「13階段」で江戸川乱歩賞を受賞した、高野和明氏の短編集である。
未来を突然見てしまう能力を持った、山葉圭史を軸に、5つの短編が織り込まれている。
とはいっても、山葉圭史が中心的な役割を果たすのは、第1短編「君は6時間後に死ぬ」と、最後の短編「僕は3時間後に死ぬ」だけであり、あいだに挟まれた3編の主人公は、プロットライター、女子大生、ダンサー志望のアルバイトである。
せっかくの題名なのだが、私は中間に挟まれた3編が気に入った。
特に、第4短編「ドールハウスのダンサー」は、私のお気に入りになりそうだ。先の見えない競争を続けながらも、競争相手を陥れることなく、きれいに生きていきたい、と考える主人公。そしてデジャビュのようによぎる光景。夢を失った女性がたった1人のゲストのために作った美術館。
これ以上は、その作品については触れずに、実際に手にとってお読み頂く方が良いかと思う。
私の拙い文章のせいで、せっかくの作品を台無しにしてしまうのが怖いから。
そして夢を追いかけたことのある方なら、きっとお分かりいただける部分があると思うから。
講談社文庫 676円(税別)