,基本的知識,事実分析能力及び思考能力の欠如を露呈するものと言わざるを得ない。(刑訴法)」

「決定的に重要な事実を指摘して,証拠能力の有無を検討している答案は少数であった。(刑訴法)」

「今後の法科大学院教育においては,手続を構成する制度の趣旨・目的を基本から正確に理解し,これを具体的事例について適用できる能力,筋道立った論理的文章を書く能力,重要な判例法理を正確に理解し,具体的事実関係を前提としている判例の射程範囲を正確にとらえる能力を身に付けることが強く要請される。特に,確固たる理論教育を踏まえた実務教育という観点から,基本に立ち返り,刑事手続の正常な作動過程や刑事訴訟法上の基本原則の実務における機能を正確に理解しておくことが,当然の前提として求められよう。(刑訴法)」

「手形の不渡りという事実が現れているにもかかわらず,それが支払停止に該当するかどうかを検討せずに,破産手続開始決定や自己破産の申立てといった事実から直ちに支払不能を認定したり,代物弁済の時点で既に支払不能となっていると認定する答案が少なからずあった。条文や基本的な概念の正確な理解及び具体的事案を的確に把握する能力を養うことの重要性が感じられた。(倒産法)」

「総じて,実体法上の検討が十分に行われていないという印象を受けた。(倒産法)」

「争点について検討する能力のみならず,主張を法律的に構成する能力を養うことの必要性が感じられた。(倒産法)」

「具体的事案を的確に把握して,当事者にとって最適な解決方策を検討する能力が不十分と感じさせられた。(倒産法)」

「条文に則した勉強がされていないのではないかとの危惧を感じた(倒産法)」

「同法第56条が「ないものとみなす。」と規定している意味を理解しない答案も散見され,基本的知識を具体的事案に適用する訓練が不十分な受験生が一定程度存在することも実感された(租税法)」

「経済法の問題は,不必要に細かな知識や過度に高度な知識を要求するものではない。経済法の基本的な考え方を正確に理解し,これを多様な事例に応用できる力を身に付けているかどうかを見ようとするものである。法科大学院は,出題の意図したところを正確に理解し,引き続き,知識偏重ではなく,基本的知識を正確に習得し,それを的確に使いこなせる能力の育成に力を注いでいただくとともに,論述においては,論点主義的な記述ではなく,構成要件の意義を正確に示した上,当該行為が市場における競争へどのように影響するかを念頭に置いて,事実関係を丹念に検討し,要件に当てはめることを論理的・説得的に示すことができるように教育してほしい。(経済法)」

「残念ながら,期待していた水準に達している答案は多くはなかった。論点や出題の意図を理解していないと思われるもの,論点に関するキーワードが不完全な形で記載されており,理解不足が露呈しているものなどが多数見られた。(知財法)」

「従前から指摘していることであるが,まず基本的事項につき,単に記憶させるのではなく,十分に理解させるような教育をお願いしたい。(中略)今回の答案審査に当たり,基本的事項を十分理解することなく記述していると思われる答案が多かったので,特に強調して指摘する次第である。(知的財産法)」

「必要な論点の抽出が非常に不十分な答案が相当数あり,期待される水準に達していた答案が予想以上に少なかった。(労働法)」

「労働法の基本的理解に欠けると思われる答案も散見された。(労働法)」

「法令・判例・学説に関する基本的知識については,正しい理解に基づき,かつ,網羅的に習得することを更に目指していただきたい。(労働法)」

「環境法学習においては,基本的考え方や基本的仕組みを理解することは重要であるが,それは言わば「点」でしかない。それが具体的制度とどのように関係するか,どのような場面で適用することができるかを学習することによって,「点」を「面」に発展させることができるのである。法科大学院においては,単なる仕組みの解説にとどまるのではなく,このような視点に留意していただけると有り難い。(環境法)」

「全く理解や知識がないためか,「他国に損害を与えてはならない」という「常識論」しか記載されていない答案も目立った。(国際公法)」

「第1問,第2問のいずれについても言えることだが,答案に問題を改めて記載する例が少なからず見られたが,問題を写したとしても加点されず,意味がないばかりか,答案用紙の紙幅が足りなくなって論ずるべき点の記載が不十分になるなど弊害にもなる。解答は長く書く必要はないが,結論だけでなく結論に至る各自の理解を記載してもらわないと加点されないので,その点は注意してほしい。(国際公法)」

「①国際私法・国際民事訴訟法・国際取引法上の基本的な知識と理解を基にして論理的に破たんのない推論により一定の結論が導けるか,②設例の事実からいかなる問題を析出できるか,③複数の法規の体系的な関連性を認識しながら,析出された問題の処理に適切な法規範を特定できるか,④法規範の趣旨を理解して,これを設例の事実に適切に適用できるか,である。
 本年度は特に上記②と③の基準から見て不十分と言わざるを得ない答案が目立った。逆に言えば,これらの基準を満たす答案であれば「優秀」答案となる可能性が高くなる。④の点についても法規範の趣旨が十分に理解されていないと見られる答案,換言すれば,文理にのみ着目して規定の単純な当てはめだけを行う答案が多かった。その結果,規定の立法趣旨などに言及する答案は,相対的に,少なくとも「良好」となる可能性が高いと見られる。そして,規定の単純な当てはめ作業に終始しつつも,少なくとも①の基準をおおむねクリアーしている答案が,多くの場合,「一応の水準」答案となるのではないかと見られる。(国際私法)」

法科大学院を擁護される方にお聞きします。理想的なプロセスによる教育の結果がこれですか?!

