プロセスによる教育ってなんなんだ?~その3

(続きです)

「試験において,判例が扱っている問題について判例とは別の角度から検討を求めたり,判例に反する立場からの立論を試みることを求めたりすると,全く歯が立たない受験生が多く認められる。察するに,判例についての表面的な理解を前提に,その結論を覚えて事例に当てはめるということはできても,その判例がそのような結論に至る論拠はどこにあるか,反対説の根拠は何か,その違いはどこからくるのかといったより根本的なことが理解されていないように思われる。基本的な制度や判例の根拠をきちんと考えることを習慣づける教育が求められる。(民訴法)」

「刑法総論・各論等の基本的知識の習得や理解が不十分であること,あるいは,一応の知識・理解はあるものの,いまだ断片的なものにとどまり,それを応用して具体的事例に適用する能力が十分に身に付いていないことを示しているものと思われる。(刑法)」

「刑法の基本的事項の知識・理解が不十分な答案や,その応用としての事例の分析,当てはめを行う能力が十分でない答案も見られたところである。(刑法)」

「関連条文から解釈論を論述・展開することなく,問題文中の事実をただ書き写しているかのような解答もあり,法律試験答案の体をなしていないものも見受けられた。(刑訴法)」

「本件での具体的な事実関係を前提に,要証事実を的確にとらえ,伝聞法則の正確な理解を踏まえた論述ができている答案は少数にとどまった。(刑訴法)」

「司法警察員により作成された捜査報告書の証拠能力を問うているにもかかわらず,これを無視し,録音テープであるから知覚,記憶,叙述の過程に誤りが入り込む余地はなく,当然に非伝聞証拠であるなどと断じた答案まで見受けられた。このような答案については,厳しい評価をすれば,基本的知識,事実分析能力及び思考能力の欠如を露呈するものと言わざるを得ない。(刑訴法)」

「決定的に重要な事実を指摘して,証拠能力の有無を検討している答案は少数であった。(刑訴法)」

「今後の法科大学院教育においては,手続を構成する制度の趣旨・目的を基本から正確に理解し,これを具体的事例について適用できる能力,筋道立った論理的文章を書く能力,重要な判例法理を正確に理解し,具体的事実関係を前提としている判例の射程範囲を正確にとらえる能力を身に付けることが強く要請される。特に,確固たる理論教育を踏まえた実務教育という観点から,基本に立ち返り,刑事手続の正常な作動過程や刑事訴訟法上の基本原則の実務における機能を正確に理解しておくことが,当然の前提として求められよう。(刑訴法)」

「手形の不渡りという事実が現れているにもかかわらず,それが支払停止に該当するかどうかを検討せずに,破産手続開始決定や自己破産の申立てといった事実から直ちに支払不能を認定したり,代物弁済の時点で既に支払不能となっていると認定する答案が少なからずあった。条文や基本的な概念の正確な理解及び具体的事案を的確に把握する能力を養うことの重要性が感じられた。(倒産法)」

「総じて,実体法上の検討が十分に行われていないという印象を受けた。(倒産法)」

「争点について検討する能力のみならず,主張を法律的に構成する能力を養うことの必要性が感じられた。(倒産法)」

「具体的事案を的確に把握して,当事者にとって最適な解決方策を検討する能力が不十分と感じさせられた。(倒産法)」

「条文に則した勉強がされていないのではないかとの危惧を感じた(倒産法)」

「同法第56条が「ないものとみなす。」と規定している意味を理解しない答案も散見され,基本的知識を具体的事案に適用する訓練が不十分な受験生が一定程度存在することも実感された(租税法)」

「経済法の問題は,不必要に細かな知識や過度に高度な知識を要求するものではない。経済法の基本的な考え方を正確に理解し,これを多様な事例に応用できる力を身に付けているかどうかを見ようとするものである。法科大学院は,出題の意図したところを正確に理解し,引き続き,知識偏重ではなく,基本的知識を正確に習得し,それを的確に使いこなせる能力の育成に力を注いでいただくとともに,論述においては,論点主義的な記述ではなく,構成要件の意義を正確に示した上,当該行為が市場における競争へどのように影響するかを念頭に置いて,事実関係を丹念に検討し,要件に当てはめることを論理的・説得的に示すことができるように教育してほしい。(経済法)」

「残念ながら,期待していた水準に達している答案は多くはなかった。論点や出題の意図を理解していないと思われるもの,論点に関するキーワードが不完全な形で記載されており,理解不足が露呈しているものなどが多数見られた。(知財法)」

「従前から指摘していることであるが,まず基本的事項につき,単に記憶させるのではなく,十分に理解させるような教育をお願いしたい。(中略)今回の答案審査に当たり,基本的事項を十分理解することなく記述していると思われる答案が多かったので,特に強調して指摘する次第である。(知的財産法)」

「必要な論点の抽出が非常に不十分な答案が相当数あり,期待される水準に達していた答案が予想以上に少なかった。(労働法)」

「労働法の基本的理解に欠けると思われる答案も散見された。(労働法)」

「法令・判例・学説に関する基本的知識については,正しい理解に基づき,かつ,網羅的に習得することを更に目指していただきたい。(労働法)」

「環境法学習においては,基本的考え方や基本的仕組みを理解することは重要であるが,それは言わば「点」でしかない。それが具体的制度とどのように関係するか,どのような場面で適用することができるかを学習することによって,「点」を「面」に発展させることができるのである。法科大学院においては,単なる仕組みの解説にとどまるのではなく,このような視点に留意していただけると有り難い。(環境法)」

「全く理解や知識がないためか,「他国に損害を与えてはならない」という「常識論」しか記載されていない答案も目立った。(国際公法)」

「第1問,第2問のいずれについても言えることだが,答案に問題を改めて記載する例が少なからず見られたが,問題を写したとしても加点されず,意味がないばかりか,答案用紙の紙幅が足りなくなって論ずるべき点の記載が不十分になるなど弊害にもなる。解答は長く書く必要はないが,結論だけでなく結論に至る各自の理解を記載してもらわないと加点されないので,その点は注意してほしい。(国際公法)」

「①国際私法・国際民事訴訟法・国際取引法上の基本的な知識と理解を基にして論理的に破たんのない推論により一定の結論が導けるか,②設例の事実からいかなる問題を析出できるか,③複数の法規の体系的な関連性を認識しながら,析出された問題の処理に適切な法規範を特定できるか,④法規範の趣旨を理解して,これを設例の事実に適切に適用できるか,である。
 本年度は特に上記②と③の基準から見て不十分と言わざるを得ない答案が目立った。逆に言えば,これらの基準を満たす答案であれば「優秀」答案となる可能性が高くなる。④の点についても法規範の趣旨が十分に理解されていないと見られる答案,換言すれば,文理にのみ着目して規定の単純な当てはめだけを行う答案が多かった。その結果,規定の立法趣旨などに言及する答案は,相対的に,少なくとも「良好」となる可能性が高いと見られる。そして,規定の単純な当てはめ作業に終始しつつも,少なくとも①の基準をおおむねクリアーしている答案が,多くの場合,「一応の水準」答案となるのではないかと見られる。(国際私法)」

法科大学院を擁護される方にお聞きします。理想的なプロセスによる教育の結果がこれですか?!

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