大パブ閉鎖に関する雑感~その3

(続き)

以前も書いたかもしれないが、知人の医師とお話しした際に、どれだけ弁護士会が会費を使って人権擁護活動を行っているかについて説明したところ、その医師の答えはこうだった。

「そんなに、採算の取れない事業をやれるなんて、弁護士とか、弁護士会って、すげー余裕あるんやね・・・・。」

 おそらく一般の方々の見方も同じではないかと思う。

 そして、弁護士会が自らの負担でその任を買って出るのであれば、少なくとも害にはならない範囲で、やらせておけばいいと思われるだけではないのだろうか。

 また、本当に弁護士会の自腹を切っての施策が、執行部の先生方のお考えのように一般国民の皆様の利益に本当に適っているのであれば、感謝されることはあっても、さして注目を浴びないということはないように思うし、やめないで欲しいという要望が多数寄せられたり、マスコミだって報道するだけではなく、バックアップしてくれてもおかしくはないはずだ。

 広報の拙さも勿論あるだろうが、国民の皆様からさほどの感謝が頂けていないということに仮になるのであれば、一般の国民の方々からは、そこまでする必要はないと思われているからではなかろうか。

 「弁護士から見れば人権擁護のために必要なのだから国民の皆様の考えに関わらず必要だ」という上から目線になりすぎていないか、弁護士会執行部の自己満足に陥っていないか、今の弁護士の状況から見て本当に身の丈にあった活動なのか、等について再検討すべき点があるように思う。

 執行部の唱える理想は悪くないが、多くの弁護士がいま置かれている状況を見ずにその理想を追及すれば、理想と現実のギャップに会員は耐えられない。

 もっと弁護士会を支えている個々の会員のことを、第一に考える行動をとる執行部が、なぜ誕生しないのか、私には不思議で仕方がなかったりもするのである。

(この項終わり)

大パブ閉鎖に関する雑感~その2

(つづき)

 大パブの話から少しずれていってしまうが、弁護士会は人権擁護のために必要があると考えた場合、採算度外視、会員の負担無視、で突進してしまう傾向にあるように思われる。結果的にはそのための費用は会員である弁護士の負担に帰してしまうのだが、執行部の方は、とにかく人権擁護が先にあるようで、会員の負担をどこまで真剣に考えているのか、私には見えない場合も多いのだ。

 弁護士会の執行部の方は、人権擁護に必要なら、人に知られなくても歯を食いしばって弁護士が頑張っていれば、いずれ制度が変わり国費が支出されるなどして、救われる必要のある方が救われるようになると、未だに考えていると思われる。

 現にそのような説明を常議員会で執行部から聞き、被疑者国選もその一例だとの説明を受けたことがある。

 私はひねくれ者だから、「制度が変わって人権が救済されるようになった例があるとして、その制度変更の理由に弁護士が歯を食いしばって頑張ったからと指摘された例はあるのか」、と突っ込んでみたところ、執行部からは、まともな回答は得られなかった。

 マスコミのいうように弁護士も自由競争社会で、どんどん競争すべきというのなら、利益を上げられない者は退場せざるを得ないから、経済的利得を重視しろということだろう。だとすれば、経済的にペイしない事件は扱わないことが時代の流れに沿う、ということになってしまうのではなかろうか。それが望ましいかは別として、国民の皆様が、弁護士の自由競争を望むのなら、弁護士としても経済的利得を重視せざるを得ず、仮に儲け最優先主義を取る弁護士がいてもそれを国民の皆様から非難されるいわれは、全くないということになろう。

 被疑者国選だって、正直言えば、かけた時間や手間暇に比べて僅かな費用しか出ないので、きっちりやるなら自分で事務所を構えている弁護士には、かなりの赤字案件だと思う。人権擁護の点において、被疑者国選は間違いなく意味のある制度だとは思うが、経済的面を重視して見れば、弁護士会が自腹を切って始めたあげく、結局ペイしない仕事を抱え込んでしまっただけではないのかという疑念も、ないではない。

 確かに弁護士が全般的に余裕があるのであれば、執行部のいうような「弁護士が歯を食いしばって・・・・」といような牧歌的な発想があっても良いかもしれないが、既に現実はそんなに甘いものではなくなっていると私は思う。

 かつて法曹資格がプラチナ資格と呼ばれ、取得すればある程度安泰な生涯が見通せた時代は、司法改革による弁護士大増員で、もう終わっている。

 いまさら、誰も責任を取ろうとはしないのだが、法曹需要が劇的に増加することを前提として制度改革を設計した、司法制度改革審議会の意見書は、制度設計の前提段階で既に完全に法曹需要の予測を誤り、その誤った予測を前提に司法制度改革の設計をしたことが、以下のとおり明らかになっている(ちなみに法科大学院維持派の学者は、何かと言えば、この誤った前提に基づいて作成された司法制度改革審議会意見書を引っ張り出し、法科大学院制度等を正当化しようとする。そもそも法曹需要の飛躍的増大という予想が間違っていたことはもう明らかなのだから、いい加減に現実を見て欲しいと思っているのは私だけではないはずだ。)。

 日本全体の人口が減少に転じているし、2018年版裁判所データブックによれば全裁判所の新受全事件数は昭和60年の6,680,565件から、平成29年には3,613,952件までほぼ半減しているのである。この間に、弁護士数は昭和61年次の13,159人から、平成30年次には40,098人へと3倍以上増加したのである。

 上記のデータから極論すれば、現在の弁護士界は、半減したパイを、3倍以上の人数で奪い合う時代なのだ。しかも日本の人口減少傾向からすれば、さらにパイは縮む傾向にあると思われる。弁護士は見栄っ張りだからなかなか本音を言わないが、上記のデータに加え、弁護士向け営業セミナーの案内やポータルサイトからの営業電話が、そこそこの頻度であることなどから考えても、仕事が殺到していて順風満帆、将来的にも安泰が見込める左うちわの法律事務所なんて、そんなに多くはないはずだ。

