ロースクールと法曹の未来を創る会の要請文について~1

 ロースクールと法曹の未来を創る会代表理事の久保利英明弁護士が、本年7月20日に法務大臣と司法試験委員会委員長宛に、「司法試験合格者決定についての要請」という文書を発したようだ。

 久保利英明弁護士は、大宮法科大学院大学の創設に関わり、大宮法科大学院大学と大宮法科大学院大学が吸収された後の桐蔭法科大学院で、ずっと教授の座にあった人物であり、力いっぱい法科大学院側の立場の人間である。

 その久保利弁護士が代表理事を務める「ロースクールと法曹の未来を創る会」の上記要請は、平たくいえば、ただでさえ合格者の質の低下が叫ばれている司法試験において、平成29年度の司法試験合格者を昨年の1583名から、2100人程度にまで増加しろというものである。

その提言について、思いつくまま、私なりに突っ込みを入れてみたい。
思いつくまま書くため、雑駁な突っ込みになることはご容赦頂きたい。

(以下要請文より引用)

法務大臣 金 田 勝 年 殿
司法試験委員会委員長 神 田 秀 樹 殿
ロースクールと法曹の未来を創る会
代 表 理 事 久 保 利 英 明
「司法試験の合格者決定についての要請」

第1 要請の趣旨
 平成29年度の司法試験合格者の決定にあたっては、少なくとも、2100名程度を合格させるよう要請する。

→平成29年度の司法試験短答式試験受験者数は途中退席者を除いて5929名。そのうち、合格点である108点以上の者は3937人である。ちなみに平均点は125.4点。下位27.35%に入らなければ合格できる、つまり4人に1人しか落ちない試験である。

 そのうち、平均点を超える126点以上を取った者は合計1840名であり、2100名の合格者を出すとなれば短答式試験の平均点以下の者まで合格させなくてはならない。もちろん受験生のレベルが極めて高いのであればそれでも構わないのだが、果たしてそうなのか。

 私は旧司法試験時代しか知らないが、大体短答式試験の合格点は60点満点で48~45点あたりだったように思う。もちろん平均点をかなり上回る得点を挙げなければ合格できなかった。私の経験からいえば、短答式試験はきちんと勉強して、基礎的知識を固めてさえいれば得点できる試験である。しかも現行司法試験の短答式試験科目も憲民刑になり、旧司法試験と同じになってきている。もちろん、論文式試験と同時に行われるため体力的に大変だという面もあるが、それでもきちんとした基礎的知識があれば7~8割は取れなければならない試験だと思われる。

 短答式試験が旧司法試験から大幅に難化したとの情報は聞いていないから、仮に同程度の難易度と考えた場合、かなり甘く見積もっても7割程度の得点が取れないと、法曹になる基礎的知識は不足しているといってもいいだろう。

 仮に基礎的知識の合格点が短答式で7割の得点であると考えると131.25点だから、131点と考えても平成29年度の受験者では1256名程度しか、基礎的知識の合格者はいないことになる。

 そこに2100名の合格者を出すと、単純に考えれば約900名の基礎的知識に問題のある法曹が生まれる可能性があるということだ。

 もちろん論文試験で選抜機能が働けばよいのだが、3937名で争われる論文式試験となるので、2100名合格させるとなると、下位47%に入らなければ合格ということになってしまう。これでは選抜機能は果たせないだろう。

 確かに、新自由主義者のように知識不足でもなんでも良いから資格を与えて競争させれば良い弁護士が残る、という脳天気な発想もあるかも知れないが、それは机上の空論だ。そもそも一般の人には弁護士の力量は見抜けない。したがって、選ぶ側が良し悪しが分からない以上、判断のしようがないので全く競争原理が働かない。また、藪弁護士が弁護過誤を頻発させて退場するにあたっても、退場するまでに相当の被害が出るだろう。さらに、幾人かの藪弁護士が弁護過誤を起こして退場しても、知識不足でも資格を与える前提だから、それを上回る藪弁護士予備軍が毎年追加されてくることになり、淘汰なんぞいつまで経っても終わるはずがないのである。

 この点、大企業・お金持ちは情報もお金もあるから良い弁護士を選べる。ところが、一般の人達はそうではない。あれだけ弁護士があふれているアメリカでも同じ問題がある、という指摘が司法制度改革審議会でもなされていた。

 お金持ちでない一般の人達も、安心して弁護士に依頼できるためには、やはり弁護士資格を有する者にある程度の実力がないと困るのである。(医師免許とパラレルにお考え頂ければ、理解してもらいやすいかもしれない。知識不足でもなんでも良いから大量に医師免許を与えろとは誰もいわないだろう。)

 もちろん、久保利弁護士もそれくらいは分かっているだろうから、知識不足の人間も含めて2100人も合格させろという要請を敢えてするのは、おそらく法科大学院制度維持のための要請だと見るべきだろう。

 しかし、そもそもは国民のために優秀で頼りがいのある法曹を養成するための制度改革だったはずだ。法科大学院が生き残るために司法試験合格者を増加させても、結果的に国民の不利益になるのであれば、その主張は本末転倒なのである。

 ただでさえ税金食いの法科大学院を維持するために、知識不足の人間にもどんどん法曹資格を与えるのがよいのか、法科大学院が維持できなくても国民が本当に頼れる、実力のある人にしか資格を与えるべきではないのか、どちらが良いのかは最終的には国民が決めることだ。

 いずれにしても法科大学院の利益を優先するべき場面ではないように思う。

(つづく)

一度素直に言ってみて欲しい。

 某銀行の口座から振込をしたら以前は振込手数料がかからなかったものが、振込手数料がかかるようになった。

 不思議に思って、窓口で聞いてみると、振込手数料がかからない特典に関する条件が変わったのだそうだ。

 条件を見てみると、かなり適用条件が厳しくなっていた。窓口の人の説明によれば、私の場合は、まずはインターネットの登録をして下さいとのことだった。

 もらった説明資料を見てみると、インターネット関係の登録の他、預金の月末残高基準値が10万円→30万円に引き上げられ、30万円以上の預金がないと手数料がかかる仕組みになっているらしい(他にも手数料がかからない条件はあるが)。

 つまり、品の悪い言い方をすれば、預金がたくさんある人は優遇するけど、そうじゃない人はダメだよってことだ。銀行も営利社団法人だし、預金口座の管理等にも費用がかかるからある程度は仕方ないとはいえるが、銀行預金の少ない人の方が振込手数料は痛い。

 それはさておくとしても、問題はその告知方法だ。

 その銀行の、条件引き上げに関するニュースリリースにはこう書いてある。

お客さまの利便性向上に努めながら、「サービス提供力No.1」の実現に向け
て魅力ある商品・サービスの提供に努めていきます。

 振込手数料がかかりやすい仕組みに変更しておいて、利便性向上に努めてますって、どんだけ厚かましいんだろう。

 素直に、当銀行の利益の観点から、当銀行により多くの利益をもたらしてくれる預金金額の多い方のみを優遇します、と本音を言ってみたらどうなんだ。

 他にも、「よりよいサービス提供のため」といいつつ、制度を変更して実質的にはサービス縮小を行うカード会社、金融機関も多いように思う。

 ただ、その多くは富裕層については手厚いサービスが残されていることがほとんどだ。

「よりよいサービスのため」なんてお為ごかしを言うのではなく、素直に「富裕層向けのよりよいサービス維持のため」「うちの会社の利益保護のため」、と言ってみたらどうなんだろう。

それが真実っぽいんだからさ。

最近ストレスが多くて、ちょっとそう思ってしまいました。

日弁連副会長の女性枠について

 日弁連副会長は現在13名だったと思うが、2名増員して、その2名の枠は必ず女性が就任するようにしようという案が持ち上がっている。現在、各単位会に意見照会がなされている段階だ。

