検察修習に関するアンケートは法務省刑事局の総務課長の説明である。
・検察実務修習開始時において、検察実務修習を行う上で支障となるほどに不足している知識・能力があるかという質問に対して、結局のところ、51庁全てが「思う」という回答になっておりまして、その中身を棒グラフにあらわしてありますけれども、特徴的でありますのは、上から7つ目「事実調査に関する基礎的知識・理解」といったところは、赤で示してあります「大部分」としている庁が多く、また「半分程度」の修習生が欠いているのだと言っている庁が23庁にも上るということで、そういう意味では、非常に多いと言える部分かと思います。あるいは上から4番目の「検察官の捜査・公判活動や検察事務に関する基礎知識」についても同様に、「大部分」の修習生が欠いているとする庁の数や、「半分程度」の修習生がそれを欠いている、不足しているとする回答をしている庁の数が多いということが見てとれます。
(坂野のコメント)
司法修習生が、検察実務修習開始時に実務修習を行う上で支障になるほど知識・能力が不足しているかという問です。全国の全ての検察庁で、司法修習生の知識・能力不足を指摘しているという点は重大です。しかも、ただの知識不足ではありません。司法修習を行う上で支障になるほど不足しているというのですから、恐ろしい。この指摘からも、司法試験のレベルを落として、多くの受験生を合格させていることは容易に想像がつきます。
また、事実調査に関する基礎的知識・理解や、検察官の捜査・公判活動や検察事務に関する基礎知識などの不足が指摘されていますが、論点主義だと批判された予備校教育ならいざ知らず、実務家教官も招いて理論と実務の架橋を行っているはずの法科大学院卒業生がこんな問題を起こしているとは一体どういうことなのでしょうか。
・検察実務修習の開始に当たっては、全ての庁が導入教育というものをまず実施しておりまして、その期間は「1週間未満」とするところもあれば、「2週間以上3週間未満」とする庁もある
どうしてこういうかリキュラムを実施しているかということを書いてもらった部分について紹介しますと、事実認定に関する基本的な検討方法や、実務修習開始時に必要な知識等を修得していない者が多いため、こういった理由でカリキュラムを設けているのだということになっております。
(坂野のコメント)
要するに、法科大学院を卒業し司法試験に合格しても、実務修習を受けるだけの知識がない者が多いので、やむを得ずそこを教えてからでないと実務修習に耐えられないということなのでしょう。質・量ともに豊かな法曹を目指し設立されたはずの法科大学院はどうしたのでしょうか。本当にきちんとした教育と卒業認定がなされているのであれば、何故このような惨状が生じているのでしょうか。
・現在実施している導入教育により、不足している知識・能力を補うことができていると思うかというと、「思わない」とする庁が大多数
(坂野のコメント)
検察庁の涙ぐましい努力にもかかわらず、司法修習生は司法修習を受けるために必要な知識や能力が不足したまま、実務修習に突入しているということが明らかになっています。それではどんなに素晴らしい修習を施しても、意味がありません。因数分解すら覚束ない者に、微積分をどんなに丁寧に教えても理解できるはずがありません。法科大学院の卒業認定と司法試験がザルになっている可能性をを疑わざるを得ません。
・実務修習開始前に、一定期間、司法研修所による統一的な導入教育を行う必要があると思うかという問いを立てております。これについては、全ての庁が「思う」と答えております。
・一定期間、司法研修所による統一的な導入教育を実施して、実務における手続の流れとか、事実認定に関する基本知識等についての教育を行う必要があるのだと考えている庁が見られる
(坂野のコメント)
これは、もう検察庁からの悲鳴といっても良いのではないでしょうか。せめて実務修習に耐えられるだけの知識と能力を身に付けてから実務修習に来て欲しいということでしょう。私の記憶では、確か、旧制度における前期修習に代わる教育まで法科大学院がやる、やれると、法科大学院側は豪語していたはずですが、結局この体たらく。誰が責任を取ってくれるんでしょうか。