 日弁連執行部や弁護士会執行部の方々は、会務に多くの時間を割くことのできる余裕がおありなので、おそらく順調な事務所経営をされていて実感できないのだろうが、おそらく執行部が無意識のうちに前提としているような、弁護士全般に余裕があった時代はとうに過ぎ去っているのである。

(続く)

大パブ閉鎖に関する雑感~その1

 昨日の常議員会で、今年5月末をもって閉鎖になった弁護士法人大阪パブリック法律事務所(以下「大パブ」)の清算に向けての進行状況が報告された。
 そもそもは日弁連の肝いりで、「法の支配をあまねく浸透させる」という意図のもと、全国に先駆けて大阪で、大阪弁護士会が開設した公設事務所であり、閉鎖が決まった際には朝日新聞等でも報道されたのでご記憶のある方も多いだろう。

 これまでマスコミは、弁護士に対して、弁護士制度は社会的インフラと言いながら、弁護士に対して競争しろなどと矛盾した適当なことを言い続けてきた。マスコミの念頭にあるのは、おそらくマスコミが付き合う範囲の、若しくはマスコミが勝手に想像している、高収入の弁護士なのだろう。
 確かに高収入で暇な弁護士(そんな弁護士がいるとすればだが)に対してなら、マスコミの主張も一理あるかもしれない。

 しかし、弁護士も個人事業者である。自らの稼ぎで自分・従業員の生活を維持し、家族を養う必要がある。となれば、採算が取れないボランティア的な仕事よりも、採算が取れる仕事が優先されがちになることを誰も責めることはできないはずなのだ。特に競争原理を弁護士にも求めるのであれば、同時にボランティア的な仕事の処理を弁護士に求めるのは一貫しない主張のように思われる。

 それでも、弁護士費用を負担できない人でありながら、人権擁護のために弁護士が介入する必要があると思われる事件はどうしても発生する。
 このような場合、本来、国がきちんと費用を出すべきなのだが、医療と異なりその点は放置されている状況に近いと私は思う。法テラス制度もあるにはあるが、サービス提供者である弁護士の報酬基準は極めて低く、おそらく仕事の手を抜かない限り、法テラス案件だけでは利益は上げられず、事務所は維持できない。要するに弁護士の善意(ボランティア精神)に頼った制度設計になっている。

 話を戻すが、確かにマスコミ報道では大パブの果たしてきた意義については、概ね紹介されているし、私もその意義を否定するものではない。

 しかし、マスコミ報道は公設事務所は通常赤字であり、その赤字部分を大阪弁護士会で負担してきたことについては、何一つ触れられていないようだ。
 
 私が昨日執行部に聴いたところ、大パブのために大阪弁護士会が自腹を切った額は、15年間での概算だが、5億8800万円にのぼるという。

 このお金はどこかから降ってきたお金ではない。大阪弁護士会の会員が例え自分の事務所が赤字でも歯を食いしばって支払ってきた会費から捻出されているお金なのだ(弁護士会費の滞納は懲戒事由になり、最悪の場合は退会命令を受けるため、弁護士資格を維持するためには、弁護士会費は何よりも優先して負担しなければならない費用なのである)。

 残念ながら、この点に関して、マスコミ報道を見た限り自腹を切って人権擁護のための公設事務所を維持してきた弁護士会・弁護士会員を評価する内容は見られなかったようである。

(続く)

執行部は会員を馬鹿にするな

先日の常議員会でのことである。

 大阪弁護士会執行部がある決議をしようと常議員会に諮っていたが、その提案理由の一部に、いわゆる谷間世代問題に関する次のような記載があった。

 「日本弁護士連合会においては、国及び関係機関に対し、上記の裁判所法が成立した後の給付金額、及び、新第65期から第70期までの司法修習生に対する不平等・不公平に対する是正措置の課題の解消を実現すべく、引き続き運動を継続される予定である。」(下線・太文字は坂野による)

 そして担当副会長が、現に日弁連執行部は2月7日(坂野注:多分この日だと思います。)に院内集会を行いましたと説明した。

 私は、日弁連が真剣に国や関係機関に対し、谷間世代問題の是正を求めている行動をとっているとは思えなかったので、上記提案理由に書かれている日弁連の予定を知りたくなり質問した。

坂野「提案理由3に記載されている、日弁連の運動予定とはどのようなものか教えて下さい。」

担当副会長「国会議員や関係機関に対する粘り強い働きかけと、私は承知しております。」

 なんなんだこの回答は。
 私は、日弁連の今後の行動予定を聞いているのであって、大阪弁護士会の担当副会長の認識を聞いている訳じゃない。
 こんな簡単な質問の趣旨も分からないトンチンカンな頭の持ち主が副会長をしている訳じゃないだろう。どうしてストレートに質問に答えないのだ。
 

 この時点で、既に私は、副会長を含む大阪弁護士会執行部に対し、誤魔化すな!と言いたかったが、ひょっとして私の質問が分かりにくかったのかもしれないと思い直し、再度質問してみた。

坂野「私が聞いているのは先生の見解ではなくて、日弁連の運動予定の具体的内容が何かということです。」

担当副会長は一瞬間をとったが、次のように回答してきた

担当副会長「国会議員や関係機関に対する粘り強い働きかけと、私は承知しております。」

 
 実質的には完全な回答拒否である。

 ふざけている。
 10年間常議員を続けてきたが、このような不真面目な回答は初めて経験する。

 常議員からの質問にまともに答えずにいて、何が常議員会での議論だ。

 どうやってまともな議論ができるのだ。

 私は、完全に頭に来て、

 ちょっとまて、それの何処が回答だ。質問に答えろ、馬鹿にすんな!