プロセスによる教育ってなんなんだ?~その2

では、一文ずつ検討してみましょうか。

「法科大学院は、法曹を養成する教育機関として2004年4月にスタートしました。」

 これは間違いないでしょう。法科大学院は、法曹養成に特化した教育機関。すなわち、法科大学院が行う厳格な卒業認定にパスして、卒業すれば、法曹として相応しいだけの力が身についている・・・・・はずですし、そうでなければ意味のない教育機関ですよね。

「この新しい法曹養成制度は従来の司法試験による「点の選抜」を「プロセスによる養成」に変えていくものです。」

 これは法科大学院導入の際に良くいわれていたことですね。そして、ここがもっとも分からないところです。選抜がどうして養成に変化できるのか、法科大学院制度があっても新司法試験に合格する必要があるのですが、それなのにどうしてプロセスによる養成と言えるのか、私には理解できません。

 さらにいえば、ある時点で試験を行って選抜することがなぜ悪いのかも、実は私には理解できません。オリンピック代表を選出する際にもっとも公平なのは、どうしても参加者や条件が異なってしまう競技会をいくつも実施して、オリンピック委員がその中から選ぶより、ひとつの競技会を指定してそこで優秀な成績を収めた選手を選ぶ方がよほど公平だと思います。

「現行の司法試験は必ずしも法学教育の成果を測るものとはなっておらず、いわゆるマニュアル思考の受験秀才が試験に合格しやすいという問題が起きています。」

 前段は、これまでの司法試験の問題がダメだという指摘としか読めません。そうだとすれば当時の司法試験管理委員会がちゃんとした問題を出していないということが問題の核心です。受験生の勉強の問題ではありません。大学教育だけで合格者をたくさん出すことが出来ず、予備校に学生を奪われた大学側が、「あれは司法試験の問題が悪いんだ。」と言いつのっているようです。昔話にあったように、狐がジャンプしても食べられなかったブドウに対して、「どうせ酸っぱいブドウだ」と罵っているのとかわりゃしません。

 後段は、何が問題なのかも分かりません。例えば、大学だって入試をやります。予備校で大学入試問題を解くために必死に勉強してきた受験生がいて、その受験過程で問題を解くマニュアルを編みだして高得点を採った場合、その工夫を賞賛こそすれ、マニュアル思考だからダメだと、大学はその受験生の努力を否定するのでしょうか。今の原発危機では、危機管理マニュアルの作成が出来ていなかったことが大問題とされているのではないのでしょうか。

 また、旧司法試験の答案が金太郎飴的答案になっているとの学者からの批判があったと記憶していますが、同じ問題が受験生に出題されているのですから、受験生が100人いたら100通りの答えになる方がおかしいでしょう。ことは、学者が独自の見解を示す論文を書く試験ではなく、法律をきちんと解釈適用できるかの問題です。しかも、短答式で5人に1人に絞られた中での論文試験です。ある程度の事実が明らかである場合、法律を正しく当てはめれば、おのずと答えはひとつの方向にまとまっていきます。そうでないと法律に関する実務家登用試験の意味がありません。

 全く同じ事案で裁判所の解決が100通りもあったら、誰も怖くて裁判なんて受けられません。法律の解釈の仕方にバラエティを求めるのは学者の趣味以外何者でもないと思います。

 百歩譲って、マニュアル思考に問題があったとするなら、法科大学院はそれを問題視してこれを改善しようとしているわけですから、脱マニュアル思考の卒業生を輩出していなければ、その存在意義はないといわれてもしょうがありませんね。

 ところが、法務省が公開している最新の「平成22年度司法試験採点実感等に関する意見」によると次のように書かれています。

「要求されるのは,パターン化した思考ではなく,事案についての適切な分析能力や柔軟な法解釈能力である。(憲法)」

「問題の内容を検討することなく,パターン化した答案構成をするものが目立った。(憲法)」

「法科大学院では,審査基準(三段階審査とか比例原則という言葉)の定型的・観念的使用を戒めるとともに,それらの内容の精確な理解(問題点を含めて)を学生に深めさせる教育が求められる。(憲法)」

「不真正不作為犯の成立要件について,まるで型にはめたような論述例が数多くあったこと,過失犯の共同正犯について,それを論ずる実益を考えないまま論述する答案が相当数見られたことは,受験生が典型的論点に関する論述例の暗記に偏重するなどした勉強方法をとった結果,事案の特殊性を考慮して個別具
体的な解決を模索するという法律実務家に求められる姿勢を十分に習得していないのではないかと懸念される。(刑法)」

「不正確な抽象的法解釈や判例の表現の意味を真に理解することなく機械的に暗記して,これを断片的に記述しているかのような答案も相当数見受けられた(刑訴法)」

 きりがないのでこれくらいにしておきますが、これでは、マニュアル思考すら出来ていない状態に陥っているのではないでしょうか。

「そこで法科大学院で3年間あるいは2年間じっくりと法曹に必要な知識・能力を養ったうえで司法試験に臨むというプロセスに変わることになりました。これによって正しい法的思考力を養い、幅広い識見を持った法曹を育てることが可能になるという狙いです。」

