ロースクール教育を受けると司法試験に合格しなくなる??

 法科大学院等特別委員会第118回で、菊間委員が久しぶりに良い指摘をしているので紹介しようと思う。

 まず、この委員会では、令和6年度の司法試験について、早渕宏毅委員から報告がなされた。ちなみに早渕委員は、私と司法修習同期・同クラスであり、和光の司法研修所で同じ教室で授業を受けていた。優秀なだけでなくかなりの男前だった記憶がある。司法修習終了後に検察官になったので、法務省関係の委員として入っているのだろう。

 早渕委員の報告の後、名古屋大学の佐久間委員が、最も長期間プロセスによる教育を受けたはずの法科大学院修了者の司法試験合格率が22.7%と30%を切っている(ちなみに予備試験合格者の司法試験合格率は92.8%であった)ことを指摘して、どう説明するのかという問題があるとの発言がなされたあと、弁護士の菊間千乃委員が、次のように発言している。

【菊間委員】  ありがとうございます。
 私も同じような質問なのですけれども、今、御紹介はいただかなかったのですが、各ロースクールの合格者数が書いてある一覧の資料があると思うのですけれども、それを見ると、ほとんどのロースクールで、在学中受験のほうの合格率が高くて、修了生とか2回目以降の合格者数が非常に少ないという結果が見て取れます。これを各ロースクールがどういうふうに分析しているのかということを、どなたかにお伺いしたいなと思いました。在学中受験というのは、どうしてもカリキュラムを一生懸命詰め込んで、試験が終わった後にもう一回、後半のカリキュラムをやるみたいな感じで、でも、これだけの方が受かってしまってというか、受かっていて、きっちり修了している人たちが受からないというのは、どういうことなのだろうと。ロースクールの教育をきちっと受けて合格するということからいうと、本来、修了者も相当受からないとおかしいのではないかと。在学中で受かるということは、むしろそうではない、ロースクールだけではないところで、もともと勉強していた方たちが受かっているというふうにも見えるので、これでロースクールの成果だと言うことができるのだろうかというのも思ったんですけど、ここの違いをどういうふうに捉えたらいいのかということを、お話しいただける方がいたら教えていただければと思います。

(部分的強調は坂野が行っています。)

この会議の議事録は下記のリンクを参照されたい。

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/041/gijiroku/1415416_00031.htm

 つまり、これまで、ロースクールは、法律家を育てるためにはプロセスによる教育が大事だとなんの根拠もなく言い続けてきた。

 しかし、ロースクールでのプロセスによる教育を受ければ受けるだけ司法試験の合格率が下がっているのが現状なのである。

 司法試験受験生には、予備試験合格者、ロースクール在学中受験者、ロースクール修了(卒業)受験者の3種類があるが、ロースクールでのプロセスによる教育を受けた度合いは、

予備試験合格者<ロースクール在学中<ロースクール修了(卒業)者

であることは、明白である。

それにも関わらず、

予備試験合格者の司法試験合格率92.8%

ロースクール在学中受験者の司法試験合格率55.19%

ロースクール修了者の司法試験合格率22.7%

司法試験の結果から素直にみれば、ロースクールで行われている、プロセスによる教育って、受ければ受けるだけ司法試験に受からなくなる、実に変な教育ってことになる

サヴィニャック展で

(記事と写真は関係ありません。)

IT導入補助金不正受給について

 IT導入補助金とは、中小企業・小規模事業者等の労働生産性の向上を目的として、業務効率化やDX等に向けた ITツール(ソフトウェア、サービス等)の導入を支援する補助金であり、中小企業庁が行っている事業である。

 コロナ補助金の場合もそうであったが、残念ながら、補助金等の事業が行われると、その事業を利用して不正に儲けようと企む輩は、ほぼ確実に出てくる。

 近時、「IT導入補助金は不正行為を絶対に許さない」との記載が公式HPにもなされ、随時調査が行われているようで、調査を受けた方からの相談も見られるようになってきた。

 なお、詐欺グループはさらに上をいっているようで、調査をかたった詐欺(「あなたの受給は不正だから直ちに返金せよ、そうでないと刑事事件になる」等と脅して送金させる詐欺)も頻発しているようである。
 公式HPには、「IT導入補助金事務局からの送信をかたった、なりすましメールが確認されています。メールアドレスのドメインをご確認いただき、各種補助金等の返還手続きを装った詐欺にはご注意ください。」との記載があるので、注意が必要だ。

 さて、補助金を不正に受給した場合、どのようなことになるのかだが、基本的には「補助金等に係る予算執行の適正化に関する法律」に基づくことになる。
 同法によれば、交付決定が取り消され、補助金の返還、加算金及び延滞金の支払いを求められることに加え、罰則もある。5年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金又はこれを併科することになっている(同法29条1項)。補助金を他の用途に用いた場合も同様の返還規定や罰則(同法30条:3年以下の懲役若しくは50万円以下の罰金又はこれを併科)もある。
 これに留まらず、詐欺罪(刑法246条1項:10年以下の拘禁刑)も成立しうることは、最高裁が認めている(最決R3.6.23)。