 日弁連執行部の説明だと、これは男女共同参画の一環で、ポジティブアクションとして相当だ、ということのようである。

 大阪弁護士会の常議員会で、以前もこの議論が持ち上がったときに、男女共同参画委員会の方が説明に来られていた。

 私は、説明委員の方に、これまで日弁連は男女共同参画について積極的に推進してきたはずであり、特に女性の会員が副会長になれないような不都合な状況が存在するのか、女性で日弁連副会長になりたいのに日弁連の制度等の問題でなれないという人が現実に何人も存在しているのか、と聞いてみた。

 説明委員によれば、そのいずれもない(少なくとも説明員は聞いたことはない)とのお答えだった。

 だとすれば、ポジティブアクションとしての副会長女性枠というのはおかしいのではないだろうか。

 そもそもポジティブアクションとは、「一般的には、社会的・構造的な差別によって不利益を被っている者に対して、一定の範囲で特別の機会を提供することなどにより、実質的な機会均等を実現することを目的として講じる暫定的な措置のことをいいます。」(内閣府男女共同参画局のホームページより)というのが一般的な定義だろう。

 そうだとすると、大阪弁護士会の男女共同参画委員会の委員の方ですら、制度面で女性が副会長になりにくいという問題は無いと認めているし(つまり社会的・構造的差別は存在しないし、機会不均等という問題もない。)、現実に日弁連副会長になりたいがなれないという方も存在しない(つまり不利益を被っている人もいない)と認めていることになる。

 したがって、ポジティブアクションの前提たる、社会的構造的差別によって不利益を被っているという状況が存在しないのだから、一定の特別の機会を提供する必要はないはずだ。

 ということであれば、日弁連副会長に助成枠を設けるというポジティブアクションを導入することは、その前提を欠き、その特別な暫定的措置は、他のものに対する逆差別になってしまうだろう。

 また女性の参画にきちんと制度を設けて機会を保証しているにもかかわらず、立候補者が少ない(ほぼいない)ということは、日弁連副会長にならなくてもいいというのが立候補しない女性の意向であって、その意向についてはきちんと尊重できているということになるのではないのだろうか。

 そればかりか、仮に女性枠を設定してしまえば、その枠を女性で埋めなくてはならないから、日弁連副会長に相応しい人格・識見を有しながらも、副会長になるつもりがない女性に、他に候補者がいないから、という理由で周囲が副会長職を押しつけることにもなりかねないだろう。

 さらに女性副会長枠について、経済的理由もあるだろうからということで、月額数十万円の支援をするという案もあるようだが、経済的理由で日弁連副会長になれないという事情をもつ弁護士がいるとしても、それは男女を問わない。経済的理由で立候補しにくい男性にだって支援はすべきだ。女性だけが経済的に困っている(傾向にある)という発想こそが、男女共同参画の理念に反しているのではないだろうか。

 また、真に日弁連に女性の意見・視点が必要なのであれば、日弁連会長だってポジティブアクションを導入するという意見があってもおかしくはないが、そのような意見・提案は聞いたことがない。
 副会長だけポジティブアクションが必要で、会長にはポジティブアクションが不要だとする合理的根拠もないだろう。
 私の穿った見方からすれば、会長職を除いていることは、日弁連会長の座を狙っている男性の重鎮がたくさんおられることもあって、その方々への配慮であってもおかしくない。仮に私のこの邪推が正しいとすれば、会長職は男性重鎮達の争いに任せて男性に独占させ、副会長職で男女共同参画を実現したかのように見せかけてお茶を濁すものであり、それこそ男女共同参画の理念に反しているように思うのだが。

 男女共同参画と言われれば、弁護士はあっさり賛同する傾向にある。男女共同参画という言葉に弁護士はとても弱いが、この問題はよくよく考えてみる必要があるように私は思っている。

日中韓FTAシンポジウムの旅日記~その11

(続き)

5月22日

 午前11時30分に、空港までの送迎お迎えが来るとGさんから聞いていたので、その15分前にロビーに集合しましょうという話になる。Y弁護士とは9時には朝食に一緒にいこうと話しており、9時に部屋まで呼びに来てくれることになっていた。なんと、Y弁護士の部屋にはバスタブがあったそうだ。これは、ホテルの部屋のくじ引きで、Y弁護士が1等、S弁護士が2等を引き当てたのかもしれない。

 朝になり、カーテンを開けて青島市街を一望しようとしたところ、スモッグか雲かわからないが、真っ白で視界が効かない。昨日は、視界の端の方に見えていた海も今日は見えない。一面真っ白の世界だ。

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(朝の部屋~真っ白でまるで外が見えない)

 朝食は、ビュッフェ形式。初めて洋食系の料理がある朝食となる。生野菜と目玉焼きと野菜炒め、ベーコン、春巻きなどを食べる。結構おいしくて何度かお代わりしてしまう。嬉しいことに、コーヒーやジュースがおいてあった。やはり朝はコーヒーが飲みたいものだ。

 あとからビュッフェにやって来たGさんにお礼を言ってしばらくお話しをする。X教授のご指摘どおり自ら認める面食いらしい。美人系がすきなのだそうだ。自動車も好きでシボレーがいいと言っている。

 部屋に戻る際に、エレベーターのところで、Y弁護士が、Gさんに、杜甫の春望(国破れて山河あり・・・)は日本でも有名だ、と話しかけているが、Gさんは原文がわからないので、ちょっとわからないと返していた。日本人のイメージする中国・中国国民と現実のそれとは、当然ギャップがある。もちろん逆もそうだろう。こういうことは実際に中国の方とお話ししないと分からないものだ。

 部屋に戻って荷造りをする。行きの飛行機に乗った際、エコノミー席でも足下が少し広い席を見つけておいたので、アイパッドミニを経由したオンラインチェックインで、その席の窓側を押さえる。そういえば、電気のスイッチが壁の穴と少しずれている部分があるなど、微妙に杜撰な設備もあったが、ホテルのwi-fiは、しっかり使えた。

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(微妙にずれたスイッチ群。)

 荷造りを終えて、少し時間があるので部屋で、ぼーっとする。未だに、霧は晴れず視界が効かないが、寝やすいベッドだったので、もっとゆっくりできたらよかったのにと思ってしまう。

 11時15分ジャストにロビーに到着。すでにY弁護士とX教授がいる。
 珍しくGさんが遅れてきた。

 チェックアウトして、有力弁護士さんのイソ弁さんがレンジローバーで待っているところへ荷物を運ぶ。イソ弁さんが、昨日の大トラさんからのお土産だと言って大きな貝殻を2種類ずつ持ってきたくれた。

 2種類の貝殻を一つずつ各自が頂くが、本当に持ち帰って大丈夫な貝殻なのか、よく分からんけど、ワシントン条約かなんかで引っかかるのではないか、と3人とも結構心配になる。しかも、リュックに入れてみると結構でかいため、貝殻の尖った部分がリュックの生地を突き破って出てくるではないか。

 「怪しいものでも持っていませんか?」と関空で税関に聞かれて、満面の笑顔で「いいえ」と答えても、リュックの生地を突き破って出ている象牙色の突起を税関職員に見られたら、「ちょっとあちらでお話ししましょうね~」と別室に連れ去られるような予感がする。う~んホンマに大丈夫なんやろうか。。。

 敢えて、「相手も弁護士だからそれくらいは考えてくれてるんじゃないですかね~」、と独り言っぽく希望的観測をいってみたところ、X教授とY弁護士から、そろって、「それはない!」と瞬殺されてしまった。・・・やはりね。大トラさんでしたものね、そうですよね・・・。

 空港に向かう車内の中でGさんの電話が鳴り、Gさんが何かしゃべっている。なんと、昨日の大トラさんが空港近くのお店に、出来立ての青島ビールを運ばせることができるので、そこでお昼と一緒に食べないかと誘っているとのこと。

 S弁護士は中華料理は結構好きだし、特にランチに必須と思われるチャーハンなんぞ血糖値に悪いことは分かっていても大好きである。しかし、今回は、フライトまで時間があまりない。