 先ほどの採点実感に関する意見を読んでしまうと、もうなに言ってんだという気になりますが、法科大学院の理想はそういうことだったのだそうです。

 私としても、死者にむち打つようで辛いのですが、最新の司法試験採点雑感等に関する意見から、その理想が実現できているかを、もう少し見てみましょう。

「当該事案の問題点に踏み込む姿勢が乏しく,違憲審査基準(比例原則にしても同様)を持ち出して,表面的・抽象的・観念的な記述のもとで,あらかじめ用意してある目的手段審査のパターンの範囲内で答案を作成しようとする傾向が見られる。(憲法)」

「論理的な一貫性や整合性に難点があるにとどまらず,判読自体が困難なものや文意が不明であるものも見受けられた。自覚的な文章作成能力の涵養が望まれる。(憲法)」

「選挙権という重要な権利が問題になっているので「厳格審査の基準」でその合憲性を審査するなどとするのみで,具体的な検討なく安易に違憲としている答案も多く,逆に,「選挙権は権利であると同時に公的な義務」と位置付けるだけで,安易に制限を合憲とする答案も意外に多かった。(憲法)」

「総じて,一定の視点から事案を分析・整理した上で,法令の解釈・適用を行うという法実務家に求められる基本的素養が欠如していると言わざるを得ない答案が多かったのは,残念である。(行政法)」

「問題文をきちんと読まず,設問に答えていない答案が多い。問題文の設定に対応した解答の筋書を立てることが,多くの答案では,なおできていない。(行政法)」

「実体法の解釈・適用に弱いとの傾向は,今回も見られた。(行政法)」

「「見せ金」の概念及び問題の所在を示した上で,本件事案が見せ金に該当するか否かを論じている答案は,少なかった。(商法)」

「判例・学説等を踏まえて論じた答案はごく僅かであった。また,本件募集株式発行については,見せ金を除くごく一部につき実際の払込みがあることを,本件募集株式発行により発行された株式の効力を考える上で,いかに評価するかを論じる必要がある。しかし,これを論じている答案は更に少なかった。(商法)」

「(中略)後者の責任については,そもそも論じていない答案も多く,論じても,AのほかBも責任の主体になり得るか等の問題の検討や,見せ金による払込みの効力及び株式の効力と整合的に,貸借対照表及び履歴事項全部証明書の内容を分析することが,不十分であっただけでなく,同条第2項第1号の要件を満たすから同条第1項の責任が認められると議論する等,前者の責任と後者の責任の関係を理解していないものが圧倒的であった。(商法)」

「上述の会社法第52条や第429条の責任の問題のように,基本的な会社法上の責任の構造に関する理解に不十分な面が見られる。また,判例をきちんと身に付け,それを踏まえて議論するという,法曹に求められる基本的な思考方法が十分に身に付いていない感がある。(商法)」

「前記のように,手続保障や信義則など抽象的な規範のみから結論を導く答案,題意をきちんと把握せず,定義や制度趣旨など自分の知っていることを書き連ねている答案,問題を正面から受け止めることをあえて避け,自分の知っていることに無理やり当てはめようとする答案が目立った。このような傾向が見受けられるのは,題意をきちんと把握するだけの基礎学力の不足に起因するところが多いように思われる。特に,基本的な制度や判例について,自らその意味を掘り下げて考えるという作業を怠り,定義,要件,結論を覚えて,それを具体的な事案に当てはめるということだけを学習しているのではないかが懸念される。(民訴法)」

まだまだ続けても良いのですけれど、疲れてきたので今日はこの辺で。

(続く・・かも)

プロセスによる教育ってなんなんだ?~その1

 法科大学院のセールスポイントとして、大々的にいわれていたのは、司法試験という点による選抜から、法科大学院におけるプロセスによる法曹教育への転換、ということだったのですが、私には未だにプロセスによる教育とはなんなのか、理解できません。

 いろいろ、法科大学院擁護派の弁護士さんにも、「結局、プロセスによる教育ってなんなんですか?」とお聞きするのですが、これといった答えが返ってくることは、経験上、極めて少ないです。その答えも「実務との架橋を意識」とか、「双方向の密度の濃い授業」とか、抽象的なお話ばかりで、なんのことか分かりません。

 実務との架橋を意識すれば、それだけで、どうしてプロセスによる教育になるのか、また、双方向の密度の濃い授業は今までの法学部のゼミや大学院でも行われてきたはずだけれど、それが法科大学院で行うだけで、プロセスによる教育という素晴らしいものに急に変貌するのはなぜなのか、とうてい理解が出来ません。

 旧司法試験時代では、司法試験に合格した司法修習生は、1年半ないし2年間、実務に密着しながら、司法研修所や各地の実務庁において、少人数クラスで、教官と双方向の密度の濃い授業と指導を受けていました。その司法修習がプロセスによる教育というなら理解は出来ます。

 あんまり分からないので、インターネットで検索したところ、明治大学法科大学院のHPにそれらしき記述をようやく見つけました。

(引用開始)

