法テラス大阪常駐弁護士配置に反対する意見

 昨日の大阪弁護士会常議員会で、法テラス大阪に4人の常駐弁護士をおいて欲しいという日弁連・法テラスからの要望に対する決議がなされた。

 実はこの常駐弁護士配置の要望は、しつこく何度も日弁連・法テラスから出されていたものであったが、大阪はもともと委員会活動が盛んで法的弱者救済をきちんと手がけてきていたこと、法テラス大阪の職員が、法テラスなら無料で相談できるなどと明らかに民業圧迫の営業をかけた事件が発生したことなどもあり、これまで、大阪弁護士会は賛成しては来なかった。

 「常駐型スタッフ弁護士の増員・新規配置は、いずれも当会としては受け入れられない」とのこれまでの大阪弁護士会の方針を転換し、福田執行部は「法テラスの意向が、当会に対しても常駐型スタッフ弁護士の配置を求めるものである場合、当会はあえてこれに反対しない」との意見を提出したいとのことであった。

 私は、4つの理由を挙げて反対した。他にも反対意見を唱える先生もおられたが、決議の結果は賛成多数(しかも大多数?)で可決されてしまった。少なくともズーム参加の常議員の方で反対されたのは私だけだった。賛成された常議員会の先生方は本当に法テラスの言いなりになって良いとお考えだったのだろうか。

 ちょっと悔しいので、私の反対理由を以下に示しておく。

(反対理由ここから)

1 必要性がない


  ・最近5年間の援助決定件数は横ばいから減少傾向(全国・大阪とも)
    ~法テラスがHPで公開している最近5年間の援助決定件数 資料28
によれば、全国的にも5年前の119,296→107,658件、大阪でも11,927件→10,441件(全国の件数の約1/10を大阪で援助開始している)と横ばいから減少傾向にあり、今まで法テラス案件につき特に大きな問題が生じていない状況で、更に法テラススタッフ弁護士を配置しなければならない必要性がない

  ・震災関連と思われる二本松・東松島などの法テラス事務所の閉鎖はともかく、震災関連ではない法テラス事務所を閉鎖する際に、法テラスは、地元弁護士の増加により国が公的支援をする必要性がなくなったことを理由にしている。法テラス松本・八戸閉鎖(閉鎖日は2019.03.31)を伝える日経ネット記事(2018.09.05)は、地元弁護士の増加により国が公的支援をする必要性がなくなったことを理由として記載している。

→この法テラス事務所閉鎖の理由からすれば、弁護士も多く、司法アクセス・司法弱者救済等について特に尽力している大阪では、法テラス事務所を閉鎖しても良いくらいであって、常駐弁護士はなおさら不要といえる。

2 法テラスは採算性を重視してきている

・法テラスは「誰もが、いつでも、どこでも、法による紛争の解決に必要な情報やサービスの提供が受けられる社会の実現を目指します。」との使命を掲げているが、北海道中頓別簡裁管内の弁護士不足を理由に、日弁連が法テラス7号事務所設立を求めたが、法テラス側は需要が見込めないとして拒否し、日弁連によりオホーツク枝幸ひまわり法律事務所(2019.04開設)が開設された経緯がある。このように法テラスは当初の理念よりも採算性を重視する傾向にあると思われる。

日本司法支援センター中期目標(R4.2.28法務大臣指示)p10、第6財務内容の改善に関する事項の記載として、自己収入の獲得等が最初に挙げられ、その中で、寄付金受入や有償事件の受任等により、自己収入の獲得確保に努めるとの指示が出されている。

 ちなみに多くの弁護士が希望している法テラス経由事件の報酬の引き上げ、つまり算定基準見直しについては、上記中期目標(15頁もある)の最後に、おまけのように3行程度で「多角的視点から検討を行い、その結果の適切な反映を図る」と触れられているだけであり、報酬を上げるとも明言されていない。

・この法務大臣からの目標を受けた法テラスの令和4年度目標にも、有償事件受任等による自己収入確保を目的とする記載がある


→これらの法テラスの採算重視傾向からすれば、常駐弁護士を配置すれば有償事件を獲得する方向(これは民業圧迫である)に繋がる危険性が高い。大阪での法テラス職員の営業事件も、この採算重視のための事業の一環と見る方が、担当者の独断専行と考えるよりも、合理的である(ちなみに大阪弁護士会はこの事件について、法テラスの言い訳を鵜呑みにして、担当者の独断専行であったと判断しているが、私は自己収入確保の法テラス中期目標達成のために、上層部から指示されて行った行動ではないかと考えている)。

3 そもそも弁護士業に余裕はなく、法テラスは民業圧迫である

裁判所に1年間に持ち込まれる事件は減少傾向にあり、弁護士業に余裕はないことを、最新の状況を私が弁護士登録した頃と比較して示してみる。


全裁判所新受件数
H12:約554万件 弁護士数17707人 1人あたり312.71件
R2: 約336万件(40%減)弁護士数43230人(2.44倍)1人あたり77.41件(75%減)

地裁第1審民事通常訴訟事件(新受)
H12:156,850件(弁護士1人あたり8.9件)
R02:133,427件(弁護士1人あたり3.1件 65%減)

