日弁連法曹人口検証本部の取りまとめ案について~2

 日弁連の構成員は弁護士である。そして、弁護士という仕事も職業である以上、弁護士は弁護士業で自らや家族の生活を維持しなくてはならない。そうだとすれば、日弁連は会員である弁護士の生活をより維持しやすい方向で政策提言していく必要があるのではないか。

 医師会だって、医療過疎問題についても、まずは医師の収入が確保できるかが大前提だという姿勢を崩していない。司法書士会は、弁護士の仕事を司法書士にも開放しろと司法書士の今後の生活にプラスになる提言を続けている。税理士会だって同様に会員である税理士の生活を守る方向の提言を行っている。

 ところが、今回の検証本部の取りまとめ案は、結局は現状の弁護士激増を容認するものだから、日弁連会員である弁護士の生活が今後さらに危うくなっても構わないという方向の取りまとめ案なのである。

 要するに日弁連は、税理士会や司法書士会よりも多額の日弁連会費を納めさせておきながら、会員である弁護士の生活を危うくする方向の提言を打ち出そうとしているのである。


 おそらくその裏には、日弁連執行部が法科大学院制度を推進する方針を選択し、法科大学院制度を維持するためには司法試験合格者1500人を維持しなければならないという事情があると思われる。
 しかし、法科大学院制度導入により法曹志願者は激減し、優秀な人材が法曹界を避けるようになったとも言われている。司法試験合格率もかつては2%程度だったものが現在では、志願者が少なく合格者を多く維持しているため、合格率はほぼ50%近くというザル試験になっている。実際に法科大学院の半数以上は廃校になるなど、法科大学院制度は大失敗、税金の無駄使いだったとしかいいようのない制度であることが分かってきている。

 しかし、法科大学院制度を守ったところで、優秀な法曹を輩出できず法曹業界が焼け野原になり、司法に対する国民の信頼を失ったら全く意味がないではないか。

 そもそも法科大学院制度は優秀な法曹を多く産み出すという目的のための手段にすぎず、法科大学院制度の存続が目的なのではない。だから優秀な法曹を他の手段で生み出せるのなら法科大学院制度は不要なのである。

 そして、大手法律事務所が法科大学院卒業生よりも予備試験ルートの司法試験合格者を優先して採用していることからも分かるように、実務界では予備試験ルートの司法試験合格者の方が使えると見られているのである。

 法科大学院制度を推進したことが間違いだったのであれば、その間違いを認められずに法科大学院制度と心中するのではなく、方針の誤りを素直に認め、次善の策を採ることこそが日弁連執行部の取るべき途ではないのか。
 

 前にも書いたように思うが、対戦車の戦いを想定して軍備を整えていたところ、実際には航空機で攻撃された場合に、対空戦闘に切り替え、そのための武器を本部に要請するのが指揮官として当然の行動だろう。

 今の日弁連執行部は、航空機による爆撃を受けているにもかかわらず、対戦車の軍備方針は正しかったはずなのだから、さらに戦車の増援を本部に求めているような状況であり、ある意味完全に兵士に無駄死にを強要する超無能な指揮官にすら見えてくる。

 検証本部の各委員の先生方のご努力には敬服するし、各委員の先生方が無能であるなど全く思っていないのだが、検証本部の指揮官(≒日弁連執行部)がこれ程無能では、検証本部としては、結局ロクな方針が打ち出されそうにない。

 さらに言えば、日弁連執行部は司法過疎解消を叫び続けている。今回の提言案にも司法過疎問題も影響しているかのような記載もある。

 しかし、日弁連執行部を務めた弁護士が司法過疎解消のために自ら過疎地に赴いた話は、少なくとも私は聞いたことがない。

 結局、日弁連執行部は、「しんどいことでもやりますよ~」と、対外的にええカッコしておきながら、その実行は若手や新入会員などにやらせる傾向にあるのだ。

 私に言わせれば、司法過疎なんて簡単に解消できる。日弁連執行部を務めた弁護士が5~10年、司法過疎地で勤務するように義務づけすれば良いだけだ。だって日弁連執行部が司法過疎解消したいと述べているんだから、その方針に賛同した執行部にいた人達は、司法過疎解消に積極的なはずだから、やりたきゃ自分でやりゃあ良いのである。

 高い会費を取っておきながら、弁護士の生活を顧みない方向の提言をするなど、なに考えてんだ。

 そろそろ、会員が安心して暮らせる方向の提言を出してみたらどうなんだ。


 

日弁連法曹人口検証本部の取りまとめ案について~1

 

 日弁連の法曹人口検証本部が出そうとしている、法曹人口政策に対する対処方針案を見る機会があった。

 日弁連法曹人口検証本部の議論状況については、複数のところから聞き及んでいる。その内容からすれば、委員の方々が様々な意見を述べても、検証本部の本部長などは適当に聞き流しているような印象がある

 さて、法曹人口政策に対する対処方針案を読むと、「現時点において司法試験合格者の更なる減員を提言しなければならない状況にない。」という内容でのとりまとめを行おうとしているようだ。

 はっきり言って、検証本部の本部長は、日弁連主流派の意向に逆らわないから、日弁連主流派・日弁連執行部の意向が、「現時点において司法試験合格者の更なる減員を提言しない」というものであるということだ。

 私は、日弁連執行部は阿呆か、と言いたい。

 そもそも、司法制度改革審議会意見書(2001年)に基づいて、司法試験制度や法科大学院制度、法曹養成制度の改革も行われてきた。その改革の出発点はどこにあるかと言えば、司法制度改革審議会意見書作成時点で、今後は法的紛争が複雑化し、更に増加すると見込まれていたからだ。

 そのような法的紛争の増加が見込まれたからこそ、国民の皆様からの需要が増大するだろうし、その国民の法的需要を満たすために法曹人口も増大する必要があるから増員すべきという意見だったはずだ。

 ところが、実際には一時期過払いバブルによる事件増加はあったものの、裁判所に新たに持ち込まれる事件数(全裁判所の新受全事件数)で比較すると、
司法制度改革審議会意見書が出された平成13年は5,632,117件あったものが、平成30年には3,622,502件まで減少している(2019裁判所データブックによる)。

 裁判所に持ち込まれる事件数が35%以上の減少だ。司法制度改革審議会意見書の論旨からすれば、法曹人口増員の必要などなかったことになるはずなのだ。

 なお、この間に弁護士の数は倍以上(平成13年で18000人前後→平成30年で40098人)になっている。
 つまり、単純計算すると、平成13年には100のパイを10人で分けていた(1人あたり10個)のが、平成30年には65のパイを20人で分ける状況(1人あたり3.25個)になったのだ。

 この状況で、現状の司法試験合格者が1500人を割り込んできているにもかかわらず、更なる減員をすべきではないと提言することは、日弁連は司法試験合格者1500人維持を主張していると対外的に受け取られるだろう。

 それは、実際には、減少していくパイをさらに多くの人間で分け合う(奪い合う?)傾向をより強めようとすることに等しい。

 要するに、さらに弁護士資格の経済的価値が減少することを促進しても構わない、ということだ。

ところが、日弁連法曹人口検証本部は、裁判所の統計は確かにそうだが、裁判所に持ち込まれる事件以外の事件が増えている印象があるから、弁護士人口の急増を維持し続けても良いのだ、と主張するようだ。

 客観的である裁判所の統計資料から読み取れる状況よりも、感覚的な印象を優先することは、裁判で明確な証拠を突きつけられながら、私の印象は違いますと言っているようなもので、法律家として極めて低レベルの議論としか良いようない。

(続く)