 なにより、トラが出てくるのは夜だけとは限らない。昼間に大トラに襲われたら、それこそ今日中に日本には帰れまい。

 そこはX教授が、「また今度お願いしますと伝えておいて」、と即座にGさんに賢明な指令を出し、お断りする。まさに「虎口を脱する」とはこのことか。

 そういえば大トラはX教授のことを昨日、兄貴と呼んでいたりしたから、かなり気に入られていたのではないだろうか。X教授によると、中国人は友人となったらとにかく歓待してくれるのだそうだ。半分冗談かもしれないが、「日中戦争になっても、あの弁護士さんに助けてくれと言えばきっと助けてくれますよ。」とまで言っている。

 確かに、その話が冗談ではないように思えるほど、私達は献身的な歓待を受けていたように思う。徹底した反日教育がなされ、中国国民はみんな感化されているかのようイメージを日本のマスコミは報道しているが、一体どうなっているんだろうか。

 青島空港の入り口で、Gさんに御礼をいってお別れし、その後は、出国手続きを行うまで自由行動となった。本当にGさんが何もかもお膳立てしてくれたから、楽しく中国を満喫できたのであり、単独の旅行であればとても、こんなにお気楽に過ごせることはなかっただろう。感謝の極みである。

 チンタオ空港でS弁護士は、中国のナショナルジオグラフィックのような雑誌と、中国の自然景観100選だと思われる本を買った。ファストフードに造詣の深いY弁護士は、中国のマクドナルドで、チキンのバーガーを買って実地検証していたようだった。う~んでも、世界のどこでも同じ味を提供するのがマクドナルドじゃなかったっけかな~。

 出国手続きも、入国のときと同じく人民軍のような制服を着た係官がいて、無表情でパスポートをチェックしている。昨日の宴会のときに粗相をしなかったこともあって、幸いにもパスポートに「恥」という漢字は押されていなかった。

 搭乗までの間に、免税店で事務員さんには小さな香水のセット、喫煙者のイソ弁君にはタバコ。父親には烏龍茶、母親には美人の店員さんに翻弄されつつスカーフを買った。X教授が昨日、味付のピーナッツを買っていたことに影響されて、豆のお菓子も買ってみたが、これは帰国後に開けて見ると、ものすごい上げ底仕様で、やられた感が半端ない商品だった。

 上げ底という手段は、昔の日本のお土産でも良くあった手口だが、勝った方の「がっかり度」は、かなりでかい。もう二度と買わねえぞ!と固く決意してしまうくらいだから、長い目で見ると、きっと損なのだろうと、あとで思った。

 記憶がはっきりしないのだが、搭乗前にX教授は、パスタ入りミートソース?を食べたといっていた。なんでもパスタとミートソースの比率が通常の逆だったそうだ。それならそれで食べてみたかったという気もするが、聞いたのが搭乗直前であり断念。

 搭乗してみると機体は、行きと同じくボーイング737型。座席は狙いどおり足下が少し広いエコノミーで一番前の席の窓側。幸いにも3人掛けの真ん中には誰も乗ってこない様子だ。
 

 機内では、専らポメラを使って今回の旅日記を書いていた。通路側の席に座っていたのは、ツアコンと思われる青年で、たくさんの入国用書類を1人で黙々と仕上げていた。ときどきちらっとこっちを見るのが気になったが、飛行機が着陸態勢に入り、S弁護士がポメラを仕舞おうとしたところ、「ソレハナンデスカ?」と興味津々で聞いてきた。なんだ、ポメラが気になっていたのか。

 ポメラはデジタルメモ専用機で、パソコンとつながる機能はないこと、しかし即起動、即メモが可能であること、乾電池電源で場所を選ばないこと、SDカードに記録すればパソコンなどにデータは移せることなどを説明する。「中国語ノハ、ナイノデショウカ?」と聞かれるが、あいにく知らないが、電気量販店で聞いてみたらどうだろうと返事をしておく。

 ちなみに、S弁護士が愛用するポメラは、5年ほど前に安くなっていたところをアマゾンで6,200円で買った、ガンダムコラボシリーズのランバラル仕様(限定品)である。元値が3万円程度と書いてあった上に、今でも15,000円位の値段のようだから、ほぼ底値で買えたという点でも嬉しい一品であった。

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(帰路の軌跡)

 関空に着陸後、モノレールに乗り、入国審査場の方まで到着するが、X教授とY弁護士がやってこない。仕方がないので、入国審査場の前で待っていると、3分ほどしてX教授とY弁護士がやってくるようだ。X教授が「Sさんはねぇ~・・・」とY弁護士に話しているのが聞こえる。

 X教授に「また、僕の悪口でも言っていたんでしょ・・・?」と鎌をかけると、「いやいや、Sさんプレミアムエコノミーに乗ったようだよ、お金持ちだね~と話していたんです、、、」とのこと。
 確かに、よそから見れば足下が少し広いあの席は、エコノミーの中でもラッキーな席に見えたのかもしれない。

 「でも、その認識、間違ってます。第一、私がお金持ちだという点が大きく間違ってますし。それよりなにより、この便にプレミアムエコノミーの設定がないですし・・・・。」とソクラテスの弁明よろしく説明するも、X教授は、笑顔で「まあ、いいじゃないですか」でまとめてしまった。確かに、まあいいことなんだけど、Y弁護士が変な誤解していないかだけが、ちょっと心配だ。

 荷物をターンテーブルから受け取って、ここで解散しましょうということになる。X教授とY弁護士に御礼をいって、税関に向かう。貝殻の突起は無理矢理ビニールを噛ませて、リュックの生地から出ないように細工しておいたが、いつその細工も破れるか分かったモンじゃない。若干ひやひやしながらの税関検査になったが、あっさり、「どうぞ」で終わってしまった。考えて見れば象牙でもないし、生きた貝でもないから、そこまで神経質になる必要もなかったかもしれない。

 関空構内で、多分しばらく使うことがないだろう人民元を日本円に両替する。ところが100元札が一枚だけどうしても機械を通らない。両替屋さんから、偽札とは断言できないけど、本物と確認できないからうちでは両替できないといわれてしまった。さすが中国、最後まで何があるのか分からないところだった。

 それでも、人々のパワーはものすごく感じられる国だった。人々の潜在的パワーだけで考えると、多分日本は、いろいろな面で適わないようにも感じた。
 Gさん、X教授のおかげで、とても歓待して頂いたこともあるが、今までの中国の人に対して抱いていたイメージが、かなり変わった。

 やはり、勝手に想像しているだけではなく、実際に会ってみることは大事だと強く感じた、貴重な体験であった。

 改めて、このような貴重な機会を与えて下さった、X教授と、Gさんに感謝したいと思います。
 本当に有り難うございました。

(このシリーズはこれで終了です。)

日中韓FTAシンポジウムの旅日記~その10

(続き)

 立派なホテル?のような宴会場につれて行かれる。駐車場の両脇も外車だ。

 格差社会だな~中国も。あとで聞くと、国賓等が来た際にも使われる場所だそうだ。そんなところに、着替えもせず汗くさい格好で乗り込むのは、かなり気まずいが、ここまで来たら仕方がない。そもそもこちらから宴会をして欲しいって頼んだ訳じゃないし。

 ところがホスト弁護士がおおトラ!だった。

 青島ビールの出来立てを、製造工場から直接持ってこさせるなど、実力者らしいが、飲めば飲むほど虎度がます。大学の理事でもあるそうだ。

 青島市は海沿いなので、海鮮の中華が勢揃い。それと共にチンタオビールも林立している。ああ、お酒がなくてゆっくり食べられるのなら良いのになあ~。と子供のようなことを考えつつ席に着く。

 有名な青島ビールはキンキンに冷えているわけじゃない。確かに冷たいがぬるい感じの冷たさだ。結局勧められて断れず、ビールを呑まされて、速攻頭痛に悩まされながらもこっちも、もうやけくそだ。

 盛り上がりたいんならやってやろうじゃないの。原潜見学でもらった帽子をかぶって敬礼したり、肩組んで写真撮ったり、やるだけやってやった。

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(チンタオの有力弁護士さんと~1)

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(チンタオの有力弁護士さんと~2)

 さらに大トラは乾杯を繰り返すことにより、トラ度がパワーアップして、結構絡んできた。中国語はよく分からんが、充血しかかった眼でこちらを見つめながら何かを言っている。もちろん意味など分からない。

 「わかった、わかった、○○先生最高!」といって、肩をバンバン叩くと相手も、にやっと笑って、グラスを差し出す。

 相手はお酒、こっちは強炭酸のミネラルウォーターで乾杯する。アルコールの影響による頭痛に悩まされながら、もうどうだって良いんだ。仲良くできたらきっとそれで良いんだ。世界は一つ、人類はみな兄弟なんだ。一日一善だ。もうどうにでもしてやってくれ~。

 しかし、そのうち大トラが近寄ってきて、太ももをスリスリと撫でられたときには、さすがに身の危険を感じた。やばい、目が座ってる。ほんまもんのトラになっとる。通訳してくれるGさんも他の弁護士と乾杯してるし、X教授も何かを食べていて、こっちに気付かない。舌なめずりするトラの前に放置されたヒヨコ状態だ。

 なんとかしてこのピンチを抜け出すには・・・。どうすればいい?