事件数の減少を指摘した場合、弁護士選任率は上がっていると反論する方がいるので敢えて次の資料もつけておく。

民事第1審通常訴訟既済事件中弁護士選任状況(弁護士が就いていた事件数)
H12:15万8779件(弁護士1人あたり8.967件)
R2:12万2749件(弁護士1人あたり2.8394件 68%減)

(以上は全て裁判所データブック2021:法曹会からのデータ引用である)

このように、弁護士業界は相当厳しい状況にあり、法テラスによる民業圧迫を許すだけの余裕はない。

4 天下りの可能性

 法テラスの安すぎる報酬に異論がある人が多く、多くの弁護士が赤字を覚悟して法テラス案件の処理を行っている。私もかなり不満がある。しかも、法テラスの中期目標等の記載状況(最後にちょろっと触れるだけ~しかも内容として、「検討結果の適切な反映を図る」とだけ記載され報酬を上げるとも明言されていない~の記載状況)からすれば、適正な報酬に改定されることは相当困難と見込まれる状況にある。

 一方、歴代法テラス理事長のうち政治家・官僚を除く、法テラスの理事長は4名いるが、全て法曹であり、日弁連会長経験者、日弁連事務総長経験者で占められている。

 一般弁護士が苦労して赤字覚悟で事件処理をしている中、法曹出身の理事長もボランティア的にやってくれているのかと思いきや、法テラス理事長の給与は年額約1,800万円強と相当高額であることに加え、退職金規程も完備されている。法曹出身理事長が、苦労している弁護士会員に配慮して、理事長給与削減を申し出たとか、退職金を辞退したとの情報には、少なくとも私は接していない。

 結局、法テラス理事長ポストは、天下り的なポストになりかけているのではないかとの疑念がある。
 日弁連執行部は法テラス側の意向を汲むことにより、このポストを維持しようとしているのではないかという懸念を捨てきれない。

5 小括

 以上3点、
 ・事件数の推移及び多くの弁護士が所属し公的支援に従事している現状から見て大阪に法テラス常駐弁護士を配置する必要性がないこと
 ・法テラスの採算性重視傾向から、民業圧迫に至る可能性が高いこと
 ・弁護士業界には民業圧迫を許容する余裕はないこと

 とプラス1点(天下りの懸念)から大阪弁護士会管内の法テラス常駐弁護士配置に反対する。

(反対理由ここまで)

日弁連会長談話の矛盾

本年3月28日に、日弁連の荒会長は、

若手会員への支援の充実・法曹志望者増に向けての会長談話~「法曹人口政策に関する当面の対処方針」取りまとめを踏まえて~

を公表した。

「法曹人口政策に関する当面の対処方針」については、これまで指摘したように、まず結論ありきで作成されていたとしか考えられない。

法科大学院としては、司法試験合格者が減少すれば制度自体を維持できなくなるから、司法試験合格者数は何としても維持して欲しいのだ。

日弁連の描きたい結論は、司法試験合格者を減らす必要などないという意見だ。

この意見は、日弁連執行部が法科大学院とべったり結託しているから、端的に言えば法科大学院の利益を代弁したものである。

しかし、このブログで何度も指摘しているように、法科大学院制度は導入から20年近く経ってもいまだに、その制度の改変を続け、ついには法科大学院での教育半ばで司法試験を受験させるという、「プロセスによる教育という大看板」すら放棄するような内容の制度を導入するに至っている。

また、法科大学院の教育内容の充実が制度導入からずっと叫ばれ続けている。

一般の会社で考えれば、こんな感じだろう。

ある取締役(法科大学院制度導入論者)が、こういう機械(法科大学院制度)を導入して製造(教育)すれば、これまで以上に優秀な製品(法曹)をたくさん生産できると豪語したので、費用(税金)を投入して導入した機械が、その取締役の豪語するような性能も発揮できず機能不全を起こし、機械の半数以上が壊れた(潰れた法科大学院は半数以上)状態になっている。しかもその取締役、20年近く経ってこれだけの惨状が明らかになっているにも関わらず、機械が上手く動けば上手く行くはずだと言って、機械をあれこれいじるだけで何ら結果を出せていない。

まあ、普通の会社なら、その取締役がクビになるのは当然だわな。更にすすんで取締役の業務に関する任務懈怠責任を、会社(国民)から問われても仕方がないだろう。

 ところが、日弁連執行部は法科大学院推進に同調して協力したため、今さら間違っていたとはいえないのだろう。だから、無理をしてでも、会内の相当数の反対を押し切ってでも、法科大学院をアシストすべく、司法試験合格者を減らす必要はないとの意見書を出したのだ。

 要するに、私から見れば、日弁連執行部は、なんの具体的根拠もなく適当な根拠を並べ立てて弁護士の法的需要はあると断言しているのだ。

 (裁判所に持ち込まれる全事件の数は年々減り続けているのに)仮に日弁連がいうとおり、世間には法的需要が有り余っており、弁護士の仕事もたくさんあるのなら、その仕事で食っていけるはずだから、わざわざ会費を支出して若手の支援をする必要などないはずなのだ。

 法的な需要があると言いながら、若手支援に注力するという態度は、完全に矛盾していると私は思う。

 会費を払わず(払えず?)退会命令を受ける会員もいる昨今である。

 会費の無駄使いは会員全員に対する裏切り行為だろう。

 現に私が弁護士になった20年以上前では、若手の支援など誰も言っていなかった。むしろ正月やGWなどに若手が多く当番弁護士を割り当てられたりしていた記憶があるくらいだ。