 法科大学院は、法曹を養成する教育機関として2004年4月にスタートしました。この新しい法曹養成制度は従来の司法試験による「点の選抜」を「プロセスによる養成」に変えていくものです。現行の司法試験は必ずしも法学教育の成果を測るものとはなっておらず、いわゆるマニュアル思考の受験秀才が試験に合格しやすいという問題が起きています。そこで法科大学院で3年間あるいは2年間じっくりと法曹に必要な知識・能力を養ったうえで司法試験に臨むというプロセスに変わることになりました。これによって正しい法的思考力を養い、幅広い識見を持った法曹を育てることが可能になるという狙いです。
法科大学院は、法学部以外の出身者や豊富な経験を持つ社会人も積極的に受け入れます。従って「新しい法曹への道」は一つではなくなります。他学部で学ぶ、あるいは社会人経験を積んだあとで法科大学院に進むことも可能です。つまりあらゆる人に法曹になるチャンスが広がることになります。法化社会として法的サービスを十分に提供するためには現在の法曹人口は少なすぎます。これに対応し、法曹の質と量の両方を増大させるために導入されたのが法科大学院制度なのです。
(引用ここまで)
 まるで夢のような制度改革です。素晴らしい!
 ここまで突っ込み処満載だと、逆に嬉しくなりますね。
 ということで、次回に続く。

お詫びと訂正

 昨日、ブログに公開した、奥島孝康氏への質問状について、弁護士の猪野亨先生が紹介して下さったところ、猪野先生のブログの読者の方から、奥島氏は商法の学者さんであって、憲法をご専門にされているのではないとのコメントを頂いたそうです。

(猪野先生のブログはこちらのリンクから。)

http://inotoru.dtiblog.com/

 確認したところ、確かに、仰るとおりのようです。

 私が、勘違いをしておりました。奥島孝康氏は商法を研究されている学者さんであり、その点に関しては、当職の出した質問状に誤りがありました。

 関係各位に、ご迷惑をおかけしたことをお詫びして、訂正致します。

 誤りを指摘するコメントを下さった方、ご連絡頂いた猪野先生、有り難うございました。

法科大学院協会特別顧問奥島孝康氏への質問状

     質 問 状

法科大学院協会特別顧問 奥島孝康 殿

 前略  

 去る平成23年5月31日付朝日新聞「オピニオン~法科大学院は必要か」欄に掲載された、記事に関し、少なくとも奥島氏の発言内容と異なる記事が掲載されていないという前提で、法科大学院協会特別顧問奥島孝康氏に対し、失礼を顧みず、当職は質問させて頂きます。

 法曹養成に携わる法科大学院協会特別顧問という奥島氏のお立場に鑑みれば、当職の質問に当然お答えいただく義務があると考えますが、仮に奥島氏がそう考えないとしても、全国紙に於いて御意見を公表されておられるのですから、本質問状にご回答頂くべきであると考えます。

  なお、本質問については、到達後に当事務所(アドレス:www.idea-law.jp)内の当職のブログ(http://www.idea-law.jp/sakano/blog/index.html)に公開させて頂くものとし、奥島氏の回答もそのまま公開させて頂く予定です。希望があれば写しを配布することも考えておりますので、ご承知おき下さい。

  お忙しい中恐縮ですが、回答につきましては6月20日までに頂戴できれば幸いです。 

 また、回答については、誤解を避けるため、法科大学院協会特別顧問としての立場での回答であるのか、奥島氏個人としての立場での回答であるのか明確にして頂ければ助かります。

1 ロースクール卒業生に対する司法研修所教官の意見について

 「ロースクールを卒業した司法修習生」に関して、司法研修所教官が第34回司法試験管理委員会ヒアリングの概要において次のように述べていますが、法科大学院協会及び奥島氏としてその事実を把握しているのでしょうか。

・ ビジネスロイヤー志向が強く、刑事系科目を軽視している修習生が多いのではないか。

・ 口頭表現能力は高いと言えそうであるが、発言内容が的を射ているかというと必ずしもそうではない。

・ 教官の中で最も一致したのが、全般的に実体法の理解が不足しているということである。単なる知識不足であれば、その後の勉強で補えると思うが、そういう知識不足にとどまらない理解不足、実体法を事案に当てはめて法的な思考をする能力が足りない、そういう意味での実体法の理解不足が目立つ、というのが非常に多くの教官に共通の意見である。

2 1に関連する質問1の内容を当然把握されているとの前提で質問を続けます。

(当職もロースクール卒業生に優秀な人材が含まれていることを否定するものではありませんが、)大量に合格者を増加させた結果、司法修習生自体が「その後の勉強でも補えるレベルの知識不足ではない」と司法研修所教官が指摘する者が多数含まれる集団となったことが明らかになりました。そのような修習生の集団の大多数が弁護士となります。「その後の勉強でも補えるレベルの知識不足ではない」修習生が、知識不足のまま法律家になった場合、弁護過誤が発生する可能性がこれまで以上に高まる(特に現に存在する就職難から、いきなり独立する者が増加することが考えられ、その場合の危険度は更に高まると思われるが)と考えられることを、法科大学院協会及び奥島氏としてはどう考えているのでしょうか。

3 法科大学院の学生のレベルダウンのおそれに関する質問

  また、第34回司法試験管理委員会ヒアリングの概要において法科大学院関係者が第1期は特に優秀な学生が集まったとコメントしているが、その特に優秀な第1期生でも司法研修所教官によれば質問2で記載したレベルの者が多いとされています。第1期に特に優秀な学生が集まったということは、今後法科大学院の学生の全体的レベルが下がることは明白であり、適性試験受験者が激減している現状ではさらに法科大学院の学生のレベルダウンは顕著になると考えられます。