 このように、不正受給に関するペナルティは、きつめなのだ。

 ただ、不正調査を行っている調査事務局も、事案数が多いためか事情をきちんと把握しきれずに、その受給は不正の可能性が高い、と判断してしまうこともあるようだ。

 私が相談を受けた事業者の方の中の1人の方は、別途、某独立行政法人から長期運転資金の融資を受けていたことを咎められ、「IT補助金受給は不正受給と思われるので返還等を考えるように」との指示を受けていた。

 確かに、IT補助金交付規程の第10条には
「国及び中小機構その他の独立行政法人の他の補助金等と重複する事業については、
補助事業の対象として認めないものとする。」
との記載があり、形式的には独立行政法人から何らかの補助金、融資等を受けていた場合は、IT補助金の補助事業対象外とも読めなくはない。

 しかし、この方の受けた融資はIT導入目的だったのではなく長期運転資金のための融資であった。IT補助金の目的である、中小企業・小規模事業者等の労働生産性の向上の目的とは違っていたのだ。

 相談を受けた私は、現事務局、補助金受給時の事務局双方に、問い合わせの電話をかけた。電話も混み合っておりなかなか繋がらなかったが、どちらの事務局も丁寧に対応してくれた。
 ただ、いずれの事務局もきちんと内部で検討してから回答するので、追って電話で回答するとのことだった。後日ちゃんと返答を頂き、いずれの事務局も私が相談した件に関しては不正受給にあたらないとの回答を示してくれた。

 以上から、不正受給ではないかと調査事務局から指摘された場合は、まず弁護士に相談することだ。ご自身で事務局に相談することも可能だろうが、ご自身の現状について、きちんと必要な点を伝えることはそう簡単ではなく、弁護士に事情を話して納得のいく内容の文案を作成してもらった方が確実だからである。


 不正受給ではない可能性が高いのなら、その旨の書面を作ってもらって調査事務局に送るとか、弁護士に委任して事務局に調査をかけたり、事務局と交渉してもらうこともできる。
 その上で、残念ながら不正受給に該当してしまうのであれば、早急に返金し、その後、どうすべきか弁護士に相談することが一番良いと思われる。

 

 とはいえ、刑事処罰の危険性を過度に指摘して、相談者の恐怖を煽り、自首を勧めて、高額の弁護士費用をとろうとする弁護士も残念ながらいる。刑事事件になる可能性が極めて低い事案であるにも関わらず、自首すべきといわれ、100万円以上の弁護士費用を持ってこいといわれた方の相談を、何件か実際に受けたことがある。

 弁護士に相談した際に、捜査機関への自首を勧められた場合は、別の弁護士にセカンドオピニオンをとった方が安心だと思われる。

上高地・大正池(写真とブログ内容は関係ありません)

ある懲戒処分に関する雑感

 先日、弁護士の某先生が懲戒処分を受けたことを会報で知った。

 私はその先生と特別に懇意にしていたわけではないが、

私の知る限り、

 自分のことよりも依頼者の利益を真剣に考える先生であり、
 知識も経験も倫理観も、十分備わった優秀な先生であり、
 さらに消費者問題など、殆ど経済的利益がない公益活動にも全力で尽力される先生であった。

最初は懲戒処分の記事が間違っているのではないか、と思ったくらいだ。

 詳細は不明だが、事案の概要等からみると、事務所の運転資金に行き詰まった結果の不祥事だったように思われる。
 その先生のことだから、安易に不祥事に手を出したわけではなく、物凄い心理的葛藤があったはずだ。被害金員については、知人に借り入れて弁償が済んでおり、知人に対しても自宅を売却した代金で返済されているようだ。

 このように優秀で、公益活動に熱心な先生でも、事務所運営に行き詰まることがあるのが、今の弁護士界である。(ちなみに、私の元ボスの一人も、弁護士資格と公認会計士資格を持ち、大会社の社外取締役をも務めていたが、「仕事がこない」とのことで5年ほど前に引退している。)

 これまでマスコミや、学者達は、公益活動で自腹を切りながら国民のために働いている弁護士の存在も知らず、安易に、弁護士は資格に甘えるな、弁護士を増やして弁護士も競争しろ、と世論を煽ってきた。
 彼らの理屈は、弁護士にも自由競争をさせれば、より良い弁護士が繁栄して生き残り、悪質な弁護士は淘汰できるというものだった。

 仮にその理屈が正しいとすれば、今回懲戒を受けた某先生は、優秀かつ公益活動にも熱心だったので、社会が求める「よい弁護士像」に合致する方であり、繁栄していないとおかしい。私の元ボスも法務面に加え会計面にも明るく、大会社の社外取締役の経験もある弁護士だから、仕事の面だけから見ると、仕事が集まって来なくてはおかしいということになる。

しかし、現実はむしろ逆だった、ということである。

 そもそも、自由競争は、経済的には、儲けた者(利益を上げた者)が勝つ仕組みである。良い仕事をする弁護士には顧客が集まり経済的に繁栄するであろうし、そうでない弁護士には顧客が来ず衰退し淘汰されるであろう、という仮定のもとに、「自由競争させればより良い弁護士が生き残る」、という理屈は成り立っている。