 もういい加減、日弁連執行部は現実を見ないとダメだ。

 「弁護士であれば、かすみを食ってでも生活できる(んじゃないかな??)」という幻想は今すぐ捨ててもらいたい。

 

法テラススタッフ弁護士配置依頼に対する、大阪弁護士会の回答

 3月15日、16日のブログで、日弁連から法テラススタッフ弁護士を配置するよう依頼されており、大阪弁護士会がどう対応するかに関する記事を記載した。

 先日の常議員会で、大阪弁護士会の日弁連に対する回答が明らかになったので、ご報告する。

 大阪弁護士会の回答は、

『当会は、2011年(令和3年)3月8日付ノキ連合会からの照会に対する回答書において「常駐型スタッフ弁護士の配置に関する当会の方針転換を白紙に戻す」として「常駐型スタッフ弁護士の増員・新規配置は、いずれも当会としては受け入れられない」との回答を致しました。

 今般、上記の回答を変更するかを検討致しましたが、現段階での方針変更は時期尚早であるとの結論に至りました。』(若干の字句修正はありうる)

 というものであった。

 率直にいえば、もっと毅然と断れんもんかねぇ・・・というのが私の感想である。法テラスは民業圧迫行為をしたのである。大阪弁護士会との信頼関係にヒビを入れたのは法テラスの方なのだ。

 しかし今回の回答案は、私から見れば、「日弁連のご意向はごもっともで本当はご意向に沿わせて頂きたいのはやまやまなのですが、いろいろございまして、現時点ではご意向には沿うことが出来ないようで、大変申し訳ございません。いずれそのうち、必ずやご意向に沿って見せます。」と、腰をかがめモミ手をしながら言い訳しているように読める。

 おそらく、大阪弁護士会会長が日弁連副会長を兼ねていることが大阪独自の主張を大きく阻害している一因ではないかと私は考えている。

 そもそも、日弁連副会長は日弁連会長を補佐し、日弁連会長の意向に沿って活動する地位である。日弁連代議員会で何度も見てきたが、日弁連副会長に選任された人たちはほぼ例外なく日弁連会長や日弁連執行部を支えて行くと挨拶する。要するに、日弁連副会長は日弁連会長の意向に逆らえない立場にあるといっても良い。

 一方、大阪弁護士会会長は大阪弁護士会を代表する地位であるから、大阪弁護士会の意見を主張していく立場にある。

 ところが、慣習上大阪弁護士会の会長は、日弁連の副会長を兼任するから、大阪弁護士会の意見を主張する立場でありながら、日弁連会長の意向に逆らえない立場を有するという、矛盾しかねない立場を兼ねることになるのだ。しかも週のうち、半分近くを東京で過ごす必要があるなど大阪弁護士会の職務はその多くを副会長にお願いする状況にもなっているようだ。

 私はずいぶん前から、このような状況はおかしいと思っていて、常議員会の懇親会などで会長や次期会長に対して、大阪弁護士会会長と日弁連副会長はそれぞれ別の人が担当すべきで、現状のように大阪弁護士会会長と日弁連副会長を兼任すると、日弁連の意向に逆らえなくなるなどの問題が生じるのではないかと提言したこともある。

 多くの方は、そうではなく、大阪という大単位会の会員を代表しているという地位が日弁連で大きく意味を持つのだというお考えのようだった。

 果たして本当にそうなのだろうか。

 大阪という大単位会の意向が日弁連にどんどん提案され取り入れてもらえるのならばともかく、私が常議員会で見聞してきたところによれば、大阪弁護士会執行部は日弁連執行部の意見をできるだけそのまま通そうとする傾向が強いように感じている。

 どこかで、変える必要があるように、私としては思うのだが。

法テラス常駐弁護士~日弁連は民業圧迫に賛成なのか?-2

(続き)


 前回記載したように、2020年3月の今川執行部により大阪弁護士会は法テラスの常駐・常勤スタッフ弁護士設置に反対しないとの方針転換を行い、その方針を維持することを同年8月に川下執行部でも確認することになった。

 ところがその3ヶ月後である2020年11月、法テラス大阪地方事務所の事務局長が、大阪弁護士会と連携関係にあった生活保護施設を訪問し、その際に、法テラス大阪地方事務所に常駐型スタッフ弁護士が配置されることになったこと、法テラス大阪事務所においては無料での法律相談の行うことが可能であること等について説明(営業)を行う事態が生じたのである。

 前回ブログのように医師のケースに例えれば、国が設立した病院の事務局長が、別の病院と提携関係にある施設を訪問し、「ウチにも常勤の医師が来ることになりましたから、これからはいつでも無料で診療が受けられますよ。だから、今までの提携関係にあるお医者さんを切って、ウチに来てもらう方がお得なんですよ。」と営業するようなものである。

 このようなことは、完全に民業圧迫であるし、そればかりでなく大阪弁護士会と法テラス大阪地方事務所との信頼関係を完全に破壊する行動と評価されても仕方がないだろう。

 おそらく、法テラス大阪地方事務所の事務局長が自分の考えだけで、このような面倒な営業行為をするとは到底思えないから、おそらく法テラスの上層部の方から、法テラス大阪地方事務所に対して営業するようにとの指示なり圧力があったと考えるのが合理的である。

