日弁連・村越会長の声明について~2

(続き)

 司法審意見書の予想が大ハズレに終わっている点に関して、松葉会長は、それでも掬いきれていない需要はあるとお答えされたので、私は、会長の仰る需要は、「100円の新聞を、10円なら新聞を読みたいという人がいるから、新聞の需要はたくさんあるというのと同じではないか」と意見させて頂いた。

 会長は、その10円で新聞を読みたい人も需要であり、その需要を顕在化させる手段を考えること(保険などの利用も含めて)が重要だとの見解を示された。そのお言葉に頷いている副会長も複数いたし、もっともな御意見ではあった。理想論を語るなら、という限定つきだが。

 考えて見ると、会長の視点には、何故、新聞社が自社の新聞を一部100円と設定したかについての考察、そして弁護士といえども職業であるという大前提が抜けているように感じた。
 新聞だって同業者がいるから当然、価格競争も行われている。もちろん利益を出さなければ、会社は維持できない。資本主義経済である以上は当然だ。価格競争だけ考えれば、新聞の値段は可能な限り安くしたほうがいい。しかし、新聞を一部10円にできないのは、新聞を作るにもコストがかかっているから、そして一部100円にしなければ採算が取れないからである。
 すなわち、サービスや商品には、それに見合った適正な価格というものが、当然ある。10円の新聞購読希望者を敢えて取り込もうとしない新聞社は、その適正な価格を守っているだけなのだ。裏を返せば、100円を出して新聞を読みたいという希望を持つ人以外は、新聞社から見れば、需要とは言えないことになるはずだ。

 新聞社の取締役会で、「10円で新聞を読みたい人も当社の新聞の潜在的需要と言えるから、それを取り込む努力をするべきだし、それを見越して新工場を建設し、記者も増やそう。その需要を顕在化させることが重要だ。」とか、自動車会社の取締役会で、「10万円であれば新たに新車を買いたいという人は、全人口の9割に上るので、潜在的需要はいくらでもある。だからどんどん新従業員を雇用し、新工場を建設して生産台数を増やそう。その需要を顕在化させることが重要だ。」なんて発言したら、その需要を開拓する具体的な方法を提示しない限り、役員を解任されるんじゃなかろうか。

 確かに、弁護士が公務員であり、社会的インフラとして、提供するサービスに見合わない低価格で、サービスを提供するという制度なら話は分からなくもない。弁護士全ての生活が保障されており、老後の生活も見通しが立つなら、それもありかもしれない。

 しかし、弁護士は公務員ではない。だれも生活を保障してくれない。給与所得者のように会社が健康保険や年金保険料の半分を負担してくれることもないし、退職金制度もなければ、老後は国民年金だ。なにより弁護士だって職業だ。この仕事で稼いだお金で生活し、子供を育てなければならない。提供するサービスに見合わない対価しか得られない需要を潜在的需要があると強弁して、その需要を開拓すべきだと言われても、具体的方策なんかあるのだろうか。随分前から潜在的需要論はあったし、日弁連も各単位会もその開拓に躍起になっていたはずだが、現実に需要が大きく開拓された具体例を知らないぞ。

 例えば、これまで人類が掘り出した金の総量はおよそ17万トンくらいであるらしい。一方、海水には約50億トンと、桁違いの量の金が溶け込んでいるといわれている。しかし、海水から金を取り出そうとする会社はない。現在の技術では、採算が取れないからだ。潜在的需要論は、海水には大量の金が溶け込んでいるから、その方法さえ見つければ大丈夫だ、というのと何ら変わらない。

 困っている方々にもれなく法的サービスを提供する、という目標自体は誤りではないように思う。その意味で、会長のお話は、分からなくもないし、それを目指すべきだという理想論は、あっても良いと思う。
 しかし、それは法的サービスを提供する側が食うに困らない場合に、初めて実現可能となる理想論である。古き良き時代の弁護士先生なら、それでも良いのだろうが、現状はどうか。

 平成元年から10年まで10年間で弁護士数は2764名増加、平成11年から20年まで8736名増加、平成21年から今年まで7年間で9507名増員され増員ペースは収まっていない。しかも、裁判所に係属する事件数は減少だ。この状況下で、仕事を開拓しろ、競争しろと言われる現在の弁護士に、そこまで求めるのは無理なんじゃないだろうか。

 村越日弁連会長、執行部の方々(さらには、法曹養成制度改革顧問会議の顧問の先生方や、アンケートを分析した推進室もそうかな)、餅を絵に描いて見せて頂くことには飽きました。仰っている潜在的需要とやらを、早く顕在化して見せて下さい。

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