ライブの最後の曲は、私も大好きな「サイド・バイ・サイド」だった。私が勝手に想像するに、一昨年に永遠に分かれることになってしまった世界で一番大事な人と、花岡さんが一緒に歩けるようになったときの想いを曲にしたものなのかもしれない。
この曲が作られたときには、一昨年の突然のお別れ、少なくとも花岡さんがブログで書かれていたような形でのお別れは、想像すらしていなかったはずだ。
大切な人と一緒に歩くことができたものの、その輝いていた時間に突然の終わりが訪れ、その大切な時間にはもう想い出の中でしか戻れない。そして、時という残酷な存在は、人から痛みを引き受けていくのと引き替えに、その想い出をもゆっくりと、しかし確実にセピア色の霧に包み、色褪せさせていくのだ。
そんな今、花岡さんはどのような気持ちでこの曲を歌うのだろう。
ゲストの板倉雅一さんの、ピアノの優しいイントロだけで、私はもう、ダメになりかかっていたが、花岡さんの歌うサビの部分
「いつまでも忘れないで
初めて逢ったあの日の二人を
いつまでもはぐれないで
つないだ指と指の温もり
忘れずに」
で、やはり私は、ダメになった。
いつまでも、一緒に同じ夢を見ていたかった。
いつまでも一緒に歩きたかった。
ずっと大事にしてきた音楽をおいてまでも、その人との時間を大切にしたかった。
それなのに、、、、
見事にもう一度、涙ぼろぼろの中年のおっさんの出来上がりである。
ライブが終わり、ようやく鼻水を止めて落ち着いた私は、友人との待ち合わせもあったため早めに帰途についた。
つきなみの言葉しか出ないが、
素晴らしかった。
本当にいいライブだった。
来て、本当に良かった。
心の底からそう思った。
そして、何故だかわからないが、
「その道は、苦しいし大変だけれど、心を汚さないようにして生きていくほうが、つらくてもきっと素晴らしい。」
そういう心の種火を、ぽっと小さく自分の中に、ともしてもらえたような気になった。
ライブハウスの出口で、お知り合いの方々だろう、板倉雅一さん、そして18年ぶりのライブの緊張感から解き放たれた花岡幸代さんらがにこやかに談笑されていた。花岡さんはやはり小柄で、そして笑顔の似合う女性だった。
どうしても一言お礼が言いたくて、私は、花岡さんに、「素晴らしい音楽を、ありがとうございました。」などとお伝えした。もっと気の利いたことが言えれば良かったのかもしれないが、そのときの私には無理だった。
花岡さんは、私を見て、「あの、ブログの方ですよね」と言ってくださった。
私は、以前ブログに花岡さんのことを書かせていただいたこともあるし、花岡さんのブログにコメントさせていただいたこともある。どちらの意味かまではお聞きするだけの余裕はなかったが、私としては、すばらしい時間を分けていただいたことをお伝えできただけでも良かった。
そんな花岡さんの新曲CD「十六夜」が出されている。
私はライブ会場で購入できたが、まだ、アマゾンでは出ていないようだ。
購入方法がわかればまた、私のブログでお伝えすることができるかもしれない。
もし花岡さんの音楽に興味をお持ちの方は、復刻されたアルバムも今なら入手できるので、是非聞いていただきたい。
そして、できるならライブで花岡さんの生の歌声に、是非直接ふれていただきたいと思っている。
このような音楽を聴くことのできる幸運を逃してしまうのは、あまりにも惜しい。
真剣にそう思うからだ。
(この項終わり)