と罵詈雑言を浴びせたかったが、そこはかなりの忍耐力を用いて自分を抑えた。

 担当副会長が答えられない何らかの理由があるのなら、代わりに、日弁連副会長を兼務する竹岡会長が説明してもおかしくはないが、そのようなこともなかった。おそらく、日弁連は谷間世代不公平是正の対外的な行動に関し、「行動する予定がある」というかけ声だけ述べて、何ら具体的な施策を考えていないのだろう(具体的な施策があるのなら回答できたはずである)。

 仮にそうだとしても、質問に対して具体的な施策は決まっていないと事実を述べるべきではないのか。

 私の質問と担当副会長の回答は、私の記憶によるものなので、一部不正確である可能性もあるが、このようなやり取りがなされたことは間違いがない。2月19日の常議員会に参加された常議員の方にお聞き頂いても構わない。

 このような不誠実な回答を許す執行部なので、万が一、常議員会の議事録に手を入れられても困るので、敢えてブログに記載しておく。

 もう一度言う。
 大阪弁護士会執行部は、私を含めた一般会員を馬鹿にしないでもらいたい。
 きちんと質問や要望には誠実に向き合ってもらいたい。
 弁護士会を支えているのは、一般会員なのだから。

3月開催予定の日弁連臨時総会に寄せて

 日弁連臨時総会が3月初旬に開催されることを常議員会で聞いた。

 そこで決議される議題の一つは、いわゆる谷間世代への20万円支給案だ。

 出席できない方々も、執行部の提案だから、問題ないだろうとか、悪いようにはしないはずだ等と安易に考えずに、良く考えて議案に対する委任状を提出して欲しい。

 20億円もの大金が日弁連の財布から失われる提案なのだ。

 (可決されたと仮定して)仮に首都直下型地震や、南海トラフ大地震が生じて、日弁連が日弁連としての機能を維持するためにお金が必要になったとしても、既に谷間世代に支給した20億円は返ってこない。
 そうなった際に、日弁連を維持するために必要な臨時会費を徴収されるのは、一律20万円を支給された谷間世代だけではない。全日弁連会員(つまり弁護士である、あなた)なのだ。

 私はこれまで、筋違いの谷間世代救済策について反対してきたし、今もその気持ちは変わらない。反対理由を再度述べておく。

1 給費制復活を目指し、また、谷間世代の不公正是正を国に求めている弁護士たちの活動に水を差す。つまり谷間世代の不公正是正を国に求めても、もう、日弁連や各弁護士会が対応しているではないか、そもそも弁護士会費が高額なのが問題なのだと、反論する論拠を国に与えることになり、今回の支給が国に対する不公正是正を求める活動に明らかにマイナスになる。

2 谷間世代が、給費世代に比べて結果的に不公平な取扱になったのは国の制度設計の問題であり、国に責任を問うのであれば筋が通るが、日弁連が責任を負ういわれは全くない。他国でひどい扱いを受けた後に日本に帰化した人がいたとして、他国でのひどい扱いに対して、帰化した先の日本がその人に賠償や金銭を支給する責任があるだろうか。

3 弁護士になった谷間世代が困窮しているから援助する、というのであれば、その事実を証拠によって明確に示すべきだし、困窮しているかどうかにかかわらず申請者に一律に支給するという今回の支給制度と矛盾する。もちろん、ないよりはマシだが、20万円程度の支給で困窮状況が改善するはずがないだろう。また困窮が理由なのであれば、谷間世代でなくても困窮している会員に等しく支給を考えてもおかしくはないだろうが、そのような話は全くない。

4 給費を受けた世代に比較して谷間世代は不公平であるという理屈なのであれば、そもそも不公平を生み出したところが解決すべき問題であるから、日弁連の関知するところではないはずだ。同じく谷間世代で貸与制度を利用し給費世代と比較すれば同様に不公平と言える裁判官、検察官についても、救済が問題とならざるを得ないだろう(そのような話は一切出ていない)。

5 そもそも支給金の原資となる20億円は、天から降ってきたお金ではない。もちろん今の日弁連執行部が寄付したものでもない。これまでの日弁連会員が高額な日弁連会費を、文句もいわずに(文句をいいながらも?)支払ってきたからこそ作り上げられたお金である。その20億を会員に支給するというのであれば、日弁連会費を支払ってきた期間に応じて返金するのが最も実質的公平に資するというべきだろう。日弁連の会員へのサービスは平等になされているはずである。そうだとすれば長年日弁連会費を支払ってきていながら何ら支給を受けられない会員と、20万円の支給を受ける谷間世代の会員との差は、不公平・不平等ではないのか。「谷間世代の負担感を弁護士全員で受け止めて弁護士の一体感を醸成する」なんてお題目、むしろ逆だろう。真剣にそんなお題目を信じているとすれば、とことん楽天的なドアホの戯言、脳内にタンポポが咲き乱れるお花畑しか存在していない者の発言としか思えない。

6 さらに、給費制時代の世代と谷間世代の不公平を認め、是正する必要があると日弁連がいうのであれば、現行の給付金+貸与制世代だって給費制時代の世代よりも不利に扱われているから不公平と言える。現行給付金世代が、将来において今回の支給実例を根拠に、日弁連に対して金銭の支給を求めてきた場合に、日弁連は抗弁できるのか。100困っていた世代には、その経済状態にかかわらず一律20万円を支給したが、40困っている世代には全く支給しないという扱いの方が不平等にならないか。現状、谷間世代だけを念頭に置いていることから、おそらく給付金+貸与制世代を救済する気は、日弁連執行部には毛頭なさそうだが、現行の給付金もいつ減額・打ち切りになるやもしれず、そうなった場合にも今回の前例が作られてしまえば、その世代から救済を要求された場合に執行部が断る理屈は、日弁連の経済的危機以外には困難だろう。

