没後30年 鴨居玲展~踊り候え~が、現在伊丹市立美術館で開催されている。
http://artmuseum-itami.jp/exhibition/current_exhibition/10915/
素直に、必見の展覧会だと思う。
ただし、自分の精神状態がちょっと不安定かもしれないな、と感じる方には、お薦めはしない。鴨居玲の作品から受ける重さに耐えきれない可能性があると思うからだ。
私は10月に金沢で、この展覧会を見た。
土曜日で兼六園などの人出は多かったようだが、幸い、展覧会は空いていた。
金沢は鴨居玲の生誕の地であることもあって、金沢市にある石川県立美術館には、鴨居玲の作品が多く所蔵されている。
そのおかげもあってか、石川県立美術館では、この鴨居玲展と同時にもう一つの鴨居玲展と題して、所蔵する鴨居玲の作品を展示しており、まさに鴨居玲を堪能できる贅沢な環境だった。その一方、多くの鴨居作品に触れすぎて、随分疲労もしたようにも記憶している。
学生の頃、わざわざバイクで広島県立美術館まで見に行った「教会」も展示されていた。「教会」を題材にしたいくつかの絵も興味深い。
最初期の「教会」は、存在する教会を写実的に描いたもののように見える。しかし、時を経るに従い、鴨居玲の描く「教会」は、入口も出口もそして光を教会内に取り入れる窓さえも失っていく。まるで、石から切り出したかのような教会が描かれるのだ。
誰もその中に入れず、誰もその中から出ることのできない教会。
その中に光さえ届かない、堅い石造りの教会。
鴨居にとってキリスト教や信仰は、このように見えたのか。
その後、教会は、不安定に傾き、あるいは地中に埋没し、さらには空中に浮遊していく。巨大な十字架のような影を落とす作品もある。背景も陰鬱な暗度の高い色調の作品や、悲しみを感じる青で描かれた作品もある。青の背景で描かれた教会には、教会自体もその青に染まり、空間に同化しやがて消え失せる過程であるかのような作品もある。
暗い背景の中に、忽然と佇む教会の向こうの地平に明るい光の兆しのようなものが描かれた作品もある。しかしその光は、遙か向こうにある。救いにつながるかもしれないその光には、おそらく、人の手が届くことはないのだ。
いくつかの「教会」作品を一度に眺めることができるだけでも、価値があるように思う。
(続く)
※絵に対する感想は、坂野個人の感想であり、鴨居玲本人や高名な解説者の方が全く違う意味で解説をされているかもしれません。あくまで絵画好きの素人の感想とお考え下さい。