ある事件の顛末~2

 よく動くはずの国選弁護士がどうして、被害者からの連絡待ちなんだろう。連絡待ちなんてしているうちに起訴されたら、告訴取り下げができなくなるじゃないか。やり方なら色々ある。この事件で示談と告訴取り消しは最重要なはずだ。少し国選の弁護士に疑問を感じた。

 しかし、私に費用を掛けるくらいなら示談のお金に回した方が示談可能性が高まるし、仮に国選弁護士がきちんと行動していた場合に、私が横やりを入れて示談を壊したら元も子もない。なによりAさんは国選の弁護士で良いといっているのだ。

このように、Aさんは国選弁護士を信頼して変更を拒否している以上、私としては、弁護人でもなく、Aさんの代理人でもない。Tさん夫妻、Aさんの奥さんから依頼を受けているわけでもない。Yさんの紹介だから、無料で相談に応じてあげていただけなのだ。何の権限もないがセカンドオピニオンを申し上げているのが私の立場なのだ。

その立場からすれば、僭越ではあるとは思ったが、あまりにAさんの奥さんが辛そうだったので、その場で出せる金額の上限を聞き、それを検事にお伝えして良いかも了解を得た上で、検察庁に電話を掛け、事情を話した上で担当検察官を調べてもらった。

そして、担当検察官に直接電話で、「まず、何の権限もないのだが、親族から相談を受けている弁護士という立場で、①親族は告訴取り下げを条件に200~250万円程度(私の感覚や慰謝料の前例からみれば同罪の慰謝料としてはやや高額という印象)は示談として出す考えはあること、②起訴後であれば示談のメリットが極度に下がるため、今提示している慰謝料を親族が出さなくなる可能性があり、そのため現段階で示談に応じる方が被害回復につながる可能性が高いこと、③親族から国選弁護士に示談するよう強く働きかけるから、起訴はなるべく勾留期限ぎりぎりまで伸ばしてほしいこと、④被疑者は会社員であり、起訴された場合に失職する危険性も高く、家庭崩壊につながりかねないこと、⑤以上を踏まえて、国選弁護士との示談に前向きな対応を検事の方から被害者に促してほしいこと」などをお願いした。

本当はこれくらいのことは、弁護人がやるべきことだし、多くの国選弁護士は当然やっているものだろうと私も信じてはいる。

受任した以上いくら赤字でも、誠実に仕事をやるべきだからである。

私の要請を受けた担当検察官は、「被害者に、告訴の取り下げを条件に示談をしろとまではいえません。しかし、加害者側で相当額での示談を考えている申し入れがあったようなので、国選弁護人に示談の件で連絡した方が良いのではないか、という位のサジェスチョンならします。」と約束してくれた。

私はさらに「勾留期限を考えると時間がそうありません、少なくとも慰謝料額は相当額以上だと考えます。そのあたりをお伝えしていただいてもかまいませんので、とにかく、被害者の方に示談に前向きに対応するよう押してください。」と念を押して、検察官との電話を切った。

私は、そばで聞いていたTさんご夫妻とAさんの奥さんに、「今お聞きになられたように、担当検察官に示談の件は話しておきました。すぐ、国選の先生に連絡を取ってお願いして示談のため被害者に連絡を取ってもらってください。被害者の電話番号は被害者がOKすれば、検察官が教えてくれるはずですから。」とお伝えした。Aさんの奥さんは涙を流しながら、お礼を言って帰って行かれた。

 しかし、事件はこれで終わったわけではなかった。

(続く)

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