損保会社の調査はこわい~6(私の経験から その3-2)2020/03/30当事務所HP掲載記事を転載

さらに、損保側の証人が、平気で虚偽の返答を法廷で行うこともあります。

 ある証人は、保険金請求者が気道熱傷を負っているが、その程度は大して重いものではない、だから保険金請求者が気道熱傷で集中治療室に数日入院したような場合であっても、本人は火災直後からしゃべれたのだから軽症であり、十分放火は考えられるという主張を行いました。

 その証人は、弁護士からの主尋問に対し、気道熱傷を受けた人の事件の調査をいくつも担当したことがあると断言したうえで、気道熱傷の場合、挿管されたうえで患者は3日から~7日の間は気道洗浄を行うこと、その後に抗生剤を投与するという治療を行うものであり、重傷であれば通常は2~3週間は入院するものであって、その間はしゃべることはできないものだ、と自信たっぷりに証言しました。

 ところが、反対尋問では、私たちは、日本熱傷学会の気道熱傷に対する治療ガイドラインを準備しており、そのガイドラインには、気道熱傷の重症度の診断基準はいまだ確立されていないということ、気道洗浄を継続的に行うという治療手法はガイドラインに記載されていないこと、等をすでに確認していました。

 証人に対して、その点を突っ込み、医学的な根拠に基づいて話しているのか、それとも素人考えなのか、と迫ったところ、最後に証人は「素人考えなんですかね。そうおっしゃるんでしたら・・・」と白旗を上げました。

 ただし、これは、たまたま主尋問が行われた日と反対尋問が行われた日との間に少し間があったため、その間を利用して調査・準備ができたという幸運に恵まれたためにすぎません。気道熱傷に関する知見については、準備書面では争点になっておらず、もし主尋問に引き続いて、反対尋問をしなければならなかったとしたら、後に弾劾証拠としてガイドラインを出すことはできても、ここまで劇的に証人の信用性を崩すことはできなかったでしょう。

 逆に言えば、裁判官が日本熱傷学会のガイドラインを知っているとは思えないので、こちらが弾劾証拠を出せなかった場合には、裁判官が、事実と異なる気道熱傷に関する証人の証言を正しいものとして受け入れてしまっていたかもしれないというリスクがあるのです。

 仮にこの証人が記載した経歴欄の通り、多くの裁判で証人として証言し、損保会社が勝訴してきたのであれば、裁判所はこの証人を専門家として扱い、その証言を専門家の証言として安易に証拠採用してしまってきたという可能性が否定できないように思うのです。

 尋問期日終了後に、その証人が相手方の弁護士さんに「すみませんでした」と法廷の外の廊下で謝っている声を聴いたときに、私たちの反対尋問は効果を挙げたことは間違いないと改めて確信することができました。

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