 ① 当職は現に法科大学院教員の複数から、法科大学院の学生のレベルダウンが著しいと聞いたことがありますが、法科大学院及び奥島氏は、法科大学院の学生のレベルダウンが生じているか否かについて事実を把握しているのでしょうか。またその把握する手段はどのような手段なのでしょうか。

 ② さらに法科大学院進学を希望する者が激減している現在、法曹の質をどう維持していくつもりなのでしょうか。志願者が集まらない以上、法曹人口増加のペースをある程度抑制し、司法試験での競争の程度を高める以外に解決する方法はあるのでしょうか。

 ③ 法科大学院制度は、法律家を粗製濫造するための制度ではなく、質の高い法律家を多く輩出するための制度だったはずですが、司法研修所教官もあきれる程レベルの低い修習生が生じてしまったのは、端的にいえば法科大学院制度の失敗なのではないですか。

4 朝日新聞上での奥島氏の記事に関する質問1

 ① 奥島氏は「地方はまだまだ弁護士が少ない」と記事で書かれていますが、具体的にどの地方でどれだけの弁護士が不足しているのか、具体的根拠を示してご教示下さい。すでに多くの地方弁護士会から、弁護士過剰の報告が来ていることについてはどうお考えですか。

 ② 奥島氏は「地方では法的トラブルが発生しても弁護士が少ないため、ヤクザや地方の有力者に仲裁を頼んで紛争を解決する人がたくさんいます。」と記事で書かれていますが、具体的にどの地方のどなたがそのようなことをしていますか。また、そのような方々は弁護士に依頼しようとしてもどうしても依頼できなかった方々ですか。ご教示下さい。さらに、その「たくさんいる」人の住所・氏名を当職にご教示頂ければ、その困っている方々のお住まいの弁護士会会長に当職が責任を持って直接連絡し、きちんとした対処をお願いさせて頂きますので、是非ともご教示下さい(当職には職務上守秘義務がございますので他人に洩れることはございませんし、その方々の本当の救済にも役立つと思われますので是非お願いします。)。

5 朝日新聞上での奥島氏の記事に関する質問2

 ① 日弁連や各弁護士会が企業・官庁での新たな就職先確保のため様々な努力をしていることをご存じですか?その日弁連・各弁護士会の取り組みよっても企業内弁護士がわずかしか増加していない現状を、打破する効果的な施策があれば是非ご教示下さい。

 ② ちなみに当職の知り合いの企業内弁護士からは、とても弁護士大増員を吸収するだけの企業による雇用は見込めないと聞いていますが、奥島氏は記事の中で「企業内弁護士として企業が抱える法的リスクを未然に防ぐ分野ももっと開拓すべきです」と書かれています。企業・官庁の弁護士雇用が弁護士人口の激増に見合うだけ増加する見込みがあるかについて、何を根拠にどのように予測しているのか、具体的に示して下さい。

 ③ また、法科大学院が有用な教育をしており、かつ厳格な卒業認定を行っている以上、法科大学院卒業者は司法試験に合格しなくても法務担当者、法律知識ある者等として企業・官庁で争って採用されてもおかしくないと思いますが、司法試験に合格しなかった法科大学院卒業者を企業・官庁は争って採用している状況にありますか。その状況を具体的根拠を示してご教示下さい。

 ④ 法科大学院適性試験の受験者(すなわち法曹志願者)の延べ人数が、2003年の59393名から、今年の13329名(重複受験者を考慮すれば法科大学院志願者の実数は多くても8000人前後と考えられます)となっている理由はなんだとお考えですか。旧司法試験では合格率数%でも志願者が基本的に増加していたことと比較してお答え下さい。

6 朝日新聞上での奥島氏の記事に関する質問3

 奥島氏は、「昔の予備校中心の法曹養成では自分の頭で考えることの出来る法曹が育たないから法科大学院を作ったのです。」と記事で述べられていますが、最新の新司法試験採点雑感に関する意見(特に奥島氏がご専門の憲法を例にとります。)によれば、以下の指摘が見られます。

 「要求されるのは、パターン化した思考ではなく、事案についての適切な分析能力や柔軟な法解釈能力である」という意見、

 「表面的・抽象的・観念的記述のもとで、あらかじめ用意してある目的・手段審査のパターンの範囲内で答案を作成しようとする傾向が見られる。」という意見、

 「問題の内容を検討することなく、パターン化した答案構成をするものが目立った。」という意見、

 「文章作成能力は法曹にとって重要かつ必須の能力であるが、この能力が要求される水準に達していない答案が多かった。中には、論理的一貫性や整合性に難点があるに止まらず判読自体が困難なものや文意が不明であるものも見受けられた。」という意見、

 「(在外邦人選挙権訴訟は)立法不作為が違憲違法とされる要件についても重要な判断を示している。そのため当該判決に関しては、法科大学院の授業でも扱われていると思われるが、どう判決について意識しない答案が極めて多数に上った。」という意見、

 「(問題文中にヒントがあるにもかかわらず)選挙権の行使が妨げられたことについて、立法不作為の意見を理由とする国家賠償請求訴訟の可能性に全く言及しない答案も相当数にあった。」という意見、

 まとめとして「法科大学院では、審査基準(三段階審査とか比例原則という言葉)の定型的・観念的使用を戒めるとともに、それらの内容の精確な理解(問題点を含めて)を学生に深めさせる教育が求められる。」という意見があります。 

