日弁連法曹人口検証本部の取りまとめ案について~1

 

 日弁連の法曹人口検証本部が出そうとしている、法曹人口政策に対する対処方針案を見る機会があった。

 日弁連法曹人口検証本部の議論状況については、複数のところから聞き及んでいる。その内容からすれば、委員の方々が様々な意見を述べても、検証本部の本部長などは適当に聞き流しているような印象がある

 さて、法曹人口政策に対する対処方針案を読むと、「現時点において司法試験合格者の更なる減員を提言しなければならない状況にない。」という内容でのとりまとめを行おうとしているようだ。

 はっきり言って、検証本部の本部長は、日弁連主流派の意向に逆らわないから、日弁連主流派・日弁連執行部の意向が、「現時点において司法試験合格者の更なる減員を提言しない」というものであるということだ。

 私は、日弁連執行部は阿呆か、と言いたい。

 そもそも、司法制度改革審議会意見書(2001年)に基づいて、司法試験制度や法科大学院制度、法曹養成制度の改革も行われてきた。その改革の出発点はどこにあるかと言えば、司法制度改革審議会意見書作成時点で、今後は法的紛争が複雑化し、更に増加すると見込まれていたからだ。

 そのような法的紛争の増加が見込まれたからこそ、国民の皆様からの需要が増大するだろうし、その国民の法的需要を満たすために法曹人口も増大する必要があるから増員すべきという意見だったはずだ。

 ところが、実際には一時期過払いバブルによる事件増加はあったものの、裁判所に新たに持ち込まれる事件数(全裁判所の新受全事件数)で比較すると、
司法制度改革審議会意見書が出された平成13年は5,632,117件あったものが、平成30年には3,622,502件まで減少している(2019裁判所データブックによる)。

 裁判所に持ち込まれる事件数が35%以上の減少だ。司法制度改革審議会意見書の論旨からすれば、法曹人口増員の必要などなかったことになるはずなのだ。

 なお、この間に弁護士の数は倍以上(平成13年で18000人前後→平成30年で40098人)になっている。
 つまり、単純計算すると、平成13年には100のパイを10人で分けていた(1人あたり10個)のが、平成30年には65のパイを20人で分ける状況(1人あたり3.25個)になったのだ。

 この状況で、現状の司法試験合格者が1500人を割り込んできているにもかかわらず、更なる減員をすべきではないと提言することは、日弁連は司法試験合格者1500人維持を主張していると対外的に受け取られるだろう。

 それは、実際には、減少していくパイをさらに多くの人間で分け合う(奪い合う?)傾向をより強めようとすることに等しい。

 要するに、さらに弁護士資格の経済的価値が減少することを促進しても構わない、ということだ。

ところが、日弁連法曹人口検証本部は、裁判所の統計は確かにそうだが、裁判所に持ち込まれる事件以外の事件が増えている印象があるから、弁護士人口の急増を維持し続けても良いのだ、と主張するようだ。

 客観的である裁判所の統計資料から読み取れる状況よりも、感覚的な印象を優先することは、裁判で明確な証拠を突きつけられながら、私の印象は違いますと言っているようなもので、法律家として極めて低レベルの議論としか良いようない。

(続く)

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