 ここは、あれだ、X教授から教わった最終手段を使うしかない。
 「ツ、ツァーサ、サイナア~リ」

 そういって、そそくさと席を立とうとすると、袖を引っ張られ、椅子にどんと座らされた。

 ??

 何が起こったのか分からないS弁護士に対して、身振りで、ここでやればいいと、大トラ。

 トイレという生理現象を尊重するのは万国共通。厳粛な裁判の尋問中だって、お腹が痛いからトイレに行きたい言えば、休憩を入れてくれたりするなど尊重してくれるもんだ。つまり最強の必殺技のはずだった。

 その最強の必殺技のはずが、それが通じない・・・。マジか!

 スペシウム光線をゼットンに跳ね返されたウルトラマンのように、倒れるしかないのか・・・。ゼットンを倒してくれる科特隊もここにはいない。孤立無援状態なのだ。

 もちろん国賓が来るところでそんなコトしちゃったら、国際問題だ。「やらかしました」では、たぶん済まない。運良く拘束されなくても、パスポートの表紙から裏表紙まで全頁にわたって「恥」というスタンプを押されるかもしれん。「日本の弁護士、中国で大失態!」などとワイドショーや週刊誌で報道されたら、懲戒されるかもしれん。

 やはり、ここは譲れない。

 勇気をふるって今度は毅然と「ツァーサ・サイナーリ!」といったら、聞きつけた隣の若い弁護士さんが連れ出してくれ、なんとかピンチは脱した。多分ゆっくりトイレを済まして戻れば、もう忘れているはずだ。

 しばらくして落ち着いたので戻ったら、大トラは、こっちのことは忘れていてくれたようだが、さらにパワーアップして絶好調。X教授にあなたを兄貴と呼ぶとかなんとか言ってからんでいる。しまいにはX教授の手をとって接吻をしたりしはじめた。

 しかしX教授の肝臓は凄い。あまた襲いかかる乾杯の嵐を平然と受け止め、底なしに飲んでいく。X教授がいてくれて宴会の場は本当に助かった。

 ようやく締めの時間になったようで、大トラとX教授が挨拶をする。しかし、それが終わると、大トラさんの記憶が瞬時に消去されるのか、再度また乾杯やらなんやら言い出して飲み始めて振り出しに戻る。リピート再生のように宴会が終わらない。

 何度目かの挨拶のあと、やっとこさ、宴会の終了となった。

 ホテルに帰ろうとしても,駐車場で大トラは、こっちの車に乗るんだと言って聞かず、かなり苦労した。

 開いている車の窓に取りすがって、X教授に向かって「あなたを兄貴と呼ぶ。兄貴ったら兄貴なんだよう!(S弁護士の推測による意訳)」と叫び続ける大トラさん。一瞬の隙をついてパワーウインドウでシャットアウトし、ようやく大トラを引きはがし、ホテルに向かって車が出発できたときには、かなり安堵の気持ちで一杯だった。

 帰りの車で、Y弁護士と凄いトラがいたもんだと話していたら、隣からX教授が「あいつは大したことがない。ただの酒が弱いだけの奴ですよ~」、と仰る。「そうですね~」、と答えると、「いやいや、本当にあいつは大したことがない。ただの酒が弱いだけです・・・」と、今度はX教授がリピート再生。

アイアンレバーを有するX教授も、酒精の影響は避けられないご様子だった。

 さらに、X教授はホテルの直前でGさんに「カラオケにいきましょう。おねーちゃんのいるカラオケがいい」、と言いだした。Y弁護士もカラオケならいいですと言っていたがおねーちゃんが来ると聞いて断固拒否。

 それでも、「いやいや中国のカラオケにはおねーちゃんはつきものなんです。だからそれが普通なんです。だから普通のカラオケなんです。普通のカラオケに行こうといっているだけなんです・・・」等とX教授。一見、見事な三段論法?で説得的だが、スタート時点でオネーチャンのいるカラオケの方が良いと言ってしまったことで、「普通のカラオケ=オネーチャンのいるカラオケ」という前提が成り立ちにくい。やはり酒精の影響か前提からして微妙に違っているような気がしないでもない。

 本当に中国のカラオケはおねーちゃんとセットなのが普通かどうかはよく知らないが、アルコールが体内でエネルギーに変換されるX教授と違って、飲めないお酒を飲んだせいで頭痛がしているS弁護士では、残念ながら中国カラオケの真髄を確かめに行くには、X教授のような体力が既に残っていない。

 さすがにX教授も大人なので、最後は折れてくれ、ホテルの部屋に戻れましたが、X教授のパワーには脱帽です。

 子虎がここにおりましたか・・・。(スミマセン!)

(続く)

日中韓FTAシンポジウムの旅日記~その9

(続き)

 ホテルから地元有力弁護士のいそ弁さんが運転するレンジローバーで、迎賓館見学。その後、かつての総督府?のようなところや検察庁を外から見学。

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(迎賓館)

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(青島市市南区人民検察院)

 郵便博物館ではY弁護士が封筒を100元で買っていた。わざわざ博物館の人を呼んでショーケースの中の物と同じものを所望している様子。もちろん消印が押されて、使えもしない切手と封筒なんだけれど。

 X教授とS弁護士はその価値が理解できなかった。Y弁護士によれば「貼ってあるパンダとコアラの切手のデザインが可愛くて、お母さんへのおみやげにいい」、とのことで、少しだけは納得ができた。

 それから海沿いの道へ案内されたが、ミニストップでX教授が味付けピーナッツ、Y弁護士が10元のスイーツを買う。Y弁護士はかなりご満悦のご様子。ただ、かなり歩いているので、だんだん疲れてきてはいる。

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(海沿いの道から)

 その次は、監獄博物館、司法資料館を見学。X教授がかつて中国で、731部隊の博物館で怪しげな展示を見せられた上に、反省の気分に陥りそうになっているところに、その気分に乗じて偽物を売りつけられそうになった際のお話を聞く。あまり話さないけれど、X教授には秘められた武勇伝は結構ありそうだ。

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(監獄博物館)

 気温はそう高くないようだけど、日向を歩くとかなり暑い。湿度がそう高くないのか日陰は涼しいが、歩き続けていると疲れとともに暑さがこたえてくる。

 海沿いを歩いていると、原潜が係留されているとのこと。しかも、海軍博物館にいけば、その原潜に乗れるのだそうだ。

 何を隠そう、S弁護士は潜水艦が好きである。古くはヴェルヌの小説「海底2万里」、小さい頃に父親と見た映画「眼下の敵」では、ドイツ軍Uボートとアメリカ駆逐艦の死闘に胸を躍らせ、トム・クランシーの「レッドオクトーバーを追え」、福井晴敏の「終戦のローレライ」などの潜水艦小説を読み、かわぐちかいじの漫画「沈黙の艦隊」を全巻大人買いした経歴からすれば、原潜に乗れるなんてテンション上がることこの上ない。「うわー、いいなあ」といっていたら、Gさんが聞いてくれていたらしく、そこに連れて行ってくれる様子。途中で、車を呼んでくれる。