 以上の意見からすれば、法科大学院卒業の新司法試験受験生でも、その多くが基礎的知識に問題があるばかりか、自分の頭で考えることが出来ているとは到底思えない指摘がなされていますが、この点については如何お考えですか。

7 朝日新聞上での奥島氏の記事に関する質問4

 ① 奥島氏は、事前規制型の行政国家から事後救済型の司法国家へというのが司法制度改革の理念であったと述べておられます。弁護士人口増大は実現されましたが、民事法律扶助の飛躍的拡充や、民事司法制度の改革、裁判官・検察官の大幅増員、司法予算の大幅拡充など、司法国家に向けた制度がほとんど実現されていない現状について如何お考えですか。司法予算も増やさず、救済のための法整備も不十分な状態なのに、弁護士人口増大だけで司法制度改革の目指した事後的救済型司法国家が実現できるのでしょうか。

 ② 諸外国との比較において、我が国固有の隣接士業(税理士・弁理士・司法書士・行政書士など)の存在を敢えて無視して記載されているのはなぜですか。

 ③ 最高裁判所事務総局が1996年時点での、法曹一人あたりの民事第一審訴訟件数(法曹が一年間にどれだけの民事訴訟を担当するか)を比較調査した結果、次の通りだったとのことです。 

フランス 31.2件 

イギリス 28.3件 

ドイツ1  8.9件 

アメリカ 16.2件 

日本 21.4件 

 訴訟の手間にもよりますが、法曹一人あたりの民事訴訟の件数から判断すると、既に1996年時点で日本には諸外国と比べても、民事訴訟を十分担うだけの法曹(弁護士)が既に存在していたことになります。なお、1996年から現在まで弁護士はおよそ2倍に増加していますが、このデータについてはどうお考えですか。

  以上の質問に対するご回答を、よろしくお願い致します。

                                  草 々

平成23年5月31日

 〒530-0047

 大阪市北区西天満4丁目11番22号阪神神明ビル901号

       イデア綜合法律事務所弁護士  坂   野   真   一 

       電 話 06-6360-6110

       FAX 06-6360-6120

※ なお当質問書の送付は、当職独自に行うものであり、当事務所の他のいかなる弁護士にも関係はございません。

以上の質問状が6月2日に相手方に届きましたので、公開致します。

回答が楽しみですね。

 法科大学院協会特別顧問奥島孝康氏が、でまかせを言うとは思えないので、奥島氏が朝日新聞紙上で「地方では法的トラブルが発生しても弁護士が少ないため、ヤクザや地方の有力者に仲裁を頼んで紛争を解決する人がたくさんいます。」と言う以上、そのような方からの直接の苦情や申入れがたくさん奥島氏に届いていることでしょう。その方々の連絡先を教えて頂ければ私の方で、責任を持って各弁護士会の会長宛に善処するよう申入れさせて頂きます。

 回答が頂ければ、このブログに掲載致します。

法曹人口問題全国会議(通称:全国会議)が発足しました!

 法曹人口問題全国会議(通称:全国会議)が、昨日、東京における創立総会を経て、発足しました。

 立場にとらわれずに、法曹人口問題、司法改革問題について率直な意見交換・情報交換をしていく場を提供するのが目的です。多くの皆様の御意見を頂戴して、その意見を日弁連や社会に反映していくことが出来ればなお良いと考えています。

 場合によって、会議内の有志がなんらかの活動を行うこともありますが、MLに参加されても、その活動に参加されるかどうかはもちろん自由ですし、何らの義務を負うこともありません。ここが、真面目に出席すればするだけ、仕事や雑用を押しつけられる弁護士会の委員会業務と違うところです(笑)。退会も届出するだけでOKなので、試しに参加して頂くことも歓迎しております。

 現在、5月中旬に全国にファクシミリで呼びかけをして申し込んで下さった方々のML登録に着手しつつあるのですが、有志の手作業でもありますし、もう少し時間の猶予を頂戴できれば幸甚です。

 法曹人口問題全国会議のHPは、 私が管理運営しております。HPには掲示板も設置しておりますので、掲示板やMLを通じて皆様の御意見等も頂戴して、よりよいHPにしていこうと思っております。

(HPへはこちらのURLから)

http://jinkoumondai.housou.org/index.html

 今からでも参加をご希望の方は、HPの「入会お申し込み」の中にある、PDFファイルをダウンロードして頂き、ファクシミリでお申し込み頂ければ幸いです。

 是非、多くの皆様の参加をお願い致します。

法曹人口問題全国会議(通称:全国会議)へのお誘い

 先だって、ファクシミリでご案内したとおり、法曹人口激増状態について疑問を持つ弁護士が、主義主張にとらわれずに議論する場、情報を共有する場、を提供しようとする法曹人口問題全国会議(通称:全国会議)のMLが出来ました。

 現在、ML登録作業を順次行う体制を整えつつあります。ML登録まで多少時間がかかることがありますので、その点はご容赦下さい。

 さて、この法曹人口問題全国会議ML運営母体としての、「法曹人口問題全国会議」の設立総会を来たる平成23年6月5日、13時から17時までの予定で、東京の「貸会議室プラザ八重洲北口」で行います。

