法テラス常駐弁護士~日弁連は民業圧迫に賛成なのか?-2

(続き)


 前回記載したように、2020年3月の今川執行部により大阪弁護士会は法テラスの常駐・常勤スタッフ弁護士設置に反対しないとの方針転換を行い、その方針を維持することを同年8月に川下執行部でも確認することになった。

 ところがその3ヶ月後である2020年11月、法テラス大阪地方事務所の事務局長が、大阪弁護士会と連携関係にあった生活保護施設を訪問し、その際に、法テラス大阪地方事務所に常駐型スタッフ弁護士が配置されることになったこと、法テラス大阪事務所においては無料での法律相談の行うことが可能であること等について説明(営業)を行う事態が生じたのである。

 前回ブログのように医師のケースに例えれば、国が設立した病院の事務局長が、別の病院と提携関係にある施設を訪問し、「ウチにも常勤の医師が来ることになりましたから、これからはいつでも無料で診療が受けられますよ。だから、今までの提携関係にあるお医者さんを切って、ウチに来てもらう方がお得なんですよ。」と営業するようなものである。

 このようなことは、完全に民業圧迫であるし、そればかりでなく大阪弁護士会と法テラス大阪地方事務所との信頼関係を完全に破壊する行動と評価されても仕方がないだろう。

 おそらく、法テラス大阪地方事務所の事務局長が自分の考えだけで、このような面倒な営業行為をするとは到底思えないから、おそらく法テラスの上層部の方から、法テラス大阪地方事務所に対して営業するようにとの指示なり圧力があったと考えるのが合理的である。

 法テラスは、経済的に困った方のために国が設けた制度であったはずなのに、採算が取れない地方では地方事務所を閉鎖するなど、次第に採算を重視する傾向が見られるようになってきており、本来の制度目的とは異なる方向に動いているように思われる。

 そのような点に鑑みれば、一旦は「弁護士費用は、無料ですよ~。」と採算度外視で行えることを利用して営業行為を行って集客し、集客後は、そのお客に繋がる人脈等を利用して、採算に繋がる事件を法テラスで受任しようとする意図があったのではないか、と考えざるを得ない。弁護士への事件依頼は、一度受任した人からの紹介によるものが相当部分を占めるからだ。

 この事態を知った、当時の大阪弁護士会川下執行部は(多分)激怒し、2021年1月の日弁連からのスタッフ弁護士配置依頼に対しては、これまでの回答を白紙撤回し、待機期間型常駐弁護士はともかく、常駐型常勤弁護士の増員・新規配置とも受け入れられないとの内容の回答を返している。

 それにもかかわらず、今年も日弁連から令和4年度スタッフ弁護士の配置についての依頼が大阪弁護士会に届いている。

 日弁連執行部には、法テラスが民業圧迫に繋がっているという認識が完全に欠落していると言わざるを得ないだろう。

 確かに民業圧迫よりも経済的弱者の保護を優先したいという見上げた発想に基づいている可能性もなくはないが、仮にそのような自己犠牲をしたいなら、日弁連執行部で法テラス常駐弁護士を提案する人たち(自己犠牲をしたい人たち)で、やれば良いのだ。

 そもそも、日弁連という組織は、弁護士会員の利便のために動くべきではないのか。

 過疎問題に関しても、医師会などは過疎地域での医療に関して経済的に成り立つかをしっかり見極めることが大前提だとするが、弁護士会は過疎解消の美名に酔いしれて、経済面を無視して突進し、自腹を切りまくっているように見える。その負担は各弁護士の納めた弁護士会費から出されるのである。

 この前の日弁連会長選挙で、及川候補を除く主流派の候補2人は、法テラス案件を自分の事件として受任し処理していた経験はなさそうだったが、仮にそうだとすれば、日弁連執行部(主流派)は自己犠牲の精神を高らかに歌い上げながら、自己犠牲を執行部以外の会員に押しつけていることになりはしないか。


 弁護士も職業である。職業は生活の糧を得る手段である。かすみを食って生きるわけにはいかない。

 私の経験から言わせてもらえば、きちんとした法的サービスを提供しようとするなら、法テラス基準の対価では到底不可能で事務所を維持できない。

 ちなみに、私の場合、法テラスは、経済的弱者でどうしてもやむを得ない方については利用するが、民業圧迫の際たるものだと思っているので、常議員会では常に法テラス拡充方向の議案には反対の意見・反対投票してきたつもりである。

 田中執行部がどのような回答を行うのか、後日ご報告する予定である。

(この項終わり)

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