令和5年度司法試験合格者数増加は出来レース?!

 令和5年度の司法試験合格者発表が、11月8日に発表された。合格者は1781名で政府目標であった司法試験合格者数1500名を上回った。

 日経新聞などは、法曹離れに歯止めがかかったかのような報道をしているが、司法試験合格者増だけでそう言えるかは極めて疑問である。私が受験していた四半世紀前は司法試験受験者は約3万人いたが、現在は法科大学院志願者は延べ人数で約1万人前後である。法科大学院志願者は複数の法科大学院を受験している可能性が高いので、法曹志願者の実数はもっと少ないだろう。

日経新聞の記事
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE069WQ0W3A101C2000000/

 それはさておき、問題は、今年の司法試験合格者数である。私はこの数字は出来レースであったのではないかとの疑念を持っている。

 
 その根拠は裁判所の予算概算要求である。裁判所の令和6年度の概算要求書には、1800名の司法修習生を前提にした概算要求がなされている。

https://www.courts.go.jp/about/yosan_kessan/vcmsFolder_1269/vcms_1269.html

 上記の裁判所令和6年度歳出概算要求書48枚目以下には、78期導入修習(1,800【→1,800人の意味】)との記載があるし、司法研修所で用いる修習記録(修習生に配付される資料)の数も78期分は(1,910)【→1,910部の意味】での予算が要求されているからである。

 概算要求は確か、8月31日までに提出しなければならないはずだから、その時点(司法試験合格発表の2ヶ月以上前の時点)で、既に裁判所は今年の司法試験合格者数は1800名を少し切る程度になると分かっていたことになろう。

 ここ数年、司法試験合格者数が政府目標の1500名を割り込むことが多かったにもかかわらず、裁判所が突然司法修習生1800名を前提にした概算要求をしていることからすれば、1800名弱を司法試験に合格させることは、既に既定路線(悪くいえば出来レース)だった可能性が高いように思う。

 では、なぜ、このように司法試験合格者数約1800名を、突然既定路線にしていたのか。
 司法試験合格者数の政府目標が変更になったわけでもなければ、今年の受験生に突然優秀層が激増したことが理由だとも考えにくい(仮に万一そうであったとしても合格発表前に裁判所に分かるはずがないし、何より何人合格するかは分かるはずがない)。

 そうだとすれば司法試験合格者数を約1,800人にしたその理由は、司法試験制度の変更の影響くらいしか考えられない。
 この点、日経新聞の記事にもあるように、今年の司法試験には試験制度の変更があった。
 それは
 ①今回の司法試験では、法科大学院の最終学年の在学中受験が認められた
 ②学費や時間的な負担軽減を目的に20年度に設けられた、大学3年、法科大学  院2年の計5年で修了できる「法曹コース」出身の受験生が受験した。
 主にこの2点である。

 文科省の法科大学院等特別委員会は、これまでさんざん法科大学院改革に失敗してきたことから、上記の2点の変更に関して、もはや失敗は出来ない、と相当追い詰められていたようだ。

 これまで、文科省・法科大学院側は「プロセスによる教育が大事だ、そのための法科大学院だ」と言い続けながら、法科大学院を修了せずに司法試験を受験させるよう制度変更するなどしており、実質的にはプロセスによる教育の放棄ともいえる手段を自らの生き残りのために実施している。
 また大学入学直後から法曹コースに入れて、大学生活の多くを司法試験に向けての勉強に没頭させることは、司法制度改革審議会意見書が求める「21世紀の司法を担う法曹に必要な資質として、豊かな人間性や感受性、幅広い教養と専門的知識、柔軟な思考力、説得・交渉の能力等の基本的資質に加えて、社会や人間関係に対する洞察力、人権感覚、先端的法分野や外国法の知見、国際的視野と語学力等が一層求められる」との法曹像からかけ離れた法曹を生み出す危険もあるはずだ。

 何より、当初設置された法科大学院の半数以上既にが潰れており、近年希に見る失敗政策だったことは誰の目にも明らかである。

 しかも、法科大学院等特別委員会の議事録には、「これら制度の変更の成果は長い目で成否を見守って欲しい」という最初っから負け戦を恐怖するかのような発言が多くみられていた。

 つまり文科省・法科大学院側からすれば、どうしても法科大学院在学中受験者の合格者数も法曹コースの合格者数も増やさなければならない強い必要性があった。しかし、そのために司法試験でそれらの者だけを優遇するわけにはいかないから、司法試験合格者数を増やして、法科大学院在学中受験者の司法試験合格者数と、法曹コースの司法試験合格者数を増やす必要があったのだと考えるのが合理的だと私は思う。

 日経新聞の記事には、法務省の担当者の話として
 「新制度が始まったことにより受験者数と合格者数が増加した。こうした傾向が来年以降も続くかどうか注視したい」との内容が記載されている。
 この法務省担当者の話が事実だとすれば、その発言は、文科省・法科大学院が導入した新制度開始が合格者増加の原因であると法務省関係者が認めたとも受け取ることが可能であり、私の考えも決して的外れではないのかもしれない。

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