共通一次の想い出~その2

(1月21日のブログの続きです。)

3人の悪ガキは、哀れなF君に、今からUさんに告白した方が良いと言い出したのです。
当然F君は拒否します。

これまで片思いでほとんど話したこともないUさんです。それに今と違って20年以上前ですから、高校生といえども非常に純朴でした。普通の高校生活でも異性に告白・交際なんて、とても考えられなかった時代です。しかも明日は大事な共通一次なのです。

 しかし、3人の悪ガキは止まりません。
「今言わんかったら何時言うねん」
「この試験終わったら、学校へもう来んかもしれへんぞ」
「今やったら間違いなく一人やし、大丈夫、俺らがついとる」
などと、何が大丈夫か分からないのですが、とにかく3人はF君をたきつけたのです。

 すると不思議なことに、F君もだんだんその気になってきた様子です。
電話が備え付けてある机の前の椅子に座ってみたりし始めました。しかし座っては「やっぱりやめとくわ」と言って電話から離れるのです。

 しかし、獲物を目前とした3人の悪ガキはもう止まりません。
「これが最後になってもええんか?あんな可愛い娘やのに。」
「おまえなぁ、ここで言わんかったら一生後悔するで。」
「ホンマ大丈夫やから。俺が保証するから。」
と、何を保証するのかさっぱり分かりませんが、しきりに、F君を勇気づけたりすかしたり、あらゆる努力を尽くします。

 F君は、はまって行きつつあると思いながらも次第に、今が最後のチャンスのような気がしてくる自分と戦っていました。しかし、戦いは無情です。F君は周囲の声に押され、最後のチャンスのような気がする自分が勝利を収めたのです。
 そして、ついに電話の前に座り、ためらいながら受話器を取り、電話のダイヤルをふるえる指で、3回ダイヤルをまわしました。

 が、つながる直前に、F君は受話器をさっと戻し、かちゃんと電話を切って、両手で受話器を押さえたまま、「やっぱりあかんわ。俺。」と首を振るのです。

「あんなあ、冷静に考えてみろや。あんなええ娘おらんで。彼氏もおらんらしいし。」
「そうやそうや、彼氏なんて聞いてへんで。それやったら冷静に考えたらチャンスやんか。」

「確かに、共通一次終わったら学校に来んようになる奴もおるし、冷静に考えたら私大の受験が始まったらもう終わりやで」
などと最後の抵抗を試みるF君に、既に冷静さを失っている悪ガキ3人が冷静に考えろと説得を続けます。

 それこそ冷静に見れば大学受験前日にこんなことをやっているのですから、端から見ればとてもおかしな光景だったでしょう。

 結論的には、F君は男でした。堂々と告白して玉砕したのです。

 しかし、悪いことはできませんね。告白したF君、いきなり告白されて迷惑をかけられたUさんは、ともに国立大学に現役合格。悪ガキ3人は残らず浪人の憂き目にあいました。天網恢々疎にして漏らさずとは良く言ったものです。

 さすがにもう時効でしょうから、思い出話として紹介しました。後日談ですが、私が浪人中に大学生となったUさんと列車の中で一度だけお会いしたことがあります。F君が好きになっただけあって、とても可愛らしく綺麗な方でした。

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