次に及川候補の選挙公報を見てみる。
及川候補の選挙公報は
なぜ立候補したのか
「司法改革」の誤りを正す!
弁護士の仕事と生活を守る!
第1 司法改革の誤りを正す!
第2 会員の意見を汲み取る
第3 人権を守る
6つの重要政策 実現に向けて
及川智志の経歴・活動
と区分けして記載されている。
弁護士の所得の中央値が2006年に1200万円だったものが、わずか8年後の2014年には600万円に半減しており、回復していないこと、
2000年に約17000人だった弁護士数は、2022年には44000人に増加しているが、現在の司法試験合格者数を維持すれば、さらに弁護士数が増加して6万4000人を超えてしまうこと、
国選弁護制度や民事法律扶助(法テラス案件)のように、赤字案件を弁護士の善意に頼って実施させている政策の問題点などを指摘している。
基本的に及川候補の主張は、客観的データを用いた主張であり、抽象的概括的な主張に過ぎない渕上候補の主張に比べると、現実の問題点を把握したうえで、それに対処しようとする説得的な主張が見受けられる。
弁護士は基本的に見栄っ張りな人が多いので、なかなか本音を言わないが、年間所得が600万円程度に過ぎないのなら、大企業に就職していた方がよほど安心・安全な生活を送れる見込みが高い。資格取得に苦労と費用と時間がかかったあげく、弁護士の仕事は、他人の喧嘩を代わりにやる面もあるので、ストレスフルなものが多い。
仮にうつ病になってしまえば収入はゼロ。収入がゼロでも、生きていくための生活費は当然かかる。ここまでは給与所得者の方と同じだが、さらに、経営者弁護士だと生活費に加えて事務所の経費が年間2000万円位は平気でぶっ飛んでいく。
近年、企業内弁護士の志望者が多くなっていることには、弁護士業のリスクに対する不安の大きさも一つの理由だと考えられる。
弁護士には、基本的には国民年金しかないし、健康保険も東京など健康保険組合を立ち上げている一部の弁護士会などを除けば、国民健康保険である。退職金制度もない。その分を貯蓄しておかなければ、余生は生活保護の危険すらあるのだ。
それにも関わらず、日弁連主流派(大阪弁護士会執行部もそうだが)は、人権を守るために必要なら、本来国がやるべき制度であっても、その制度をとにかく実行したがる。そして、その制度が全くペイせず、弁護士会員に負担を押しつけるものであってもお構いなしなのである。
そもそも国選弁護だって、国からもらえる報酬は諸外国よりも相当低く、私選弁護の1/5~1/10位しか支払われず、全くペイしない制度である。日弁連は、長年ずっと値上げを求めているが殆ど無視されており、弁護士の犠牲で成り立っている制度なのである。
民事法律扶助(法テラス案件)、被疑者国選も同様である。
医師会だって、無医村への医師派遣には、経済的にペイするかどうかをまず考える。医師だって職業だから当然である。私は、人権保障に必要でもまず経済的に成り立つかどうか考えてから実行すべきだと、いつも大阪弁護士会の常議員会で主張するのだが、とにかく、「人権保障に必要なら苦しくても日弁連や弁護士会が、自腹を切ってでもはじめるべきだ。いずれ国が分かってくれて制度化してくれる。法テラスや被疑者国選だってそうじゃないか。」と日弁連・大阪弁護士会執行部などは主張するのである。
しかし、被疑者国選も法テラス案件も、制度化はされたものの、弁護士に支払われる対価は極めて安く抑えられており、全くペイしないのだ。人権保障には役立つが、経済的に見れば、弁護士に赤字と分かっている仕事を、さらなる犠牲を、押しつけただけなのである。
日弁連や執行部が、「私たちは人権保障のためにこんなに素晴らしい制度を国民の皆様の為に実行しています!」と良い格好する裏で、実際に担当させられる弁護士は赤字案件をやらされることになるのである。
確か前回の日弁連会長選挙の際に、法テラス案件を自ら担当して処理した経験があったのは、及川候補だけだった。日弁連主流派の候補者は、人権保障に役立つがペイしない法テラス案件を自ら処理した経験がなかったのである。
おそらく、日弁連主流派や大阪弁護士会執行部等に所属してええ格好している弁護士の先生方の多くは、「弁護士が生活に困ることなどあり得ない。人権のために会費を使ってしまって不足しても、会費を値上げすれば良いのだ。」と現状を把握できずに旧来の弁護士像がいまだに維持されていると安易に考えているようにしか思えないのだ。
渕上候補のことはよく知らないが、日弁連主流派が推している候補者であるし、これまでの日弁連主流派の政策を引き継ぐようなので、おそらく上記の方々と同様に考えている可能性が高いのかもしれない。
及川候補は、弁護士の仕事と生活を守ることを公約に掲げているので、このような点についても切り込んでくれる可能性を秘めている。
日弁連会長選挙は究極のどぶ板選挙で、例えば、「A弁護士はB弁護士に頭が上がらないからB弁護士から説得すればおちる。だからB弁護士に電話で説得させればいい。」というようなことが常時行われている。
組織力だけでみれば、これまで日弁連の中枢を握ってきた主流派の圧勝である。
そうであっても、主流派の圧倒的牙城の中で、弁護士の仕事と生活を守る点を掲げた及川候補がどれだけ得票できるか、私は注目している。
(この項終わり)
森の墓地(世界遺産~ストックホルム郊外)
※写真は記事とは関係ありません。