IT導入補助金とは、中小企業・小規模事業者等の労働生産性の向上を目的として、業務効率化やDX等に向けた ITツール(ソフトウェア、サービス等)の導入を支援する補助金であり、中小企業庁が行っている事業である。
コロナ補助金の場合もそうであったが、残念ながら、補助金等の事業が行われると、その事業を利用して不正に儲けようと企む輩は、ほぼ確実に出てくる。
近時、「IT導入補助金は不正行為を絶対に許さない」との記載が公式HPにもなされ、随時調査が行われているようで、調査を受けた方からの相談も見られるようになってきた。
なお、詐欺グループはさらに上をいっているようで、調査をかたった詐欺(「あなたの受給は不正だから直ちに返金せよ、そうでないと刑事事件になる」等と脅して送金させる詐欺)も頻発しているようである。
公式HPには、「IT導入補助金事務局からの送信をかたった、なりすましメールが確認されています。メールアドレスのドメインをご確認いただき、各種補助金等の返還手続きを装った詐欺にはご注意ください。」との記載があるので、注意が必要だ。
さて、補助金を不正に受給した場合、どのようなことになるのかだが、基本的には「補助金等に係る予算執行の適正化に関する法律」に基づくことになる。
同法によれば、交付決定が取り消され、補助金の返還、加算金及び延滞金の支払いを求められることに加え、罰則もある。5年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金又はこれを併科することになっている(同法29条1項)。補助金を他の用途に用いた場合も同様の返還規定や罰則(同法30条:3年以下の懲役若しくは50万円以下の罰金又はこれを併科)もある。
これに留まらず、詐欺罪(刑法246条1項:10年以下の拘禁刑)も成立しうることは、最高裁が認めている(最決R3.6.23)。
このように、不正受給に関するペナルティは、きつめなのだ。
ただ、不正調査を行っている調査事務局も、事案数が多いためか事情をきちんと把握しきれずに、その受給は不正の可能性が高い、と判断してしまうこともあるようだ。
私が相談を受けた事業者の方の中の1人の方は、別途、某独立行政法人から長期運転資金の融資を受けていたことを咎められ、「IT補助金受給は不正受給と思われるので返還等を考えるように」との指示を受けていた。
確かに、IT補助金交付規程の第10条には
「国及び中小機構その他の独立行政法人の他の補助金等と重複する事業については、
補助事業の対象として認めないものとする。」
との記載があり、形式的には独立行政法人から何らかの補助金、融資等を受けていた場合は、IT補助金の補助事業対象外とも読めなくはない。
しかし、この方の受けた融資はIT導入目的だったのではなく長期運転資金のための融資であった。IT補助金の目的である、中小企業・小規模事業者等の労働生産性の向上の目的とは違っていたのだ。
相談を受けた私は、現事務局、補助金受給時の事務局双方に、問い合わせの電話をかけた。電話も混み合っておりなかなか繋がらなかったが、どちらの事務局も丁寧に対応してくれた。
ただ、いずれの事務局もきちんと内部で検討してから回答するので、追って電話で回答するとのことだった。後日ちゃんと返答を頂き、いずれの事務局も私が相談した件に関しては不正受給にあたらないとの回答を示してくれた。
以上から、不正受給ではないかと調査事務局から指摘された場合は、まず弁護士に相談することだ。ご自身で事務局に相談することも可能だろうが、ご自身の現状について、きちんと必要な点を伝えることはそう簡単ではなく、弁護士に事情を話して納得のいく内容の文案を作成してもらった方が確実だからである。
不正受給ではない可能性が高いのなら、その旨の書面を作ってもらって調査事務局に送るとか、弁護士に委任して事務局に調査をかけたり、事務局と交渉してもらうこともできる。
その上で、残念ながら不正受給に該当してしまうのであれば、早急に返金し、その後、どうすべきか弁護士に相談することが一番良いと思われる。
とはいえ、刑事処罰の危険性を過度に指摘して、相談者の恐怖を煽り、自首を勧めて、高額の弁護士費用をとろうとする弁護士も残念ながらいる。刑事事件になる可能性が極めて低い事案であるにも関わらず、自首すべきといわれ、100万円以上の弁護士費用を持ってこいといわれた方の相談を、何件か実際に受けたことがある。
弁護士に相談した際に、捜査機関への自首を勧められた場合は、別の弁護士にセカンドオピニオンをとった方が安心だと思われる。

上高地・大正池(写真とブログ内容は関係ありません)