7 また、何度もブログで言っているが、日弁連会費からお金をばらまかなくても谷間世代への支給は可能だ。救済したい人が基金を作ってそこから支給すれば足りるのだ。しかも支給の際に本当に困っているかをきちんと確認し、儲かっている人を外せば、より支給も多くなり救済につながるだろう。しつこく谷間世代救済案を出し続け、さらに今回の支給案を提案するに至った日弁連執行部に所属する先生方は、もちろん喜んで先を争って大金を基金に投じてくれるだろうし、各単位会で今回の日弁連案に賛成した弁護士さんも、もちろん寄付してくれるだろう。それが一貫した態度ってモンだ。大阪弁護士会の常議員会だけでも反対4、保留4、賛成33だったので、基金さえできれば寄付してくれる会員はたくさんいるはずだ。

8 以上簡単に言えば、給費制復活活動にマイナスを与えるばかりか、筋違いも甚だしいし、根拠もないうえ、理屈にも合わない。それだけでなく、真面目に日弁連会費を支払ってきた世代に対して不公平に働くばかりだけではなく、将来に禍根を残す恐れもあるのだ。しかも、代替手段も可能なのだから、敢えて20万円支給案を押し通す必要は全くない。

 私は、前にも述べたが、谷間世代が憎くてこのようなことを言っているのではない。むしろ気の毒に思っている。また、このような支給金など完全に筋違いだと理解されている谷間世代の方々も多くいらっしゃることも良く分かっている。
 私が言いたいのは、執行部の言いなりになって執行部提案に賛成し、目先の救済なり支援の方法を許してしまえば、おそらく将来的に日弁連に大きな禍根を残す可能性が高いだろうということだ。
 執行部が提案し、日弁連総会で可決してしまったのであれば、日弁連全体として執行部の提案を認めたことになり、その後の責任や問題点が生じるとしても、それは後の世代にツケとして残される。
 問題が発覚したときには、おそらく今の執行部の人たちはもういない。その人達が責任を取ってくれるわけではないのである。南海トラフ大地震や首都直下型地震が発生して日弁連のお金が足りなくなり、「あのときの20億円があれば・・・」と歯がみして悔しがってももう遅いのである。

 だから良く考えて、執行部案に賛成するかどうかを決めて欲しいと思っているのだ。

谷間世代への20万円給付案~大阪弁護士会は賛成意見

 先日の大阪弁護士会常議員会で、日弁連の提案する、いわゆる谷間世代(貸与制世代)への20万円支給案に賛成する意見が、可決されてしまった。

 大阪弁護士会執行部の賛成意見の理由は、概ね次の通り。
 ① いわゆる谷間世代は日弁連会員の約4分の1を占めており、この世代が経済的理由により、その活動に支障をきたすようなことがあっては、我が国司法の人的インフラが抱える大きな問題ともなり得る。
 ② 約20億円の予算であれば、日弁連での将来必要な支出や活動を大きく制限しその執行に支障が生じるとは言えない。
 ③ 谷間世代が有している負担感等を全会員として受け止め一体感と統一性を醸成することで日弁連のメッセージとして意味がある。

 前回私が、質問したことを気にしたのか、「日弁連理事会では谷間世代に関する立法事実に関する客観的資料は提出されていなかったことに違いないが、検討委員会では提出されていた」と釈明して、昨年9月に実施されたアンケート結果が配布された。

 それによると、65期修習の有効回答者の中で、貸与金返済のめどが立っていないとの回答者は46%にものぼったそうだ。

 そのような説明が副会長からなされたので、私は聞いてみた。

 「日弁連では、貸与金を返還できない状況にある者に貸付金制度を作ったはずだが、65期で、実際の制度利用者は何名なのか。もし利用者が少ないのであれば、返済のめどが立たない者が多いというアンケート結果は事実と異なる可能性があるのではないか。」

 執行部からは、正確な数字は分からないが10件以内であるとの回答があった。付け加えて聞いてもいないことだったが、最高裁に猶予を認められた者が32名いるとの回答があった。また副会長からは補足で、実際に困っているという問題という視点だけではなく、給費制との不公平という視点もかなりあるとの説明があった。

 仮に最高裁の猶予者と日弁連の貸付を受けた者が重複していないとしても約40名。65期の弁護士数は1838名。約2%である。

 谷間世代の多くが実際に困っているから助ける趣旨だ、というのであれば、日弁連貸付金制度利用者の数が少なすぎて、そのような立法事実は認められないというべきだろう。

 それに、仮に経済的理由で谷間世代の弁護士活動に支障をきたすくらいの問題が生じているのであれば、20万円一回の支給で、弁護士活動に支障をきたすくらい深刻な経済的問題が解決するとも到底思えない。また、実際に困っているかどうかの資力調査もせずに、申請者一律に20万円をばらまく制度なのだから、困っているから助けるという趣旨と制度の構造自体も矛盾する。

 さらにいえば、弁護士数の増加に伴った仕事が増加しているのであれば、このような問題はそもそも生じていない。今後も弁護士数の激増に歯止めがかからないのであれば、この弁護士の経済的問題は深刻化しこそすれ、解決するはずがないのである。

 もちろん副会長の「不公平」という補足説明は、上記の点に配慮した説明だったのだろうと思う。しかし、不公平という点を重視するなら、不公平に扱ったのは誰なんだ。それは国ではないのか。
 また、きちんと長年日弁連会費を支払いながら支給を受けない会員と支給を受ける谷間世代会員との扱いの違いは、不公平ではないのか。