 場所は、下記のリンクをご参照下さい。

 http://www.ginza-renoir.co.jp/myspace/puraza089.htm

 是非、ご参加下さい。

やってくれるぜ(世論誘導)、朝日新聞。

 本日の朝日新聞朝刊「争論オピニオン」において、法科大学院擁護派の奥島氏と法科大学院不要派の安念氏の記事が掲載されています(下記のリンク参照)。

ファイルをダウンロード

 安念氏の法科大学院批判は、もっともな点が多いのですが、「合格者を増やすと、法曹の平均的な質は低下します。だけどそれで誰が困るんですか(坂野注:自由競争に任せればいい)。(中略)資格ってそういうものでしょう。足しにはなるかもしれないが、保証にはならない。」という主張の下線部分は大いに異論があります。

 確かに一見、安念氏の主張はもっともなように聞こえます。しかし、それはあくまで利用者である国民の皆様からの視点を無視しています。

 例えば、人生に一度か二度の大きな問題を抱えて、弁護士に相談して敗訴した場合に、「あなたが依頼した弁護士は、質の下がった弁護士でした。いや~残念、残念。」、で良いのでしょうか。もちろんお金持ちや大企業は弁護士を選ぶ情報も費用も持っていますから困りません。困るのは一般の国民の方なのです。

 医者に例えれば、話は分かりやすいはずです。仮に医師国家試験の合格率を極端に上げる(若しくは医師の数を激増させる)と、医師の平均的な質は当然低下します。仮にそうすれば、手術どころか診療も、ろくに出来ない医師が免許を持つ時代が来てしまうかもしれません。

 そのような状況になっても、安念氏の主張だと、こうなります。

「だけどそれで誰が困るんですか(自由競争で淘汰されるから良いじゃないか)。資格ってそういうものでしょう。」

 もちろん、皆さん困りますよね。

 弁護士の資格もこれと同じです。一見安念氏の主張がもっともらしく聞こえるのは、弁護士に依頼する場面をイメージしにくいだけであり、逆に、医師は何度も診てもらっていて身近だから、資格のレベルを下げて自由競争にすると困ることがイメージしやすいだけなのです。

 さらに奥島氏の発言は、わたしから見れば、さらに、めちゃくちゃです。あんまりひどい記事なので、質問状を奥島氏に出すことにしました(奥島氏に届いたらこのブログで公開しますし、回答が頂ければそれも公開します)。

 さらにもっとひどいのは、朝日新聞です。法科大学院の存否について、奥島氏と安念氏は意見を述べていますが、法曹人口に関しては見事なまでに、激増させるべきという主張で一致しています。つまり朝日新聞は、一見法科大学院の存否を論じているように見せかけて、結論的には一致して法曹人口の激増路線の念押しをしているようなものです。

 ここまで露骨にやられると、次のように言ってあきれるしかありません。

 やってくれるぜ(世論誘導)、朝日新聞!!

※記載内容については、全て執筆者の個人的な見解に基づくものであって、当事務所の統一した見解・意見ではありません。

日弁連内の法科大学院維持派の暴走??

 私と司法修習同期のある先生からご指摘頂いたのですが、3月27日に日弁連が出した法曹養成制度に関する緊急提言は、これまでの日弁連旧主流派(前回会長選挙で宇都宮会長に負けたので、便宜上「旧主流派」と言います。)の方々でも、ある意味驚きだった部分があると言うことでした。

 確かに、ある先生から頂いた、宇都宮会長に敗れた山本候補の「敗軍の将、兵を語る」で、旧主流派が担ぎ上げた山本候補は、法科大学院は40校以下が妥当と述べています。

 山本候補の文章が、旧主流派の多数意見を代弁しているとするならば、旧主流派も法科大学院を大幅削減しなければ、法曹養成制度は崩壊すると考えていることが伺われます。

そうなると、今の日弁連の態度を説明しようとすれば、旧主流派、現主流派、関係なしに、法科大学院維持派という弁護士の集団がいて、法科大学院維持の緊急提言を日弁連名義で繰り返し出させている、ということになるかもしれません。

 その中心に位置するのが、日弁連の法曹養成制度検討委員会(だったかな)であり、そこからの提言があれば、何ら批判的に検討することなく日弁連の意見として提出することを可決してしまう、日弁連理事会です。

 おそらく、この双方に、日弁連会員の意見をきちんと反映する方法を取り入れない限り、相変わらず、10年以上前の理想だけを盲信し、現実から目を背け続ける法科大学院維持派の論調は変わらないでしょう。

 いつまで、法曹養成制度検討委員会の暴走を許しておくのでしょうか。法曹人口政策会議のように、理事だけではなく各弁連等から委員を募るなどして、会内の意見を吸い上げる努力をどうしてしないのでしょうか。

 どれだけ制度の問題点を申しあげても、総務省のパブコメであれだけ酷評されようとも、法科大学院盲信派は現実を見ようとしません。

 問題点だらけの、法科大学院制度を放置して損をするのは結局国民の皆様です。優秀で多様な人材が法曹になってくれない(なれない)制度になっているからです。

 それだけではありません。法科大学院に投入される税金だって物凄い額になっています。最終的に3割合格するかどうかも分からない法科大学院生全員の教育に税金を投入しているのですから、合格しなかった7割の方にかけた税金は法曹養成の意味では完全に無駄になってしまいます。

