弁護士の質に関する議論について雑感~1

 現在日弁連は、法曹人口政策に関する当面の対処方針案について各単位会に意見照会をかけている。
 日弁連の対処方針案には、司法試験合格者の更なる減員を求める状況にはないとの趣旨の記載があるそうだ。
 現状、閣議決定で司法試験合格者1500人程度を目指すことになっているが、令和3年度司法試験合格者は1421名と目標より大幅に減少した人数しか合格していない。この状況下で、更なる減員を求める状況にないとの意見を日弁連が出せば、日弁連は司法試験合格者1500人維持を主張していると受け取られることはほぼ間違いないだろう。

 私は従前、合格者が1421名に留まったのは、司法試験の合格が簡単になっていることから、どんなに合格レベルを落としてもこれ以上レベルの低い受験者を合格させるわけにはいかないと司法試験委員会が判断したからではないかとの意見をブログに記載し、その意見は未だ変わっていない。

 この点、日弁連の委員会は、弁護士の質の議論については客観的な証拠が見当たらない等の理由でまともに議論していないようだが、私はこれまで述べてきたように、


①短答式試験が基礎的問題に限定され簡単になっていること(法務省が発表している)、

②簡単になった短答式試験での令和3年度の合格最低点は56.7%であり、受験者平均点の約18点下でも合格できること(これに対し旧司法試験では基礎的問題に限定されていなかった短答式試験でありながら、最低合格者の得点率は概ね80~75%であり、合格率は20~25%にすぎなかった)、

③令和3年度の短答式試験合格者のうち、53.2%の者が最終合格し、受験者平均点よりも40点も低い者でも合格していること(旧司法試験では、基礎的問題に限定されていなかった短答式試験を75~80%の得点率で合格してきた者の中から、さらに6~7人に1人に絞られ、口述試験も課せられた。)、
などから、もちろん優秀な合格者の存在は否定しないが、全体として見た場合の司法試験合格者のレベルは相当落ちてしまっている可能性を否定できないと考えている。

 司法試験採点実感については、旧司法試験時代はそのような実感は公表されていなかったが、新司法試験制度になってから公表され始めている。読んで頂ければ分かるが、その内容は年を追うごとに、ひどい内容が報告されるようになってきている。この点からも司法試験受験生の全体的レベルのダウンは一目瞭然である。


 確か、何年か前に民事系の採点実感で司法試験に合格したからといって優秀だと思わず、ちゃんと勉強するようにと釘を刺す趣旨の実感もあったはずだ。

 さらに、令和2年度の採点実感に至っては、
 営業の自由を精神的自由そのものと記載するトンデモ当案(こんなの大学2年生でも間違わない内容である。)や、
 「今回の答案の全体的傾向は、法律家としての思考が表現されている答案が少なかったことにある」(公法系第2問~法律家の思考が表現されていない答案が多数を占める中、半分以上を合格させてよいのか疑問)、
「500万円の返還を免れたことが昏睡強盗罪の客体にあたるとして同罪の成立を認め、「2項昏酔強盗殺人」という犯罪が成立するとした答案もあった。」(刑事系第1問~ちなみに昏酔強盗の客体は条文上、財物に限られており財産上の利益は含まれていないので、法律上存在しない犯罪を受験生が勝手に創り出して認定していることになる。)
 など、これまでの採点実感では指摘されていなかったレベルダウンの実例があれこれ指摘されるようになってきている。司法試験採点者の危機感が滲み出ていると言わざるを得ないだろう。

(続く)

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