 不公平を理由にすることは、理屈に合わないだけではなく、将来に禍根を残しかねない危険な言い訳でもあるのだ。

 つまり、現在の修習生は、確かに給付金を受領しているが、それでも給費と違い額は低く抑えられている。したがって、貸与制も併存しているのだ。

 だとすれば、給付金+貸与制度世代からも、「俺たちは、給費制に比べて僅かな給付金しかもらえていない。貸与制度も利用した。給費世代と比べて不公平ではないのか。谷間世代が20万円もらえたのなら、同額と言わないまでも、半額はもらえても良いのではないか。」との主張が十分考えられる。

 給付金+貸与制度世代は、制度が変わらない限り、今後新しく弁護士になる全ての修習生が該当するのだ。いつまで対策を続けたって終わりゃしないのである。

 もし給付金+貸与制度世代から上記のような主張がなされた場合、執行部はどうやって抗弁するのか。少ないながらも給付金をもらっているから不公平ではないと言い切るつもりなのか。もしそうなら、恣意的に公平、不公平を使い分けるご都合主義者と言われても文句は言えまい。

 このような問題点について、日弁連執行部は、な~んにも考えていないとしか思えない。

 上記の問題が現実化した時点で、現日弁連執行部の弁護士たちは既に弁護士稼業を引退しているのかもしれないが、問題の火種を作り上げて放置したまま、後の世代に丸投げするのは、止めてもらいたい。

 その他、他の常議員の先生から、日弁連の財務シミュレーションでは会費収入が減少しないことになっているが、本当に南海トラフ地震などが起きたとしたら、会費収入は減額するのではないか、その想定を全く加味していないのはシミュレーションとしておかしくないか、との指摘もあった。

 担当副会長は、正面から答えることができなかったのだろう、質問に対してきちんと答えずに、東北の震災の時はそんなに会費収入は減少していないと答弁するにとどまった。

 東北の震災に比べて、南海トラフ地震や、首都直下型地震では、被災する弁護士数も桁違いになるはずだ。きちんと返答できないのは、シミュレーションが、結論ありきで作成されているからだろうし、かといって、立場上そのシミュレーションを否定することもできないからだろう。もちろん、そのようなシミュレーションを作ったのは日弁連であり、大阪弁護士会の副会長に責任はないのだが、そのような適当なシミュレーションを作っておいて、それを根拠に会員を煙に巻こうなんざ、全国の弁護士も、ずいぶんとなめられたモンである。

 そのようないい加減な根拠の施策だが、大阪弁護士化の常議員会では、反対4保留4、賛成33で可決されてしまった。

 おそらく賛成された常議員の方は、理屈やシミュレーションがおかしくても谷間世代に支給すべきというお考えなのだろうし、まさか、他人の金なら支給すべきだが自分の金なら嫌だともいわないだろうから、万一困った谷間世代がいらっしゃったら、現日弁連執行部・大阪弁護士会執行部、及び大阪弁護士会常議員の先生で本議案に賛成された先生を見つけて支援を求めた方が良さそうだ。

 まさかお断りになることはないと思うから。

谷間世代給付金案~常議員会で討議の報告

 先日ブログにも掲載したが、日弁連が司法修習中に給費を得られなかった世代に対して、会費減額をする案を撤回したと思ったら、こんどは20万円を給付する案をだし、各単位会に意見照会をかけている。

 20万円の給付を谷間世代に行うと、日弁連にとって(つまり全世代の弁護士にとって)約20億円の支出となる。

 どうしてそんなに、日弁連執行部が谷間世代を優遇したがるのか、私には謎だ。ちなみに同じ時期に給費を得られずに修習を行い、裁判官・検察官になった人たちには特にそのような救済策はなされていないし、救済策を講じる予定もなさそうだ。

 常議員会で、討議事項に上がったので、私は2点質問してみた。

①谷間世代の裁判官・検察官に国が救済策を講じるかどうか、そのような動きがあるかについて調査しているのか(これは従前、谷間世代救済の件について、執行部が常議員会で、裁判所検察庁の動向も見ながらと発言していた記憶があるために質問した)。

②このような施策を実行する立法事実・根拠事実をどうやって把握しているのか。客観的な谷間世代の困窮を示す調査資料があれば出して欲しい。

 担当副会長の回答は、①について、調査していない。②については、客観的な調査は行っていないので資料はない。日弁連執行部が、各地でそのような声があると聞いているためではないか。というものだった。

 およそ、法律家には釈迦に説法ということになるが、『「立法事実」とは、立法的判断の基礎となっている事実であり、「法律を制定する場合の基礎を形成し、かつその合理性を支える一般的事実、すなわち社会的、経済的、政治的もしくは科学的事実」(芦部信喜、判例時報932号12頁)』を意味する。

 日弁連が、一般会計の剰余金のうち、ほぼ半額に匹敵する20億円もの支出を行う施策を行う場合、その支出の合理性を支える事実について、当然きちんと把握して然るべきだろう。
 その根拠が、「執行部がそのような声を聞いたから」、というのではあまりにもお粗末にすぎる。

 お話を簡単にするために、全員が同じ額を納税し、同じ公共サービスを受けている人口4万人のB国(日弁連)があったと仮定しよう。T世代(谷間世代)は、いまは多くがB国の国民だが、B国の国民になる前に、S国(司法修習)で、無給という酷な扱いを受けていたことあったと例えることが出来そうだ。なお、T世代のなかにはJ国(裁判官)、P国(検察官)の国民となった者もいるが、J国、P国ではT世代に対して何らの施策も採っていない。