 法科大学院が無駄な教育ではない、役立つ教育だというのであれば、司法試験に合格しなくても法科大学院卒の方の就職はあっという間に決まるはずです。だって素晴らしい教育を受けている方々なんだから、社会が放っておくはずないからです。ところがそんな事実はありません。社会のニーズに応える法律実務家を養成する教育ができていないことの何よりの証明です。

 こんなことなら、旧制度のように司法試験に合格してきた者に充実したプロセスによる教育を施す方が、よほど税金の無駄が省けて効率的です。わざわざ職を辞めて借金をしてまで法科大学院に通う必要もありませんから、多様な経験を持つ優秀な方の受験も増えるでしょう。

 一体いつまで、法科大学院・文科省・日弁連内の法科大学院維持派の暴走は続くのでしょうか。

日弁連の意見を操る方法

 昨日も書いた、「法曹養成に関するフォーラム」だが、日弁連はこのフォーラムに向けて、さらに、「法科大学院と司法修習との連携強化のための提言」を行うつもりだ。

 法科大学院を中核とする法曹養成制度については、意味不明な「プロセスによる教育」のマジックワードの下、法科大学院教育が正義であるかのように喧伝されているが、その結果は、新司法試験採点雑感を見れば明らかなとおり、マニュアル思考化、論点主義化、基礎的知識不足など、大いに問題が生じている。経済面から端的に言えば、学生が都会に住め、かつお金持ちの家庭に育った人しか、普通に法科大学院に通えない制度であり、人材確保の点から見ても非常に大きな問題が生じている。

 当然弁護士の中でも、法科大学院制度は失敗だと考えている人は多い。

 しかし、冒頭に書いたように、日弁連は「法科大学院を中核とする法曹養成制度で行くべきだ」と、嫌になるほど繰り返す。多くの弁護士が法科大学院制度は失敗ではないかと考えるなかで、どうして日弁連が、日弁連の意見として、法科大学院擁護の意見ばかり出せるのか。

 3月27日の法曹養成制度に関する緊急提言もそうだったが、日弁連がその内部で組織している法曹養成制度検討会議(だったかな?)が起案し、理事会に提出しそこで可決されれば、日弁連の意見となるようだ。その根拠は、日弁連総会で一度そのように決議したからというものだ。

(ちなみに同じ日に出された、「法曹人口問題に関する緊急提言」は、上記とは全く違う民主的手続きを経て行われた。各弁連代表者、理事も含めさんざん議論しあってまとめた案を、きちんと各単位会に意見照会した上で、提出したものだ。同じ緊急提言名目でも重みは断然違う。)

 つまり、仮の話だが、会員の80%が法科大学院制度を維持すべきではないと考えていても、法曹養成制度検討会議のメンバーさえ法科大学院万歳の委員で固めておけば、理事会は10年以上前の総会決議で決めたことに反対しないだろうから、結局その会議のメンバーの意見がまかり通り、日弁連の意見を自由に操れることになる。 この現状を打破するには、日弁連の委員会に弁護士会内の意見を反映する委員を送り込むことだが、残念ながらそれは会員の自由にはならない。多くの場合イエスマンが選任されて、これまでの意向に逆らわない人(場合によっては、日弁連内で栄達を願うヒラメ弁護士さんかもしれない)がその任に就き、うやうやしく執行部のご意向に沿った活動をしているようなのだ。

 10年もたてば状況も変わる。それなのに、10年前の決議ばかりにすがって、どうすんだ。10年前の決議にすがるのなら、そもそも司法試験合格者の現状維持の主張すら言えないはずじゃないのか。総会決議で司法改革を呑んだということは、給費制もあきらめたことに等しかったはずだ。それなのに、給費制については総会決議の縛りがなく、人口問題や法科大学院など都合の良いときだけ総会決議を持ち出す方法は、もう止めるべきだ。給費制のように現状に即応した対応をどんどんとるべきだ。

 さらにこのような提言は、各単位会に意見を求めるという方法を併せて実行されることもある。姑息なことに、非常に短い期限を設定しておいて各単位会に意見を求めるという方法が好んで行われる。

 各単位会としては日弁連から意見を求められれば、関連委員会や常議員会・総会で検討して意見をまとめなければならない。その手続には非常に時間がかかる。したがって、各単位会としては意見が出せないこともある。そうなれば、委員会の思うつぼだ。「各単位会に意見照会しましたが、反対意見は出ませんでした!」とさも民主的手続きを経たかのように公言できる。

 今回の提言案についても、4月半ばに出され、大阪弁護士会の常議員会に提出されたのは昨日だ。意見を求める期限は5月25日だ。大阪弁護士会が日弁連に意見が出せるはずがない。

 しかも、ひどいことに大阪弁護士会の中では、法科大学院支援の部署にだけその意見照会が回されたそうだ。法曹養成制度は司法修習制度、法曹人口問題にも密接に関連する。しかし、賛成意見しか出さないことが100%確実な委員会にだけ意見を求めるというやり方は、あまりにもあからさまではないか。手続き上のミスだと思うが、中本会長には十分配慮をして頂きたい。

法曹人口政策会議に1年以上出席してみて、日弁連を、少数の人が牛耳っている支配構造がだんだん見えてきた。 相当根深くシロアリが巣くっている状況だ。かなりひどいようにみえる。

 こんな日弁連に誰がした!(小林正啓先生の御著書から拝借。)

※記載内容については、全て執筆者の個人的な見解に基づくものであって、当事務所の統一した見解・意見ではありません。