 法テラスは、経済的に困った方のために国が設けた制度であったはずなのに、採算が取れない地方では地方事務所を閉鎖するなど、次第に採算を重視する傾向が見られるようになってきており、本来の制度目的とは異なる方向に動いているように思われる。

 そのような点に鑑みれば、一旦は「弁護士費用は、無料ですよ~。」と採算度外視で行えることを利用して営業行為を行って集客し、集客後は、そのお客に繋がる人脈等を利用して、採算に繋がる事件を法テラスで受任しようとする意図があったのではないか、と考えざるを得ない。弁護士への事件依頼は、一度受任した人からの紹介によるものが相当部分を占めるからだ。

 この事態を知った、当時の大阪弁護士会川下執行部は(多分)激怒し、2021年1月の日弁連からのスタッフ弁護士配置依頼に対しては、これまでの回答を白紙撤回し、待機期間型常駐弁護士はともかく、常駐型常勤弁護士の増員・新規配置とも受け入れられないとの内容の回答を返している。

 それにもかかわらず、今年も日弁連から令和4年度スタッフ弁護士の配置についての依頼が大阪弁護士会に届いている。

 日弁連執行部には、法テラスが民業圧迫に繋がっているという認識が完全に欠落していると言わざるを得ないだろう。

 確かに民業圧迫よりも経済的弱者の保護を優先したいという見上げた発想に基づいている可能性もなくはないが、仮にそのような自己犠牲をしたいなら、日弁連執行部で法テラス常駐弁護士を提案する人たち(自己犠牲をしたい人たち)で、やれば良いのだ。

 そもそも、日弁連という組織は、弁護士会員の利便のために動くべきではないのか。

 過疎問題に関しても、医師会などは過疎地域での医療に関して経済的に成り立つかをしっかり見極めることが大前提だとするが、弁護士会は過疎解消の美名に酔いしれて、経済面を無視して突進し、自腹を切りまくっているように見える。その負担は各弁護士の納めた弁護士会費から出されるのである。

 この前の日弁連会長選挙で、及川候補を除く主流派の候補2人は、法テラス案件を自分の事件として受任し処理していた経験はなさそうだったが、仮にそうだとすれば、日弁連執行部(主流派)は自己犠牲の精神を高らかに歌い上げながら、自己犠牲を執行部以外の会員に押しつけていることになりはしないか。


 弁護士も職業である。職業は生活の糧を得る手段である。かすみを食って生きるわけにはいかない。

 私の経験から言わせてもらえば、きちんとした法的サービスを提供しようとするなら、法テラス基準の対価では到底不可能で事務所を維持できない。

 ちなみに、私の場合、法テラスは、経済的弱者でどうしてもやむを得ない方については利用するが、民業圧迫の際たるものだと思っているので、常議員会では常に法テラス拡充方向の議案には反対の意見・反対投票してきたつもりである。

 田中執行部がどのような回答を行うのか、後日ご報告する予定である。

(この項終わり)

法テラス常駐弁護士~日弁連は民業圧迫に賛成なのか?-1

 日弁連は、各弁護士会に対し、毎年のように法テラスのスタッフ弁護士の配置に関して意見を求めている。
 意見照会の形を取ってはいるが、表題に「令和4年度スタッフ弁護士の配置について(依頼)」とあるように、実質は、法テラスのスタッフ弁護士を配置してくれというお願いである

 法テラスのスタッフ弁護士は、定額の給与を法テラスから受け取るので、採算を度外視して無報酬でも事件を受任出来る。
 分かりやすく医師に例えれば、国が病院を設立して医師を雇用し、採算度外視(無償)で患者を診る制度といったところである。こんな制度を作られたら普通のお医者さんは食べていけない。

 あからさまに民業圧迫だからであるし、そのような制度を医師会が放置するとは到底思えない。

 しかし、日弁連は、事実上、民業圧迫に繋がりかねない法テラスのスタッフ弁護士を各弁護士会におくように依頼を続けているのである。

 これに対し大阪弁護士会は、委員会活動が活発であり、困った方のために手弁当でも対応する弁護士が比較的多いことなどから、当初は法テラス法律事務所もスタッフ弁護士も不要との立場を取っていた。

 ところが、2012年、法テラス本部から日弁連に対し、大阪に法テラス法律事務所を設置して、各地に赴任するまでの待機期間のみ常勤する待機スタッフ弁護士を配置したいとの要望が出された。当時の大阪弁護士会執行部は、待機期間中の待機スタッフ弁護士であれば異議はない旨の回答を出したため、2013年には法テラス大阪事務所が設置され、待機型常勤弁護士が常駐するようになった。

 私の目から見ればだが、大阪弁護士会執行部は、何年かに一度、日弁連会長を大阪弁護士会から輩出していること、大阪弁護士会会長が日弁連副会長を兼任する慣習があることなどから、日弁連執行部とかなりべったりの関係にある。
 以前法曹人口問題等で執行部に近い先生と意見交換していた頃は、「日弁連への影響力が・・・」等と発言する年輩の先生も複数いたので、よほど日弁連会長・副会長の席に憧れる人が多いのだろう。私なんぞは、仮に大阪弁護士会から日弁連への影響力が残っても、弁護士界全体が沈没したら意味ないじゃないかと思っていたのだが、年輩の先生方の考えは違うようだった。
 そのようなことから、私の目から見れば、大阪弁護士会執行部は日弁連の意向に迎合する場合が多いように感じる。

