かつて司法試験は約3万人程度の受験者で、合格者約500~600人、合格率2%であり、現代の科挙と呼ばれたこともあった。短答式試験で5人~6人に1人(上位20%前後)に絞られ、短答式試験を合格した者の中から論文式試験でさらに7~8人に絞られ、口述試験もあった。
近時司法試験の合格者は、1500人前後に落ち着いてきてはいるものの、問題は受験者数だ。
平成31年(令和元年)の司法試験受験予定者数は、4899名(H31.4.19法務省発表)である。昨年の受験予定者数であった5284名から400人近く減少した。
かつての司法試験に比べて、合格者数が3倍に増加した反面、受験者数は約85%もの大幅減少なのだ。
仮に今年の合格者が1500名程度だとすると、単純計算した合格率は約30.6%となる。ほぼ3人に1人が合格するのだ。
この点、受験者の大半が法科大学院卒業者だから、受験生のレベルが違うとの批判もあり得よう。しかし、受験生のレベルが多少違おうが、単純に合格率だけで計算すれば、15倍合格しやすくなっている状況で、かつてのレベルが維持できるはずがないと私は思う。
私が見る限り、短答式試験は部分点も設けられるなど点数を取りやすくする工夫もなされているほか、単純な正誤の選択肢も多く、以前に比べると明らかに簡単になっているし、合格点も全然高く設定されてはいない。だから、短答式試験で不合格の点数しか取れない受験生は、そもそも箸にも棒にもかからない。
例えば昨年の実績では予備試験ルートの受験生の短答式試験合格率は実受験者での合格率は99.5%なのだ。予備試験合格者は法科大学院卒業者と同レベルの学識を有すると予備試験で判断された者達だから、この合格率から見ても、近時の短答式試験の合格は極めて容易であることは理解できよう。
こんなザルのような短答式試験では、足切りの選別機能を果たすことにもなっていないようにも思われるが、豈図らんや、法科大学院ルートの受験生の短答式試験合格率は実受験者での合格率で67.3%。つまり、法科大学院ルートの受験生のうち3人に1人が、どうしようもない点数しか取れていないのだ。
これは、受験生が悪いのではない。法科大学院にきちんとした教育能力がないからである(一部の合格率の高い法科大学院の存在は否定しない。制度全体としての話である。)。
さて、今年の受験予定者のうち4506名が法科大学院ルート、393名が予備試験ルートだから、仮に昨年度の実績と同様だ考えると、
法科大学院ルートの昨年の受験予定者5284名→実受験者数4805名(約90.9%)なので、今年の実受験者数は4506×0.909=4096名程度と考えられる。そのうち、短答式試験合格率が昨年並みだとすると、論文試験を採点してもらえる法科大学院ルートの受験生は、4095×0.673=2757名と試算できる。
予備試験ルートの昨年の受験予定者442名→433名(約98%)なので、今年の実受験者数は393×0.98=385名と考えられる。そのうち、短答式試験合格率が昨年並みだとすると、論文試験を採点してもらえる予備試験ルートの受験生は385×0.995=383名
だとすると、2757名+383名=3140名で、約1500名程度の論文試験合格を目指すことになる。
平たくいえば、およそ2人に1人が論文試験に合格だ。
最高裁は公には認めてはいないが、裁判所から弁護士会に対し、若手弁護士のレベルダウンがひどいので、講師はいくらでも派遣するから若手向けの研修をやってくれと依頼されているという非公式のお話があることは、実は何度も聞いている。かつて法的知識がなければまともに書けなかった2段方式の起案も司法研修所では行われていないと聞くし、2回試験も部分点が取りやすいような構成に変更されたと聞いている。
司法試験も2回試験もレベルは落としていませんなどと建前ばかり振りかざしていたら、司法全体が転ける。
合格者数ありきの合格判定ではなく、現実をきちんと見据えて、厳格に司法試験と2回試験を実施すべき時期に来ているように私は思う。