 海軍博物館の入り口は以外に遠く、乗せてもらって大正解だった。海軍博物館のくせに、飛行機・戦車も野外展示されていて、人民軍博物館という方が正確だろうと思う。T34中戦車が3台展示されていた。

 小学生の頃、お小遣いを少しずつ貯めて、タミヤ模型の戦車プラモデル(1/35でリモコン操作のできるやつ)を、幾つか作った経験のあるS弁護士としては、たまらない。本当はドイツ軍のティーガーⅠ重戦車が大好きなのだが、それと互角に渡り合ったT34中戦車(ソ連製)だと思うと、感慨ひとしお。年がいもなく、砲塔によじ登って写真を撮ってもらう。

 軍艦の係留展示は、駆逐艦など4隻。そのうち2隻と原潜には乗れるが、原潜に乗るには別に100元が必要とのこと。Y弁護士のようにパンダとコアラの切手を貼った封筒に100元払う価値はわからないが、退役したとはいえ本物の原潜に乗れるなんて、こんな機会、多分死ぬまでない。100元の価値は十分ある。しかし、ほかの3人は、待っているとのこと。ああ、もったいない。。。

 100元で申し込むと、窓口の姉ちゃんが英語の説明はないよ、という英語の説明をした上で、ギフト、といって青い帽子と白手袋をくれた。おお、なんか盛り上がるな。気分はすでにサブマリナーやん。そのまま入ろうとしたがゲートのところで押し戻された。5時からだということのよう。案内がつくらしい。

 チケットには、おそらく原潜の名前だろう、長征一号と記載してある。 あとで調べてみたところ、長征一号はNATOのコードネームで漢級の攻撃型原潜であった。

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(繋留展示されている漢級攻撃型原潜「長征一号」)

 駆逐艦などをおざなりにみて、5時前に入り口に集合。どうやら荷物をロッカーに預けるらしい。パスポートだけあわてて取り出してポケットにつっこみ、見よう見まねで荷物をロッカーに入れる。横目で他人の行動を観察すると、赤いボタンを押すと空いているロッカーのドアが開き、荷物を入れて閉めると、紙がでてくる方式らしい。暗証番号を入れるそぶりもなかったし、中国語なんて読んでもわからないし、不安いっぱいだったが、「万一出せなかったらGさんに頼めばいいだろう、原潜体験はそれに勝る!」と自分を鼓舞してボタンをおし、荷物とカメラを放り込んで閉じる。予想通り紙片がでてきた。バーコード付きだから、多分これをかざせば開くんだろう。そう信じよう。

 原潜に関する中国語の説明はわかるわけがないが、案内の人は説明をだらだらしながらゆっくり歩く。原潜まで5分くらいかかってようやく到着。

 原潜にはいるハッチはとても狭く、両手でハッチのバーをつかんでよいしょっと体をいれ込んでいく感じ。中はとても狭い。

 アメリカ映画で敵潜水艦に遭遇したときに、警報に反応して兵士が潜水艦内を走り回ってた場面があったが、少なくともこの原潜では、無理。

 猫並に障害物を避ける能力があるなら別だが、警報に反応して走り回ったりしたら、顔面骨折、歯の折損、体中の打撲を負って、戦闘前に戦闘不能になるのが落ちだろう。

 最初は魚雷装填区、次は居住区、厨房、発電区など様々な箇所をみてまわったはずだが、説明がわからなかったせいもあり、艦橋部分がよくわからなかったのが残念。

 かなり満足して戻ってくると、X教授が「Sさんが、こんなにミリオタなんて知りませんでした。一番テンション高かったんじゃないですか?」と仰る。

 う~んそう見えたのかな。しかし、S弁護士としては自分がミリオタという自覚は全くない。小学生の頃、戦艦や戦車のプラモデル作りが流行っていたので、自然とある程度の戦艦・戦車についての知識がついただけだったのだ。決して普通のミリオタさんのように詳しい知識があるわけではないのである。

 確かに小学生ながら、子供向けの「大和と武蔵」という本の他、豊田穣の「撃墜」・「撃沈」や、伊藤正徳の「連合艦隊の栄光」、吉村昭の「戦艦武蔵」・「零式戦闘機」等の文庫本を読みあさってはいたが、その頃は、どこの小学生も同じように興味があるものだと思っていた。

 海軍博物館を出たあとは、時間が押しているということで、そのまま宴会会場に向かうことになる。

(続く)

日中韓FTAシンポジウムの旅日記~その8

(続き)

5月21日

 7時に朝食をとり、できるだけ早く出発しようという指令をX教授から受けていたので、7時直前に1階ロビーに出向く。しかしY弁護士しかいない。Gさんも来られたので、先に食べることにする。昨日と同じ中華だが、少しメニューが違うようだ。
大体10分くらい遅れてX教授が登場。

 朝食をとりながらX教授は、列車に乗れなくなるといけないから7時45分にはロビーに集合しましょうと仰る。もちろん異議なく了解だ。

 部屋の忘れ物がないか確認して、45分直前にロビーにつくと、やはりY弁護士しかいない。さて、X教授はなんと言って現れるでしょうか?というクイズを出すと、Y弁護士は、「多分なにもおっしゃらないでしょう」、と即答。
 チェックアウトに関してもGさんにお任せなので、我々はカードを渡すだけ。
 X教授の登場はやはり、5分ちょい遅れ。大物はやはり違うのだ。クイズはY弁護士の大正解だった。すぐに車に乗って、済南駅まで。

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(済南市内で見たバス~たぶん日本のTV番組「あいのり」の中国バージョン?)

市内は、そこそこ渋滞している。道路工事中のため、歩行者用通路が設定されているのだが、そこを強引に突っ走って突破するタクシーをみる。駅前辺りの道路が、かなり混んでおり、駐車場にまではとても入れている時間がないということで、慌てて駅前の路上で降りることになる。

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(済南市駅前のバスターミナル~このあたりの渋滞が動かない!)

 Gさんがパスポートを持って切符を買いに行ってくれる。なかなか戻ってこないので、前回チンタオで乗り遅れかけたことから少し心配する。済南市駅では青島駅と異なり物乞いはいなかったが、特別警察の詰め所が駅前にあることは、同様のようだ。

 荷物チェックなどはかなりスムーズにすすみ、待合いで座って待つこともできた。X教授がオレンジジュースを買っている。改札は自動改札。出発7分前くらいに列車が入ってくる。一瞬早すぎないかと思ったが、乗ってから荷物を網棚に載せるまでが大混雑。

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(済南市駅のホーム)

 車両の前寄りの席のくせに、でかいトランク引っ張って、後ろの乗車口から乗ってくる人やその逆の人が多く、車内が大渋滞。生憎私達の席は車両のほぼ真ん中。渋滞にはまってしまい、交差する乗客の持ち上げたトランクの車輪にこすられながら、「全く自分の席に近い乗車口から乗れよ!」と小言を言いたくなった。

 何とか荷物を網棚に載せ、席に着いたのとほぼ同時に発車。停車時間を多めに取っていたのは、こういうことなのか、と理由がわかる。

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(車内の様子~やはり車両間のドアは開いている。)

 車両は前回乗ったものよりも新しいのか、窓もきれいで汚れていないのは好感が持てる。行きと同じく窓側はX教授通路側はS弁護士。Y弁護士が気を使って3人席の真ん中に座ってくれる。車両は行きに乗ったものよりも新型のようだ。先頭車両の外見は、ドイツのICE4に似ている気がする。やはり時速200キロは超えない。おそらく線路の性能の問題なのではないだろうか。
 車内で、ポメラを使ってメモを書いたり寝たりしているうちに、12時前にチンタオに到着。終着駅だからゆっくり降りられる。折り返し北京行きになるようだ。