 閑話休題。

 結局、2013年に日弁連を通じての法テラスの要望に屈した大阪弁護士会であるが、待機型常駐弁護士しか認めていなかったため、さらに毎年のように日弁連から待機型でない常駐・常勤スタッフ弁護士を置いて欲しいという意見照会(お願い)が来ていた。
 そのため、PTで検討させた結果、2020年3月、当時の今川会長執行部が待機期間中ではない常駐の法テラス常勤弁護士の受入に反対しないとの意見に変更し、2020年8月にも当時の川下会長執行部が、同様の意見を日弁連に対して回答した。

 ところが、その3ヶ月後、事件が起きる。

(続く)

何のための代理人選任届?

 大阪弁護士会の臨時総会が3月8日に開催される。


 現在各会員に議案書冊子が配布されているところである。
そしてその議案書の最初の頁には、代理人選任届のハガキが切取線付で添付されている。

 このハガキの裏には、各議案に対する賛成・反対・棄権の欄が設けられており、そこに自分の意見を記載することが出来る。つまり今回は第5号議案から第12号議案までが上程されているので、例えば第8号議案だけ反対したければ、8号議案のところは反対の欄に○印を付し、その他の議案には賛成の欄に○印を付して、投函することが可能なのである。

 このハガキだけをざっと見れば、自分が○印を付した意見に沿って、総会でも代理人が賛成・反対の投票してくれるものと考えてしまいがちである。

 しかし、である。

 そのハガキの下部の注意書き欄には、次のような記載がある。

※1 会則第39条第4項により、議決権行使の代理権に制限を付することはできず、上記で○印により表明された貴殿の意見は代理人を拘束しません。

 上記の大阪弁護士会会則により、議案書を読んで、各議案について賛成・反対の意見を固め、代理人選任届のハガキに自分の判断を○印で意見表明しても、その意見表明は、実際に代理権を行使する人間を拘束しないのである。

 簡単に言えば、全ての議案について反対する意思で反対欄に○印を付してハガキを投函しても、その代理人選任届を使って実際に総会で投票する代理人は、全ての議案に賛成の投票をしてしまってもよいのである。

 これでは一体何のための代理人選任届か良く分からない。
 まあ、参加者の少ない総会で、決議を行う為には有用なのだろうが、全く会員の意見が反映されない代理人選任届で、本当に良いのだろうか。

 しかも、代理人を頼もうと思っても、臨時総会に出席する人しか代理人に指定できないから、そもそも自分と同じ意見で総会に出席してくれる人を探すこと自体が大変である。
 そのような人が仮に見つかったとしても、代理人は10票までしか代理できない。
 そのうえ、代理人を指定しなければ、会長に代理人選任を一任したものとして処理されるそうだから、結局、どうあがいても執行部の提案する議案が、まず確実に通過する構造になっている。

 昔と違って、執行部の意見を盲信する会員ばかりではなくなってきているし、web経由の投票なども技術的に可能になっているのだから、きちんと会員の意見を反映する総会運営をするようにしてもらいたいと、私は願っている。

日弁連会長候補者と法テラス案件

 日弁連会長選挙公聴会(九州地域)で、候補者に対して、いくつかの質問と一緒に法テラス案件を何件やっていますかという質問がなされていた。

 ご存じのとおり、法テラス案件は報酬が極めて低く設定されており、経営者弁護士にとっては、手を抜かない限りほぼ確実に赤字案件である。

 これに対して医師の健康保険治療はそれで十分生活できるだけの収入が認められているようであり、むしろ医師の世界では保険適用の治療ができなくなると死活問題であるとも聞く。

 ところが、弁護士の場合はそうではない。私の経験から言って、法テラスからの弁護士報酬だけで事務所を経営することは、ほぼ不可能である。

 しかし、今回のコロナ渦のなか、日弁連は、現在経済的弱者に限定されている法テラス利用を、経済的弱者以外にも拡大すべきという提案をしたかとかしなかったとかで、問題視されていた。

 要するに、その提案は、普通に弁護士費用を支払える人に対しても、法テラス基準の安い弁護士費用でサービス提供せよと日弁連が強いるに等しいものである。

簡単に言えば、
日弁連「コロナ渦なので、経済的に困っていなくても半額以下で弁護士を使えるようにしたいと思います~!」
一般人「お~、有り難い。さすがは、日弁連、やるね~。」
日弁連「もちろんです。日弁連は皆様の味方です!」

弁護士「で、誰がその差額を負担するの?」
日弁連「お前らの自腹にきまっとるやろ!!」

という感じだ。

 歯に衣着せずに言わせてもらえば、これまでの日弁連執行部主流派というものは、弁護士過疎解消!弱者救済!等という、かっこいい掛け声は大好きだが、たいてい若手や現場の弁護士等の犠牲の下に、その政策を実現させようとすることが多いように感じる。