 このような状況下で、
 「B国国民になる前に、S国から不当な扱いをうけたT世代の人が、S国から受けた不当な扱いが原因で困っていると聞いたんで、事実は全く調査していませんが、そのT世代の国民全てに対して申し出てくれれば、国庫一般会計に貯めていた万一の時のためのお金の半分を出してばらまきます。よろしくね。」、なんてことをB国首相が言ったらT世代以外の納税者は納得できないどころか、激怒するはずだ。

 そもそも、T世代に対して不当な扱いをしたのはS国なんだし、その不当な扱いはB国国民になる前に行われた話なのだから、S国に責任を問うのが筋だろう。

 確かにB国が好景気に沸いていて、右肩上がりの成長が今後も十分見込める余裕十分の国民ばかりであったのであれば、あるいは、このような施策もあり得るのかもしれない。

 しかし、B国国民の所得は各世代において減少しつつある。国税庁統計(日本)から算出されたデータによれば、所得の中央値を見ると、2006年の1200万円から、2014年には600万円と、わずか8年でキレイに半額になっているとの指摘もある。それでもB国の税金(日弁連会費)はほとんど減額されていないどころか、滞納を続けるとB国を追放される処分を受ける苛酷なものとしてB国国民に課されている。

 仮にB国の国民になったのだからということで、(J国・P国との均衡を無視して)相互に助け合うべきだと強調するにしても、全体としてB国が傾いている状況でT世代以外の国民も納付した税金を使うのだから、きちんとした根拠とその支出の合理性を全国民に説明する必要があるはずだ。

 日弁連執行部の人気取りかどうか知らないが、雰囲気で20億円もの支出をされてはたまったものではない。

 そんなに助けてあげたいなら、何度も言っているように、助けてあげる余裕があって、助けてあげたい人たちで基金を作ればいいじゃない。少なくとも日弁連執行部に所属する人たちは、しつこく谷間世代救済を主張するんだから、喜んで私財を投げ出してくれるはずだ。

 良いカッコしたいけど、かかる費用は他人の金で、とは虫がよすぎないか。

日弁連は、もう、法科大学院とつるむな

 日弁連が今年12月1日に、司法試験に関するシンポジウムを開くそうだ。
 その宣伝文句は以下のとおり。(下線は筆者が加筆したものです。)

「日本弁護士連合会では、新司法試験の開始以来、毎年、司法試験の出題内容から運営方法まで、その時々の重要課題を取り上げて「司法試験シンポジウム」を実施しています。
昨年度のシンポジウムでは司法試験合格後2~3年程度のモニターに司法試験論文問題を解いてもらい、司法試験の出題について法科大学院での学修の成果を確認するという以上の負担を課している面がないか、問題意識をもって分析と討議を行いました。本年度はその延長線上に立って、以下について取り上げます。
法科大学院では、特に法律基本科目については期末試験を課して学修の成果を図り、成績評価を行うことになっています。学修進度により出題形式や分量、内容は異なると思われますが、本年度は、法律基本科目の学修が基礎力・応用力を含めてひと通り終了する時期である2年次の時点での学修成果を図る目的の期末試験においてはどのような出題形式、分量、内容となっているのかを分析するとともに、本年度司法試験の出題形式、分量、内容についてもあわせて分析します。
その上で、2年次の成績評価とその後の司法試験の合否との間の相関も分析することを通じて、法科大学院での学修の成果を図るという本来の趣旨に近い司法試験にするには、法律基本科目の学修が終了した時点での法科大学院の学修成果に何を、あるいはどのような内容を加味することが必要なのか、あるいは必要ないのか等、より踏み込んだ検討を行うことも含めて、標記シンポジウムを開催いたします。
奮ってご参加ください。」

 この宣伝文句を見れば、「司法試験(新司法試験)は、法科大学院の学習の成果を確認する試験である(べきだ)」というスタンスで、日弁連はシンポジウムを開催することはすぐに分かる。

 しかし、司法試験法は1条1項で次のように記載してある。
「司法試験は、裁判官、検察官又は弁護士となろうとする者に必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定することを目的とする国家試験とする」
 つまり、法科大学院の学習の成果を確認する試験ではないのだ。
 確かに、同法4項には、司法試験は法科大学院の教育との有機的連携の下におこなうものとされているが、そうであっても、法曹になろうとする者に必要な学識と応用能力があるかを判定する試験であることに変わりはない。決して法科大学院の学習の成果を単に確認するだけで足りる試験ではないのである。

 司法試験合格率を一向に向上させることが出来ないばかりか、近時に至っては志願者を実質数千人にまで減少させてしまった法科大学院が、そもそも司法制度改革審議会の青写真では、「新司法試験は、法科大学院の教育内容を踏まえたものとし、」「新司法試験と法科大学院での教育内容との関連を確保するため、」とあるではないかという点だけを指摘して、(よりよい法曹育成のためではなく)自らの存続のために、司法試験合格者を増やすように主張し続けているように見える。

 この法科大学院の主張を端的に言えば、法科大学院の教育成果を確認するというレベルまで、司法試験の合格レベルをひき下げろ(合格者を増やせ)、という主張である。合格者が出せなければ法科大学院志願者はさらに減少し、経営が行き詰まるからだろう。既に半数以上の法科大学院が閉鎖されている現状から見ても、法科大学院経営維持のためのなりふり構わぬ主張と見るのが素直だ。

本題から少し外れますが、成仏理論のパロディで。

(新成仏理論)
問題の捉え方がそもそも間違っている。食べていけるかどうかをLSが考えるというのが間違っているのである。何のためにLSを設立したのか。私の知らない大学教授が言ったことがある。世の中の人々のお役に立つ仕事をしている限り、世の中の人々の方が自分達を飢えさせることをしない、と。人々のお役に立つ仕事をしていれば、LSも飢え死にすることはないであろう。飢え死にさえしなければ、LS、まずはそれでよいのではないか。その上に、人々から感謝されることがあるのであれば、LS、喜んで成仏できるというものであろう。

人々のお役に立っていれば、世の中の人々が法科大学院を飢えさせることをしないんじゃないのだろうか・・・?

