遠くからの再会

 私は、司法修習を大阪で行った。

 大阪の裁判所民事部・裁判所刑事部・検察庁・法律事務所(2カ所)に、それぞれ3ヶ月ずつ配置され、実際の裁判官・検察官・弁護士のお仕事を拝見し、その一部に触れさせて頂き、法律実務を学ばせて頂いた。

 修習当時にお世話になった、裁判官、検察官、弁護士の諸先生方には、毎年年賀状を出していたが、裁判官・検察官の方々は転勤が多いためか、いつしか年賀状も途絶えがちになっていた。

 ところが、今年、意外なところで、刑事裁判でお世話になったY判事と、民事裁判でお世話になったF判事をお見かけすることになった。

 Y部長(部総括判事のことを、その部では「部長」と呼んでいた。)は、厚労省村木さん事件で無罪判決を下した裁判長だった。

 Y部長は、私が修習させて頂いていた当時の刑事部でも部長を務めておられ、非常に聡明な方でありながら、バランス感覚豊かで、情に厚い方だった。「仏のY」と呼ばれているとの噂もあった。M判事・K判事補と抜群のチームワークで難事件を裁いておられた姿が印象的だ。

 万一何らかの事件で逮捕されたとして、Y部長に裁いてもらって有罪なら仕方がない、と思える方だった。実際は村木さんの事件を傍聴したわけではないが、TVでお姿を拝見し、お元気で頑張っておられる姿に、私は勝手に懐かしさを覚えていた。

 F判事は、私が民事裁判修習を受けた部の右陪席だった。部長とS判事補と3人で合議体を組んでおられた。F判事は温かい人柄の真面目な方でありながら、どことなくユーモアを湛えたお話ぶりが印象的で、非常に勉強熱心だった。当事者の言い分を丁寧にできるだけ聞いてあげようとされる姿勢と和解に於いて双方のギリギリ譲歩できる着地点を探るセンスは素晴らしかった。

 本日、大阪弁護士会での研修があった際に、その講師としてF判事が招かれ、ご講演を頂いた。暖かさの中に真面目さが感じられるいつものお声で、要点をずばり解説されるお姿は、やはり私が修習を終えた後も、研鑽と精進を積んでこられたからこそ、可能なのだろうと思った。

 帰り際に、「修習の際にはお世話になりました」とご挨拶申しあげると、一瞬躊躇されたかもしれないが、笑顔で会釈を返して下さった。もう修習を終えてから10年以上たっており、数多くの修習生の指導もされているだろうし、私もお腹が少し出っ張り、頭も薄くなっているので、分かりにくくなっていたのかもしれない。

 今年、思いがけず修習時代にお世話になった裁判官お二人を大阪でお見かけし、実は私は、素晴らしい指導者に恵まれた修習生活を送らせて頂いていたのだということに、改めて気付くことが出来たように思う。

 今の司法修習は修習期間も短いし、大阪配属の修習生は私達のころの3倍以上の数になっているので、素晴らしい裁判官・検察官・弁護士の仕事を間近で体験する可能性が少なくなっていることは残念でならない。

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