 話がだいぶ飛んでしまったが、日弁連会長候補に話を戻す。

 法テラス案件を何件やっているかとの質問だった。

 法テラス案件をやった経験がないのであれば、法テラス案件の酷さが分かるはずがないので、私としては、法テラス案件でひどい目に遭わされた、現実を知る方に会長になって頂き、法テラスとしっかり戦って欲しいと思っている。

 それゆえ、この質問の回答には興味があった。

 及川候補はここ5年で100件くらいと明確に答えた。
 ~及川候補は確か単独事務所だから、選挙活動もしながら5年で100件もの法テラス案件をこなすとは、凄いとしか言いようがない。法テラスの酷さも十分お分かりなのだろう。

 小林候補は法テラススタッフ弁護士育成をやっていたので、共同受任で60件程と答えた。
 ~共同受任を60件と言われても、養成のためであり、自ら積極的に法テラスを利用したわけではないのだろう。自ら単独で何件も法テラス利用をしていれば、そちらの方がアピールしやすいから、当然その件数も答えたと思われるからだ。おそらく質問者は、候補者単独でどれだけ法テラス案件を処理したかを聞いているはずだから、「自分で処理した法テラス案件はゼロですが、育成のために共同で60件ほど関与しました」、というのが質問者の問に対する正確な答えであるべきだ。

 高中候補は、時間の関係で割愛しますと述べて質問に直接答えなかった
 ~おそらく高中候補は、法テラス案件をご自身で処理した経験がない可能性が高い。なぜなら、「○○件です」と答えた方が「時間の関係で割愛します」と答えるようりも短く答えられるからだ。とはいえ、正直な方なので嘘の経験もいえず逃げた答えになったのだろう。高中候補の顧客層は、法テラスなど必要のない方ばかりなのかもしれない。

 その人と同じ経験をしなければ本当の痛みは分からない。
 本当の痛みが分からないのであれば、その痛みに対する対処方法も真剣になれないことが多いだろう。

 そろそろ、法テラスに対しても、しっかりものを言ってくれる人が日弁連会長になってもいいような気もするね。

男女共同参画からの提案に弱い常議員会?

 男女共同参画推進本部(以下「共同参画」という。)から、常議員会に会費免除に関する提案がなされ常議員会で議論、採決がなされた。

 現在、大阪弁護士会では育児期間中の会費免除の制度はあるが、育児期間中に弁護士業務を休業していないと免除が適用されていない。共同参画は、この休業要件を撤廃し、育児期間中に弁護士業務を行って売上を上げていても、会費免除を認める内容にすべきだというのである。休業要件撤廃を要求する理由は、「育児期間中における会員の負担軽減を図り、育児参加を促進する(その結果、男性の育児参加を促進することになる)ための積極的施策」として行いたいとのことであった。

 大阪弁護士会の会費免除規定には、疾病の場合の規定もあるが、この場合は常議員会で調査小委員会を編成し、調査小委員会が本人・主治医等に意見を直接聞くなどして、本当に業務ができない状態かを厳格に判断し、弁護士業務遂行が不可能で真にやむを得ないと判断された場合でないと会費の免除は受けられない。近親者の疾病や老親の介護の必要性があって、弁護士業務の大半を休む必要がある弁護士がいても、その会費は免除対象にすらなっていない。

 弁護士会費は弁護士会維持存続のための不可欠な財源であり会費収入は極めて重要である。会社と同じで弁護士会もお金が無ければ何もできない。

 その会費収入の重要性からすれば、会費免除は真にやむを得ない事由がある場合に限るべきであり、疾病の場合の厳格な調査は会費収入の重要性に鑑みれば相当なものであると考えられる。なぜならこのように厳格な判断を行わないのであれば、どの程度の事由があれば免除されるのかという限界が不明確となり、ずるずると会費免除される場面が拡大していき、弁護士会の経済的基盤が崩壊する危険性があるからである。

 また、上記の通り会費収入の重要性に鑑みるならば、今回の共同参画からの提案にように、何らかの政策目的を実現するための積極目的での会費免除は、可能な限り認めるべきではない。
 なぜなら、積極目的での会費免除を認めれば、どのような積極目的であれば免除が相当なのかという点が全く不明確となるからである。


 例えば、今回の提案を受け入れ、育児の男性協力は素晴らしいからそれに繋がる育児期間中の会費免除に休業要件をなくしてよい、という判断をした場合、その後、家族の看病・介護を行うことは素晴らしいことだから看病・介護の負担を負う会員は、弁護士業ができていても会費免除しようという主張が出てきた場合、どうするのか。男性の育児参加促進のための会費免除はOKだが、家族の看病・介護のための会費免除はNOであるという判断ができるのか。
 さらに、積極目的での会費免除を認めるのであれば、今回の共同参画のように声の大きな委員会の意見ばかり通る危険性も否定できない。

 私の個人的意見にはなるが、育児期間中とはいえ、弁護士業務を実際にやっているのであれば、大阪弁護士会の会員として弁護士業務を行って売上を上げていることになる以上、大阪の弁護士をまとめている大阪弁護士会に何らかの負担を負わせていることになるから、その経費である弁護士会費を支払うのは当然だと思う。また、売上を上げている以上、会費負担能力も認められるであろう。