 だが、弁護士の仕事は極めて専門的であり、依頼者の意向も絡むことから、弁護士の仕事の良し悪しを見抜くことは同業者でも簡単ではない。一般の国民の皆様にとっては、その判断は、なおさら困難だ。また、依頼した弁護士が実際にどのように処理を行うのかについても、依頼の段階では分からない場合も多い。
 だから、依頼者側に弁護士の仕事の良し悪しが判断できない以上、弁護士業に関しては、自由競争の前提が崩れており、自由競争が成り立たない場面なのだ。

 もう少し分かりやすく例えて言えば、
 味の分からない人ばかりの街で、美味い蕎麦屋を生き残らせることができるのか、という状況に近いといってもよいだろう。
 このような状況で、「蕎麦屋をどんどん増やして競争させれば美味い蕎麦屋が生き残るはずだ」とは、到底いえまい。
 このような状況で、蕎麦屋をどんどん増やして競争させた場合、蕎麦の味とは関係なく顧客を集めるのが上手い蕎麦屋が繁栄するだろう。その反面、顧客が集まらなければ、どんなに美味い蕎麦を出していても、その蕎麦屋は潰れてしまうのだ。

 弁護士の仕事に関しても、その良し悪しを依頼者が殆ど判断できない現状では、蕎麦屋の例とよく似た状況と言って良い。

 某先生の記事から、優秀で公益活動にも熱心という、本来国民から求められるべき弁護士像に近い弁護士の先生であっても、経営に行き詰まりかねないという、現在の弁護士界の異常な状況を改めて痛感した次第である。

マドリッドの動物園で。(写真と記事は関係ありません)。

吉田神社節分祭(鈴鹿さんのご祈祷)

 昨年、一昨年のブログにも記載したが、私は、数え年で42歳の時にご祈祷を受けてから、ほぼ毎年、母校の京都大学の近くにある吉田神社の節分祭で、大元宮でのご祈祷をして頂いている。
 今年は、私がパートナーを務める事務所の繁栄と、自身の災難除けをご祈祷の趣旨とさせて頂いた。

 ご祈祷をして下さる神職の方は何人かいらっしゃるが、幸いなことに今年も、鈴鹿さんにお願いすることができた。
 私が特に鈴鹿さんのご祈祷を気に入っている理由の詳細については、2023年2月3日付のブログに記載しているので参照して頂きたい。

一部だけ引用すると、

「(前略)うまくたとえることができないのが残念だが、鈴鹿さんの祝詞がはじまると、まるで、現世の雑音や世俗の様々な出来事を遮断する、神様の清浄な領域が鈴鹿さんを中心にして現れ、本殿を満たし清めていくようにも感じられる。
 そして、その清浄な領域で響く鈴鹿さんのお声は、どこまでも、よどみなく清んでいるのである。(後略)」

 今年のご祈祷では、幸いにも単独でご祈祷頂くことが出来た。参拝するにも長い列が出来る程混雑していた大元宮で、単独でご祈祷いただけたのは幸運と言うほかない。

 更に言えば、鈴鹿さんのご祈祷は、私の期待を裏切ることがない。

 じつは、これは、簡単なようで、非常に難しいことなのだ。

 例えば、初めて行ってみた飲食店の料理が凄く美味しかったので、しばらくしてもう一回行ったところ、同じ料理なのに思ったほど美味しく感じなかった、という人は多い。
 「このお店の料理は美味しかった」という経験があった場合、客としては、「美味しかった、あの美味しさをまた経験したい」、という期待がどんどん膨らんでしまう。そして、その結果、お店の料理が前回と全く同じレベルでも、お客側が勝手に膨らませた期待を満たすことができず、以前ほど美味しく感じないということが主な原因だろうと思われる。
 逆に言えば、期待を裏切らないということは、お客が勝手に膨らませる期待よりも、提供側が進化していないと実現出来ないのだ。

 このように、期待を裏切らないこと、すなわち、「お客が勝手に膨らませる期待を上回る進化を、提供側が常に実現していなければならないこと」は、実は、並大抵のことではないのである。

 私の期待を裏切ることのないご祈祷をしてくださる鈴鹿さんも(きっと他の神職の方々もそうだろうが)、おそらく、神様に願い事を届けたい人々の想いを実現するために、日々の生活等において、たゆむことなく、常に進化し続けておられるのだろう

 今年の吉田神社の節分祭は、本日の後日祭で終わりである。参道を埋め尽くす露店は昨日までなので、落ち着いた雰囲気がかなり戻っているのではないかと思う。
 吉田神社では、節分の期間に限って、特別な梔色(くちなしいろ~厄除けの色とされている)のお札などが授与されているし、大元宮内院の特別参拝も可能なので、機会があるのなら参詣されることを、お薦めする。

コロナ渦だった2011年の吉田神社節分祭(露店もなく閑散としていた)