 閑話休題。本題に戻ります。

 そもそも、司法制度改革審議会の意見書自体が、法曹需要の飛躍的増大という絵空事が生じるという予測をもとにした、スタート地点からズッコケた視点で出来上がっていた意見書であって、未だにそれを墨守することは現実を見る能力がない、と言わざるを得ない。

 仮にそれを措いたとして、司法制度改革審議会意見書を見るならば、確かに新司法試験について「法科大学院の教育内容を踏まえたものとし、」との記載がなされてはいる。
 しかし、同意見書はその前提として「法科大学院において充実した教育が行われ、かつ厳格な成績評価や修了認定が行われることを前提として、」という記載を置いているのだ。

 だとすれば法科大学院が、司法制度改革審議会意見書を振り回して司法試験を自分達の教育内容を踏まえたものとするよう求めるのであれば、その前提として、まず、自分達が充実した教育を行い、かつ厳格な成績評価や修了認定を行っていることを示すべきだろう。

 この点、司法試験法5条では、「予備試験は法科大学院卒業者と同等の学識及び応用能力並びに法律の実務に関する基礎的素養を有するかどうかを判定する試験」とされているから、予備試験合格者と法科大学院卒業者は全体として同等の能力を有しているはずであって、司法試験においてもほぼ同程度の合格率でないとおかしい。
 ところが実際には、予備試験組の司法試験合格率77.6%に比べ、法科大学院組の司法試験合格率は24.7%と著しく悪い。これは、予備試験合格者を決定する予備試験考査委員が、法科大学院ではこの程度のことは身に付けているはずだと想定しているレベルよりも、遥かに低いレベルの能力しか法科大学院では身に付けることができていない、という事実を意味していることになろう。

 また、このような司法試験合格率しか取れないということは、(一部優秀な法科大学院の存在は否定しないが)法科大学院は全体として、充実した教育が行われ、かつ厳格な成績評価や修了認定が行われている、とは到底いえないだろう。
 そればかりではない。近時の採点実感では、「条文の引用が不正確又は誤っている答案が多く見られた。」「基本さえできていない答案が少なからず見られた。」「法律的な文章という以前に,日本語の論述能力が劣っている答案も相当数見られた。」などと、レベル低下を憂う採点委員の感想が目白押しだ。

 このような状況にありながら、法科大学院側は、簡単に言えば、自分達が卒業させた生徒達はきちんと法曹としての素養が身についているはずだから、基本的には合格させろ、と要求していることになる。

 私に言わせれば、自らの教育能力のなさを棚に上げた、恥知らずな、極めてド厚かましい要求としかいいようがない。
 さらに言わせてもらえば、司法制度改革審議会意見書には、法科大学院について
•多様性の拡大を図るため、法学部以外の学部の出身者や社会人等を一定割合以上入学させるべきである。
•地域を考慮した全国的な適正配置に配慮すべきである。
•夜間大学院や通信制大学院を整備すべきである。
とあるが、いまや、全然守られていないんじゃないのか。

 それどころか、理念としていたはずのプロセスによる教育もかなぐり捨てて、法科大学院在学中に司法試験を受験できるよう求める等、もはや、国民の皆様のためによりよき法曹を生み出そうとすることよりも、自分達の延命だけを狙ったとしか思えない主張もされている。

 法科大学院には多くの税金が投入されている。それは国民の皆様にとって有益な、よい法曹を生み出すという約束があったからではないのか。制度を自分達に有利に変更させ、国民の血税を自分達の延命のために利用しようとするのなら、法科大学院は無用の長物どころか、その存在はもはや有害ですらある。

 どうしてそのような、ド厚かましい法科大学院側に日弁連が尻尾を振って協力する必要があるのか。

 失敗には誰にでもあるが、失敗を失敗と認められずに現状を維持し続けることはさらに傷を大きくすることであって、賢い選択ではない。

 いくら導入に賛同してしまったからとはいえ、日弁連も、早く目を覚まして欲しいと思ったりするのである。

谷間世代給付金案~続報

 司法修習の際に給費や給付金を受けられなかった、いわゆる谷間世代に対する日弁連の会費減額案は撤回されたが、先日お伝えしたとおり、新たな施策として谷間世代会員に20万円を支給する案が浮上している。

 今般、日弁連から、各弁護士会に10月15日付けで意見照会がなされ、その大枠が判明した。

支給対象
・新65期~70期(修習中に給費ないし給付の支給がなかった会員)のうち、給付を希望する会員
・給付時点(各年の7月1日時点)で、弁護士としての登録期間が通算して5年を経過していること
・弁護士会、日弁連の会費を滞納しているものを除く

給付額 20万円

※日弁連は、支給制度にすることにより、会費を事務所や会社が負担している会員にもメリットが出ること(そのような会員は、おそらく大都市に多いので東弁の会費減額反対に配慮した可能性が大)、既に育児免除により会費を免除されている会員にもメリットが出ることを示している。

 私が、何人かの谷間世代の方にお話を聞いたことがあるが、「確かに不公平感はあるがそれは国の制度が引き起こしたものであって、責任があるわけではない弁護士会や日弁連に対して積極的に救済を求めることは考えていない。しかし、弁護士会や日弁連が救済策としてなんとかしてくれるというのであれば、拒否はしない。」という御意見が多かったように思う。