・青い部分の31庁は修習生全てに公判修習を実施しているという答えでありますが、その余の部分は、全ての修習生には実施できていないというグループでありまして、8庁につきましては捜査実務修習をある程度終えた者のみ、5庁では希望者のみ、3庁については全く実施していないという状況になっております。実施していない理由を見ていきますと、結局のところ、公判実務修習に割く時間がないのだということになっております。
・円グラフは、選択型修習期間の期間について、適当と思うかどうかに関するグラフでありまして、期間について適当だと「思わない」という庁が46庁、90%以上に上っておりまして、では、どのくらいの期間が適当なのかについて、円グラフで表しているわけであります。これについては、今の2か月よりは短くていいのではないかと、こういう意見になっているということでございます。その理由を見ますと、ここが少し注目する必要があると思っているのですけれども、選択型修習の2か月を全て選択型修習に当てている修習生は少数と思われるため、これはそうなのですが、その下でありますけれども、プログラムの多くは、本来全ての修習生が知識等を得ておくべき内容であって、全修習生を対象とした方が有意義だという意見が出ております。
(坂野のコメント)
司法修習期間を短くした弊害が出ているようです。本来全ての修習生が知識などを得ておくべき内容であるにもかかわらず、選択型修習として一部しか学べないならば、司法修習は片手落ちといわれても仕方がないかもしれません。
・検察庁で提供している修習の意義について、必ずしも意義があると思われないというのが43庁に上っている
・現在の検察実務修習により、必要な技法・思考方法を修得させられていると思うかという問いであります。「思わない」と回答した場合には、技法・思考方法を修得させるためには、どの程度の実務修習期間が追加で必要になると思うかという問でありまして、その結論といいますか、回答結果は、修得させられていると「思わない」というのが48庁、94.1%に上っていて、それらを修得させるために必要と考えている期間としては、「1週間未満」が5庁、「1~2週間程度」が12庁となっている。一方、「1か月以上」としているところも19庁に上っているということでございます。
その理由を見てまいりますと、導入教育に時間を取られてしまって十分な時間がないとか、公判実務を指導することができていないといったことが理由として挙げられております。
(坂野のコメント)
おそらく、検察庁としても修習を担当している以上、今の司法修習期間でも、きちんと修習生に実務家として必要な技法・思考方法を習得させているといいたいはずです。しかし、現実には94.1%の検察庁で、それはできていないと述べているのです。これはとても恐ろしいことではないでしょうか。こんなことなら、実務修習に耐えられるだけの知識と能力を身に付けさせることができない法科大学院に莫大な税金を投入するより、きちんと司法試験を実施して、合格してきた者にしっかりと費用を時間をかけて立派な法曹に育てる方がよほど経済的でしょう。
・最後に、7ページから8ページは、修習生の状況に関するアンケート結果であります。これをどう見るかはなかなか難しいのでありますけれども、7ページの下ですと、旧修習と比べて、修習生の資質や能力に大きな差があると思う、半数の庁がそう言っているということが出ております。
(坂野のコメント)
当たり前といえば当たり前ですが、だめ押し的なアンケート結果です。毎年2000人も合格させる一方、法科大学院志願者は激減の一途です。合格者が多いまま、志願者が少なくなれば全体としてレベルダウンすることは当然です(何度も申しあげていますが個々の司法修習生に優秀な方がいらっしゃることは否定しません。あくまで全体としての話です。)。
問題は、受験生や司法修習生にあるのではありません。むしろ、レベルダウンが明らかなのに司法試験合格者を絞らないこと、法科大学院が安易な卒業認定を改めきれていないことにあるようにも思います。
国のため、国民の皆様のための司法制度改革を目指すならば、国民のニーズに応える優秀な法曹を生み出すべきです。そして、優秀な法曹であることを前提に、裁判・弁護士等を、使いやすいように制度を作っていくべきなのです。司法制度改革は法科大学院維持のためのものであってはならないはずです。
(続く)