法科大学院等特別委員会の謎~その①

 例えばA会社で、社会で必要とされている高性能の製品Xを作成するために、会社の資金を相当投じてB機械設備を導入し、その機械設備を稼働・維持するためにも毎年費用がかかっていると仮定しよう。
 ところが、全く同じ製品Xを製造するC社のほうが質が高いと一般に評価されてしまった場合、A社としては何を分析する必要があるだろうか?

 B機械設備の稼働状況だろうか?
 B機械設備の担当者の変更だろうか?
 A社での製品Xの製造過程の変更だろうか?
 同分野でA社の製品を上回る品質の製品Xを廉価で生産しているC会社を批判することだろうか?


 
 私はいずも違うだろうと考える。

 A社が最初に重視すべき点は、自社のB機械設備で生産された製品Xの質が本当に社会が求める性能を満たしているのか、満たしていないのであればどの点においてなのかを明確にすることではないかと思う。


 上記の点をまずはっきりさせないと、何をどう改善して良いのか明確にならないからである。また品質に問題がなければ製造過程の問題ではなく、販売戦略の問題かもしれない等、A社の目的達成のための別の方策も見出しうる可能性があるからだ。

 したがって、仮にA社取締役会で、製品Xの問題が取り上げられた際に、 A社担当取締役が自社で製造された製品Xの質の確認もせずに、B機械設備に更に投資すべきだとか、B機械設備の担当者を変更すべきだとか、A社でのX製造過程を変更しようとか、C社を批判しよう等と提言した場合、おそらく他の取締役からは、「現状を確認もせずに、机上の空論を振り回すな!まず現実を見ろ!」、と批判されるだろう。そして、そのような提言しか出来ない担当取締役は、現状分析能力・問題解決能力がないとしてクビにされても仕方あるまい。

 さて、上記と同様の問題が、法曹養成課程に生じているように私には見える。

 かつて法科大学院推進派の学者達は、質を維持して多くの法曹を世に送り出す(未修者でも3年で法曹に必要な資質と知識を身に付けさせるよう教育できる)と豪語して多額の税金投入を必要とする法科大学院制度の導入を要望した。

 そしてマスコミも助長し、法科大学院制度は導入されたが、現状では予備試験ルートの受験生の方があらゆる法科大学院の卒業生よりも司法試験合格率で上回っている。

 また、大手法律事務所は率先して予備試験ルートの司法試験合格者を囲い込もうとしているし、裁判所・検察庁においても、予備試験ルート合格者を採用して問題が生じたという話は一切聞こえてこない。

 つまり、税金を大量に投入している法科大学院制度よりも、予備試験制度の方が優秀な法曹を産み出す傾向にあり、社会的に評価されていると言っても過言ではないのである。

 そうだとすれば、法曹養成の問題、法科大学院制度を考える上で、法科大学院卒業生の司法試験受験生の質がどういう状況になっているのか、という現状を確認することは当然必要なことになるであろうと思われる。

 司法試験受験生のうち、予備試験ルートの受験生はほぼ1割しかおらず、法科大学院卒業生が司法試験受験生の9割を占めるので、基本的には法科大学院ルートの司法試験受験生が司法試験採点実感で評価の対象にされているレベルに近いと考えて良いだろう。

 そして、司法試験の採点実感で、受験生がどの程度の答案しか書けていないのか相当程度明らかにされており、司法試験受験生の質は、かなりの程度まで分かるのである。そして、お読み頂ければ分かるが、採点実感では、とにかく基本・基礎すら出来ていない答案が多い、問題文を引き写していきなり結論が出てくる答案すらあるなどと、批判のオンパレードである。

 まあ、短答式試験を基礎的な問題に限定し(要するに簡単な問題に限定したということである)、さらに受験生の平均点を下回っても短答式試験に合格でき(ちなみに予備試験ルート受験生の短答式試験合格率は、99%以上である)、その中から2人に1人程度最終合格してしまうのだから、トップレベルは除いて司法試験合格者の全体的なレベル低下は避けられない。

(続く)

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