 つまり、筋違いの救済を積極的に弁護士会に求めるわけではないが、頂けるのであれば有り難く頂戴します、というスタンスの方が多いのではないか。

 また、私と修習期が近い裁判官とお話ししたときに、弁護士会内で谷間世代救済の話が出ていて・・・と述べると、「谷間世代って何?」と真顔で返された経験がある。少なくとも裁判所において、谷間世代の不公平感については問題にすらされていない可能性がある(おそらく検察庁もその可能性は高い)。

 私は、本来責任を負うべき立場ではない弁護士会や日弁連が対策を取るのは、結局谷間世代以外の犠牲で谷間世代を優遇することになるし、国に対する施策を求める上でも障害になる(もう、弁護士会や日弁連が対策したじゃないか、もともと弁護士会費、日弁連会費が高いのが悪いのであって、裁判官・検察官においても同様の施策は採っていない等の反論の論拠を与える可能性がある)から、反対だ。

 それはさておき、仮にこの施策が実施された場合、財源は日弁連の一般会計収支差額約44億円をやりくりして出すことになるようだが、その規模は約20億円となるそうだ。
 有事に備えての留保なら分かるが、そんなに余っているなら全会員の会費減額するのが筋だと思う。しかし、日弁連は執行部の人気取りに偏っているのか、全会員にお返しするという発想がないようだ。

 支給額20万円を提案する日弁連執行部の理由がまたなかなかのものだ。

 私も知らなかったが、死亡弔慰金・災厄見舞金・傷病見舞金制度が日弁連にあるようで、死亡弔慰金は45万円、厄災見舞金、傷病見舞金はそれぞれ10万円の支給がなされるそうだ。

 そこで、将来予想される、南海トラフ地震、首都直下型地震で、弁護士の死傷者数や災厄で被害を受けた会員への見舞金を試算すると、南海トラフ地震で約15億9000万円、首都直下型地震で約5億2000万円必要なので、約20億円は残しておきたいという発想のようだ。

 会員への見舞金以外に、現実に必要になると思われる地震保険でカバーされない会館の修復費用、罹災地域弁護士会への支援金などは、まるで計算外なのだ。

 結局、支給ありきで、シミュレーションしているんだろうなという感を払拭できない。

 この日弁連の意見照会については、11月14日までの期限が付され、かなりタイトな日程で意見を求められている。

 筋違いの救済を振りかざして迷走するより、国に対して不公平是正を求めて活動している委員会を、全力で支援するのが日弁連の本来のあり方のような気がするのだが。

谷間世代に対する日弁連救済案の変更?

 本日の常議員会で、谷間世代救済?についての日弁連の動向が報告された。

 谷間世代に対する日弁連会費減額案について、大阪は台風で常議員会が流れたこともあり、賛否留保で意見照会に回答していたが、全国単位会の照会結果は次の通りだそうだ。

 賛成 33単位会

 反対 14単位会

 留保 5単位会

 この結果から、日弁連執行部は会費減額による谷間世代への対応をを変更した方が良いと判断したようだ。一見、33単位会が賛成しているから、あっさり実現するようにも見えるが、実は反対・保留の内訳に問題があったのだ。

 反対意見に東京弁護士会(会員数8269名)、保留意見に第1東京弁護士会(会員数5203名)、第2東京弁護士会(会員数5408名)、大阪弁護士会(会員数4566名)が含まれていたのだ。

上記の4会だけで、全弁護士数(40098名)の58.5%を占めており、執行部としては総会決議などで敗北することを恐れたのかもしれない。

 しかし、執行部は会費減額に代わる案を検討していることが明らかになった。

 それは、谷間世代弁護士に一律20万円を支給するという案だそうだ。

 多分この案が実現すれば、効果のはっきりしない会費減額よりも、有難いと思う谷間世代の弁護士は多いはずだ。

 執行部の株も、間違いなく上がるだろう。

 だけど、ちょっと待って欲しい。

 そのお金は、執行部の人が出したお金ではないのだ。

 全会員の負担している日弁連会費から拠出されるのだ。

 つまり、全弁護士の負担なのであって、執行部が感謝されるいわれは本来ないのである。

 しかも、詳細はまだはっきりしていないが、国の政策の失敗なのに、どうして日弁連会費で尻ぬぐいしなければならんのか、一番肝心な部分がはっきりしていない。

 例えば、規制緩和で法人タクシーを馬鹿みたいに増やし、その後、タクシー運転手の労働環境が悪化したからといって、再度規制をかけたりしていたけど、そのタクシー運転手の被害に対して法人タクシー業界が自腹切って何らかの補填をするなんてことは、普通ではありえないと思うんだけどな~。

 そこのところをはっきりせずに、単に可哀相だとか不公平ではないとかいう理由では、全弁護士が負担することを正当化するだけの理由にはならんと思うんだけど。

 もちろん、既に弁護士になっている谷間世代に対する対応だから、今後の新規法曹希望者を増やす理由にはならないし。

 はっきりいえば、谷間世代に対する救済を日弁連や各弁護士会がやろうとしていることは、他の世代を犠牲にしていることと等しいのだ。

 そのような犠牲を谷間世代以外に強いておきながら、日弁連とか弁護士会への求心力を強めたい・・・なんて、分裂を深めてるだけじゃないの?

 求心力が欲しいなら、日弁連や弁護士会は本当に弁護士のために頑張ってくれているんだな~、大事にしなきゃあかんな~と、それぞれの弁護士に実感させるのが一番だ。

 本当に谷間世代を救済したいのなら、日弁連執行部と有志で基金を作ったらいいじゃないか。その方がずっと日弁連執行部への求心力は高まるはずだ。そうそう、会長選挙前に派手に旗揚げしていた「広げよう!司法の輪 日弁連の会」なんかは、今の日弁連会長が代表だったし、きっと基金に協力してくれるはずだぞ。

 日弁連の対応は、私から見れば、なんかずれているとしか思えない。