受験者平均点を50点以上、下回っても合格できちゃう司法試験

今年の司法試験の結果が公表された(法務省HP参照)。
久しぶりに、現行の司法試験について思うところを述べておこうと思う。

☆司法試験の総合点の結果は以下のとおりである。

令和2年度(一昨年) 
       最高点1199.86点、最低点439.18点、
受験者平均点807.56点
合格点780点以上(平均点を約27点下回っても合格

令和3年度(昨年)
       最高点1248.38点、最低点413.66点、
受験者平均点794.07点
合格点755点以上(平均点を約39点下回っても合格

令和4年度(今年)
       最高点1287.56点、最低点464.97点、
受験者平均点802.22点
合格点750点以上(平均点を約52点下回っても合格

 このように、ここ数年、受験者平均点と最低合格点との差がどんどん広がってきている。
 合格者の数を維持しようとすれば、このように受験者の平均点から50点以上も低い得点しかできない受験生を合格させる必要が出てくることになる。

 かつての旧司法試験では、短答式試験で5~6人に1人に絞られ、短答式試験に合格した者だけで受験する論文式試験でさらに、6~7人に1人に絞られ、口述試験も課せられていた。
 そして、私の受験していた頃は、短答式試験は、ほぼ8割は得点しないと合格できなかった。
 旧司法試験時代では、受験者の平均点以下で合格できるなど、あり得ない事態であった。

 ただこのような比較を提示すると、現在の司法試験の受験者は法科大学院を経由しているため受験生の質が高いから、最終合格者のレベルには何ら問題がない、との反論が出されることがある。

 この点についての答えは簡単だ。

 現在の司法試験の短答式試験の問題は、以下の申し合わせ事項からも明らかなように、旧司法試験の短答式試験よりも簡単になっている。
 以下のとおり、法務省が、短答式試験について基礎的な問題を中心に据えて、形式的にも簡単にした問題を出題することを公表している。

「司法試験における短答式試験の出題方針について」
 ~平成24年11月16日司法試験考査委員会議申合せ事項
 司法試験の短答式による筆記試験は,裁判官,検察官又は弁護士となろうとする者に必要な専門的な法律知識及び法的な推論の能力を有するかどうかを判定することを目的とするものであるが,その出題に当たっては,法科大学院における教育内容を十分に踏まえた上,基本的事項に関する内容を中心とし,過度に複雑な形式による出題は行わないものとする

 そしてこのように基礎的事項を中心とした簡単な形式の問題を中心にした短答式試験の結果はこうである。

令和3年度(175点満点) 受験者平均点117.3点、合格最低点99点
            (8割以上得点した者は648名)

            合格者2672名(3424名中)

令和4年度(175点満点) 受験者平均点115.7点、合格最低点96点
            (8割以上得点した者は453名)
            合格者2494名(3082名中)

 短答式試験に56.57%(R3)、54.85%(R4)の得点率で合格できてしまうのだ。そして短答式試験に合格した受験生の半分以上が最終合格する(短答式試験合格者の最終合格率R3:53.18%、R456.26%)。

 かつて現在よりも、基礎的事項だけに留まらず、複雑な形式による出題がなされていた旧司法試験の短答式試験であっても、ほぼ8割の得点が合格に必要で、更に短答式試験に合格した受験生のうち論文式試験で6~7人に絞られたことと比較して考えると、「現在の司法試験は受験生の質が高いから最終合格者の質も維持できている」と主張するなど、現実を何ら見ていない暴論であると言うほかはないと思われる。

 更に言えば、予備試験経由者の合格率である。
 令和3年度 予備試験経由者の最終合格率93.5%(実受験者比)
 令和4年度 予備試験経由者の最終合格率97.53%(実受験者比)

 そもそも予備試験は、法科大学院卒業した者と同程度の学識、応用能力、法律に関する実務の基礎的素養があるかを判定するための試験であると明記されているから(司法試験法5条1項)、当然予備試験に合格するレベルは、法務省が想定する法科大学院卒業者と同程度のレベルということになる。
 したがって、現在の司法試験では、法務省が想定する法科大学院卒業者と同レベルであるならば、約95%が合格する試験になっている。


 かつて司法制度改革審議会意見書では、
 「法科大学院では、その課程を修了した者のうち相当程度(例えば約7~8割)の者が新司法試験に合格できるよう、充実した教育を行うべきである。」
 と記載されていた。

 この内容が誤解されて、法科大学院を卒業すれば司法試験に7~8割合格できると約束したではないかなどと、マスコミや法科大学院擁護派の学者等から指摘されたこともあった。

 それはさておき、現在の司法試験制度は、法科大学院卒業レベルにあると法務省が認定した予備試験合格者が約95%合格できるレベルにあるということであり、司法制度改革審議会が想定していた、きちんと法科大学院で勉強し卒業したレベルの受験生が7~8割合格できる司法試験合格レベルよりも、合格レベルが相当下がっているということもできよう。

 誤解して欲しくはないのだが、私は司法試験に合格された方の全てがレベルダウンしていると指摘しているのではない。もちろん私なんかより優秀な方も多いだろうし、国が合格を認めたのであれば、胸を張って資格を取得し、仕事をされれば良いだけのことである。

 ただ、司法試験合格者の全体としてのレベルダウンはどうしようもなく進行していることは間違いないと思われる

 そもそも国民のための司法制度改革だったはずであり、国民の皆様に信頼出来る司法を提供するのが目的だったのではないか。

 国民の皆様に、弁護士の仕事の質の良し悪しは、なかなか理解しがたい。そうだとすればきちんと能力を持つ者に資格を与えるようにして、資格の有無でその者の仕事の質をある程度担保することは、一つの有力な方法である。

 それなのに、司法試験合格者を減少させれば法科大学院の存続に関わることから、いまの司法試験は、合格レベルを下げてでも法科大学院の利権維持のため合格者を減少できない試験制度に成り下がっているように感じられてならない。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です