2010.11.27の日経新聞社説に対して

 日経新聞、2010.11.27日の社説は、「まず高所得者増税には異議がある」というものだった。

 社説氏は、小学生以下の子供1人の年収1500万円の片働き世帯で、負担が22.5万円も増加することを指摘して、消費税等の負担に手をつけず、高所得者の増税だけを先取りしたのでは、日本経済は活性化しないと述べる。まあ、共働きでなくて年収1500万円とは相当高収入だと思うが、さらに日経社説氏は次の2つの理由をあげて自説を補強する。

 ① 努力して高所得を得ようとする人の意欲を削ぐ。

 ② 所得ガラス張りの給与所得者と、所得捕捉が完全に行かない自営業者などと不公平が残る。

 その間に、夫婦子二人、給与所得1000万円世帯の所得税・個人住民税と、収入が半分の世帯との税額の差が5.5倍であると指摘する念の入れようだ。どうして先に挙げた例で比較しないのか分からないが、きっと何らかの意図があるのだろう。

 まず、②について見てみると、これは自営業者が脱税していることが大前提の議論だ。きちんと納税している自営業者から見たら許し難い暴言だ。給与所得者は所得がガラス張りでも、実際使っていない経費まで給与所得者控除してもらえる。年金・社会保険料の会社負担もしてもらっているぞ。退職金をもらえる会社もあるだろう。そこから考えれば、決して一方的に給与所得者が不利だとは思えない。

 また、自営業者が脱税することを前提に税制が出来ているのなら、脱税しなければ損だということになるがそんな税制おかしいだろう。

 給与所得者の課税強化に関して、ガラス張り=税制上不利、とは良くいわれる議論だが、果たして本当に正しいのか私は疑問を持っている。

 次に①の理由について考えてみると、確かに努力は辛いものだし、何らかの見返りが期待できないのであれば趣味だけで努力する人はそう沢山はいないだろう。

 したがって、努力を積んだ優秀な人材を得ようとするなら、ある程度の報酬(若しくは名誉・権力など)を出す必要はあるし、そのことは否定できない事実だと思う。

 一方、賃金構造基本統計調査によると、2009年は、サンプル数1350名で、弁護士の平均収入は679万円との結果が出ているそうだ。

 今、弁護士になるには、大学を卒業後、2~3年間法科大学院で勉強し、新司法試験に合格しなければならない。旧司法試験に比べて合格率は上がっているとはいえ、努力無しには決して合格できる試験ではない。また、合格後も勉強の連続だ。努力は不断に必要な仕事なのだ。匿名で書きっぱなしの社説ではなく依頼者の人生を背負って訴訟で白黒つけるのだから、責任も重い。

 これだけ努力して、この収入だとすると、優秀な人材は弁護士を目指さなくなるだろう。しかし、日経新聞は優秀な法曹を育てるための司法改革だと述べつつ、司法改革の歪みで弁護士が経済的に満たされなくなりつつあることを知りながら、そのような指摘をしない。むしろ、逆に、なんの根拠もなく弁護士は高収入だと決めつけ、営業努力しろ、需要を掘り起こせと責めたてるばかりである。これでは、誰かに権利を侵害され、最後に頼るべき司法に人材が集まらない。

 結局、日経新聞社説氏は、優秀な人材を司法に導くことなんてこれっぽっちも考えていなかったとしか思えない。しかもその立場で司法改革という美名の下、改革・改革、法科大学院万歳と旗を振っていたのだから、たちが悪すぎる。

 このデフレ不況の下、年収1500万円以上の給与所得者(おそらく論説委員も含まれているはずだ)に、年間22.5万円の負担をお願いするだけで、やる気をなくすのであれば、それらの論説委員を並べて全員を首にしてしまえばいい。

 それだけの所得を補償するのなら、いつでも論説委員に代わって、社説くらい書いてくれる弁護士・現場の記者・その他の方は、相当数いるはずだ。

※記載内容については、全て執筆者の個人的な見解に基づくものであって、当事務所の統一した見解・意見ではありません。

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