 駅前で少し待っていると青島に来たときにお世話になった若手弁護士のKさんが、レンジローバーでお出迎え。ホテルまで案内してくれる。ホテルはかなり高層の高そうなホテル(青島ファーグローリーレジデンスホテル)。表示されている宿泊費は1500元。
 海のみえる部屋が2つしかないとGさんがいうが、あまり気にしないので、くじ引きでいいんじゃないですかと、話しておく。実際にGさんが四つカードキーを持ってきて、どうぞと、くじびきになった。X教授は、じゃあ奥から3番目といって、カードキーを取る。そのとなりを私がとり、Y弁護士、Gさんの順でキーを取る。部屋のドアをあけてのお楽しみ。

 部屋はかなり広く多分当たり。キッチン、洗濯機、冷蔵庫、食器洗い機もついていた。翌日チェックアウトの直前にドアの裏側の表示で見てみると、隣のX教授の部屋より、広そうだった。残念ながらバスタブはなかった。

 すぐに昼食ということで、24階のレストランに行く。外を見るとレストランの窓とほぼ同じ高さまで凧が揚がっている。高層ビルと凧というアンバランスが面白かった。

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(高層ホテルから見た凧)

 メニューにビジネスランチがあったので、ステーキっぽいビジネスランチにする。X教授はカツカレーランチ、Y弁護士とGさんは、タンタン麺セット。注文の際に、ボーイさんから、「ここのタンタン麺はふつうより辛いがどの辛さを注文するか」と脅されて、普通の辛さを二人は選択したらしい。しかし、いざ担々麺がやってきてみると、全然辛くないとぶつぶつ言っている。ただ、しばらく食べていると、汗がでてきたそうで、やはり辛さはあったようだ。ステーキは結構固め。サラダのドレッシングなしを言ったのに、しっかりドレッシングがかけられており困った。

 X教授は完食。まあ美味しかったですよ、とのことだった。
 お腹も満たしたし、青島観光に出発だ。

(続く)

日中韓FTAシンポジウムの旅日記~その7

(続き)

 大明湖は、市民の憩いの場という感じで結構な人出がある。湖風が吹くと涼しい。柳の街路樹をみて、Y弁護士が、「おお~、心惹かれる」としみじみ言う。中国風の建物もあり、「やっと中国って感じがします」、とY弁護士が喜ぶ。

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(大明湖)

 ムンちゃんの彼氏も日本語ができるそうなので、彼氏にも日本語で話しかけるが、彼氏の方は照れているのか日本語で返してくれない。

 それでもめげずに話しかけていると、彼氏がムンちゃんを介して「先生は、関西人ですか?」といきなり切り込んできた。

 中国でも関西人は著名なのだろうか・・?一体彼氏の頭の中に想起されている関西人とはどんな人物像なのか・・・?疑問は浮かぶが、まあいいや。ここは中国、4000年の歴史。細かいことはどーでも良いのだ。

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(大明湖付近の中国風建物~家の前に人々が出て涼んでいる?)

 湖畔のお土産屋さん街には、なんと猫カフェがあった。ムンちゃんがへばりつくようにして入りたそうな気配を見せるが、彼氏以外全員スルー、ムンちゃんには申し訳ないが、これが形式的な男女平等かも。

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(猫カフェ~「八尾猫 珈琲館」というお店らしい。。。。たぶん)

 遊歩道の脇に選挙のときのように、顔写真がたくさん貼ったボードが置いてあった。聞いてみるとこの辺りの共産党の有力者の方々の写真なのだそうだ。やはり中国・共産党支配なんだという気がする。

 帰りの車が待ち合わせ場所になかなかこず、かなり待たされる。ようやく車に乗り込みホテルに向かう。

 法律事務所の方では是非とも事務所を見てもらいたいとのことだそうで、汗をかいた服を着替える余裕もなく、ホテルの6号館前の駐車場で乗り換えることに。そこで姜先生を待つ間に、朝に撮影した記念写真をもらえた。なかなか大きく立派。着替えもできず汗くさい軽装のまま、法律事務所にいくことになる。せめて名刺入れでも取りに行きたかったが、時間がないということでそれも却下。
 財布に名刺二枚しか入ってないよ・・・。

 法律事務所は、高層ビルのワンフロアーをど~んと占有してある。ぴかぴかに磨かれた床には自分の姿が映るくらいだ。ガラスにも埃のかけら一つもついていない。

 通路の両脇に飾ってある、高さ2m程もあろう、どでかい壷を倒さないように気を使う。万が一にでもカバンのヒモを引っかけて倒して割っちゃったなら、おそらく、数百万円の損害賠償は必至であると思われる。しかも、相手は凄腕ローファーム軍団なのだ。

 それにしてもオフィスは、映画に出てきてもおかしくないくらい格好いい。個室からトム・クルーズが出てきて「Hey! Sakano!」と声をかけられても全く違和感を感じないくらいだ。

 パートナーは約20名、アソシエイトは約50名くらいとのこと。パートナーは個室がもらえるが、アソシエイトはオーブンスペース。受験時代の参考書と思われる書籍をおいてある机もあった。

 休みの日だったが、アソシエイト数名が働いていた。所長室はやはり立派で、格差社会を痛感させるものだった。

 事務所内を案内されたあと、事務所紹介のビデオを見せてもらい、どのような仕事をしているかなどについてお互いが話す。お土産に、その事務所で特別にこしらえた茶器をお土産に頂く。

 その後、食事をご馳走してくれることに。
 中華もあるが鉄板焼もあるような店で、個室での会食。水木金などと曜日を表す名前が個室についていて、我々は「金」の部屋。机の上に注文するための用紙がおいてあり、それに記入して注文するシステムらしい。注文用紙には肉の焼いた物などがそこに載っており、野菜や魚介が苦手なY弁護士も、肉が食べられそうだと言うことで元気が出てきた様子。室内にある円形の中華テーブルの周りに椅子が並べてあるが、誰がどこの席にするかについては、パートナーの先生が決める。

 どうやら、酒席を設けるあるじが、一番奥の中心に座り、その右手に1番目の客、左手に2番目の客、という順番があるようだ。年齢順にX教授、S弁護士、Y弁護士の順序で座るよう指示を受ける。

 アルコール度52度の酒で乾杯をするらしいが、飲めない。飲め飲めと促されて、仕方なく、少しだけ飲む。シンナーのようななアルコール臭がする上に、のどがカット燃える。

 案の定、すぐに頭痛に襲われた。これは飲んべえの方には分からない辛さだろう。

 ステーキ肉、麻婆豆腐、回鍋肉など、少し辛いがおいしい。ただし、なぜか最後のラーメンだけは味がしなかった。

 途中で、トイレに立った際に、お店の人に「ツァーサ・サイナーリ」と言ってみた。1度目は??という感じだったが、再度大声で言ってみると、トイレを教えてくれた。おお、覚えておいて良かったぞ。X教授の教えに感謝するS弁護士だった。

 チャン先生?というおもしろい大学教授?も途中から参加。
 少し石原慎太郎の若い頃に似ていて、日本語がめちゃくちゃ上手い。これだけ日本語ができれば、日本人だといっても誰も疑わないだろう。「日本語上達の秘訣は、とにかく勉強よりも遊ぶことだよ!」と豪快に笑っていた。これだけ日本語がお上手だと妙に説得力がある。

 昨夜の歓迎会と同じく、ここでも何度も乾杯することは変わらない。それ以外にも、1対1で乾杯するところは同じだ。

 アルコールを飲むと頭痛がする私、アルコールに極めて弱いY弁護士は共にかなり厳しい状況。X教授の肝臓が丈夫で本当に良かった。そうでないと、3人とも歓待してくれるのに無礼な対応になりかねないところだった。ほんと、中国でのお付き合いにはアルコールに強いことが必須の条件である可能性が高い。

 帰りの車内で、Gさんと話していたX教授から、明日の夕食も宴会に決まりましたと告げられる。

 どうやら明日は、青島の有力弁護士さんがご馳走してくれることになったらしい。最後くらいはのんびりしたかったが、お誘い頂いた以上、もう行くしかないだろ。どうにでもなっちまえと、S弁護士は、飲めないアルコールを無理して少し呑んだために、がんがん痛む頭のなかで、半ばやけっぱちになって考えていた。

