不思議な体験~2

 前回のブログにも書いたように、霊的なものについては極めて鈍感なS弁護士だが、どうにも説明が付かない不思議体験が、実は、もう一つある。

 男子学生なら誰しも、女性と二人きりでドライブしたいと思うものだ。しかも、できれば、夜中の方がなぜか嬉しいものである。もちろん学生Sも例にもれなかった。

 京都の学生がドライブするコースなら、たくさん考えられるが、ワインディングを楽しむのなら、山中越え・途中越えの他に、周山街道という手段もあった。周山街道は国道162号線が京都市から北へと伸びていくもので、そのまま日本海まで行けてしまうルートである。

 当時読んでいたバイク雑誌で、周山街道には幽霊が出るという噂もある、という記事も読んだ記憶もあったが、もちろんそんなことは信じていなかった。

 さてある日の深夜、学生Sは、お付き合い中の女性を助手席に乗せて、周山街道を気持ちよく北に向かって走っていた。確か、夜食でも食べようと誘ったかなにかで、あまり北に走りすぎると京都市内のラーメン店がしまってしまうかもしれず、ある程度のところでUターンをして、京都市内に向かって走っていた時のことだった。

 もちろん深夜なので、対向車はほとんど通らない。対向車があってもライトの光でかなり手前から気付くので、以外に安全なのだ。たわいもない話をしながら、学生Sは気分よく、制限速度+αのスピードでコーナーをクリアしていくのを楽しんでいた。
 おそらく学生Sは自分の大したこともない腕前に酔っており、助手席の女性は横Gをかけられすぎて車に酔っていたのかもしれなかった。

 トンネルを越えて、すこし進んだところの左カーブ。
 スピードがそこそこ出ていたためか、学生Sが、やや膨らみ気味にカーブを曲がったその瞬間だった。

 突然、白い車が目の前に現れた。
 やばい!
 直感的にそう思った学生Sは、「うわっ」と叫び声を上げ、助手席の女性は「きゃっ」と声を上げる。学生Sは、さらに左にハンドルを切ってかわそうとする。

 幸いにも、白い車はそのまま、至近距離を対抗車線をすーっと通り過ぎていった。
 運転手は、やけにしろっぽい顔をした、血の気の薄い印象の男性だったが、真っ直ぐ前を向いてこちらの挙動など気にしていない様子で、そのまま通り過ぎていった。

 危なかった~。

 衝突を避けられたことに安堵して、すこしスピードを緩めつつ、車の時計を見ると2:22だった。
 しかしである。
 何か、違和感があった。何かが変だと、学生Sの直感が叫んでいた。

 すこし運転を続けているうちに、別の車がエンジン音を響かせて対抗車線を通り過ぎていった。学生Sは、そこで初めて異常な事態が生じていたことに気付くことになる。

 つまりこうなのだ。

 いくら学生Sの運転が、同乗者を乗り物酔いさせるようなものであっても、無茶はしないのだ。対抗車が来るのを分かっていながら左カーブをやや膨らんで走行することなどは、絶対にしないのである。

 それにも関わらず、左カーブをやや膨らんでしまうスピードで走行したのは、学生Sは、対抗車線にライトの明かりが全くなかったことから、対向車が来ないことを確信していたからなのだった。

 つまり、対向車は、ライトを点灯させずに、走行していたのだ。そして、そのことに、そこで初めて気付いたのだった。

 「ちょっと、さっきの危なかった車、ライト点いてなかったよな」と確認してみたところ、両手でシートベルトを握ったまま、助手席に座っていた女性は2~3度肯き、間違いないという。怖がり、嫌がる女性を説き伏せつつ、怖いもの知らずの学生Sは、現場に戻って自動車が来ないことを確認の上、ライトを消してみた。

 何も見えない漆黒の闇である。

 ちょうどその現場は、街灯が途切れており、道路を照らす明かりが全くないのである。しかも山の中であり、月も出ていない深夜である。道路の中央線ですら分からない位なのだ。
 無灯火では、危なくてとても自動車を運転できるような状態ではない。

 また、自動車がすれ違う際には何らかの音が聞こえるものだ。風を切る音やエンジンの音などである。
 しかし、思い返してみても、その白い車とのすれ違いでは、そのような音を聞いた記憶がどうしても見つからないのである。

 周山街道では、妙に血の気の薄い男性が、運転席で真っ直ぐ前を見据えたまま、音も立てずに漆黒の闇の中を、無灯火で白い自動車を走らせている・・・・・?

 しかし、カーブの多い周山街道を深夜、街灯もない闇の中でライトもつけずに自動車を走らせるなど、現実的には不可能である。

 この一瞬のすれ違いは、どうにも説明できない体験として、未だにS弁護士の記憶には残っている。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です