先日、ホームラン答案の話をしたが、それと似て非なるものに、サヨナラ答案と言われるものもあった。
何もサヨナラホームランという劇的な逆転の一打というわけではない、その一通だけで不合格を決定づけるだけの答案、すなわち、その年の受験は終わり(サヨナラ)という、悲劇の答案なのだ。昔の司法試験は、実力者がそれこそ合格の順番待ちをしているような状況であり、大きめの失敗一つで十分サヨナラ答案となりえたのだ。
実は、私もサヨナラ答案を書いてしまった、苦い経験がある。確か、司法試験論文式を3度目に受験したときだったと思う。当時の商法の問題は、会社法から1問、手形法から1問という慣例が続いていた。
先に手形法の答案を書き終え、思ったより手形法に手こずったため、会社法の設問が今ひとつピンと来ないまま時間に追われて書き始めてしまったのが躓きの最初だった。
時間に追われていたため、ろくな答案構成もできず、書いて行くうちに形になるやろと思って、書いて行ったのだが、答案用紙の表面を書き終え、裏面の1/4まで来たところで、どうも、これは間違った内容を書いているような気がしてきたのだ。
その気持ちで、問題と答案を見てみると、やはり違う気がする。
こういう時は不思議だ。
なんか変だ
→ひょっとして間違っているのか?
→間違っているような気がする
→やはり間違っている気がする
→間違っている
→間違っているに違いない!
→絶対に間違いや!!
とあっという間に思考が巡る。
間違った答案を長く書いても、全く評価されない。ここは思い切って書き直すしかない。時計を見ると時間は残り15分しかない。
心の中で泣きながら、ここまで苦心して書いてきた答案に×印をつけて、新しく書き始める。
しかし悲劇は終わらない。
新しく書き始めた答案も、途中で読み直すと違っている気がする。×をつけてしまった前の当案で良かったような気がしてきたのだ。
ここでも先ほどと同じように、疑いはあっという間に確信に変わる。
論文試験初日の3科目目という、ほとんど心神耗弱状態だから無理もないが、もう頭の中はパニックを越えてアナーキー状態である。
「うわ~、助けてくれぇ!!!!」
と心の中で叫ぶ声が聞こえる。もはや心の中では号泣状態だ。
それでも、当たり前だが試験会場では誰も助けてくれない。
その後の記憶は、余り残っていない。確か、新しく書いた答案部分に×をつけ、最初につけた×印を取り消しますと書いて、 続きを書いたように思うのだが、余りのショックで記憶が飛んだのか、今思い出そうとしても、どうしても思い出せない。
これがサヨナラ答案という奴か・・・・・。
そう思って、足取り重く家路についたことは覚えている。やけに夕陽がまぶしく、下宿まで時間がかかったような記憶がある。
その年の成績は、当然のごとく、商法は最低の点数評価であった。
サヨナラ答案の破壊力も凄まじいものだった。