 誤解して欲しくないのだが、私自身、男性の育児参加促進を否定しているわけではない。仮にある積極目的(例えば今回のように、男性の育児参加促進)を達成するために、該当会員に対して会費免除相当額の援助が必要なら、そのような制度を作り特別会費を徴収して援助を実行すれば良いのであって、会費免除という目立たない手段で、結果的に弁護士会の存続の基盤である経済的基礎を揺るがす危険のある方策を取るべきではないという意見なのである。

 将来の弁護士業界の悪化に伴う会費減少の事態に陥るなどして、会費免除を廃止する必要性が出た場合には、疾病で働けない弁護士の会費免除は維持しつつ、積極目的での会費免除から停止・廃止すべきであることは当然であろうと思われる。この場合、特別会費を徴収する手段で行っておけば、その積極目的の会費免除について廃止する可能性についてもその制度の中に予め定めておきやすく、廃止しやすいとも考えられる。


 ところが、共同参画側の提案者もしたたかであり、新たな会費を徴収する制度を提案すれば、多くの会員から反対にあう可能性が高いことは分かりきっているから、できるだけ目立たない会費免除という手段をとっているのである。また、総会では大量の委任状等で決議できるから、常議員会さえ通過できれば、なんとかなるという目算もあるのだろう。

 共同参画からの提案理由の中には、財政的になんとかなるという検討結果や、他の弁護士会が休業要件を撤廃していることなども理由に上げられていたが、私はそれらの理由は何ら根拠になっていないと考えている。

 仮に今回の会費免除を追加して行っても問題ないほど弁護士会費が潤沢に残っているというのであれば、それは本来会費の取り過ぎであり、全会員に還元すべきものであるはずだ。


 休業要件の撤廃について他の弁護士会と平仄を合わせる必要あるという理由なら、国選・管財事件の負担金制度を取っていない弁護士会もあるのだから、そちらと合わせるべきだろうし、ラックの持込案件まで会費負担を負わせているのは日本中で大阪弁護士会だけのはずだから、その負担金制度も廃止すべきという議論にならないとおかしいではないか。

 以上のような主張を常議員会で行ったが、この議案を総会に提案するかどうかの採決で反対したのは、インターネット参加の常議員では私1人だけだった(会場参加の方の賛否は不明)。インターネット参加の常議員の方で保留された方が4名いらっしゃったことが救いだったが、多くの常議員の先生方は、あっさり賛成されていた。

 私は10年以上継続して常議員を務めさせて頂いているが、総じて男女共同参画推進本部からの提案について、異論を述べる先生や反対される先生は極めて少ない。


 私の目から見れば、常議員会は、男女共同参画からの提案に、すこぶる弱いのである。

日弁連法曹人口検証本部取りまとめ案の偏向

 各単位会に意見照会をした結果、相当数の単位会が反対するなどしたため、再度内容を訂正していた日弁連法曹人口検証本部だが、やはり司法試験合格者1500人を維持する方向での声明(現時点では合格者を減員する理由はないとする声明)を出したいようだ。


 結論を導く理由について読んでみると、まあ偏った判断が並んでいる。自分達の声明に不利な方向の根拠は理由がないとか確認できないとかの理由で切り捨てながら、自分達の声明に有利な方向の根拠は推測だろうと何だろうと取り入れていく。

 特に客観的な資料の引用に、偏向を感じる部分が明確に出る。

 例えば、検証本部は、裁判所が新たに受けた事件数(新受件数)に関して、概ね「地裁民事通常訴訟事件の新受件数自体は微増にとどまり,裁判関係業務の業務量に大きな変化はうかがわれない。」と評価しているようである。

 しかし客観的データから見ると、民事通常事件は微増もしていないし、家事事件を除き裁判関係業務は大幅に減少している。

 最高裁事務総局が編集している「裁判所データブック2021」によると、地裁民事通常訴訟事件の新受件数について10年前である平成23年と令和2年で比較すれば次のとおりである。
 平成23年 地裁民事通常事件新受件数  196,366件
 令和2年  地裁民事通常事件新受件数  133,427件(▲32.05%)

 つまり、客観的な資料から、10年前と比較して30%以上も減少している新受件数を、検証本部は微増と評価しているのである。

 百歩譲って、検証本部が日弁連の2012年(平成24年)提言後の事情に限定して検討をしていると仮定しても、
 平成24年 地裁民事通常事件新受件数  161,313件
 令和2年  地裁民事通常事件新受件数  133,427件(▲17.29%)
 であって、地裁民事通常事件の新受件数は、どこをどう見ても大幅に減少しているのであって微増などではない。

 このように、前述の検証本部のこの部分に関する記載は完全な虚偽である。小学生でも分かる欺瞞を、検証本部は平気で行っているというほかない。

 ところで、弁護士の業務量を推定するのに様々な資料は考え得るが、弁護士の業務量は基本的には法的紛争の量が反映されるから、最も客観的で信頼できる資料は、どれだけの事件が裁判所に持ち込まれたかであると考えられる。

 前記の民事通常事件だけではなく、民事行政を併せた新受件数、刑事事件新受件数(人)、家事事件新受件数、少年事件新受件数(人)を10年前と比較すると、次のとおりである。

