法曹養成制度検討会議が、パブコメを経て6月6日にとりまとめ案をネットで公表している。
先日、法曹人口問題全国会議のシンポジウムで、法曹養成制度検討会議の委員でもある、和田吉弘弁護士のご報告を聞く機会に恵まれた。
公表されている議事録からもお分かりの通り、法曹養成制度検討会議は多くの委員が法科大学院関係者・擁護者であり、現実に起きている問題点から目を背け、法科大学院維持の結論ありきで議論を進める中、和田委員は、法曹養成制度検討会議の中で現実を踏まえた的確な御意見を主張されていた唯一の存在と言っても過言ではない。
このように書くと、どうせ、弁護士だから弁護士の既得権擁護の発言だろうと仰る御仁もおられるだろう。
しかし、和田委員の経歴をご覧頂きたい。
和田委員は、東大法学部卒業後、東大大学院修士課程在籍中に司法試験に合格され、同大学院博士課程を単位取得退学されたのちに、司法修習生を経て、明治学院大学法学部で教鞭をとり、その後東京地方裁判所で裁判官を経験されたのちに青山学院大学大学院法務研究科(法科大学院)教授を務められた方だ。
実務も法学研究も法科大学院の内部も熟知されている方なのだ。
その和田委員が、意見書を第12回の法曹養成制度検討会議に提出されているが、この意見書の全てをHPに掲載することはできなかったそうだ。
上記意見書の主要部分をまとめた書籍が、今度発売される。
緊急提言「法曹養成制度の問題点と解決策」(花伝社1000円:税別)
である。
シンポジウム会場で先行販売(?)されていたので早速買い求め、帰りの新幹線の中で読んだが、現実を踏まえた的確な問題点の指摘と、その解決策、そして法科大学院の驚くべき内実にも触れられていて、コンパクトながら極めて読み応えのある本だった。
そして改めて思った。当たり前のことを当たり前として認めることが、どうして法曹養成制度検討会議では困難なのか。そして法曹養成制度検討会議のメンバーとして、もっとも現場を知る法曹三者のメンバーがほぼ排除されており、法科大学院関係者・導入賛成者が多数を占めているのは、何故なのか。
そりゃぁ、自分の作った制度が失敗だったなんて誰も認めたがらないぞ。特にプライドのお高い学者の先生だったらなおさらだ。そんな委員ばかり集めて、「有識者の意見です!」と言い張っても、利害関係人による一方的な意見に偏ることくらい誰だって分かるだろうに。
しかも、学者の委員は、実務の現実を知らないことがほとんどだ。現実を知らない人に制度を作らせても、良い制度ができる可能性はまずない。
数々の問題点が発覚しながら、未だに理念は正しいと言い張って、司法の将来を良きものにするという目標ではなく、法科大学院維持だけを目標に全力で取り組んでいる法科大学院擁護派の委員たちは、この和田委員の意見に対して、理念正しい・・・程度の抽象的反論はできるかもしれないが、おそらく具体的且つ説得力のある反論はできないだろう。
例えて言えば、愚か者には見えない服を着ていると信じて行進する裸の王様に対して、堂々と「王様は裸だ!」と喝破した本といっても良いのではないか。
この和田委員の意見を読んでも、態度を変えず、「この服は愚か者には見えないのだ」と言い張って、裸のまま行進を続けている法曹養成制度検討会議のメンバーの意識の偏り具合が、よく分かるはずだ。
法曹養成に興味ある方々には、是非ご一読をお勧めする次第である。