 ホテルに戻った際にX教授にエアコンをみてもらった。どうやら、太陽マークに見えたのは雪のマークで、雪のマークがついていれば冷房になっているとのこと。「まったく紛らわしい表示だな。」と自分の観察眼のなさを棚に上げて、昨晩の悲劇を振り返る。これで今日は安心して眠れそうだ。

(続く)

日中韓FTAシンポジウムの旅日記~その6

  開会式の挨拶のあと、まずは記念撮影ということで外にでる。ハンドメガホンを持った写真屋さんがいて、あれこれ指示を出している。カメラ自体が回転しながらシャッターが下りるという特殊カメラを使ったものだった。多分横に広い、パノラマのような写真ができるのだろう。

 しかし、日差しがまぶしくて目をきちんと開けていられない。

 確かこの間、新調した眼鏡はUVカットのはずだが、、、、と一瞬思ったが、良く考えるとUVは目に見えないのであって、いくらUVをカットしてもまぶしい可視光線を防ぐ効果は全くなかったのだ。つまりは、当たり前のことなのだと妙に納得する。

 おかげで目が痛くなってしまった。

 それにしても、背の低い人のために踏み台にする箱を、写真屋さんが用意していて、身長差による凸凹を調整するのが、昔っぽくておもしろい。

 無事記念撮影は終了したが、このあと、すぐに発表なので気が気ではない。

 会場に戻ると机が並び変えられていた。

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(S弁護士の席。微妙に坂の字が中華っぽい?)

 会場では、通訳ですという北京大学の女子大生の挨拶を受ける。京大に留学していたそうで、流ちょうな日本語を話す。

「へー、Gさんと二人でダブル通訳なんだ」と独り言をいうと、

「いえ、私は、ディスカッションの通訳なんです。」とのお答え。

 ディスカッション?!

 質問はあるかもしれないと聞いてはいたが、ディスカッションなんて聞いてなかったぞ。

 質問以上のディスカッションまで想定され、しかもディスカッション用の通訳まで準備されているとは、こっちにとっては、さらに想定外。

 もうどうにでもしてくれという気になってきた。ここは中国。ラーメンのCMだと4000年の歴史の国だ。細かいことは気にした方がダメなんだろう。

 席は左からGさん、X教授、S弁護士、Y弁護士、女子大生通訳のムンちゃん。

 いよいよシンポジウム開始。昨日の夕食時となりにいた姜先生が、司会。何か注意をしているが、もちろん中国語なので、分からない。
 Gさんによると、どうやら発表時間を20分に制限することになったとのこと。

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(シンポジウム開始の図。~左端が司会の姜教授)

 早速、山東政法学院の李先生(女性)が発表を開始した。発表順は中国の李先生、X教授、S弁護士、Y弁護士、韓国の張教授、中国の芳先生となっている。

 もちろん、李先生が何をいっているのか分からない。

 しかし、今は自分の発表が優先だ。だがここまでどうやって発表するのかも聞かされていない。同時通訳なのか、普通にしゃべって通訳してまたしゃべる方式なのかも分からない。

 質問に加えてディスカッションも予定されているなどと、最初の話と相当違ってきている気もするが、乗りかかった船どころか既に出航している船だ。今更、おうちに帰るとも言い出せない。

 とにかく発表時間が制限されたことから、蛍光ペンで発表原稿から、割愛する部分をチェックし始める。
 他人の発表なぞ聞いている暇はない。

 X教授が発表開始。

 どうやら、同時通訳ではないようだ。発表者が日本語で発表し、区切りの良いところでGさんが中国語に通訳する。しかしこれなら、20分の発表でも通訳に半分時間がかかるから、実質10分の発表時間しかないことになる。

 原稿自体の中国語訳は配布されていると聞いているので、要点だけ発表するしかないと腹をくくって、バッサリと割愛する部分に×印をつけて切り捨てる作業をする。

 そして、ついに、S弁護士の発表となった。

 発表自体は、堂々としていろというX教授の指示と、できるだけゆっくり話したこと、緊張していたこともあって、あっという間だった。

 かなり割愛したが、何とかまとめきる。

 続いてY弁護士の発表だ。

 Y弁護士の紹介がなされるとなぜか、まばらな拍手が。おお、これまでの発表者は紹介されても誰も拍手なんてなかったが、どうしてY弁護士だけ拍手があるんだろう。

 発表を終えて安心したせいか、どうでもいいことが気になるな。
 理由は分からない。
 
 X教授がY弁護士の横について、割愛する部分などを指示する。Y弁護士も無事にまとめきったようだ。

 Y弁護士は発表後、他の先生の発表原稿を女子大生通訳ムンちゃんに翻訳してもらっている様子。どんどん席が接近している。ほとんど肩を寄せ合った状態になっている。どうでもいいけど、ちょっと羨ましいぞ。

 Y弁護士は聞き上手でもあって、女子大生の通訳にうんうんと頷いて聞いている。しかし、Y弁護士が頷くと、頷きアクションに合わせて、Y弁護士の椅子がギシギシいう。少し椅子の立て付けが悪いようだ。

 「こらこら、Y弁護士、女子大生と一緒になって椅子をギシギシ言わせたらあかんやろ。」とちょっと誤解を招きかねない、不埒かつ不適切な表現が頭に浮かぶS弁護士であった(失礼!)。

 他の先生方の発表中は、X教授は教え子のGさんとなにやら話しているし、Y弁護士はムンちゃんと接近遭遇しているし、両者の真ん中でぽつんと、意味もなく、100年の孤独を感じるS弁護士であった。

 
 S弁護士が、「ガルシア・マルケスの100年の孤独っていったって、中国は4000年の歴史なんだよな~」と、ぼーっと考えていたところ、突然停電が起きた。

 どうやら建物全体が停電しているようだ。「最近はこんなこと無かったんですがね~」とGさん。誰も騒がない。どうせそのうち復旧するさ。騒いだって意味ないよ、という感じがいかにも大陸風に感じられる。

 エアコンも止まり次第に暑くなる。

 しかし発表中である韓国の張教授は、原稿も見ずに、暗闇の中、淡々と発表を続ける。ある意味凄い。10分ほどで停電は回復。空調も効き始めた。

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(突然の停電)

 会場のトイレは和式。廊下に飲み物・果物などがおかれているテーブルがあったが、食欲がないことと、食べていいのかわからなかったことで今回はパスした。
最後の山東学院の方のご挨拶がかなり長かった。結局時間が押したせいか、質問もディスカッションもなかった。

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(無事発表を終えて)

 X教授のご命令でY弁護士とムンちゃんのツーショット写真を撮る。Y弁護士へのX教授の命令は、連絡先を聞きだしてS弁護士が撮影した写真をムンちゃんに送ること。

 なるほど、若者達への配慮ですな~。X教授の心遣い、ニクイじゃないですか。

 その後、前の日に夕食を食べた1号館に移動してバイキング方式の昼食。ここで食券が使えた。入る際にも並んでいる学生よりも先に通してもらう。

 発表が終わって気が緩んだのか、箸を落としてしまい、換えをもらおうとするが、食器置き場の箸がもうなくなっていて、困る。料理を追加する前に食器をまず補充せんかいな。結局、格好は悪いが長さと色の違うハシを組み合わせてしのぐ。

 観光について、Gさんが、軽い登山になるが、仏像がたくさんあるという山寺への参拝を提案するが、X教授が「暑いでしょ、行きたければどうぞ。私、下で待ってますから」と即時に却下。このまま観光しなくてもいいという話まであったが、Gさんも残念そうだったので、協議の結果、済南市民の憩いの場、大明湖に行くことになる。

 3時集合。それまでは部屋に戻って準備とのこと。シャワーを浴びて少しさっぱりするが、寝てしまうと起きられない可能性がある。危険と思って我慢する。

 集合場所に来てみると、どこかの法律事務所から是非会ってお話ししたいとの申し入れが来ているそうで、あまり時間がないらしい。急いで大明湖に向けてでかけようとするが、呼んでいるはずのタクシーがこない。Gさんいろいろ連絡するも、どうもうまくいかないようす。

