会社法に続いて、参観を許された授業は、民法Ⅴだった。
民法Ⅴと急にいわれても、1044条もある民法のどの部分なのかすぐには分からない。未だに権威ある基本書であり、S弁護士が修習をしたどの裁判官室にもあったと記憶している我妻栄著、「民法講義」なら、総則がⅠ、物権がⅡ、担保物件がⅢ、債権総論がⅣ、債権各論がⅤの分類だったように思うが、仮に債権各論だとしても相当範囲が広い。
新世代の基本書のひとつといわれ、(立法事実がないかもしれないにもかかわらず)民法改正に尽力中の内田貴著「民法」なら、確か、総則・物権総論がⅠ、債権各論がⅡ、債権総論・担保物権がⅢ、親族相続がⅣで出版されていたはずだ。内田先生の教科書の分類なら、民法Ⅴは??ということにもなる。
しかし、S弁護士の疑問は、大して思い悩む必要もなかった。講義の前に、教員の方がレジュメを配布して下さったので、あっさり解消したのだ。どうやら、このロースクールでいう民法Ⅴは、不法行為を扱うようなのだ。
ところが、不法行為は個人的には相当難しい分野だという印象がある。S弁護士が受験時代に入れて頂いていた「ニワ子でドン」という勉強会(今思うと、合格率2%時代~東大・京大出身の受験生でも15人に1人くらいしか合格しなかった時代に、参加者のほとんどが最終合格したという奇跡的な勉強会だった。中心的な存在だったT先生は今の京都弁護士会の副会長でもある。)の中でも、不法行為の辺りは、理解が難しく、勉強会でも議論がいろいろあったような記憶がある。
果たして、未修で半年間勉強しただけの院生が果たして不法行為の講義を理解できているのだろうか。未修なら民法の総則も知らない状態で法科大学院に入学している可能性もある。そんな状況で不法行為といったって、理解不能である可能性も高い。理解しやすい授業をする予備校で、集中的に半年くらい民法をやれば民法も大枠くらい分かるかもしれないが、従来の大学の講義であればほぼ無理だろう。
いや、確か、ロースクール導入を求めていた佐藤幸治氏は、大学だって予備校のような授業をやろうと思えばやれるのだ、と予備校を見学したこともないくせに、国会の委員会の中で堂々と発言していたと記憶している。ひょっとしたら、法科大学院ではS弁護士の知っている大学の講義と違って、物凄く分かりやすい指導ができるようになっているのかもしれない。逆にいえば、そうでなければ、未修生の10月時点で、不法行為をカリキュラムに加えるはずがないだろう。
「見せてもらおうか、大学教授が学生に法律を理解させる実力とやらを!」
どこかで聞いたことのあるような、セリフを再度唱えながら、S弁護士は民法Ⅴの授業参観を開始することになる。
(続く)