大阪弁護士会の刑事当番弁護士制度が登録者が激減し、ピンチだとのことだ(PDFファイル参照)。メールでの通知の他に、レターケースにもお願いチラシが投函されている。
当番弁護士制度は、各地の弁護士会が運営主体となり、毎日担当の当番を決め、被疑者等からの依頼により、被疑者の留置・勾留されている場所に弁護士が出向き、無料で、接見の上、相談に応じる制度です。
同制度は、1990年、被疑者段階の国選弁護制度がない中で、被疑者国選弁護の充実化と被疑者国選弁護制度創設の足がかりとして、弁護士会が独自に始めました。初回の接見費用や外国人被疑者のための初回通訳費用などは、被疑者に負担を求めることなく、弁護士会が費用を負担して制度を運営しています。(日弁連HPより)
まあ、要するに、逮捕されたら1回に限り無料で弁護士に来てもらって、今後どうなるか、どう対応すべきか、などについて教えてもらえる制度ということだ。
逮捕された人で、法律知識の十分な人はほとんどいないから、確かに、人権保障には大いに役立つし、無料なので気兼ねなく依頼できる。
国が、逮捕された人に、今後の対応や権利を説明するところまで人権保障しなくても良いと判断して手当てをしていない部分について、人権保障の観点から手当てするべきだと考えて、弁護士会が、自腹でやり始めた制度なのである。
例えは悪いが、まあ、人権保障の使命感に駈られたタコが、自分の足を食べながら逮捕された人の人権を守ろうとしているような感じだ。
もちろん、弁護士会としても、自分の足を食べているような状況だから、当番弁護を担当する弁護士に十分は報酬は与えられない。
当番弁護士を依頼する多くの人は、医療保険のように国が相当な(労力に見合った)お金を出していると勘違いしているが、当番弁護制度に国がお金を出してくれているわけではない。
各弁護士会が、所属する弁護士から無慈悲に取り立てる弁護士会費と、労力に見合わないわずかな見返りでも人権保障に役立つのならやむを得ないと考える、担当弁護士のボランティア精神で成り立っている制度なのである。
さて、大阪弁護士会は、ここ10年で878人も弁護士が増加した。
それにも関わらず、当番弁護制度登録者が激減(3年間で500名減少)しているのだという。
私の見たところだが、当番弁護制度登録者の激減は、大阪弁護士会会員のボランティア精神がどんどん減退したわけではないと考えている。
ボランティア活動を行うだけの経済的、精神的余裕が失われている状況なのだろうと考えている。
弁護士激増にもかかわらず日本の裁判件数は増加していない。全裁判所が新たに受理した事件数は、約20年前には610万件以上あったが、令和5年では357万件と4割減なのである。その間に弁護士数は約20,000人から約45,000人まで2.25倍に増加している。
4割減って60%しかないパイを2.25倍の人数で奪い合えば、弁護士一人あたりの裁判件数は20年前に比べれば、3割未満しかないことになる。弁護士費用が3~4倍に値上げ出来るのならともかく、弁護士費用は私が弁護士になった四半世紀前からほとんど上がっていない。
そりゃあ経済的に苦しくなるはずだろう。
弁護士だって人間だ。人間である以上、自らの(家族の)生活が安定して維持できるかが最も重要な関心事であっておかしくない。他人の人権に配慮できるのは、その後だ。
経済界やマスコミが、弁護士も競争しろと無責任に言い続け、弁護士の激増を招いてきた結果、弁護士の経済的土台を不安定にし、弁護士のボランティア精神に依存してきた人権活動に支障が出始めているということなのだろう。
30年ほど前の、弁護士が普通に仕事をしていれば自分の生活にまだ余裕が持てた時代であればともかく、現在のような弁護士界の状況からすれば、いくら森本会長のお願いであっても、お願いレベルで今の窮状が直ちに回復するとは考えにくい。
経済的に苦境に立つ弁護士が増えている中で、頑張ってボランティアをして下さいとお願いしても、ほとんど効果はないと思われるからだ。