民事・行政事件 1,985,302件 →1,350,254件(▲31.99%)
刑事事件    1,105,829人 →  852,267人(▲22.93%)
家事事件      815,524件 →1,105,407件(+35.55%)
少年事件      153,128件 →   52,765件(▲65.54%)
合計      4,059,783件 →3,360,756件(▲17.22%)
※合計は、全裁判所に持ち込まれる全新受件数である。

 裁判所に持ち込まれる件数が、10年前と比較して約2割弱も減少している客観的データがあり、そしてここ10年で弁護士数が1万人以上増加している現状がある。

 単純に、裁判所全新受件数を当時の弁護士数に割り当ててみると、10年前の弁護士数は約30,000人、令和2年の弁護士数は約42,000人なので、
 平成24年:4,059,783÷30,000≑135.33(件)
 令和2年 :3,360,756÷42,000≑80.02(件)

 つまり裁判所に持ち込まれる事件数を弁護士数で割ってみた数値は10年前と比較してなんと40.87%も減少している。

 客観的データがあるにも関わらず、検証本部の取りまとめは、弁護士の裁判関係の業務量に大きな変化は見られないと断言しているのだ。

 少なくとも裁判所データブックのような客観的データがありながら、その評価として、弁護士の裁判関係業務量に変化がないと断言する奴は、客観的に見て、データを理解できない阿呆か、ある方向の結論を出すため偏向しているとしか言いようがないことは、ご理解頂けるだろう。

 検証本部で真剣に議論された先生方には、大変ご苦労なさったと思われるが、本部のとりまとめがこのような欺瞞に満ちた内容になるのでは、何のために時間と労力を費やしたのかと徒労感も大きいところだろう。

 検証本部のとりまとめを行う立場の委員に申し上げる。
 偏向するな!

日弁連会長選挙が始まる

 日弁連会長選挙は2年に一度行われる。

 今年の立候補者は、1月6日18:00時点では、日弁連のHPに告示されてはいないようだが、少なくとも50音順で以下の3氏の立候補は確実だと思われる。

 及川智志氏
 小林元治氏
 髙中正彦氏

 私は大阪弁護士会内においても会派に何ら所属しておらず、妖しい裏の事情などさっぱり分からないので、あくまで素人目から見た三者の感想である。

 及川智志氏は、前回に引き続き再度の立候補である。東京・大阪等の大弁護士会の派閥の力を全く使わず、独自の活動で今までの大弁護士会の主流派優先ですすめられてきた弁護士会運営に疑問を投げかける。
 私は及川氏とは、宇都宮氏が日弁連会長であったときに開催された、法曹人口問題政策会議(だったかな?)のメンバーとして面識を得ている。熱く真っ直ぐな人で、権威を恐れず直球で勝負する方である。ご自身の名誉など全く考慮外で、弁護士を職業として維持して行くためにどうすべきかを真剣に考えておられた。市民目線を言われることから生じる、ちょっと左がかっているかもしれないという周囲の偏見・思い込みを打破できれば、若さは武器でもあるし、面白いかもしれない。

 小林元治氏は、賛同者を見ると日弁連元会長や大阪弁護士会の元会長などの有力者が名前を連ね、主流派からの候補者であろうと思われる。前回の日弁連会長選挙前にも政策団体を立ち上げるなどして立候補の予定を窺わせる行動を取っていたが途中で立候補しない方針に変更したと聞いた記憶がある。まあ主流派の中でいろいろな駆け引きなどがあり、前回は我慢したので今回こそは当選させてもらうという意向なのだろう。1月4日時点の賛同者は4000名を超えると、同陣営(政策団体)から送られてきたFAXには記載がある。
 残念ながら私は小林元治氏とは多分面識はない。しかし、有力者の多さから見て、主流派候補の本流ではないかと考えられる。おそらくは今回の選挙の本命と目されている方だろう。

 高中正彦氏の賛同者にも、日弁連元会長や大阪弁護士会の元会長などが名前を連ねているようであり、主流派の流れを汲むのかとも思われるが、有力者の名前が少なく感じられることから考えて、主流派の本流ではないのかもしれない。しかし、1月4日時点の賛同者は3300名を超えると、同陣営(政策団体)から送られてきたFAXには記載がある。
 ずいぶん前だが、元大阪弁護士会会長から日弁連会長も務めた中本和洋先生のご紹介で高中氏とお話ししたことがあるが、気さくで話がとても面白いお方だった。確か法曹人口政策会議にも出ておられたと記憶するが、法曹人口問題は当時の主流派と同じ意見であり、合格者減員を言わなくっても・・・という感じだったような記憶がある。

 仮に主流派が、まとまりきれずに小林氏(本命)と高中氏(対抗)に分裂しているのであれば、及川氏(大穴)が割って入る事態も起こりうるかもしれず、そこそこ面白い選挙戦になるかもしれない。

 日弁連の政策は、会長が誰になるかによって大きく変わりうる。だから、各弁護士の一票は大事なのである。

 仮にボスから投票先を命令されても、秘密投票なので、投票時に面従腹背は可能である。そもそも投票先を命令するボスなど部下の意思を無視している危険なボスかもしれないし、そのようなボスがあなたの未来を必ず守ってくれるとは限らないだろう。

 もちろん私は、イソ弁である永井君に、投票先の指示などしたことはない。