ある事件の顛末~1

「済みません。多分そんなことはないと思いますが、もしその国選の弁護士さんが告訴の問題を勘違いしていたとしたら、そんな弁護士がいるのが恥ずかしいです。でも全ての弁護士がそういうわけではないことだけは分かってください。」

 事情を聞いたらそう言って謝らざるを得ない気持ちになった。

 私が以前事件を担当したYさんから紹介をうけたというTさんが、息子さん(Aさん)の刑事事件についてセカンドオピニオンを求めてこられた件だった。

 息子さんは、ある親告罪を犯して逮捕から勾留に移りつつあるということだった。国選弁護の弁護士がついてくれているが、親族に何の説明もしてくれないので不安だということだった。ご両親(Tさん夫妻)とAさんの奥さんも来られていた。皆非常に心配し、なんとかAさんを助けたいとの一心だった。

 私は、大まかな犯罪事実を聞き、刑事手続きのだいたいの流れを説明した上で、Aさんが会社員であることから、可能であれば示談により告訴を取り下げてもらう方法が最も良いはずだとアドバイスした。

 いうまでもなく、親告罪では告訴がなければ起訴できない。起訴されるまでなら告訴の取り消しは可能だ。告訴を一度取り消せば再告訴はできないから、告訴さえ取り下げ(取り消し)てもらえれば、正式裁判に持ち込まれずに済む。

 できるだけ早く、その国選の弁護士に頼んで、告訴取り下げを条件とした示談をしてもらうよう説明した。

 Aさんの奥さんから、電話で、その後、国選の弁護士の先生にお願いしたがなかなか動いてくれないとの話をされた。私は、「知り合いの弁護士に聞いたら告訴取り下げを条件とした示談をするべきだといわれた」と申し入れて、早急に動いてもらうよう粘り強くお願いするか、あまりにも動いてくれない国選の弁護士さんなら、費用はかかるし現時点では私も多忙で十分な活動ができないかもしれないが私選で私に変更する手段もあるとお話しした。

 10日後くらいに、再度どうしてもお話をお聞きしたいということで、もう一度Aさんのご両親と奥さんが来られた。

 国選の弁護士が、被害者に手紙を出してくれたようだが被害者から連絡があったらお伝えしますといったきり何も連絡してくれない、とのことだった。Aさんに弁護士を私選弁護士(つまり私)に変更しようかとも聞いたそうだが、Aさんの返事が「国選弁護士さんもよく動いてくれているし、ただでさえ犯罪をして迷惑を掛けているのに、経済的にこれ以上迷惑を掛けるわけにはいかないから、このまま国選で良い」という返事だったそうだ。

(ちなみに私選弁護士は国選弁護士の約10倍くらいの(場合によりそれ以上の)弁護士費用がかかる。それでも経営者弁護士にとってみれば、ぎりぎりペイするくらいだ。逆に言えば経営者弁護士にとっては、国選事件は完全な赤字事件なのである。)。

(続く)

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