 通訳女子大生ムンちゃんも一緒に行くことになった様子で、彼氏と一緒にきていた。

 中国当局からハニートラップを仕掛けられたのではないかという噂もある、と噂で聞いたX教授が、独身のY弁護士に「いやいや、彼氏がいても、日本の弁護士はもてますから・・・」などと、いつもの笑顔を浮かべながら、その笑顔にそぐわない不穏な発言をしている。

 そういえば、X教授も弁護士登録をしている。X教授は中国渡航歴も多いし、中国人女性が日本の弁護士を見る目について詳しいのかもしれない。しかし、今日は、中国のバレンタインデーだ。恋人達を祝福すべき日のはずだ。

 「X先生、今日は中国のバレンタインデーでっせ!そんな恋人達の聖日に、それは、ないんとちがいますか!」、と心の中で義憤に駆られたS弁護士は、Y弁護士に小声でこう告げるのであった。

「Y君、、、、、X先生の言うとおりやで・・・。日本の弁護士の魅力、見せつけてやらなあかんで・・・。」

ナイスガイのY弁護士は、S弁護士の心からの忠告を、笑顔で右から左へと受け流したようだった。

 待ち合わせの6号館前あたりまで歩くが流しのタクシーもない。ホテルの参道みたいな道だから、しかたがないのか。

 Gさんが、どういう関係かわからないが、なんとか車を2台捕まえ、湖まででかけることになる。Gさん、X教授、S弁護士が白い車。日本の弁護士の魅力を発揮せよと、X教授の勅命を受けたY弁護士と、ムンちゃん達カップルが青い車に分乗。

市内は結構込んでいる。 

 もうすぐ着きますという、Gさんの言葉とは裏腹に、渋滞する市内をかなり走るがまだ大明湖にはつかない。

 その間に、車内でX教授と、格差について議論。

 いつも思うのだが、頭のいい人と議論すると、こちらの考えも上手く整理できる気がする。

(続く)

日中韓FTAシンポジウムの旅日記~その5

5月20日

 朝食は,X教授に指定されて、七時の予定。遅れてはいけないので、5分前に部屋を出てエレベーターに向かうと、エレベーターホールでたまたまY弁護士と一緒になる。

 1階のホールで少し待っていたが、X教授がやってこない。仕方がないので、先に朝食をとることにする。部屋のキーカードを見せるだけで入れた。昨日もらった資料の中に、食券が入っていたが、それはどうも昼と夜に使うものらしい。

 食事は中華バイキング。コーヒーもお茶もない。粥で水分を取るようにということらしい。昨日逢った偉い方とまたお会いしたので、挨拶を交わす。朝から結構濃い味付けのようで、血圧に影響しないか少し心配。心持ち野菜を多めにとるようにする。

 少しして、Gさんもやってきて、飲み物はないのかなという話になるが、やはり、粥で取るようだ。
 さらに時間がたってX教授登場。食事は7時と決めたのはX教授だが、その時間に、登場しないのが大人物たるゆえんか。

 朝食後に部屋に戻り、服装について考える。今日は発表でもあるから、やはりスーツで行くべきだと思う。しかし暑いのは間違いないので、上着は部屋に置いて、ネクタイだけはしておくことにした。
 これなら、みんながスーツでも、暑いから上着を着ていないだけですよ、という言い訳が可能だし、みんながラフな格好の中で、上着までスーツを着たままで浮いてしまうこともあるまい。
 和解でいうなら折衷案、まあ両面作戦だ。

 待ち合わせの1階ロビーに到着すると、Y弁護士は、上着まで着込んだスーツ姿。「すごいな、暑くない?」と聞くとやはり「少し暑いです。」との返答。そりゃそうだろう。外はかんかん照りだぜ。

 一方、X教授はラフなシャツにノーネクタイ。Gさんもラフなシャツ。シンポジウム会場の6号館まで歩いてみると、かなり暑いので、ラフな格好で来なかったことをかなり後悔する。

 途中、花で飾り付けられたマセラッティと、ドアミラーにリボンを着けたベンツが何台も止まっている。Gさんによると、結婚式なのだそうだ。しかし、自動車の側面には結構泥とかがついていて、綺麗ではない。

 門出にしては、ちょっとなんだな~と思ったが、そんな細かいことに気を使うのは日本人くらいですよ、と米英に留学経験のあるX教授がいう。
 X教授によれば、英国では駐車するときにバンパーをぶつけて隙間を空けて出入りするのが普通なんだとのこと。「『そのためのバンパーでしょ』、とイギリス人は言うんですよ。」と仰る。英国では確かにそうかもしれないが、なかなか日本ではそうは、いかんだろう。

 また5月20日は中国のバレンタインデーのようなものだから結婚式が多いのかもしれない、という説明をGさんから聞く。理由は、5月20日の中国語での発音が、アイラブユーに似ているから、バレンタインデーのようなことになっているのだとか。こんな暑いときにチョコレートをあげても溶けるだけじゃないのだろうか。溶けてベタベタになったら大変だぞ・・・。と数多の離婚事件に携わったS弁護士は、他人事ながら少し心配になる。

 ちなみに、Gさんに聞くと、本命にはチョコレートのプレゼントだが、義理チョコの風習はないそうだ。義理チョコの代わりに脈がない人にはリンゴを渡す風習になっているのだとか。

 やはり今日も暑い。歩いているだけで十分に汗をかく。ハンカチは持っているが、タオルの方が良かった。

 会場である6号館の入り口の外に、兵隊さんのような人が2名立っている。入り口内側にはチャイナドレスの女性が二人立っている。ともに微動だにしない。万が一軍関係の人だと怖いので撮影はしない。Gさんからも、軍関係の撮影はしないように釘を刺されている。良くてカメラ没収、悪ければどこかに連れて行かれるのだそうだ。その「どこか」が分からないだけになお怖い。

 撮影はできなかったが、しばらく見ていると瞬きはしていた。Gさんによると、このホテルは軍部が使うこともあるそうなので、その名残なのだろうかと勝手に考える。

 入ったところには、大きな毛沢東の絵が掲げてある。

 発表者は受付での署名は不要だったので、特にチェックされることもなく会場がある2階にあがる。

 会場は広かった。名札がおいてあり、最前列にS弁護士とY弁護士の名札。他にも着席順は決まっている。X教授とGさんは発表者側の席。いわゆる雛壇の上だ。
 冷房がそこそこ利いている。これならスーツでもなんとか耐えられそうだ。

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(開会式前の会場)

 開会式の時間になって雛壇の上の人たちがやってくると、全員上着まで着用したスーツ姿だった。まあ、国際会議みたいなもんだし、そうだろうなぁ。少しだけネクタイをしてきたことにホッとする。ひな壇でスーツじゃないのは、X教授とGさんだけ。だが、何故かそう強い違和感を感じない。「学会なんだから、勉強が目的でしょ。勉強に適した服装ですが、なにか?」という感じで、逆に、そこはかとなく大物の風格が漂っていたりする。

 しかし、大物ならともかく、一介の弁護士にすぎないS弁護士は別だ。やはりもうすこし貫禄がつかないと、ああはできない。形式的と言われようが、ネクタイ着用はやはり必要だ。

 普段は、お釈迦様の手のひらから脱出できない孫悟空のように、X教授の手のひらの上で踊らされる存在にすぎないS弁護士ではあるが、ここは自分を信じて正解だった。

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(ひな壇の上のエライ人達)

 開会の挨拶だろう。主催者側の中国、日本、韓国の順番になされる。X教授は老子か荘子の言葉を引用して、上手いスピーチをしていた。さすがに場慣れしている。

 正面の壁一面に大きな大会の看板が設置されていて。想像していたよりも相当大きなシンポジウムであることに驚く。しかも配布されたプログラムによると、開会式が行われた会場で発表しなくてはならないことがわかっている。多分一番大きな会場だろう。あ~早く発表が終わってくれんかな。

 とにかく、義務を負ったままだと何も楽しくはない。S弁護士は発表のことばかり考えていた。

(続く)